No.027

2010年2月13日
イラン核疑惑:世界を駆けめぐる不気味な戦争待望論 「この苦い経験を繰り返してはならない」


オバマにイラン戦争を迫るペイリン

 2009年、2月も第1週をちょうど過ぎた頃、いきなり厭なニュースがいっぺんに入ってきた。 

 まず、09年2月8日(月)外交問題評議会のニュース要約日報(Daily News Brief)が、最も重要なニュースとして、「イランが医療用原子炉のウラン濃縮を開始し、その核の野望のために国際的な緊張が一気に高まった。」と要約している。そしてイラン原子力エネルギー機構(Iran's Atomic Energy Organization)長官、アリ・アックバール・サヘーリ(Ali Akbar Saheli)の声明を、都合のいいところだけ引用して、次のように書いている。

イランは、20%のウラン濃縮を開始するだろう。そして、イランは海外から濃縮ウラン燃料が受け取れるなら、このウラン濃縮を停止するつもりだ。』と述べた。


 冷静に考えるのなら、この声明は全く筋が通らない。後で説明するが、この引用文の筋が通らないのは、つまみ食いをした引用だからだ。
<http://www.cfr.org/about/newsletters/editorial_detail.html?id=1841>

 同じく8日、今度はイスラエル・ツディがビックリ仰天するようなニュースを配信した。2008年の大統領選挙で、共和党の副大統領候補だったサラ・ペイリン(Sarah Palin)が日曜日(7日)、大統領オバマに書簡を送り、その中で「イランを軍事攻撃すべし。」と云ったというのだ。関係箇所をイスラエル・ツディから引用しよう。

 ペイリンはオバマに、2012年の大統領選挙で再選されるチャンスを確実にしようと思うなら、これまでの誤りを正して、イスラエルを支持し、イランの核計画を妨げるために、軍事的オプションを発動すべき時がきていることを認識すべきだ。もし今大統領選挙があればあなたは勝てない。』
(「Palin tells Obama to back Israel, bomb Iran」
<http://www.israeltoday.co.il/default.aspx?tabid=178&nid=20526>


 今のアメリカに、イランを直接軍事攻撃する力と条件があるのかどうかは疑問だが、アメリカの中に経済危機を打開する方策として、戦争を待望する連中が存在し、イスラエルにイランを攻撃させる可能性は十分にある。やはり去年のイスラエル・ツディの記事だが、当時中国に出かけたオバマが、胡錦涛に「イランの経済制裁に同意しなければ、アメリカはイスラエルのイランに対する軍事攻撃を押さえられなくなる。」と威しをかけたという記事(「http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/obama_16.htm」)が、載っていた。大手マスコミや通信社を使って報道させるのは諜報戦・情報戦の一貫でもあるわけだから、すぐさま信じるわけにはいかないが、どちらにしても厭な雰囲気である。


LAタイムスは匿名だらけのデマ記事

 同じ8日、ロスアンジェルス・タイムスが、ボルゾウ・ダラガヒー(Borzou Daragahi)の署名入り記事で、ベイルート(レバノンの首都)からの記事を掲載した。また、厭なところから記事を送ったものである。というのは、レバノンの反イスラエル民族組織ヒズボラとイスラエルの間の軍事緊張が高まっている、という報道が次々出されているからだ。

 内容は、20%のウラン濃縮開始、軍事転用できる濃縮ウラン工場を新たに10箇所建設することを発表、またイランがあらたな軍用機製造や対空ミサイルの計画があることなどで、イランに対する経済制裁の声が高まっているし、国内的にも治安が悪化し、国内の反対の声を無視して、イラン政府は核計画を強引に押し進めようとしている、といったものだ。

 この記事の悪質なところは、なんら事実関係を示さず、すべてコメントで逃げてしまっているところだ。またそのコメントも記者が独自で取材したと思われる部分はすべて「匿名」だ。たとえば、「イランはこの火曜日(9日)にIAEA(国際原子力機関。本部・ウィーン。)の検査官とオブザーバーの監視の下、20%のウラン濃縮を開始すると云うが、IAEAのある高官によると(匿名が条件)、今日8日の朝までに、イランからそうした通告は書面で受け取っていない、という。」

 この記者は知らなかったのだろうが、2月8日(月)、イランのIAEA代表部がウィーンでIAEAに出向き直接、癌治療目的のアイソトープを製造するため、20%未満のウラン濃縮を行うことを通告し、検査官の派遣を要請している。

 またたとえば、「ある西側の外交官によると、イランに対してはより厳しい経済措置をくださねばならない。核分裂物質の製造とミサイル計画で事実上核兵器製造能力をもとうとしているからだ。」といった箇所だ。

 一読してクビを傾げるような記述だ。

 この記者が知らないのか、あるいは知っていても知らない振りをしているのか、わからない。天然のウラン鉱石には、同位体U-235が、0.7%程度含まれている。もっとも核分裂しやすいウラン同位体なので、原子力エネルギーの利用ではこの同位体U-235が使われる。といっても天然成分の0.7%程度の純度では、利用ができないので、その純度を上げる必要がある。この純度をあげるプロセスを「濃縮」(enrichment)と読んでいる。

 原子力発電用のウランの濃縮度は一般には、3.5%から5%までとされている。イランの場合はロシアの発電用原子炉を導入しているため、濃縮度は3.5%でいいらしい。

 それから、実験用原子炉、研究用原子炉、医療用原子炉などでは、さらに高濃縮のウランが使われるのが一般的だ。今ここで問題になっている20%未満の濃縮ウランは、ガン治療用の濃縮ウランだ。(但し欧米の記事で正確に20%未満と書いているメディアはほとんどない。)

 財団法人癌研究会のサイト(<http://www.jfcr.or.jp/gan_knowledge/radiat.html>)を見ると『放射線治療とは、様々な種類の放射線を用いて、がんを安全かつ効果的に治療する方法です。当院では、放射線治療について専門的な知識を持った多くのスタッフによって治療が行われています。』とあり、食道がん、肺がん、乳がん、胆管がん、膵臓がん、大腸・直腸がん、前立腺がん、子宮がん、悪性リンパ腫、骨転移など幅広い癌病巣に対して、効果があるという。しかも「抗ガン剤治療」や「手術治療」に較べて、侵襲性(痛みや苦しみなど)が少なく、その割には、病巣によっては効果が高い。日本では、まだ抗ガン剤治療が主流だ。別に癌研究会の肩を持つわけではないが、癌の放射線治療がもっと普及していいと思う。少なくとも世界的には最先端医療として、癌の放射線治療は急速に普及しつつある。

どうでもいいことだが、私は両親とも癌で亡くしている。恐らく私も死ぬ時は癌だろう。その時、抗ガン剤主体の治療は受けたくない。もし効果があるなら放射線治療主体の治療を受けたい。あの抗ガン剤という奴は・・・。)


医療用ウラン濃縮

 この癌放射線治療で使う放射線発生源が、医療用20%レベルの濃縮ウランなのだ。

 イランの国営メディア、プレスTVの2月10日付け記事「Nuclear Swap deal still on the table」によれば、イランには癌の放射線治療を待っている患者が約85万人いるという。人口7400万人のイランで、放射線治療を待っている癌患者が、85万人は割合として大きいのか小さいのか私は判断の材料を持たない。ただ印象としては異常におおきいのではないかと思う。そして私の想像だが、もし癌患者が異常に多いとすればそれは、イラク・イラン戦争に原因があるのではないかと思う。

