九州電力川内原発1号機工事計画認可
網野:川内原発1号機の工事計画が認可されたね。
哲野:そうだってねえ。あれ、いつの規制委会合?18日だっけ?
網野:そ。18日の平成27年度第63回規制委会合で正式に決定された。
▼平成27年第63回原子力規制委員会 会合
http://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/kisei/00000008.html
▼資料1「資料1 九州電力株式会社川内原子力発電所第1号機の工事の計画の認可について(案)」
http://www.nsr.go.jp/data/000100678.pdf
哲野:新聞がどう書くかと思ってね。
網野:どういうこと?
哲野:いや、原子炉設置変更許可審査書案が出た時、本チャンの原子炉設置変更許可審査書が正式に下りたとき、『事実上の合格』『川内原発再稼働決定』『年明けにも再稼働』とさんざん書いておいて、今度1号機の工事計画認可はいったいどう書くんだろう、そう思ってね。
網野:明日にも再稼働か?とでも書くんだろうか
哲野:これ、今日の朝日新聞。さすがに記事の扱い、ちっちゃいよね。
哲野:見出しは、『川内運転再開「7月上旬」』『8月に営業運転』。さすがに、今回は小っちゃく九電目標と入れてある。
去年伊藤鹿児島県知事が川内原発再稼働に同意したときの翌日の記者会見の記事、覚えてるかい?
網野:覚えてるも何も。
▼朝日新聞(大阪本社版)2014年11月8日14版1面
哲野:この時は川内原発の再稼働は『年明けにも』と見出しを打っている。読者は、「あれ~?」と思うだろうね。伊藤知事が再稼働同意をしたときには、これは無効の同意宣言だけども、年明けにも再稼働なのかと思っていたら、年が明けても再稼働しない。なんや聞きなれない工事計画認可が取れたら今度は8月に営業運転(正式再稼働)というんだから。具体的になればなるほど、再稼働は遠くなっていく。
網野:どうしてこうなるんだろうか。
哲野:そりゃもう、はっきりしてる。朝日新聞に限らないけど、日本のマスコミは電力会社、経済産業省からの情報を基に記事を作ってるから。
網野:そりゃそうだろうけど、でも、裏は取りに行くでしょ。
哲野:そりゃ原子力規制委員会に問い合わせれば、あるいは問い合わせなくたって資料を読めば電力会社や経産省が言ってることが、根拠に乏しい希望的観測だってことは一発でわかる。だって、広島にいて、一歩も外にでない僕たちだってわかるくらいだもん。
網野:じゃ、あれ?裏とってないってこと?
哲野:2通り考えられる。一つは、ちゃんと裏をとって、わかってて記事を書いている。二つ目は、裏もとらないで、電力会社や経産省の言う事をそのまま書いている。
網野:うーん、これ、二つ目のほうかもしれないなぁ。
哲野:そうも言えない。なにしろ、日本の新聞社は頭のいい奴が揃ってる。彼らがそんなポカをするとは考えにくいね。
網野:じゃ、それはどういうことになるの。
哲野:新聞が報道機関ではなくて、宣伝機関として電力会社や経済産業省に上手く使われている、ということになる。今日の記事だってそうだよ。よく読んでごらん。
この記事を読むと、「九州電力は1号機の再稼働を先行して行う。」と書いてある。1号機を先行させるか、同時にやるか、それは九電の勝手だけども、審査はそうはいかない。1号機、2号機の工事計画が終わらなければ、保安規定の審査は終了しない。審査の上では1号機と2号機はセットなんだ。1号機と2号機は共用部分があるからね。
ところがこの記事によると、1号機が2号機と切り離して審査が進められるかのように書いてある。この記事の元は九州電力が起動前検査を申請したというところにあるけれど、そりゃ起動前検査はいつだって申請できるから。だからといってここに書いてあるスケジュール通り、進むとは限らない。
この記事のもっとも悪質なところは設備検査(原子力規制委員会の用語では起動前検査・起動後検査。電力業界の用語では設備検査。実際に設備だけを検査するわけではない。保安規定通り、実際に運営されるかどうかも検査される。)が再稼働に必要な手続きの最終段階にあたる、と書いているところだ。
これを読むと、何も知らない人は、規制委員会は再稼働を承認する機関だと勘違いするよ。
規制委員会は規制基準に適合してるかどうかを審査するんであって、再稼働には一切関わらないという組織だから。
網野:なぜ原子力規制委員会を再稼働承認機関だと思わせたいんだろう?
