原文:http://www.harpers.org/sb-cold-comfort-women-1160006345.html

冷やかな慰安: 日本のロビー活動、第二次世界大戦中の性奴隷制非難決議を阻止
ケン・シルバーマン 2006年10月5日(木)


 共和党の有力議員ですら、10代の議会で使い走りをする少年たちに言い寄ったということで、マーク・フォーレィ氏に対して非難の声を上げているが、その同じ彼らが、同時に、日本がアジア女性に対して行った組織的強姦および性奴隷制度に関する過去の記録を隠蔽しようとしていることに荷担している。元共和党下院議員ボブ(ロバート)・ミッチェルは、共和党有力者たちとも緊密な関係にあるが、現在きわめて高給のロビイストである。そしてミッチェルは、日本の隠蔽工作を相当程度助けている。

 過去7年間、韓国系アメリカ人、人権団体、宗教団体などは連携して、第二次世界大戦中に、女性や少女をむりやり性奴隷として強いたことに対して日本がその責任を認めるよう米議会に圧力をかけ続けてきた。この性奴隷制自体はさして議論の余地のない、きわめて明白な歴史的事実である。

 1930年代の初頭から、日本は主として朝鮮半島、中国、フィリッピンからおよそ20万人ほどの女性や少女をかき集め、軍隊の「士気」を高めるため日本兵を相手とする売春を強いた。日本はこの性奴隷のことを「慰安婦」(comfort women)と称した。その多くは強姦され、暴力を振るわれ、性病にかかったり、「働き過ぎ」で使い物にならなくなった後は殺された。 中にはあまりの辱めのために戦争が終わったあとも故郷に帰ることができなかったり、自分の受けた体験に沈黙を守り続けた人も多い。

 日本は長い間、こうした慰安婦の女性は進んで売春をおこなったと主張してきた。そして1993年、旧日本軍の当時の文書が発見され、性奴隷制がその軍隊の基本的性格だったことが証明されて初めてその事実を認めた。日本政府は1990年代の中頃、準政府基金「アジア従軍慰安婦基金」(英語ではAsian Comfort Women Fund。日本語では単にアジア女性基金。)を創設はしたが、直接の賠償は拒否した。そして多くの女性やその遺族は、基金から金を受け取ることを拒否した。日本はその行動に対して決して責任を取ってこなかった、というのがその理由である。

 日本はこれまで米議会で従軍慰安婦に対する搾取非難決議が可決されるのを阻止し続けてくることができた。一つにはワシントンのロビー業界に気前よく金をばらまいたおかげである。またブッシュ政権もこの決議の議会通過が阻まれることをそれとなく助けてもきた。

 日本および東北アジアに関する調査センター、「アジア・ポリシー・ポイント」(Asian Policy Point)の理事、ミンディ・コトラーによれば、ブッシュ政権は、中国の政権は将来アメリカに敵対するかもしれない、日本はその際中国の政権に対する鍵となる「地域防波堤」と見なしている、という。
 「ブッシュ政権は、アメリカのアジアにおける安全機構の中核部分に、オーストラリア、インド、イギリス海軍などよりもはるかに日本が座ることを欲しています。」
 「ですから日本との同盟関係を担保するため、日本の嫌がる問題を完全に脇にどけて、一つもなくしておきたいのです。まったく全然ですよ。たとえ通商問題であろうが、慰安婦問題であろうがです。」

 とはいえ、(決議が)通過しそうだったのはさほど前のことではない。冒頭の韓系アメリカ人団体・人権団体・宗教系団体による連携はこれまで、伝統的に上下両院合同決議( a concurrent resolution)獲得を模索してきた。
これは両院における承認が必要である。今年は下院だけの決議を狙っている。そして4月にはとうとう、民主党のレーン・エバンス議員(イリノイ州選出)と共和党のクリス・スミス議員(ニュージャージー選出)がこの決議案を下院に共同提案した。この拘束力のない非難決議は、公式には「従軍慰安婦」による性奴隷制度に関する「確認と責任の認証」と呼ばれている。そしてその犯罪性を否認することをやめ、学校で使用する教科書から削除してふれないようにすることをやめるように求めている。

 決議案は下院の国際関係委員会(the International Relations Committee)に付託されすぐに共同提案議員が増えた。日本政府に警告を発する内容になっている。イリノイ州選出の下院議員を38年間務めた後、ホーガン・アンド・ハートン事務所に入ったボブ・ミッチェルは、ワシントンにおけるトップ・ロビイストの一人である。またミッチェルは共和党で14年間も少数民族グループの指導者でもあった。日本政府はミッチェルの属する事務所に毎月およそ6万ドルを支払っている。これはいわゆる第二次世界大戦中の歴史問題だけに関するロビー活動を行う費用である。歴史問題とは要するに戦時捕虜虐待問題(P.O.W=Prisoner of War)と奴隷労働問題を含んでいる。