 昨年私はある機関に、当時イラク軍が使用した化学兵器について短いレポートを出したことがある。一部を引用すると。

 ・・・サダム・フセインによって実戦使用された化学兵器は夥しい数のイラン人やイラク人すら殺傷した。イラク側の文書によれば、(*イラクの)化学兵器は、アメリカ、西ドイツ、オランダ、イギリス、フランス、中国などの外国企業の援助を得て発展した。・・・

 1980年、イラン・イラク戦争は、イラクのイランに対する攻撃で勃発した。戦争のごく初期からイラクはマスタードガス及びタブン(tabun: 神経ガスの一種。毒性が強い。1930年代ドイツで開発された。)を爆弾にして航空機からの投下を開始した。:イラン側の損害(casualties: 軍事用語としてのcasualtyは死者、戦闘不能者、行方不明者を含む。)のほぼ5%は直接こうした化学剤の使用からもたらされた。・・・

 約10万人のイラン兵がイラクの化学攻撃の犠牲となった。多くはマスタードガスで斃れた。公式の推計には、(攻撃が行われた)境界の町々で汚染された市民人口は含まれていない。また退役軍人の組織によると、退役軍人の家族親戚あるいはこどもの中には、血液、肺、皮膚などに複合障害を発生したものも多く存在するが、この数字も公式推計には含まれていない。また公式の報告によると神経ガスで2万人のイラン兵が即死状態で殺害された。8万人の生存者のうち、5000人程度が定期的な医療手当の必要があり、うち約100人が重篤かつ長期的状態で入院している。・・・

 イラクはまた化学兵器でイラン市民をも標的とした。数千人が町や村、また前線の諸病院で攻撃され殺害された。また多くは今も依然として重篤な影響に苦しんでいる。・・・
 まずそもそもイラクに化学兵器の軍事庫発展を援助したオランダ、西ドイツ、フランス、アメリカを基盤とする西側諸企業に対する深い怒りや怨嗟がイラン側に存在している。またイラン・イラク戦争全体を通して、化学兵器を使用したイラクに対して世界が何も罰していない事に対しても、怒りと怨嗟がイラン社会にはある。・・・』

 ともあれ、イラン政府にとってこうした癌患者の治療は、必要な措置なのである。しかもイラン国内からはその医療用アイソトープが急速に欠乏しつつある。

 ウラン濃縮度は、原子力発電用3.5%―5%、医療用20%程度、それから研究用、実験用と用途があるが。これらはほぼ濃縮度30%以内だ。アメリカ海軍の原子力潜水艦(他の国も同様だとは思うが)の原子力燃料は、濃縮度40%ウラン燃料である。

 兵器級となると、一挙に跳ね上がる。濃縮度90%以上である。
80%以上のウラン濃縮で核兵器は作れる、とする意見もある。アメリカの核専門科学者、プリンストン大学教授・フランク・フォン・ヒッペルは、広島に投下した核兵器のウラン濃縮度は80%だった、といっている。これが広島原爆の核分裂連鎖反応効率が悪かった原因のひとつかもしれない。)


 先ほどのロスアンジェルス・タイムスの記事では、ウラン濃縮そのものが核兵器製造能力をもつことと同じという書き方だが、これはもう意図的なデマという他はない。

 兵器級濃縮ウランの製造はそれだけで莫大な資金と人員と設備が必要なまったくべつものと言っていいプロセスである。


AP電:「イラン核弾頭能力に接近」(!?)

 さて同日、2010年2月8日(火)には、APから「イラン核弾頭能力に接近:国連に対してより高レベルのウラン濃縮を通告」(Iran moves closer to nuke warhead capacity, Tells UN it will enrich uranium to higher levels)<http://ca.news.yahoo.com/s/capress/100208/world/iran_nuclear>)という記事配信され、世界中を駆けめぐった。そしてこの記事は各国のメディアが一斉に取り上げた。LAタイムスに輪をかけて悪質で、まるで世界に対イラン戦争を呼びかけているかのような記事だ。

 この記事は、ジョージ・ハーン(George Jahn)の署名入り記事だが、同時にこの記事の作成にあたっては、APロンドンのダニカ・キルカ(Danica Kirka)、同じくパリのアン・フラハティ(Anne Flaherty)、ベルリンのゲイル・マリソン(Geir Moulson)が協力した、と書いているので、AP総出の記事だったことがわかる。

 IAEA の本部のあるウィーン発のこの記事は、

 イランは、研究用原子炉により濃縮度の高い燃料を供給するだけだとの主張にも関わらず、そのウラン濃縮をより高レベルに引き上げることを月曜日(2月8日)(IAEAに)正式通告することによって、核弾頭を製造できることにさらに近くなった。』

 と書き出し、

 イランのIAEA駐在特命全権公使(envoy)であるアリ・アスガール・ソルタニーエ(Ali Asghar Soltanieh)はAP通信に対して、IAEAに手持ちの低濃縮ウランを20%に引き上げると語り、これはより高度な濃縮ウラン(highly enriched uranium)への出発点的価値を持つものと考えられる。』

 と続けている。

 この記事が悪質なのは、LAタイムズのすべて匿名コメントで逃げているのに較べると、話し手を引用しつつ、中身を換骨奪胎している点だ。書き出しでは「20%濃縮をするのは核弾頭を製造する意図があるからだ。」としている点は先ほども見た悪質なデマである。後段はもっと手が込んでいる。この文章は一文の文章で書かれており、「より高度な濃縮ウランへの出発点的価値を持つものだ。」までが、ソルタニーエの語ったこととして読めるように工夫されている。実は、この部分は記者の推測だ。

 次に「highly enriched uranium」という言い方だ。

 ウラン濃縮は濃縮度20%がひとつの境界線とされている。その根拠は私にはよくわかないが、濃縮度20%未満が低濃縮ウラン(Low Enriched Uranium)と呼ばれ、20%を含んで20%以上が高濃縮ウラン(High Enriched Uranium)と呼ばれている。あとでも触れるが、今回イランが開始した医療用濃縮ウランは、20%に達して「高濃縮ウラン」と呼ばれることを避けるため、現地IAEAの査察官の立ち会いをもとめ、濃縮度を20%未満に抑えるように処置した。

 そのことをこのAP記者はよく知っている。だから高濃縮ウラン(High Enriched Uranium)と書くことができない。で、「highly enriched uranium」と書いたのである。またこう書くことによって、20%以上無限に濃縮率を上げていくつもりだ、という印象を強く残す効果も持つ。

 さらに随所でソルタニーエのコメントを曲解させるような表現をしている。たとえば、

 『  彼は(ソルタニーエ)、ロシアとフランスを今回の交渉の当事者としたことが、西側大国側のもともとの失敗だ、と語った。』

 これは事情を知るもの(といっても秘密情報はなにもない。今回のいきさつをIAEA、ロシア、アメリカ、フランス、ドイツ、そしてイランから出されたコメントを丁寧に読んでいけばからすれば誰でも事情をよく知るものになる。)からすると、クビを傾げる表現である。

 イランは、アメリカとフランスを排除し、ロシアだけを交渉の当事者としたかったのだ。


イランの事情

 ざっと今回までのいきさつと過去の経過をおさらいしておこう。

 まず、イランは急速に伸びる人口急増と生活水準の向上のために、電力需要の大幅な伸びに対して、電力ソースの多様化を計画した。1990年代に入ってのことである。そのため、中国やロシアに原子力発電に関する協力を仰いだ。結局ロシアがイランの原子力発電所を建設することになるのだが、ここでイラン側とロシア側の利害の対立が起こる。
以上イラン核疑惑:「アメリカの二重基準に振り回される国際社会」
<http://www.inaco.co.jp/isaac/back/016/016.htm>
参照の事。)