哲野:それは、「世界一厳しい基準に合格した原発」は絶対安全なのであって、規制委が合格とした原発は自動的に再稼働、というイメージを植え付けたいからだろう。
網野:世界一厳しい基準とはいえないよね。基準地震動だって大甘だし、避難計画の実効性は審査しないし。
その上、安全審査じゃないんだし、田中さんは「規制基準に合格したからといって、安全とは申しません」と再三再四言ってるのに。
哲野:だろ?だからこれとはかけ離れたイメージを植え付けるのが目的だ。日本の原子力規制法体系全体は、再稼働のプロセスについて全く明記していない。
再稼働の法的要件は一つは、規制基準適合と明記してあるが、地元同意はよくよく読まないとなかなか出てこない。ましてや、再稼働全体のプロセスは明記してない。こういう状況下で何が決め手になるのか。電力会社や経産省の立場にたってよくよく考えてみてごらんよ。
網野:みんなの反対は意味がない、と思わせるように宣伝しちゃうなぁ、私なら。
哲野:もうちょっといえば、既成事実を作っておいて、反対してる人にも諦めさせればいい。ああ、もう何を言ってもだめなんだ、もう再稼働は決定的で目前なんだ、と思わせればいいわけよ。
網野:そのために今、マスコミが使われているわけね。
哲野:この記事の最後がケッサクだよね。「九電はこれらの認可(2号機工事計画認可申請、保安規定認可申請)に必要な申請書類を4月中旬に提出する方針。」と結んである。
網野:どこがケッサクなの?
哲野:2015年2月5日の審査会合で、1号機工事計画、2号機工事計画、保安規定補正申請(これら補正申請を原子力規制委員会は本申請と呼んでいる)が九州電力からなかなか出てこないので、業を煮やして浦野調整官がいったいいつになったら出せるのか、と言葉は柔らかいが、詰問している。
これに対して、九電の中村部長は1号機の工事計画審査補正書は2月の最後の週には提出する、2号機工事計画審査補正は3月中に、また保安規定は2号機と同時期に、と回答している。
第192回 原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合 (平成27年2月5日) 動画テキスト起こし
https://www.youtube.com/watch?v=_OliKCxsfVw
<動画1:38:30から>
更田委員:川内原子力発電所1・2号機は設置変更許可を受けて、工事計画並びに保安規定の審査を行っているところですけれども、この状況確認について浦野調整官の方から。原子力規制庁 浦野調整官:原子力規制庁、浦野でございます。九州電力(株)川内原子力発電所、工事計画認可については9月30日、及び10月8日に、昨年ですが、補正を受理したところでございまして、10月21日には審査会合でその概要を聴取したところです。本件は新規制基準に基づく工事計画認可の初めての本格的な審査であり、これまで審査チーム内の工事計画認可担当者の総力を挙げてヒヤリングにおいて10月21日の審査会合で示された11項目の主な技術的論点等を含め、新規制要求が強化された事項、新たに申請書に記載することになった事項等を中心、にひとつひとつ設置許可との整合性、技術基準の各条項への適合性、品質管理事項への適合性につき、技術確認を実施してきたところです。昨年12月末には当方からの指摘が概ね終了し、これに沿って記載を整理し、再度提示するよう指摘したところであり、九州電力から、我々の指摘を踏まえた提示に対して見せていただいたところです。九州電力においてはこれまでの当方からの指摘を踏まえ、申請書として必要十分な内容、技術的根拠、及びその記載の様式や深さについて、概ねわかっていただいたと、ということでよろしいですね?
