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【宿題】電力会社の発表にどこにインチキとごまかしがあるか指摘してください

哲野からじゃけえさんに宿題が出されました。


【宿題】電力会社の発表にどこにインチキとごまかしがあるか指摘してください

メールでのやりとりでしたが、解説は共有すべきと思いましたので掲載いたします。


▼最初の宿題提出メール
(有価証券報告書の見方など解説があります

じゃけえさま

今日の2人デモのスピーチを聞いて驚きました。
よく短時間に20頁のチラシを読み込んで
大局理解していただきました。

理解していたと思っても人前でしゃべると
よく理解できていないというのは誰しも経験のあることです。

大筋理解していなければあれだけはしゃべれません。

ところで今日質問のでていた有価証券報告書のことです。

上場会社は割と厳格な決まりを守らないと株式上場できません。
それに年に1回日本の会計基準を守って財務省と証券取引委員会に決算報告を提出しなければなりません。これでウソをつくと上場取り消しなど厳しい制裁や時には商法違反で刑事事件になって責任者は刑務所にはいることにもなりかねません。

つまりはウソをつけない、ということです。

調べ方はグーグル検索で「会社名 有価証券報告書」と検索するとすぐ出てきます。

① ちなみに中国電力をみましょう。

② グーグルで「中国電力 有価証券報告書」と検索して下さい。
するとズラリと出てきます。中で【株主プロ】のサイトを選んでください。
株式投資家が利用するサイトで、わかりやすく配列して上に閲覧者が見やすいように加工してあり、一番良くできています。
(みんなカネが絡むと真剣です)

③ 直近の通期報告は第89期決算報告書です。
平成24年度(2012年度)報告です。2013年度は、決算から3ヶ月以内に報告が義務づけられていいますので、2014年3月末に決算して、2014年6月までに報告しなければなりません。
それから株主総会という段取りです。
下記にPDFのURLを貼り付けておきます。
http://www.kabupro.jp/edp/20130627/S000DKQE.pdf

④ はじめはとっつきにくいですが、見慣れてくると自然と理解できるようになります。
辛抱して読むようにしてください。というのは、私はもう66歳です。
驚くべきことに広島の市民運動に参加している人たちの中に有価証券報告書を読める人がほとんどいないのです。
これでは全くメクラのまま反原発運動をしているようなもので最初から負けが見えています。
新聞やテレビのウソ、電力会社や経産省のウソも見抜けません。
私以外に3-4人は有価証券報告書をちゃんと読める人
(といっても専門家レベルでなくてもシロウトレベルで十分です)
をつくっておきたいのです。私が死んでも、後に人が残ります。

⑤ 必ずダウンロードして自分のパソコンに保存してから使うようにしてください。
Web画面からでは時間がかかりすぎ能率がおちます。
開いたら「しおり」を左のサイド画面に表示させてください。閲覧効率が全然違います。

⑥ 最初に見るのは、「1.主要な経営指標等の推移」です。
過去5期の売上げ、利益、従業員数まで基本指標が一度に概観できます。
5期分眺めていると、その企業の推移がわかります。
中国電力の場合は、85期(2009年3月期)に大きな異変を起こし、回復基調にあったのに87期にまた異変が起こり、今度はそれから回復できていないことがわかります。
(その事件とは一体なにか?)
特に恐ろしいばかりの純資産額の減り方です。
毎年数百億円レベルで減っています。

⑦ その後は何が起こったのか、と個別のデータを見に行きますが、長くなりますし、キリがありませんので割愛します。
ただ推理小説を読むように謎解きの面白さはあります。

⑧ 報告書にそってポイントだけをあげます。

(1) 第2-1 事業概要
(2) 第2-2 生産・販売の状況
(3) 第3-1 設備の状況
   電源(発電設備)に500億円つかっているのと同時に
   この年「原子燃料」を146億円も買い込んでいることがわかります。
(4) 第4-1 株式等の状況
   ここで上位10社の大株主がわかります。
(5) 第5 経理の状況
   連結貸借対照表と損益計算書が眺められます。
   貸借対照表では、原子力発電設備が786億円あること、
   核燃料1681億円もあること、
   使用済燃料再処理積立金が648億円あること、しかも
   この積立金は前年に比べて75億円減少していること、
   これを見て、はて一体なぜ?と首をひねったりして
   俄然謎解きは面白くなります。
   また固定資産総額2兆6000億円に対して
   建設仮勘定が5640億円と巨額にのぼること
   はて建設中の大物はいったいなんじゃろな?となります。
   連結損益計算書では実は大したことはわかりません。

