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2人デモ第7回報告のメールをみてご連絡をくれた、ある方への返信

Hさん

「不正確な記事を掲載したのは、そのときの私の説明のしかたも不正確だったのかもし れません。
もう、はっきりとは覚えていませんが、「国が受け入れさせようとしている災害廃棄物 の多くは『低レベル放射性廃棄物』だ」ということを強調して言ったと思います。」

そうではないのです。これは枝葉末節の話です。日本の現在の大手言論機関の現在の体制は遡っていくと1940年頃に完成した国家総動員体制に 突きあたります。昭和の初期には日本には有料新聞が約1300もありました。(中には週刊紙、隔日紙を含みます)確かに過当競争で各社の経営 は大変だったようです。戦争遂行のため軍部はこれを整理します。当時の記録を読むと、軍部は全国紙4-5紙、ブロック紙2-3紙、各県県紙1 紙という計画を立てました。通信社も1社とし同盟通信1社としました。この時に生まれたのが現在の中国新聞です。この言論統制の体制のまま太 平洋戦争に突入します。一部反抗的な新聞社や記者は憲兵本部を使って国家暴力で弾圧しました。

戦後マッカーサー司令部は、この日本軍部の「遺産」をそっくり受け継ぎ、占領行政に利用しました。これを長々書いているとなかなか本論には入 れませんので割愛します。表面を撫でただけの記事ですが、以下は参考になると思います。この手の記事や本が少ないせいか、今なおかつアクセス 件数が高い記事です。)
http://www.inaco.co.jp/isaac/back/018-2/018-2.htm
http://www.inaco.co.jp/isaac/back/018-3/018-3.htm
http://www.inaco.co.jp/isaac/back/018-4/018-4.htm

要は日本の主要報道機関は、1940年以来国家権力の支配体制の中に組み込まれているということです。戦前軍部による言論統制はハードな統制 だったとすれば、戦後の体制はソフトな体制でした。このソフトな体制は主として言論側の「自主規制」という形で表現されています。その自主規 制のもっとも判りやすい形で現れているのが、「用語・表現」の統一です。たとえば、1960年頃までは皇太子妃は平気で「美智子さん」と新聞 に書かれていました。それがいつの間にか、皇室には敬語・敬称を使う、と申し合わせていきます。また「核不拡散条約」は本来「核兵器不拡散条 約」でなければなりません。原発及びその技術の普及は奨励・援助すると言っているのですから。英語の名称も”Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons”です。さすがに外務省は国際条約名ですから「核兵器不拡散条 約」と正しく表現しています。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/npt/gaiyo.html

これも長い話になりますので割愛しますが、日本の主要報道機関は「核不拡散条約」と表記で統一しています。用語や表記の仕方こそ言葉を生業と するものの生命線です。「部分核実験禁止条約」と表現すれば核実験の方法を制限したと言う点に重点が置かれるのに対して、「大気圏内、宇宙空 間及び水中における核兵器実験を禁止する条約」(略して大気圏核実験禁止条約)と表現すれば、大気圏核実験を禁止したと言う点に重点が置かれ ます。表記の仕方一つがものの見方、場合によれば思想を表す場合だってあるのです。(この件の正解は大気圏核実験禁止条約です。英語正式名称 は「Treaty Banning Nuclear Weapon Test in the Atmosphere, in outer Space and under Water」です。この条約のおかげで世界中の放射性物質降下は大幅に低減しました。そこがこの条約の歴史的価値でした。)