 つまり、ロシア側が、完全なターン・キー方式を強く希望したのに対して、イラン側は原子力発電技術の国産化を希望したのだ。完全なターン・キー方式が実現すると、ロシアは原子力発電所の建設ばかりでなく、その日常の運営、原子力発電用燃料の供給、日常運営に関わる補修用部材、定期的に行われるメンテナンス、それから原子力発電に伴って輩出される放射能廃棄物の処理から、なにからなにまで一手に握れる。ビジネスとしてはおいしい話だし、ロシアがイランで完全ターン・キー方式の契約を結べたとなるとこれは結構大きな宣伝材料もなる。

 逆にイラン側からしてみれば、とんでもない話になる。このままでは、イランは単に金を出すだけで、あとは原子力発電で生産された電力エネルギーを消費するだけの国になってしまう。ましてや、イランは天然ウランの埋蔵をもっている、

 話はそれるようだが、イランの石油埋蔵量は、サウジアラビアに次いで世界二位だ。(たとえば<http://www.kuma55.com/oil/>参照の事。)また天然ガス埋蔵量もロシアについで第二位だ。(たとえば<http://www.elen.co.jp/page133.htm>など。)しかも将来の話になるが、ペルシャ湾に面した高原地帯は格好の風力発電の候補地とされている。また地熱発電についても候補地と見なされている。イランはとんでもないエネルギー資源大国なのだ。

 イラン・イスラム革命が起こる前であるが、三井物産グループがグループの命運をかけて、イランのエネルギー資源開発に着手したことがある。結局三井物産グループは、イラン・イスラム革命を挟んで、日本政府からの強い圧力(その背後にはアメリカの強い圧力があったことは、私の想像だ。しかし外れてはいまい。イラン・イスラム革命政権は三井物産グループに撤退して欲しくなかった。そういえば後藤さんなんていう硬骨漢がいたなぁ。みんな随分面白かったろうなぁ。このことでいまでも、イラン・イスラム共和国の中には日本に期待している人が、まだ、多い。)で、イランから撤退したが、エネルギー資源の開発という点では、三井物産グループは正しかった。


イラン・ウラン濃縮問題は天王山

 話を元に戻そう。イランが自前で原子力発電も手掛けたいと思うのは当然な話だろう。また、ロシアや中国を除く新興国や発展途上国は、この成り行きをじっと見守っている。そしてイランになんとか頑張り抜いて欲しいとみんな思っている。アメリカやフランスやロシアの圧力にイランが負けてしまえば、結局アメリカ、ロシア、フランス、イギリス、ドイツなど「核エネルギー大国」の「世界核エネルギー独占供給体制」は既成事実化してしまう。

 たしかにNPT( the Treaty on the Non-Proliferation for Nuclear Weapon=核兵器不拡散条約。これを「核不拡散条約」と書く人間には一定の意図があると見なさなければならない。特にNPT再検討会議を迎える今年はそうだ。)は、3つめの柱に「参加国の原子力エネルギーの平和利用の権利の平等性」を謳っている。そしてこれは、「参加国の奪い得ぬ権利」とまでしている。しかし、歴史的にこうした国際条約がそのまま守られた試しはない。いつも力の強い国が、条文を勝手に解釈し、自国の利益のために勝手気ままに振る舞ってきた。特にアメリカはそうだ。

 イランの「原子力発電用ウラン濃縮問題」は、「原子力平和利用の独占」を貫徹しようとする勢力とこれを打ち破ろうとする勢力の天王山なのだ。とくに今年NPT再検討会議を前にしてその闘いの激しさは度を加えつつある。

 この問題に、イスラエルを中心とする中東問題が絡んでくる。イラクが斃れた後、イスラエルにとって最大の敵はイランになってしまった。イスラエルはイスラム・イランさえ斃れれば、中東は安泰だとおもっている。(本当はそうではないのだが・・・。イスラエルはぐるり、敵意に取り囲まれてしまっている。)そして半ば本気で、そのことを実行しようとしている。イスラエルが核兵器を保有し、このところ常軌を逸した行動に出ていることを考えると、イスラエルがイランを攻撃する可能性は十分ある。そしてそれは中東大戦争を意味する。中東大戦争がいかに地球全体にとって危険なことかはわかるだろう。

 またその戦争を煽るような言論がいかに危険な、ジャーナリズムの皮をかぶった「戦争狼」であるかも了解されるはずだ。


「国際一元管理」と国連の民主化

 この二つの問題に、IAEAが考えている原子力発電用燃料の国際一元管理の課題が絡んでいる。IAEAはエルバラダイ時代(今は日本の天野事務局長時代になって、どうなるか私にはわからなくなった。)、核エネルギー利用拡散問題が大きく浮上してきた。原子力エネルギーが各国で必要とされればされるほど、そして実際その通りに世界がすすめば、核技術や原材料の無制限な拡散が進行することになる。それは確かに危険なことだし、食い止めたい。しかし「参加国の原子力エネルギー利用の平等な権利」も動かし難い。もしそれを破れば、NPT体制は空中分解してしまうだろう。「平等な権利」と「不拡散」を解決する道は、まったく平等で民主的な「国際一元管理機構」を、ある部分各国の国家主権を制限してでも、作って、そこで原子力平和利用のための燃料製造や管理を一元管理してしまおうという構想だ。

 しかしこの構想は、一面両刃の刃だ。というのは、この一元管理機構の支配権を、アメリカを中心とする「原子力エネルギー独占勢力」が握ってしまえば、エルバラダイの考える「平等な権利」と「不拡散」の両立は有名無実になってしまう。結局は、「原子力エネルギー独占グループ」の狙いに力を貸してしまうことになる。

 昨年アメリカ大統領オバマが、プラハで、「アメリカのリーダーシップのもとの世界燃料バンク構想」を打ち上げたが、その狙いはブッシュ政権時代から続く、「原子力エネルギー独占勢力」の狙いそのものだった。

 事態はこうして、周辺に「IAEAの民主化」の問題、その上部機関の「国際連合の民主化」の問題と色々な問題を巻き込みながらますます抜き差しならぬものとなっている。

 国際連合の民主化の問題とは、国連安保常任理事会(United Nations Security Council)が事実上国連を支配している問題を指す。拒否権-Vetoを持っているのは、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の常任理事国5カ国だけで、この5カ国は拒否権行使を通じて、自国の政策意図を国連の決定として反映できる。この5カ国はまた、NPTが公認する核兵器保有国でもある。だから国連民主化の問題とは、政治的には、いかなる国にも拒否権を持たせず、各国の平等な発言権・議決権を認め、最高意志決定機関を、常任安全保障理事会から国連総会に移行する問題でもあるし、軍事的には、この5カ国の核兵器保有の権利を認めない、すなわちジョージ・オーウェルのいう「冷戦」<“the Cold War”>に名実ともに終止符をうつことを意味する。歴史的に考えてみれば、「国際連合=the United Nations」とは、第二次世界大戦時の戦勝国である「連合国=the United Nations」をそっくりそのまま引き継いだ体制に他ならない。つまり世界は、未だに第二次世界大戦の戦勝国の政治力とその圧倒的軍事力によって支配されているといっても過言ではない。)