ずーっと頁を飛んで、91頁からはじまる損益計算書とそれに続く「営業費用明細書」になると話は俄然面白くなります。96頁でおわる明細書を見ると、

水力発電:250億円
汽力発電:4000億円(火力発電)
原子力発電:653億円
地帯間購入電力料:49億円
他社購入電力料:1970億円

などとわかります。

火力発電で4000億円ですが、費用項目では燃料油費1300億円、ガス費1060億円、石炭費750億円とこの3項目で3110億円と
75%も燃料費でしめています。
まだ石油・重油を使っているのです。こんな高い燃料で採算が取れるわけがない。
ガス費も発電容量(197万kW)に比べてデカすぎる、もっと安いはずだ、と調べていくと
例のASIA-HUBにぶつかるわけですが、これは後の話。

石炭も大きすぎる。容量は258万kWしかないのに100%動かしたって750億円もかかるわけがない。
石炭がこんなに高ければ、電源開発だって大赤字の筈だ、と調べていくと
三菱商事と独占の納入契約を結んで言い値で買っている、これで火力発電の採算がとれる筈がない…、と色々なことがわかっていくわけです。

大体原子力発電費653億円とはなんじゃろな?
原発では1kWhもこの時期発電してないはずだが?
面妖な…と項目を見てみると、給与手当て48億円、修繕費170億円、減価償却費104億円、使用済核燃料再処理費82億円、委託費70億円など、動かしても動かさなくても、のしかかる費用項目がならびます。
核燃料費は42億円でしかありません。
この核燃料費も減損費がほぼ100%占めます。
減損費とはいったいなんじゃろな?と調べていくと、核燃料のうち核分裂した部分だけを燃料として計上し、のこった部分はプルトニム239を含むからとして資産計上している。
なるほど、このやり方で行くと原発はえらく安い発電手段みたいにみえるわな、となります。

地帯間購入電力は他の電力会社から購入する電力です。
恐らくは岡山県の西端では関西電力から買った方が送電ロスが少なくてすむ地域があるのと、大口顧客で一括契約をしていて、その顧客が他の電力会社から供給をうけた分の振り替えが発生するのだと思います。
これは様々な理由でゼロにはなりません。
どちらにせよ大した数字ではありません。

それより大した数字は他社購入電力1970億円です。
他社とは一体どこなのかといえば、電源開発など非電力会社のことです。

今日のチラシで5頁表2「9電力会社以外が運営する日本の火力発電所(10万kW以上)」を思い出してください。
http://www.inaco.co.jp/hiroshima_2_demo/index.cgi?mode=image&upfile=288-3.jpg

この表でいえば、13番電源開発竹原火力(130万kW。現在60万kWを新設中です。もうすぐ完成します)は全量中国電力向け。
7番倉敷共同火力(62万kW)は半分中国電力向け、
8番福山共同火力(84万kW)も半分中国電力向け。
これだけで約200万kWあります。
そのほかに10万kW級の供給発電事業者がいくつかありますが、ここから受ける電力は恐らく合計40万kW。
中国電力の自社火力発電容量は全部合わせても770万kWです。

高コストの自社火力を停止して、こうした低コストの他社火力を買った方が経営効率がいいのです。
それが前述の「他社購入電力1970億円」の理由です。

このように電力会社の有価証券報告書を調べていくといろいろ面白いことがわかります。
一生懸命勉強してください。

さて、じゃけえさん、ここで応用問題を出します。

今日たまたま私のメールボックスに中国電力プレスリリースが入ってきました。

中身は、「今夏の電力需給見通しに関する国への報告について」です。
添付資料は以下です。
http://www.energia.co.jp/press/14/__icsFiles/afieldfile/2014/04/17/p140417-1a.pdf

この資料の内容で中国電力は資源エネルギー庁に報告し、
各新聞やテレビがほぼこの内容に沿って(裏付けもとらずに)今夏の電力需給見通しについて、
さももっともらしく記事にするわけですが、
この添付資料を読んで、どこにインチキとごまかしがあるか、指摘してください。

「電発なしでは火力燃料費が嵩んで電力会社は大赤字」のごまかしに比べると初歩問題となります。

よろしくお願いします。

哲野イサク


▽以下、じゃけえさんの回答に対する哲野の返事

お疲れさまでした。

今回の問題は実はかなり高度な問題です。
その割にはよく解けていたと思います。

「最初はプレスリリースを見れば見るほど、何故これが原発再稼働の理由になるのかが解らず、意図が読み取れませんでした。新聞記事を読んでから、やっと意図が掴めました。
電力不足になる、と不安にさせる部分を見つけ、それを指摘する事で解答になると考えました。」
とじゃけえさんは書いています。

整理すると次のようになります。
(1)電力会社がトリックを含んだデータを公表する。
(2)電力会社がマスコミにデータの解説をする。
   (マスコミはじゃけえさん同様データの意味がわかりません)
(3)マスコミは電力会社のデータの裏付けを取らずに、ほぼ解説を鵜呑みにして記事を書く
(4)読者がほぼこれを鵜呑みにして信じる。
(5)「原発なしでは電気が足りない」のイメージが一般に定着する