用語や表記の統一は自主規制の第一歩です。バロメータだとも言えます。3.11以降もその傾向は変わっていません。環境省の文書を読むとどこ にも「震災がれき」や「がれき」という表現はありません。正しく「震災廃棄物」と使っています。それを全て「がれき」と云う言葉でくくる訳に はいかないからです。震災廃棄物と「がれき」は同じものではありません。ところが環境省の出稿する広告には堂々と「震災がれき」と使ってあり ます。これ自体、世論誘導の意図をもった言葉です。主要言論機関はこれを「震災がれき」「がれき」と表記することに明らかに合意しています。 (何か会議があって合意する、というイメージで捉えてはなりません。もっと巧妙な体制です。NHKや共同通信が使った用語に右にならえするよ うな、もっと巧妙で陰湿な自主規制です)主要言論機関は「震災廃棄物」(岩手・宮城・福島の震災廃棄物はそのほぼ100%が低レベル放射性廃 棄物です)を「がれき」と表現し、用語統一することによって体制側に協力している訳です。広島市に出した要望書は「低レベル放射性廃棄物」と 言葉の正しい意味での「がれき」を書き分けることによって、「がれき」という言葉の持つ欺瞞性を暴こうという意図をもったものでした。このこ とに気がついているヒトは少ないと思います。毎日新聞は「がれき受け入れに反対」と書きました。これは、Hさんのせいでも、想像ですが執筆 した記者のせいでもありません。「低レベル放射性廃棄物の受け入れに反対」と仮に執筆記者が書いたとしても、必ず整理部で「がれき受け入れに 反対」と直されたことでしょう。これはもう想像以上のものがあります。主要報道機関は、自主規制によって「アレ」を「がれき」と表記する以外 の言葉をもたないのです。舌を切り取られた雀同様です。

恐らく、昨日やってきた3人の若い記者は以上のようなことを全く知らないと思います。デスクから「再稼働反対のネタを拾ってこい」と言われて ツイッターで2人デモのことを知ってのこのこやってきたのだと思います。3.11以降朝日新聞の論調を割と注意深くチェックしていますが、こ の7月ごろから明らかに「反原発市民運動」に対する扱いが変わってきています。一つにはそれまでの報道姿勢だと新聞に対する信頼が薄れてい く、場合によっては不買運動に発展しかねない、という危機感があったのだと思います。もう一つは権力側にこれ以上無視するのは得策ではないと いう判断が存在すると私は感じます。(詳しく朝日新聞の論調の変化や野田政権のものの言い方の変化を記述したいところですがこれも割愛しま す。{「ずいぶん大きな音だね」発言を最初に報じたのがサンケイ新聞だったことはずいぶん皮肉な話です。)もうひとつ明らかなことは主要言論 機関のアリバイ作りです。われわれも反原発市民運動を報じたのだ、という。

もうひとつ、重大な論調(世論誘導)の変化が現れています。それは「直接民主主義」の幻想を振りまくことですが、討論型世論調査(その実討論 型世論誘導)の本格導入とあいまって随分危険な方向に進めようとしているな、と感じますがこの件も割愛します。

あれやこれやで私もむかっ腹が立っていたのでしょう、チンピラ記者の町の地方版埋め草ネタ探しなぞに協力できるか、と追い返してしまった訳で す。どちらにしても彼らがどんな記事を作るか想像できます。これがまかり間違って掲載されでもしたらエライ迷惑です。

Hさんのせいでは全然ありません。

「昨日の反応は、すごかったようですね。」

それは網野の感じ方で私はそう感じませんでした。一つは網野が2枚プラカードをもっていて、反応を観察しながら歩いていた、私はマイクを もってしゃべって、言葉の反応を見ていた、という違いかもしれません。何回か重ねるともっとはっきりしてくると思います。ただ網野がいう ように、データを判りやすく提示するとビジネスマンの食らいつきが全然違うということは確かです。また「スローガン」や「呼びかけ」に対 しては反応が薄い(このことは第1回・第2回のデモでの反省点でデータと事実提示に第3回目から切り替えたのです)、このことも確かなこ とです。

「だまされているようだ、まきあげられているようだ、でもそれがはっきりとわからな い、それを説明してほしい、という感覚を、確かに多くの人が持っているのかもしれません。
私自身がそうです。国の赤字は膨らんでいる、どこもお金が足りないと言っている、けれども、一方では「行き場を失ったお金」があふれている。「経済」というものが人々の生活を豊かにすることとは全然関係ないところで 動いていて、ごくごく一部の人たちの懐に一方的に溜まっていっている。そのお情けのようなおこぼれに与るために、ほとんどの機関や人 が、この正しくないシステムを守る方向で動かされている、というイメージは持つのですが、それを根拠を持って人に説明することができ ません。」