国連決議とは5大国の決議

 イランは結局、原子力発電用の燃料のウラン濃縮を開始してしまう。このこと自体は、NPTの認める「参加国の権利」だから、いろいろ細かいこと(たとえば、イランの購入した遠心分離器に兵器級核燃料の残滓が付着していたとか、パソコンの中に核兵器の設計図がはいっていたとか、といった類である。)を云っても決め手にならない。また、かつてイラン・イスラム革命前にパーレビー・シャー時代に核兵器開発を行っていたことがあるが、この計画が放棄されたという決定的な証拠がみつからない、といった問題を含めて、国連安全保障理事会が「イラン非難決議案」や「経済制裁決議案」を可決したこともある。しかしこれは難癖に近い。誤解しやすいのは、国連決議とはその実、国連決議ではなく、5大国による常任安全保障理事会“談合決議”であることだ。

 イランが再三再四「核兵器開発の意志はない。」と言明している通り、IAEAも再三

イランが核兵器開発をしている証拠はないし、計画そのものもない。ただ昔核兵器開発をしていた歴史があって、それが完全に廃棄された、という証拠がまだ揃っていない。」

 と云う声明を出している。ブッシュ政権末期CIAも「昔は別として、ここ最近イランが核兵器開発をしているという証拠はない。」と発表した。

 ないものはないのだからしょうがない。大体、イラン・イスラム革命前のパーレビー時代の核兵器開発などは、イランの現政権よりも、これに協力したアメリカやフランスの方がよく知っているのではないか?

 とおよそここまでが、2008年末頃までの「イラン核疑惑」問題をめぐる大ざっぱな情勢ではなかったか。


イランに必要な放射線癌治療濃縮ウラン

 2009年、この問題に新たな問題が加わった。イランが癌放射線治療用の濃縮ウラン、もう少しいえば、これを特殊金属棒にした治療用材料を必要とし、IAEAに入手を依頼したのだ。IAEAはこれを断る理由がない。というのはNPTでは、核兵器開発や保有は厳しく禁じるが、原子力エネルギーの平和利用は、参加国の権利として認めるばかりではなく、これを積極的に奨励し、援助することを謳っているからだ。軍事開発で得られた技術でもこれが平和利用に転用できるなら、IAEAはこれを積極的に参加国が利用できるように取りはからわなくてはならない。もちろんIAEAの厳重な監視と立ち会いの下においてに話だ。

 この申し出がいつごろイランからIAEAになされたのか、私は確認できていない。しかしこの話に飛びついたのが、アメリカ、ロシア、そしてフランスだ。彼らにとっては、美味しい話なのだ。まずアメリカ。イランが医療用放射線原料として、20%濃縮ウランを材料とした特殊金属棒を必要としているのは事実だが、この医療用原子炉は実はアメリカ製なのだ。ウエスティングハウス系統なのか、GE系統なのか私は確認できていないが、間違いなく、アメリカのメーカーのものだ。でなければ、20%の濃縮ウランは使えない。 

 次にロシア。ロシアはイランにウラン濃縮作業そのものをあきらめさせたい。はっきりいってウラン濃縮はすべてロシアが行って、イランに供給したい。

 フランスはこれまで歴史的な確執があって、イランの原子力市場への進出は遅れている。というより皆無に等しい。今回の話をきっかけにイラン市場に参入したい。なにしろイランは近い将来、国の電力需要全体の15%までを原子力発電でまかなうことを政策化している国なのだ。

 おまけに医療用20%レベル濃縮ウランだけでは原子炉は動かない。これを特殊金属棒にしなければ、医療用原子炉は動かない。フランスは、アメリカと共にこの医療用特殊金属棒製造のトップランナーなのである。当然イランにはそんな技術はない。

 大体イランが必要なのは、20%濃縮ウランではない。それを原料にした医療用特殊金属棒なのだ。購入して済ませられるものならそうしたい。

 アメリカ、フランス、ロシアはこの話に、イランが在庫している原子力発電用の低濃縮ウランを取り上げる話に結びつけた。


厖大な濃縮ウランの在庫をもつ米ロ

 この話の背景には、アメリカ、ロシアとも厖大な濃縮ウランを在庫しているという事情もある。

 アメリカは、前出のフランク・フォン・ヒッペルによれば、1967年以来、兵器級ウラン濃縮の生産をやめている。要するに作りすぎたのだ。私は確認できていないが、恐らくロシアも同様な事情だろうと考えている。しかも、80年代以降アメリカ・ロシアは戦略核兵器削減交渉を締結して、古い核兵器からどんどん廃棄処分にしている。ちなみにアメリカは1970年代の前半から核兵器の爆発装置そのものの生産をやめている。(「<参考資料>アメリカ国家核安全保障局について」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/obama_21.htm>参照の事。)これも同じことで要するに作りすぎたのだ。これも私はロシアの核爆発装置製造のいきさつを確認していないが、大体同じような事情だろうと想像している。

 2009年度の国連総会議長で、ニカラグア・サンディニスタ政権の外相を長く務めた、(ということはアメリカの手口を知り抜いているということでもあるが)ミゲル・デスコト・ブロックマンが、2009年8月9日、長崎の原爆平和記念式典に出席して、「軍縮は通常であれば削減を意味しますが、核戦力の廃絶というより近代化を意味するものでもあります。我々は、この不誠実で偽善的な詭弁をやめなければなりません。」といったのはこの間の事情も物語る。

 こうして核兵器の廃棄処分をするのはいいが、そこから大量の濃縮ウランが発生する。しかもこれは濃縮度90%以上という危険な廃棄物だ。アメリカはかなり長い間前から、これを5%以下の原子力発電用濃縮ウランに転換して貯蔵している。これを「安全化」というのだそうだ。ロシアの事情は調べてないが、廃棄数量から推して、アメリカよりの多くの在庫を抱えていると想像している。

 「地球の原子力発電時代」が本格的に幕開けとなれば、今まで危険な廃棄物として、コストをかけて貯蔵したり、廃棄したりしていたこうした「やっかいもの」が一挙に「宝の山」になる。

 この事情もイランに限らず、どこの国でも新たな「ウラン濃縮」などして欲しくない背景にある。


米ロ仏の提案

 少なくとも09年10月20日ごろまでに、フランス、ロシア、アメリカの三カ国は、放射線治療用濃縮ウラン特殊金属棒を必要とするイランに対して、「イランがこれまで在庫した一定量の低濃縮ウラン(濃縮度3.5%)を提供してくれれば、それを加工して放射線治療用のウラン金属棒を提供しよう。」という提案をした。

 これが日本の新聞紙上でいわれる「5+1」提案だ。
5は核兵器保有国であり、国連安全保障理事会の常任理事国5カ国である。1はイランの最大貿易相手国であるドイツである。しかしドイツはイランと取り引きしたい西側諸国のトンネル国として使われている形跡がある。また、つい最近のニュースによれば、中国がドイツを抜いて、イランの最大貿易相手国になったようだ。たとえば、10年2月9日付け「China set to pass EU as Iran's largest trading partner」<http://televisionwashington.com/floater_article1.aspx?lang=en&t=1&id=17608>など。ホントにみんな抜け目がない。)


