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新聞の初歩的なトリック-網野と哲野の会話-

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新聞の初歩的なトリック-網野と哲野の会話-

網野が9月5日付けの朝日新聞(大阪本社版)の「九電、9月中間期黒字へ」「川内再稼働で改善」という記事を読んでいて、
網野:九電のこの記事、なんかおかしいんだけど…
哲野:どれどれ?おじちゃんが見てあげよう。この記事がどしたん?
網野:川内原発再稼働で収支改善して黒字になったというんだけど。
哲野:キミ、アホか!
網野:(ムッとして)何よ、その言い方!物言いに気をつけてよ。
哲野:これ、初歩的なトリックよ?気を悪くするのはしょうがないけど、僕が言うとおりやってごらん。そのあとで怒るんなら怒ってもいいけど…

というわけで哲野が作れといった表が次の表です

網野:作ったわよ。これがどうしたのよ。
哲野:その数字は、朝日新聞の記事通りだろ?
網野:そうよ。それ見ながら作ったから。
哲野:じゃ、対前年改善額を入れてみろよ。
と、いわれて作ったのが次の表です。

網野:作った。意外と大きく改善してるのね。
哲野:川内1号機の利益改善寄与はいくらと書いてある?
網野:110おくえん~。
哲野:表に入れてごらん。
で、出来上がったのが次の表です。

哲野:それじゃあ、もし、川内1号機が稼働しなかったとしたら、経常利益の改善はどれくらいになる?
網野:えーと対前年改善額から1号機の寄与を引けば出るよね?
哲野:そうなるよな。
で、出来上がった表が次の表です。