九州電力 中村:九州電力の中村でございます。12月末までに工認(工事計画認可の略)の作業状況でございますけれども、ヒヤリングにおいて指摘いただきました整理すべき内容に対しましては、基準適合性の技術的根拠で申請書への記載内容について、年明けからご説明しておりますが、現在強度や耐震に関する説明書の一部について、文書校正や記載内容等、ご指導を受けながら最後の詰めを行っている段階でございます。これにつきましては横並びや全体構成についても考慮しながら鋭意作業を実施しているところでございますけれども、もうしばらく時間が必要というふうに思っております。
原子力規制庁 浦野調整官:3点お伺いしたいと思います。1点目、今準備中ということでございますけれども1号機の工事計画認可申請の補正の提出期の見込みはどうでしょうか?2点目、2号機の工事計画認可申請の補正の提出期の見込みはどうでしょうか?1号機の運転に必要な設備の一部が、1・2号機共用設備として2号機の工事計画認可申請に含まれているということ。この2号機の工事計画認可申請をしないと共用設備の使用前検査は受けられないということにもなります。また2号機の工事計画認可の申請、補正の準備をしつつ、1号機の使用前検査の両方に対応すると言う体制、その準備はできますでしょうか?こういった点も含めて見込みを教えていただきたい。3点目は保安規定の変更認可についての補正、この提出時期について見込みを教えてください。
九州電力 中村:1号の補正申請について、見込みとしては今月の(2015年2月末)最後の週までには出したいと考えてございます。工程表を見ていただくと(略)…下の方に2号の工程を書いてございますけれども、今ご指摘にあったように2号設置で1・2号共用という設備がございます。右下のところに囲んでいる設備でございます。中央制御室の空調設備、廃棄物処理建屋等ございまして1号を運転するためには共用設備ですので運転するまでには必要、と2号機につきましても1号機の申請後、速やかに再補正申請を実施しまして1号の燃料装荷前までには適合性確認検査、いわゆる使用前検査、使用前検査を終了いたしまして一部仕様承認という形で…(略)…運転に向け検査を受けて行きたいと考えています。2号につきましても早急に、1号補正申請後に作業を進めまして、だいたい一か月程度を目途に提出したいと考えてございます。(略)保安規定でございますけれども、保安規定も再補正することで考えてございまして、1・2号、両方の工事計画認可の内容を反映した形で運用を担保する事項を確認して、必要なものを保安規定に反映するということがございますので、2号の工事計画認可の補正の申請に合せて、申請したいと考えてございます。
哲野:つまり、1号機工事計画は2月中、2号機工事計画と保安規定は3月までに出すと約束してるけど、この記事(九電情報)によると両方4月中旬に出す方針と書いてあるね。結局2月5日の規制委審査会合との約束は守れなかったわけだ。
仮に4月中旬に両方出たとしようか、審査にそれぞれ1か月づつかかったとしようか、そうすると審査が終わるのが6月中旬になる。それから規制委本会合に上げてここで正式承認を取る、そうすると規制委から最終合格証が出るのが6月末になる。原子炉設置変更許可、工事計画、保安規定、の3点セットが揃わないうちは検査に入れない。そうすると、この記事の通り、検査に3か月かかるとすれば、検査終了は9月末ということになる。
これ、最短の流れだろうね。そうするとこの新聞記事に書いてある九電目標、8月に営業運転(再稼働)も結構怪しい話になる。
しかも、再稼働となると、30km圏の自治体、たとえば姶良市は再稼働反対・廃炉を求める決議を出しているし、いちき串木野市議会は実効性のある避難計画の確立ができるまで再稼働すべきではないという決議を上げているし、日置市は30km圏自治体の議会・首長の同意なしに再稼働すべきではない、という決議を上げている。再稼働になると話は、原子力規制委員会とは全く関係がなくなるから、これら同意も取りつけなきゃいけない。
いま九州電力は水面下で伊藤鹿児島県知事とともに必死になって工作を行ってるところだろうと思うけど、現地の反対勢力に諦めさせるのがやっぱり一番手っ取り早い。
今回の記事も、その意図はありありと感じるね。
▼西日本新聞はでかでかとチャート入りで報道した
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/157107
ケッサクなのは、九州電力の発表通りこのチャートには保安規定の認可プロセスは書かれていません。
網野:反対勢力が諦めるのを待ってるわけね。もう駄目だと。思わせたいわけよね。
哲野:そ。諦めたらそれでおわり。敵の思うつぼ、ということだね。
網野:諦めたら統一地方選の争点にもならないからね。