 09年10月21日、この「5+1」提案でイランが合意する提案の草案が、ウィーンでまとまった。しかし、後に本案が示されると、イランはこれを蹴った。

 私にはこの間のいきさつがどうしてもわからなかった。イランとすれば、放射線治療用濃縮ウラン特殊金属棒が手に入れば、それでいいではないか、と思っていたからである。日本語の記事をよんでもさっぱりわからない。納得がいかない。


 どの記事でもいいが、たとえば毎日新聞10年1月21日付け記事。『イラン核問題:低濃縮ウランを「国内で核燃料と交換」IAEAに逆提案、搬出を拒否』と題する記事<http://mainichi.jp/select/world/news/20100121ddm007030051000c.html>で、【ウィーン中尾卓司】の署名入り記事である。書き出しは次のようである。

イランが生産した低濃縮ウランを国外に搬出・加工する国際原子力機関(IAEA)の提案に対し、イランが今月はじめ、独自案を逆に提示していたことがわかった。計画の核心部分である低濃縮ウランの国外持ち出しを事実上拒否し、イラン国内で実験炉用の核燃料と低濃縮ウランの交換を求める内容だという。IAEA外交筋が明らかにした。』

 一目見て、日本の外務省のレクチャーにそった記事であることがわかる。

 ともかくどの記事を読んでも、いったん合意しかけた「三者提案」を何故イランが蹴ったのか、さっぱりわからない。提示された医療用濃縮ウラン特殊金属棒の価格が、とてつもなく高かったのもよく理解できる。なにしろ言い値なのだから。2010年2月8日付け、イラン国営メディア、プレスTVの「Iran Nuclear Move Anger West, and Russia」の記述によると、「a lengthy process for a hefty price」(威圧するような価格の長たらしいプロセス)とこの金属棒の価格のことを書いている。

 しかし、そのことよりも国内の癌患者を救うことの方が優先ではないか?どうしても納得がいかない。そこでこの間の事情について書かれた記述をインターネットで探してみた。

 すると、09年10月22日付け、「ジャム−e ジャム紙」<http://www.jamejamonline.ir/>というイランの新聞にこの間の消息を伝える記事が載っていた。といって私がペルシャ語を読めるわけではない。東京外語大学が出している「中東ニュース」の中の『イランと米露仏代表、核燃料のイランへの供給をめぐる協議であらたな合意』(<http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/html/pc/News20091023_000925.html>)で日本語訳をしてくれているので読めたわけだ。長くなるかも知れないが、ところどころ引用しよう。09年10月22日という日付に注意して欲しい。まだエルバラダイがIAEAの事務局長だった時である。


東京外大中東ニュースの記事


【政治部】昨日、テヘランの〔研究用〕原子炉で用いられる〔核〕燃料の供給をめぐる合意文書の草案が決まった。その中で、イランと〔燃料供給〕契約を結ぶ相手がロシアとなることが確定した。』
 
 [ ]内は、この中東ニュース子が補ったところである。[研究用]としているが、これは医療用原子炉、欧米メディアの言い方に従えば、「medical reactor」である。なお日本のメディアにすべて目を通したわけではないが、今のところこれが医療用原子炉であることに触れた記述はひとつもない。また〔核〕燃料と補っているが、これも間違いではないが正確には医療用濃縮ウラン特殊金属棒である。(ペレット状になっているそうだ。)

 他方、フランスは〔協議の〕最後の瞬間まで、今回の合意文書の中で一定の役割を保持しようと懸命の努力を続けた。

 イラン国営通信(IRNA)の報道によると、三日間にわたってウィーンで行われた協議の参加国に対して昨日提示された合意文書の草案では、イランに〔核〕燃料を供給する契約の実行責任国として、ロシアが指名された。・・・』

 とはいえ、この合意文書を受け容れるか否かについての各国の最終的な見解は、本国に持ち帰ってそこで検討を行った上で発表されることになっており、同合意文書の提示が核問題の終結を意味するわけではない。・・・』


 つまり、昨年10月の合意草案では、この問題の契約当事者はロシア1国だったわけだ。これがイランが主張した点である。この草案では、イランの主張をいれた内容になっていた。

 ロシアがイランへの燃料供給契約の実行国として指名された道のりは、決して平坦なものではなかった。数週間前、イラン・イスラーム共和国と5+1諸国がジュネーヴで協議を行った後、ロシアがフランスとともに、テヘラン原子炉用の濃縮度20%の核燃料供給国となる見込みだとの情報が報じられた。それによると、イランから送られた燃料をロシアが20%まで濃縮し、その後この燃料をフランスが炉で用いられる燃料棒に変換する、という筋書きだった。・・・』


 つまり、三カ国側はあくまで、三カ国が契約当事者であるとして、三カ国内部では合意していた。

 この報道はもちろん非公式のもので、正式な形で発表されたのは、イラン、アメリカ、ロシア、フランスの四カ国が、テヘラン原子炉で使われる燃料の供給方法について合意を得るための協議を、メフル月27日〔10月19日〕月曜日にウィーンで開き、そこに国際原子力機関(IAEA)代表も参加する、という内容だった。

 イランがフランスをウィーンでの協議から排除したとの情報を国内の複数のニュースサイトが報じたのは、ウィーンで開かれた協議初日が終わったときのことだった。その翌日、イランのマヌーチェフル・モッタキー外相は、イランは自らが必要としている燃料をアメリカ及びロシアから確保する意向であることを、正式に表明した。』


イランがフランスを排除したい理由

 イランはフランスを全く信用のできない国として排除し、ロシアとアメリカだけなら合意する、といったん表明していたわけだ。だからフランスが金属棒に加工するのは、構わない。それは3カ国内部の問題だ。あくまでロシアが責任を持つならそれでもいい、と考えていたわけだ。

 イラン・イスラーム共和国はフランスを排除した理由として、同国がイランとの過去の約束を履行しなかったことにあると表明している。フランス政府は以前、様々な協定の中でイランと交わした約束に違反したことがあり、我が国との協力について芳しくない過去がある、というのである。

 フランス政府がイラン政府との協定違反を犯した最も重要な例として挙げられるのが、フランスにある「ユーロディフ」(ヨーロッパ・ウラン濃縮機構)の〔ウラン〕濃縮工場をめぐる問題である。ユーロディフをめぐる協定は、イスラーム革命前に〔イランとフランスの間で〕交わされたものだ。

 イランは以前から、ユーロディフの株式を保有している。フランスとイラン両政府の間で結ばれた協定では、イランがユーロディフの株式の10%を保有することが定められている。しかしフランス側は協定に違反して、イランがもつこの株式を凍結してきたのである。』


 この話は、イラン・イスラム革命前のパーレビー・シャー時代にさかのぼる。この時、アメリカとフランスがイラン帝国に、イスラエル同様核兵器を保有させようとしていたことは、前に述べた。シャーはこの時、大量の兵器もアメリカやフランスから購入していた。フランスは当時、ヨーロッパで大規模なウラン濃縮施設を作ろうとしていた。そこで、シャーに「イランも将来原子力発電が必要だ。その時、濃縮ウランが必要だ。だからイランもユーロディフに出資すべきだ。」と持ちかけ、10%を出資させた。

 イランが、シャーの時代以来核兵器を手に入れたいと望んできたのは、このような複雑な文脈の中でのことであった。米国は、北部国境に対して考えられるソ連からの攻撃を抑止することに好意的であった。イランの北部国境は、連続するアフガン北部国境とともに、核に対する保護を持たずにソ連と接する唯一の西側防衛線であった。