哲野:この表じっと眺めてごらん。何が言える?
網野:これ、川内1号機が稼働しようがしまいが、大幅な改善じゃん!
哲野:記事を一目みたらわかるじゃん、これくらい。
網野:哲野は一目みたらわかるの?すごぉ~~い。
哲野:アホか!実社会でビジネスやっとる人間だったら、一目見たらわかる!数字眺めながら頭で表組みしてるんだから。キミだって、最近見積作らせたり、営業交渉行ったりしてるじゃない。こういう表組みが頭で組めないということは、まだ経営の頭になっていない、ということだよ。世の中の実社会で働く人間というのは、こんなことしょっちゅうやってるの!一目見たらわかるっていうの!凄くもなんともないの!
網野:これが一目見たらすぐわかるんだったら、なんでこんな記事になるの?
哲野:この記事、どこを嘘ついてる?
網野:だって、川内原発再稼働で九電が黒字になったって言ってるじゃん。
哲野:どこで言ってるの、そんなこと、よく読んでごらんよ、どこにもそんなこと書いてないから。
網野:でも見出しに「川内再稼働で改善」って書いてあるじゃん!
哲野:だから初歩的なトリックだって言ってるじゃん。新聞がしょっちゅう使う手じゃん。記事を注意深く読む人なんか、ほとんどいない。見出しを見てまず頭に予断をすり込む。それからその予断から読者に記事を読ませる。読者は思い込みがあるから、見出しのようにその記事を読んで結局残るのは印象だけ。もう18世紀から新聞が使い古している手だよ、これ。
網野:なるほど~。いつも注意されてるわね、言われてみれば。
哲野:だろ?反原発運動やってるわけだから、僕たちは。まず素直に読んで、素直に理解して、おかしいところをキチンと見つけて、それを指摘できるようになっておく、と。これが習慣付かないと、いつまでたっても新聞に誤魔化されっぱなしになっちゃうだろ?これでも怒るかね?アホといわれて。
網野:アホだなぁ私。
哲野:次にこの記事、非常におかしい。110億円の黒字寄与だと言っている。これ、何が根拠なんだろうか?
網野:そういえば、書いてないね、これ。
哲野:うん、書いてないのよ、それが。肝心要の話が。9月期ということは、中間決算だから、2015年の4月~9月の6ヶ月間。まだ9月が終わってないから、この中間決算は予想ということになる。川内原発はいつから再稼働する?
網野:9月10日か11日でしょ?
哲野:今の予定ではそうだ。ということは、9月期中間決算のうち、川内1号機が寄与するのはわずか20日間でしかない。それで110億円の黒字寄与?ちょっと信じられない話だね。
網野:9月1日からの1ヶ月間かもしれないじゃない。
哲野:それはありえない。
網野:なぜ?
哲野:川内1号機の使用前検査の最終合格証がおりる予定になってるのはいつだ?
網野:今の予定では9月10日か11日。
哲野:そう。じゃあ、その前に営業運転開始されたら何が起こる?
網野:原子力規制委員会の規制基準適合性審査合格前に営業運転が始まることになる。これは原子炉等規制法違反になる。
哲野:だろ?だから、営業運転はどんなに早くても9月10日以降じゃないといけない。規制基準適合性審査合格前の電力を売って、それを決算に繰り込めば、これはバンとした炉規制法違反だよ。
網野:そうだよねえ。ということはやっぱり9月1日から、ということはないのか。
哲野:だから、20日間の稼働で110億円の利益と、この新聞は書いている。もっともこの記事を書いた記者が、この問題に注意を払っているとは思えないけど。九州電力が発表したそのままを書いているはずだ、これは。面白いのはこの記事が経済欄に出ているということだ。こんな裏も取ってないような曖昧な記事をよく経済欄に載せるよ、この新聞も。相当いい心臓をしている。だから経済人は経済記事を一般紙で読まないんだよ、バカバカしいから。専門紙か、日本経済新聞で読んで情報を取る、とこういうことになっとるわな。やっぱり。
哲野:それと、この記事は極めて重大なことを書いていない。2年間以上、九州電力の原発は売り上げに寄与していなかった。売り上げゼロだ。ところがその売り上げゼロの原発に九州電力がいくら金を使ったか。たとえば、2015年3月期の有価証券報告書を見てみると、原発の維持費だけで12ヶ月間に約1360億円(その前年は約1320億円)の金を使っている。今期は稼働を開始したので、おそらくは1600億円くらいになるだろうな。だから、前年に使った1360億円はまるまる赤字要因。原発持ってなきゃあ、前年だって楽々黒字だったんだよ。このことを全く書いていない。ま、この新聞は電気事業連合会の御用新聞だからね。電力会社に都合の悪いことは書かない。
網野:原発関係ないじゃん!で、なんで今期、中間決算でこんな大幅な黒字になったの?
哲野:やっぱり第一番目の要因は料金値上げだったよね。
料金値上げの寄与がすごく大きい。まだ今期の有価証券報告書の分析をしてないんだけれども、間違いない要因は九州電力がコストの高い火力発電から、コストの低い火力発電に主力を切り替えつつあることが大きいだろうね。九州電力の火力発電っていうのはこれまで石油発電、ガス発電、ばかばかしいくらいの高コスト体質だった。それを、コストの安い石炭発電に極力切り替えた、これが大きいだろうね。
次の要因は、電源開発からの供給に全面的に依存したことが挙げられる。電源開発から購入する電気は1kW/h約9円と、非常に安い。九州電力が自分のところで作る電気よりはるかに安い。だから利益改善のためには電源開発からの電気をどれだけ買うかが大きな問題になる。
網野:電源開発の火力発電所ってどこにあったっけ?
哲野:長崎県の松浦発電所(1号・2号機で200万kW)、松島火力発電所(1号・2号機で100万kW)の2カ所で300万kWの供給能力がある。ただし、2014年3月に松浦の2号機が事故を起こして、しばらく発電能力が約150万kW弱になっていたけど、2015年6月に完全復旧して今は合わせて300万kW体制になっている。
次に大きな要因は、世界的にここ1年間、原油価格が、これもう暴落といっていいくらい、価格が下がった。このため引きずられてガス価格や石炭価格も下落した。この要因も大きいと思う。
網野:じゃあ、原発なしのほうが、経営的には楽ってことよね。
哲野:特に今年はそう言えるよ。というのは、朝日のこの記事をよ~く見たら面白いんだけども、九州電力は中間期で凄い黒字を出す。だから、通期(2015年4月~2016年3月)ではもっと大きな黒字になるはずだ。ところが、社長の瓜生さんは今の経営効率を続けるなどすれば、黒字化は可能だ、とえらい控えめな事を言っている。ちなみに前期は経常損失が736億円、純損が1146億円だった。今の勢いで行けば、黒字が経常利益で2000億円近くになるはずだ。なのに、社長の瓜生さんは黒字は可能だ、と言っている。可能どころかもう確約状態じゃないか。
網野:なんでこんな控えめなことを言ってるの?
哲野:実は、今期の今までの数字には、川内原発を規制基準適合に持って行くための対策費用が含まれていないんだと思う。
網野:それって、規制基準適合性審査の、工事計画変更認可に伴う工事のことだよね?
哲野:そうそう。この工事はまだ終わってない。だから、今年度分は中間決算で費用計上していない。でも、通期決算では費用計上せざるを得ない。この費用があるから、大幅な黒字という風にならないんだと思う。おそらく、川内1号・2号だけで、推測になるけれど1200億円以上にはなるんじゃないか。この費用は一部資産計上出来るものもあるけれど、川内1号が稼働ということになれば、大部分、費用計上せざるを得ない。この費用があるから、瓜生さんも通期の見通しで黒字は可能だと控えめに言わざるを得ない、と、こういうことじゃないか。
網野:それじゃあ、料金値上げとか、石炭火力への合理化とか、世界的なエネルギー資源安の恩恵で上げた利益を原発につぎ込む、とこういうことになるわけ?
哲野:そうなるよな。
網野:バッカじゃないの!
哲野:そ、原発は金食い虫なのよ。
網野:どこがコストの安い発電手段なのよ!大バカじゃない!