全く同感です。私も取り組みたいところです。しかしはっきりしていることがいくつかあります。ご指摘の現象は日本だけの現象ではない、世 界的に「先進国」で共通して発生している現象だということ、それは常に巨大国際金融資本の利益を害さない、あるいはその利益を護る方向 で、常に部分的な幕引きが図られていること、明らかにアメリカ連邦準備制度、EU理事会、日本銀行は通貨発行を大幅に増やして(新聞は金 融緩和と呼んでいますが、大笑いです)、インフレ・ターゲットに向かっていること、その資金の源泉は、青天井の通貨発行権をもっている 「アメリカ連邦準備制度」以外にはないこと、つまり現在の信用危機の本質は「ドル基軸システム」の危機であること、ヨーロッパ国家信用危 機はそのスケープゴートにされていること、その矛先は次には日本に向かうだろうこと、等々です。これらの現象を貫く共通した本質は、国際 金融資本が国家を借金漬けにして永続的な利益を国家そのものから吸い上げる仕組みをできるだけ維持したいという動き、そして国家信用危機 レベルに達すると増税、養老年金(日本では厚生や国民年金、アメリカではソーシャル・セキュリティ・タックス)の受給率を調整しながら、 各国国民の負担を重くすることで乗り切ろう、という手法でしょう。すなわちご指摘の問題は、日本国内だけ見ていたのではわからない、とい うことでもあります。何も言っていないのに等しい「言い方」ですが、絶大な権力を持つ国際金融資本は、世界中の人々にとって「巨大な寄生 虫」になってしまっている、という認識が一番大切だろうと思います。大きくは原発問題もこのカテゴリーのなかにすっぽり入ります。

「地震の危険」よりも、「経済」の方が、リアリティを持って感じられるのかもしれま せん。とはいえ、「地震」も、ほんとうはリアルな問題です。どうやったらそれが伝わっていくのか、工夫しなければと思っています。

地震の危険をリアルな問題と感じられるかどうかは、その人によると思います。特に東日本大震災以降、地震をリアルに感じるヒトは多く なったように思います。(かくいう私も、網野もその1人です。昨年4月東北電力女川原発がM7以上の地震で3つの電源供給システムの うち、2つが停止した時は、もう怒髪天をつきました。政府・東北電力の発表は、1つは動いているので冷温停止には影響ない、というも のでした。そうじゃないだろ、水で冷やすのは当たり前だろ、地震で2つも止まることの方が大問題だ、原発ホントにやめてよ、と思いま した)

昨日、プラカードにもチラシにも入れてあったので、「プラカードをご覧下さい。関電大飯原発の1号炉、2号炉、3号炉、4号炉の真下 には、かつて断層のズレがあったことを示す断層破砕帯がミミズがのたくるように走っています。これが活断層かどうか今調査中です。し かし活断層であろうがなかろうか、これがかつて断層ズレを起こしたことは事実です。こうした破砕帯の巣の真上に4つも原子炉を作るべ きではありません。」というスピーチを2回ほど入れてみました。明らかに別な層からの反応はありました。これは「地震問題」を経済問 題とは別にリアルに感じている層がいることを示しているのだと思います。

総合して言えば、「再稼働問題」を一点から論じるのではなく、「放射能問題」、経済問題、地震問題、「倫理問題」(政府関電の詐術) など多方面から、事実とデータをもって論じることが必要だということだと思います。そのどれかを切り口にして市民各層にアプローチす ることが必要なのだ、このことが今のところ正しいアプローチ(少なくとも広島市民に向かっては、他の地域では多分違うと思います)で はないか、これが中間結論です。ネタをせっせと調べて作らねばなりません。

また長々と、失礼。

哲野イサク