 ユーロディフ社を通じて当時のイラン指導者に初期の技術的手段を供給する責任を受け持ったのはフランスであった。当時のイランは、フランスとともに、ウラン濃縮に関する欧州コンソーシアムであるユーロディフに資本参加し、民間利用目的のためにピエールラット工場の生産量の一〇%を使用する権利を取得した(ピエールラット工場は単独で世界需要の三分の一をまかなう)。

 これと並行して、イランは原子力委員会(AEC)を通じて十億ドルをフランスに貸し付けた。この金額の返済は、一九八一年に予定されていたユーロディフの操業開始とともに開始されることになっていた。一九七九年の革命後、ユーロディフへのイランの参加は凍結された。ドミニク・ロレンツは著書『原子力問題』の中で、論争の種であるユーロディフとイラン問題の重要性とフランスにおける一九八六〜八八年のテロリスト攻撃との関連性を示した。イランはこのプロジェクトを放棄したが、イランの指導者はサダム・フセインのイラクによる侵略の脅威に対抗して一九八〇年代半ばにこのプロジェクトを再開した。・・・

 一九八八年以降、フランスは屈服し、ユーロディフ論争は解決した。』
<http://www.jrcl.net/web/frame0601106e.html>による。)
  


合法的な協定を破ってきたフランス

 ところが、ユーロディフ問題は解決しなかった。フランスはこの時の約束を全く守らなかったからである。そして現在も係争中の問題となっている。イランがフランスを全く信用していないのは、こうした歴史的経過もある。さて中東ニュースに戻ろう。

 国家安全保障最高評議会書記の顧問を務めるアボルファズル・ゾフレヴァンド氏によると、革命前に購入した株式の量からすれば、我が国は今頃、ウラン原料〔※ウラン精鉱のことか?〕及び六フッ化ウラン・ガス数トン分を〔ユーロディフから〕受け取り、それを〔イランに〕持ち帰ったり〔他に〕転売したりすることも可能であるはずだが、しかし現在ユーロディフで生産されたウランはフランス政府の管理下に置かれている〔=イランの自由にすることができない状態にある〕という。』


 中東ニュース子は〔※ウラン精鉱のことか?〕と注釈をいれているが、これは了解される通り、原子力発電用の濃縮ウランのことである。

 同氏はまた、ここ数ヵ月間の我が国に対するフランス政府の敵対的な態度についても指摘し、次のように述べている。「合法的な協定をこのように自ら踏みにじるような国を、どうして信頼することができようか。彼らのここ数ヵ月間の態度も、状況をさらに悪化させている」。』

 ゾフレヴァンド氏はさらに、我が国の核問題をめぐってニコラ・サルコジ仏大統領が示している対応についても触れ、「ここ数ヵ月間のサルコジの対応は、われわれに対してあからさまに敵対的なものであった。フランスは我が国の内政問題にも干渉している。彼らはまったく信用ができない」と指摘する。

 サルコジ大統領は西洋諸国の首脳のなかでも、我が国の核問題に対して、つねに最も急進的な態度を取ってきた。同大統領は何度もはっきりとした口調で、核兵器獲得を目指しているとしてイラン・イスラーム共和国を非難、軍事攻撃をちらつかせて我が国に脅しをかけてきた。』


 散々敵対的な態度をとってきて、約束も守らず、いざビジネスとなるとすり寄ってきて、「オレも一枚かませろ」とは、それはないだろう、ということだ。われわれはともすれば忘れがちになるが、「イラン核問題」は政治問題である以前にホットなビジネス問題であるという事実を決して忘れるべきではない。

 しかしこうした対応にもかかわらず、イランとの交渉から外されることを甘受することは、フランスにとって受け容れがたいことであった。イランがフランス排除を表明すると、同国はイランとの核燃料供給をめぐる協定の当事国の一つであり続けることに、こだわりを見せ始めたのである。

 フランスは核燃料の供給国としては世界第一位であり、アメリカやロシアはフランスの後塵を拝している。フランス政府がイランとの核燃料供給をめぐる協定に加わろうと懸命な努力を行ったのも、恐らくこのことが理由だと思われる。フランスは協定に加わることで、核燃料供給国第一位の座を保持することができるからだ。

 フランス排除が正式に発表された火曜日以降、同国がこうした努力を開始したのも、このことが理由だった。ウィーン交渉筋によると、フランス代表はIAEAに対して、最終合意案に自国の名前を挿入するよう、強烈な圧力をかけたという。』

 最終的に、フランスはテヘラン原子炉への燃料供給に関する合意文書に生き残るために、〔‥‥〕これまでの振る舞いを改め、新たな約束についてはしっかりと守ることを表明した。』

 『  こうした動きによって、フランスは表面上、イランへの核燃料供給者としての役割を確保するための合意を、ロシアから取り付けることに成功した。しかしイラン・イスラーム共和国は依然として、ロシア政府を協定の実行国として指名しており、フランスとの直接交渉を拒否する強硬な姿勢を崩していない。』

 ソルターニーイェ代表・・・さらに続けて「われわれが望んでいるのは、ロシアとの協定を基本とした協力であることを、われわれは表明した。合意文書の原案には、アメリカやフランスといった他国の名前も言及されているが、協定の主な相手国はロシアになるだろう。フランスやその他の国は、ロシアを補完する形で〔協定に〕関与することになるだろう」と語った。ソルターニーイェIAEA常駐代表はまた、今回の協議は全体として建設的で、成功したといえると評価し、「われわれは自らの論点や考え方を提示した。IAEA事務局長は協議にすべて参加し、調整役を演じた。・・・《協力合意文書》という形で文書の取りまとめを行った。・・・。』

ムハンマド・エルバラダイIAEA事務局長は記者団を前に、ウィーン協議はテヘランの研究炉で必要とされる燃料供給の方式を確立するためのものだったとし、「この原子炉は、医療用アイソトープの製造という人道主義的な分野で利用されるものだ」と述べた。』


契約の本案で復活したフランス

 やや長い引用になったが、今回の「5+1」とイランの協議の本質をほぼ伝えた内容になっているだろう。これが09年10月21日時点の暫定合意の内容だった。日本のメディアが「イランがいったん合意を受け容れた。」と報じているのはこの時のことだ。だから、この時のエルバラダイ調停案では、あくまで「ロシア」と「イラン」が当事者になっており、フランス、アメリカは「ロシア」を補助する役割だった。

 ところが、その後、いざ契約の本案が示されると(いつ提示されたか私には確認できていない。)、なんと驚いたことにロシア、アメリカ、フランスが契約当事国として復活していた。特にフランスは肝心の医療用濃縮ウラン特殊金属棒の製造供給国として堂々と復活していた。この三カ国の間でどんな取り引きが行われたのか、私には知るすべもない。しかしこの時点で、もしイランが蹴れば、「追加制裁措置」を、国連安全保障理事会に持ち込んで、中国と取り引きをし、これを決議することができると、アメリカ、フランスは考えていたのだと思う。少なくとも中国は、賛成しないまでも、棄権してくれればよい。これで「イラン追加制裁」の国連錦の御旗ができると、踏んでいたと私は思う。その後の成り行きや西側ジャーナリズムの報道を見て総合するとそう判断せざるを得ない。

 アメリカ、フランス、ロシア三カ国にとって案の定というか、意外にもというか、イランはこの本案を蹴った。日本のメディアが「イランはいったん受け容れたIAEA案を蹴った。交渉の引き延ばしがその狙いと見られる。」とアメリカの国務省、日本の外務省のブリーフィング通りの報道をしたのは、この時のことだ。

 それでも医療用濃縮ウラン特殊金属棒を供給してくれるなら、それでもイランは構わない。しかし、その当の相手国がフランスであって見れば、まずフランスが約束通り、この金属棒を供給してくれる保証はまったくない。またフランス、アメリカ、ロシアの結束は固く、草案時に示した「ロシアが責任当時国」とする提案に戻すことは一切拒否している。イランはまたもフランスに嵌められたというべきだろう。こうして、事態は膠着状態に入った。

 そして、イランの大統領アフマニネジャドは2009年2月8日、IAEAに医療用ウランの濃縮を20%未満で実施することをIAEAに通告し、2月9日その実施を命令したのである。しかし、これはイランにとっても本意ではない。たとえ20%の濃縮ウランを入手できたとしても、必要なのはそこから製造する医療用特殊金属棒なのだ。それを製造する技術もスタッフも施設もイランにはない。毎日新聞が書いていた、「イランの逆提案」はそういうことだ。


遠心分離器3000台で兵器級濃縮ウランができあがる?!