私たちはこれに対して有効に対処して、データを上げて反論していく必要があります。
「原発なしで電気が足りているんだ、実際停電は起こっていない」程度の反論では不十分です。
もっと手の込んだトリックを使われれば、信じざるを得なくなります。
現実に4月11日閣議決定の「エネルギー基本計画」では「原発なしでは電気が足りない」の嘘に立脚して書かれた文章ですが、あそこまでもっともらしく書かれると、なかなかこの嘘が見えてきません。
また、原発が必要だと信じている人たちをなかなか説得できるものでもありません。
私たちの何人かがそうした力、すなわち電力会社のトリックを見破り有効に反論する力を持っていなければなりません。

今回の問題は次のような内容でした。

「どこにインチキとごまかしがあるか、指摘してください。」

いいかえればトリックを見破ってください、ということになります。

経産省や電力会社のインチキやごまかしは高度に洗練されています。
洗練されたトリックには以下のような特徴があります。

(1)ウソはいわない
(2)しかしキーになる情報は公表しない

つまりトリックのタネは彼らの言っていることの中ではなく
言わないこと(当然言わなきゃならないのに)の中にあります。

中国電力のプレスリリースの中で当然言わなければならないのに
言っていないことは何でしょうか?

それは中国電力の「供給能力」です。

中国電は、「供給力」という言葉を使っていますので
これを供給力の限界、すなわち供給能力だと考えるのが普通です。
しかし実際にはそうではありません。
これは中国電力が夏場ピーク時に供給を予定している最大数字にしかすぎません。
実際には先にも見たように、まだまだ供給余力があるのです。
ただし、供給力と言われてこれを供給能力の限界と解釈するのは『解釈するほうの勝手』で中国電力はウソをついていないわけです。
(騙される方が悪い、ということです)

2014年7月の「供給力」予想では、火力1011万kWとしています。
有価証券報告書によれば中国電力の火力発電設備容量は合計770万kWです。
770万kWの発電設備の電力会社がどうやって1011万kWの供給ができるのか?
そうすると、1011万kWには他社から買ってくる電気も含んでいるのだとわかります。

他社からというと他電力会社のことだと思うと「融通▲56万kW」と予測しています。
融通というのは電力業界の業界用語で、電力会社間の取引のことを差します。
供給力の欄で▲(マイナス)となっていますから、これは買ってくる電力ではなくて、逆に他の電力会社に販売する電力のことを意味しています。
(ここいらへんも中国電力のプレスリリースは不親切です)

中国電力は他電力会社から買うどころではなく売っているのです。
(実際は関西電力に売っています)

はてどこから買っているのか?
少なくとも1011-770=241万KWの電力ですから
原発2基分以上の大きな電力です。
(島根原発の発電容量は2基128万kWでしかありません)

有価証券報告書の期末買い掛け先リストを見てみましょう。
なにかヒントがあるかも知れません。

(買掛金は、商品を仕入れてまだ支払っていないお金のことです。
 企業間取り引きは現金取引ではなく、掛金取引ですから、仕入れと支払いに時間のずれが生じます。
 ある時期で締めた時、仕入れたが、まだ支払っていないお金、すなわち買掛金が必ず生じます。
 逆に納入したがまだ支払ってもらっていないお金も生じます。
 これは売掛金といいます)

たとえば、有価証券報告書(平成24年)を見ると、平成24年3月31日現在負債の項目に「買掛金」があり、主な相手先として
電源開発 121億7100万円
瀬戸内共同火力 23億6300万円
などと出てきます。

中国電力は、電源開発から電気を買っているのです。
しかも121億円は突出してでかい数字です。
というのは、両社の取引が
「末締め翌月末払い」(前月末仕入れた買掛金を当月末支払う)とみれば、
両社の取引金額は年間1452億円(121億円×12月)という莫大な金額となります。
(実際には電源開発の有価証券報告書を見ると
 電源開発は2012年度1年間で1272.5億円分の電気を中国電力に販売しています)
▼電源開発 有価証券報告書(平成24年度)
http://www.jpower.co.jp/annual_rep/pdf/houkoku61q4.pdf

また瀬戸内共同火力とは一体どんな会社でしょうか?
ネットで調べてみると、同社は中国電力とJFEスチール(旧日本鋼管)との合弁会社で発電事業会社だとわかります。
発電所は福山と倉敷にあり、合わせて145万Kwの設備容量を持っているとわかります。
島根原発の128万kWなどはメではありません。

