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20ミリシーベルトの法的根拠

20mSvの法的根拠

網野:こないだ、原子力規制委員会に電話して、ICRP勧告の国内法整備について聞いてたわよね?それ、ちょっと説明してくれない?どういう話なの?

哲野:前々から、調べて確認しようとおもっていたことがある。原子力災害対策指針にも、原子力規制委員会の「帰還に向けた安全・安心対策に関する検討チーム」の審議や提出資料のなかにも、ICRP勧告を全面的に採用するという一言が謳ってある。
ところが、ICRP勧告は言ってしまえば国際的ではあるが、私的な学者・研究者の集まりにすぎない。
そのICRP勧告をそのまま国内に取り入れるわけにはいかない。
取り入れに当たっては国内法の整備が必要になる。
福島原発事故のちょうど2ヶ月前、当時の放射線審議会はICRP2007年勧告の国内法制化に向けた第二次中間報告を出したところだった。

ところが福島原発事故で事態が急展開する。
例えば、例の3つの被曝状況(緊急被曝状況、現存被曝状況、計画被曝状況の3つのシチュエーション・ベーストのこと)に基づいて、20mSv以上の被曝が予想される地域は避難勧告が出され、現在は20mSv未満になったとして避難解除をした地区から住民の帰還政策をどんどん進めている。

法的には現在でも、公衆の被曝線量上限は年間1mSvとなっている。
(経産省、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の規定に基づく線量限度等を定める告示など)
現在の法令では、20mSv以上を避難とする法的根拠はいったい何なのか、これがどうしてもわからなくて原子力規制委員会に電話したわけ。

網野:なんで原子力規制委員会なの?

哲野:放射線審議会そのものが、原子力規制委員会に吸収・統合されて、放射線防護行政も、原子力規制委員会に一元化されたからだ。
http://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/houshasen/index.html

ところが、放射線審議会の審議は、確かに職業被曝限度については突っ込んだ議論がされたが、公衆の被曝線量やICRP勧告の取り入れについてはその後審議された後がない。
で、規制庁の担当者の人に法的根拠について聞いてみたんだ。

網野:で、何がわかったの?

哲野:驚くべき事がわかった。ICRP勧告の取り入れ、Pub.103、107、111などの国内法制化はまだまだ審議が進んでいない、未整備だ、ということがわかった。

網野:ちょっとまって。じゃ、今の福島というか、日本の20mSv以上になったら避難しなさいとか、以下だったら帰還しなさいとか、いったい法整備されてないなら、法令上の根拠はなんなのよ。

哲野:そこ!それをボクも知りたかった。説明では、これは規制委員会の規制マターにはまだなっていない。おさらいになるけど、2011年3月11日に原子力緊急事態宣言が出された。原子力災害対策特別措置法によれば、原子力緊急事態宣言が出されれば、原子力災害対策本部が設置されて、総理大臣が本部長に任命され、原子力緊急事態宣言を解消するためにほとんどオールマイティーに近い権限が与えられる。

話は変わるけど、自民党は現在の憲法に緊急事態条項を入れるように書いてあるけど、現実にはただいま、すでに、緊急事態条項は法律に盛り込まれ、現在緊急事態宣言中だ。なにも憲法に入れる必要は無い。現行法の範囲で必要とあらば策定することができるし、現にやっている。
ところが安倍さんは、原子力緊急事態宣言状態を解消するためには、ほとんど何もしていない。どころか、放射線被曝強制政策を採っている。
あるものを使わず、ないものを必要だと要求する。これは緊急事態宣言に名を借りて、もっと国民の自由や人権を制限する目的だということは、もう見え見えだよね。

網野:それで、原子力緊急事態宣言がどう関わってるわけ?

哲野:あ、ごめんごめん。要するに、ICRP勧告の国内法整備が出来ていないから、20mSvうんぬんは実は、原子力災害対策本部長の原子力災害対策特別措置法に基づく、本部長命令で行われている。つまり今なお、緊急事態に基づく措置が有効となっているわけだ。デタラメもいいところだよね。

網野:それって違法なの?

哲野:違法ではない。

網野:でも国民の生命・健康・財産を守るため、という目的はどうなるの?原災法にも書いてあるでしょ。

哲野:原災法に基づく原子力災害対策本部長、すなわち総理大臣の権限は法的根拠がある。だから違法ではない。

ボクがデタラメだよね、というのは、本部長の指示・要請・命令は、あくまで緊急事態宣言中の緊急措置だ。本来ならば、国民全体の生命と健康に関わる問題なんだから、放射線審議会の審議をもっとオープンにしてこの会合を頻繁に開いて、果たしてICRP勧告を取り入れることが妥当かどうかを国民的議論にしなければいけない。みんな関心のあることなんだ。

ところが実際には、この議論はほとんど行われず、あたかも法令上の根拠があるかのようにして避難解除、あるいは帰還させ、その上避難に伴う賠償金や支援金を打ち切ってしまう、こういう状態がデタラメといっているんだ。

網野:じゃ、国内法整備が出来るまでは原子力緊急事態宣言は解除できない、ということにならない?

哲野:そういうことになる。20mSv以上は避難、あるいは20mSv未満は帰還という政策は、原災本部の決定による。原災本部は、原子力緊急事態宣言中にのみ有効。解除すれば、原災本部は解散となり、そこでの命令は法的根拠を失う。だから、法整備ができるまで原災本部は解散できないということにもなる。

網野:それってほんとの話なの?

哲野:信じがたいが本当の話。

網野:こりゃ、みんなに教えなきゃ。