 さてここで冒頭に紹介したAP通信の記事に戻ろう。

 この記事は、次のように書いている。

 核弾頭の核分裂コア(核爆発装置のこと)物質には90%以上のウラン濃縮をしなければならないとはいえ、その貯蔵(イランの濃縮ウラン貯蔵のこと)の中に20%(の濃縮ウラン)を加えることは、イランの計画にとっては重要な一歩を踏み出すことになる。ナタンツの地下にある施設の2000台の遠心分離器をフルに使っても20%のウラン濃縮には1年かかるとはいえ、(何を根拠に1年という数字を出したのかわからない。)、次のステップで濃縮度を20%から90%に上げるためには、たった500台から1000台の遠心分離器を追加するだけで、半年もあればできるだろう。』


 これは驚くべき記述だ。どれくらいの分量の濃縮ウランについて論じているのか不明だが、また具体的に90%の濃縮ウラン製造にどのくらいの遠心分離器が必要なのか、私には知識はないが、というのは、兵器級濃縮ウランは全く別工程で作られる、遠心分離器などではとても間尺に合わないはずだ、というぐらいの知識しかないが、それでもこの記述は許し難いデタラメだと云うことはすぐわかる。

 まずナタンツには3000台以上の遠心分離器が稼働しているはずだ。もし2006年、イランがIAEAに通告した数字が正しければ、2000台ではなくて3000台以上のはずだ。(もしイランがIAEAにウソの通告をしていれば、これはこの方が大問題だ。)それではたとえば、3000台の遠心分離器で、3.5%濃縮ウランが1年かかけてどの程度製造できるか。

 それを推測するのに十分な資料がある。

 日本は長い間、原子力発電用の濃縮ウランをアメリカからの供給に仰いできた。外国にウラン濃縮を依存していては、日本の原子力産業は自立できない。それで1985年(昭和60年)に日本原燃株式会社を発足させ、ささやかだが国内でもウラン濃縮事業を開始した。日本原燃に先だって、動力炉・核燃料事業団(現日本原子力研究機構開発)が岡山県の人形峠でウラン濃縮パイロットプラントを発足させた。

 内閣府原子力委員会の昭和56年度(1981年)の原子力白書、(http://aec.jst.go.jp//jicst/NC/about/hakusho/wp1981/sb2010502.htm)を見ると、動燃は1979年(昭和54年)に遠心分離器1000台のカスケードで開始している。翌年の1980年には3000台の連結を完成、翌1981年4月までに、濃縮度3.5%の濃縮ウランを約1トン生成している。おおざっぱに言って遠心分離器3000台のカスケードで、1年かけて3.5%濃縮ウランが約1トンだ。

 イランは現在3.5%濃縮ウランを約1.8トン保有している。もし1年で3.5%濃縮ウランが1トン、という推測が当たっているとすれば、イランの保有量とよく合致している。だから、私のような素人が読んでも、このAPの記述は悪質なデマだとわかる。

 APの記事を続けよう。

 「20%レベルを達成することは、兵器級燃料製造にいたる最後の過程だ。」とワシントンに本拠をおく、科学国際安全保障研究所―疑わしい核拡散を追跡することが主な仕事だが―のデビッド・オルブライト(David Albright)はいう。』


 このオルブライトなる人物は、先日もNHK―BSが流しているABCニュースにも登場してABCニュースのキャスターに同じような話をしていた。(恐らくアメリカ国務省が指定したメディア用「科学者」なのだろう。)


戦争を煽り立てる悪質な記事

 APのジョージ・ハーンは、この記事を次のように結んでいる。

 イランの濃縮計画は、(今まで出された)国連のイラン非難決議や制裁決議に対する「よく考え抜かれた企みだろう。」とイギリス外務省の高官は云う。またドイツ首相アンジェラ・メルケルの報道官、ウルリッヒ・ビルヘルム(Ulrich Wilhelm)はこういう。「ドイツとその同盟国は事態の進展を見守っていく。そして外交的圧力を高め続けるべく準備している。』


 この記事は、結局印象として、「イランは20%濃縮に踏み切った、これは核兵器製造に直結するものだ。国際社会はこれに外交圧力を加え続けるが、それでも頑固なイランが云うことを聞かなければ・・・」というニュアンスを色濃く打ち出すものとなっている。直接対イラン戦争を呼びかけてはいないものの、サラ・ペイリン、ジョン・ボルトンなどのアメリカのイラン主戦派、イスラエルの好戦派を強く勇気づけるものとなっている。その手口は、事態を全くウソやデマで固めた記述で描き出すやりかただ。そして、これが本当のこの記事の狙いだが、アメリカ国内での「対イラン戦争」の世論作りに大きく一役買っている。

 私にはこのAPの記事は、その意味で間接的に対イラン戦争を呼びかけているとしか思えない。その点で、特に危険で悪質だと思う。

 ところが、そう思ったのは嬉しいことに私だけではなかった。

 このAPの記事が出ると同時に、反戦キャンペーンを続け、そうしたニュースを監視し、また自らも不正やごまかし、デマ、ウソを暴いて記事を書き続けているWebジャーナリスト・グループ「反戦ドット・コム」(Antiwar.com.)<http://www.antiwar.com/>のスタッフ・ライター、ジェイソン・ディッツ(Jason Ditz)がこのAPの記事に「APの記事は対イラン戦争ヒステリアに油を注ぐもの」(AP Article Fuels Iran War Hysteria)(<http://news.antiwar.com/2010/02/08/ap-article-fuels-iran-war-hysteria/>)と題する記事を書き、ただちに猛然と反論した。


反戦ドット・コムの猛然たる反論

 ディッツはこう切り出す。

 『  今まさに起こらんと予測されるイランとの戦争の、西側ヒステリアにさらに油を注ぐ、広く出回っている、ある記事の中で、AP通信はイランのウラン濃縮計画は、核兵器を製造しようとする秘密の策謀だと主張した。実際には、その計画はイランから急速になくなりつつある医療用アイソトープの製造をしようという取り組みなのに。

「イラン核弾頭能力に接近:国連に対してより高レベルのウラン濃縮を通告」と題するその記事は、事実上「イランはIAEAに核弾頭を製造する能力をあげるつもりだ。」と通告した、と主張し、しかもその主張は事実によって全く裏付けられていないばかりではなく、すでに十分好戦的な西側の声明をばらばらにして、それを越えてしまってすらいる。』