ただし同社は発電電力の半分をJFEに、半分を中国電力に販売しますので、
中国電力の取り分は72-3万KW程度となります。
電源開発はどこの発電所かというと、広島県竹原発電所で130万KWとわかります。
これは全量中国電力へ販売しています。

つまり中国電力は自社火力発電分770万kWに
電源開発竹原130万kW、瀬戸内共同火力72万kW
計972万kWをベースに供給していることになります。

▼瀬戸内共同火力のwebサイト
http://www.setouchi-kyouka.co.jp/
▼ウェキペディア「瀬戸内共同火力」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%80%AC%E6%88%B8%E5%86%85%E5%85%B1%E5%90%8C%E7%81%AB%E5%8A%9B
(データはもちろん、瀬戸内共同火力のwebサイトの方が正確です)

その他調べていくと、中国地方には主な発電事業者が
JX日鉱日石水島 18.5万kW
宇部興産宇部火力発電 14.5万kW
ユーピーイーパワーセンター宇部 21.6万kW
JX日鉱日石麻里布 21.1万kW
東ソー徳山 80万kW
徳山製造所 55.2万kW
など10万kW以上だけで211万kWの設備があります。
もちろん全量中国電力に販売しているわけではないのですが、半分とみても100万kW…。
つまり中国電力は火力供給力だけで1072万kW以上の供給能力を持っていることになります。

実際中国電力のプレスリリースでは火力の供給を1011万kWと発表していますので、
発電設備1万kW以上の他の電気事業者とも契約しているはずです。
ですから火力供給力を1100万KWと見ておきましょう。
この夏には電源開発新1号機(最新鋭CC石炭発電)60万kWが完成稼働しますので、火力の供給力は1160万kWとなっているでしょう。
これに水力発電の291万kWを足せば、1451万kWが中国電力のピーク時供給能力の限界ということになります。

今度はピーク時需要はどうかというと、中国電プレスリリースによれば2014年夏のピーク時で1086万kWと予想していますので、楽々クリアできる筈です。

ところが中国電力のプレスリリースは「供給力」を1179万kWと発表しています。下に表としてまとめます。

中国電力 2014年夏
ピーク時最大供給力   1451万kW(推測)
ピーク時実際供給予定量 1179万kW
ピーク時最大需要量   1086万kW

つまり中国電力は
『(ピーク時最大1451万kWのうち)1179万kWをピークに供給します、
 その時恐らく最大需要は1086万kWですから供給予備率は(1179-1086)÷1179=約8.4%となり、
 危険の目安の3%をはるかに上回っていますので、大丈夫です、
 ただし、火力発電設備のどこかが故障すれば、
 「供給力」が落ちますので3%以下になることもありえます、
 なお以上の計算は島根原発稼働がない場合の計算で、
 もし稼働すれば128万kWが加わりますので安心です』
と言っているのに過ぎないのです。

中国電力はどこもウソをついていません。
が最重要の情報、すなわちピーク時の最大供給能力は1451万kWあります、という情報を出していないだけです。

次のトリックは1451万kWまでの供給力を実際には1179万kWしか供給せず
これを「供給力」として、あたかもこれが供給力の限界であるかのように印象づけており、1179万kWを供給予備率の分母として使っている点です。
しかしこれも嘘ではありません。
というのは、ピーク時、中国電力は需要予測1086万kWに対し、1179万kWを供給する予定にしており、これを供給予備率の分母として使うのは全く嘘はないからです。
これを中国電力の最大供給能力と解釈するのは、解釈する方の勝手です。
(実際、中国電力はマスコミの記者さんたちに口頭で説明する時、あたかもこの数字が中国電力の最大能力であるかのように言っていることはほぼ疑いありません。文書では嘘をつかないが、消えてなくなる言葉の時には嘘に近いことを平気で言う、これは中国電力に限らず電力会社の常套手段です。ところが、最近はユーチューブなどで消えてなくなるはずの記者会見が消えてなくならないようになったので、私たちも後でどこで嘘をついたのか後で検証できるようになったわけです。)

「供給予備率」は決して意味のない数字ではありません。
が、実際供給量を最大供給量のようにして扱えば、これはウソになります。
これが中国電力が使っている2番目のトリックです。

中国電力に限らず、各電力会社、経産省の電力需給予測は判で押したように同じトリックを使って「原発なしでは電気がたりない」の宣伝をしているのが現状です。
最近では、例えば関西電力が夏の電力供給能力増強で東西周波数の違いを調整して東京電力から購入すると言ったことも大げさに発表し、マスコミがこれを大げさに伝える、電力会社同士の融通電力が電力不足解消の決め手になる、などと言った茶番劇が演じられていますが、有価証券報告書のデータや、トリックの手口を理解しておけば、こんな報道をまともに受け止める人はいなくなるでしょう。

哲野