 そして次のように指摘している。

 事実は、IAEAはイラン側の声明を確認して次のようにいっているに過ぎない。「イランは20%未満の濃縮ウラン製造の取り組み開始を計画している。」と。AP通信によれば、これは高濃縮ウランの入り口にすれすれに立っている、と特記している。しかし、実際のところ、兵器級物質の90%には全然足りないものだ。』


 そして、このところのイランの「逆提案」は結局、イランの引き延ばしのための言い抜けに過ぎない、と主張することによって、事態を全く歪めて書いている、と指摘している。

 『 この記事の最大の問題は、結局のところ、イランがそうするだろうと、責められてもいない「核弾頭」に関する記述だ。イランが核能力をもった弾頭の製造能力をもちつつあると主張している。実際にイランは、核兵器級のウランなど保有してもいないし、先端的なミサイルシステムももっていないことを考えると、この主張は馬鹿げているし、無責任でもある。』

 そもそもイランの濃縮施設は、24時間IAEAの監視下にある。3.5%濃縮であろうが、20%濃縮であろうが、平和目的以外の転換をしようとすれば、たちまち彼ら(IAEAの査察官)が確認してしまうだろう。また同時に20%以上の濃縮をしようとすれば、たちまちわかってしまう。このことは、イランが突然に核兵器を獲得し、脅威になるなどというのは、完全な幻想に過ぎない、ことを意味している。』


 そして、西側の高官達と共にAP通信の記者たちは、こうしたデマを並べ立てて、西側の何も知らない大衆の恐怖心を煽り立て、理性を越えた緊張をエスカレートされることによって、

 西側を、全く不必要なイランとの戦争に、限りなく近づけていこうとしている。』


 と、この記事を結んでいる。私もディッツと全く同意見である。AP通信は、アメリカと西側ヨーロッパの無知な大衆を扇動して、根拠のない恐怖心を煽り、イランとの戦争ために世論を地ならししようとしている、と考えている。悪質である。

 (この戦争が、誰の利益になるかは明らかだろう。)

 この一件にはおまけ話がつく。ディッツの記事が出た翌日、AP通信は、問題の記事を削除した。といってもすでに配信した後である。AP通信がいくら自分のサイトから削除しても、インターネットでこの記事のタイトルを入力して検索すれば、真に受けてすでに掲載したメディアのサイトにズラリとヒットする。

 なぜAP通信がこの記事を削除したか?ディッツの反論もあったろうが、基本的にはあまりにも、ウソとデマが多すぎたからだろうと、私は想像している。

 私もジェイソン・ディッツもイランの肩をもっているわけでない。ただ、中国を含めた5大国が、自分たちの利益のために、世界の主要メディアを使って世論誘導を行い、NPTの精神を否定し、世論操作と談合と進んだ核科学技術力と核兵器を使って、これまで通り勝手気ままに世界を支配している体制に終止符を打たねばならぬ、と考えているだけだ。ましてや、それが戦争にひきずりこんで行く意図をもつものならば、真相を暴いて絶対これを阻止しなければならない、と考えているだけだ。そのためにイランの正当性を主張しているだけだ。いつまでも、力と威しと欺瞞が通用する時代であってはならない。

 私もジェイソン・ディッツも誇大妄想狂ならば、本当に幸せだ。


「過去の苦い経験を繰り返してはならない。」

 削除しなければならなかったAPの記事較べると、次の日本の大手メディアの記事は、AP通信の記事よりさらに悪質である。もっともらしい外観を装いながら、そしてすれすれのウソをつきながら、国連中心主義を看板に掲げながら、間接的にアメリカ、フランス、ロシアの言い分を支持し、またそうすることによって、対イラン戦争やむなし、の世論を日本で地ならししようとしているからだ。短い記事なので全文引用する。

 核開発疑惑が消えないイランが原子力の平和利用を進めるには、まずは国際社会の信頼をかちとるしかない。にもかかわらずイランは、逆走を繰り返している。オバマ米大統領は国連安全保障理事会での新たな制裁決議などの準備に動き出した。核拡散を防ぐうえで、当然の外交判断である。

 イランは濃度3.5%の低濃縮ウランを保有している、アフマディネジャド大統領はこれを20%まで濃度を高めてウラン燃料にすると発表した。核兵器用には90%以上にまで高める必要があるが、そこへ向かいかねないとの懸念が国際社会で広まっている。

 これまでも、濃縮の停止を求める国連安保理の度重なる制裁決議を無視してきた。核兵器開発を否定し、研究などのために国内で濃縮する権利があると反論してきた。平和利用の権利そのものは誰も否定しないが、独断的な今回の動きは、疑惑を上塗りするもので、決して認められない。

 この4年ほど、外交決着をめざして国連安保理の5常任理事国とドイツが、イランと交渉にあたってきた。昨秋、低濃縮ウランを国外で研究用の核燃料に加工する計画が暫定合意にまで進んだ。ところがイランは態度を急変して計画を拒否した。加えて今回、唐突に濃縮度を高める行動に出た。

 強硬策に転じた背景に、国内の政治的亀裂の深まりがうかがわれる。

 昨年6月の大統領選挙で、アフマディネジャド大統領の対外強硬路線を批判する改革派候補を支持する動きが広がった。長引く経済制裁と国際的孤立は国民社会に打撃を与えている。政権基盤に弱みを抱えるアフマディネジャド氏は国民の不備をかわすため、国際協調に進もうとしたが、保守派の批判で強硬策に逆戻りしたようだ。

 今後の国際社会の対応は、安保理の動きがかぎとなる。核不拡散条約(NPT)に背を向けるような行為に対しては、安保理が的確な対応をしてこそ、NPTの信頼が保たれる。北朝鮮は違反行為を重ねた末に、核実験を強行した。NPT脱退も宣言した。この苦い経験を繰り返してはならない。

 安保理では、中国がイランへの制裁論議に慎重な構えを見せている。制裁を強めるだけが外交ではないが、安保理での足並みが乱れると、それだけイランへの外交圧力は弱まる。安保理での結束の確認こそが、外交決着をはかるうえで最大の武器である。

 ただ、安保理が性急に追加制裁に進めば、イラン国民の大国外交への反発が高まり、結果的にイラン政権に有利に作用する恐れもある。

 決議を受け入れてウラン濃縮を停止することが結局は、イランの国益にかなう。そのことをさまざまな形で説得する多角的な外交も同時に強めなければならない。』

(『イラン核疑惑「安保理の結束が試される」』と題する朝日新聞 2010年2月12日付け社説)


 この「社説」子は、もしイランが、ウラン濃縮停止をしなかったら(しないだろうが)、そして安保理追加制裁決議(中国が棄権した時にのみ成立可能である。)に全く効果がない(多分今のイランを取り巻く経済環境では効果がないだろうが)とした時に、どういう社説を書くのだろうか・・・。

 ただひとつ私もこの「社説」子に警告をしておきたい。こういうアメリカ国務省べったり、日本の外務省べったりの、すれすれのデマ記事を無批判に世の中に垂れ流すことは、自ら「中東大戦争」を呼び込む勢力に荷担していることになることを。

 戦前、朝日新聞と毎日新聞は競って、軍国主義日本の中国大陸侵略を煽り立て、軍部とべったりくっついて日本の国民を侵略戦争に駆り立てる先導役となった。朝毎の記事をご記憶の方もまだ多いだろう。 「この苦い経験を繰り返してはならない。」