(ミッチェルはたまたま、第二次世界大戦問題で日本が保留する数少ないロビイストの中では、ただ一人の大物ロビイストである。)

 米下院の国際関係委員会の委員長は同じイリノイ州選出のヘンリー・ハイドである。私が聞いたところでは、ミッチェルはこの5月下旬、ハイド委員長に面談している。この時ミッチェルは、この決議案を通過させることは、日米同盟関係を害する一撃になる、日本による数十万人の女性の性奴隷制度は60年も前に起こったことであり、過去のことは水に流すべきだ(bygones should be bygones)、と説得したという。

 日本の小泉純一郎首相の訪米がちょうど発表され、6月下旬に予定されるとアナウンスされた頃だ。(訪問時、小泉首相はブッシュ大統領と共にグレースランド-プレスリーの邸宅で永眠の地-を訪れ、ジャングル・ルームで「ラブ・ミー・テンダー」を歌った)。ミッチェルは、こういう時期に非難決議案を承認することは、日本に恥を掻かせることになる、と強硬に主張した。
 
 決議案通過に努力したある消息通はこういう。「すべての動きがこれで止まってしまった。こんなのは見たことがありません。我々の側は相当勢いがついていたのに、突然死んでしまったんですから。」

 しかし決議案通過に努力するグループは9月には大きな前進を勝ち取ることになる。ハイド委員長が再び決議案通過の方向に舵を切ったからだ。8月の議会休会中にハイドは、韓国と別に2つのアジアの国に彼の胸を打つ旅行を行う。さらに重要なことは、8月15日に小泉が靖国神社参拝を決定したことに対して激しい怒りがぶつけられた。8月15日は、日本が第二次世界大戦で打ち破られた日であり、靖国神社には1000人以上の戦争犯罪人の名前も併せて記された霊璽簿(Book of Souls)が祀られている。この中には真珠湾攻撃を命じた戦争中の首相で1948年絞首刑になった東条英機の名前も記されている。小泉の靖国参拝はアジア中の怒りをかき立てることになった。今は米議会に収まり、自身も太平洋戦争の生き残り退役軍人でもあるハイドにとってもじっとしていられない状況だった。

 ハイドが下院の国際関係委員会に戻ると状況は一変した。先ほどの消息通は「ゼロから100%へ一挙に駆け上りました」という。国際関係委員会の幾人かのメンバーは、決議案の内容を和らげようとした。(特に、慰安婦への扱いは人道に対する犯罪であるという明確な定義を取り除こうとした)

 この決議案の主唱者はしぶしぶいくつかの変更を受け入れ、決議案は9月13日に、全会一致で下院国際関係委員会を通過した。

 この決議案の支持者たちはここまでくると、もう止められないと考えている。この決議案が「サスペンション・カレンダー」入りするのも間近だと見られている。

 決議案がサスペンション・カレンダー入りをすれば、下院本会議では単に「発声決議」だけで通過するのだ。現時点で決議案通過を阻む唯一の要素は、デニス・ハスタート下院議長(同じくイリノイ州選出)がこの決議案に反対するかもしれないという点だ。ハスタードはロビイスト、ボブ・ミッチェルの元同僚である。あるいは下院共和党の有力指導者の一人、ジョン・ボーナーあたりからも異論が出るかもしれない。ボーナーは下院の投票カレンダーを握っている。
 
 9月22日、25人の決議案共同提案議員は、11月の中間選挙休会前にこの決議案を下院に上程するかどうかを問い合わせる手紙をハスタート下院議長とボーナー議員に送った。この25人の議員に中には、議会における日系アメリカ人のリーダー、カリフォルニア州選出のマイク・ホンダ議員も含まれている。しかし、おかしなことに、共和党リーダーから、いつこの決議案を投票にかけるかについての回答はなかった。
 
 その次に起こったことは幾分明確ではない。しかし、返事めいたものがブッシュ政権から戻ってきたのである。ミッチェルやその他の日本ロビイストたちが、ボーナー議員とハスタート議員のところへ行って工作した。ハスタート議員は、下院議員を引退後、駐日アメリカ大使のポストを希望しているとささやかれているが、この決議案に対して賛成ではない意向を明らかにしたのである。
 
  9月27日(水)までには、ボーナー議員の事務所は、慰安婦非難決議案は、その週の投票には付されないことを明らかにした。この週は、中間選挙休会までの鍵となる締め切りの週である。
 (この件に関し、ミッチェルはとうとう電話をくれなかった。ボーナー議員もハスタート議員も他の差し迫った仕事のためか、電話を返してくれなかった。)
 
 考えられることは、レーム・ダック・セッション(来年1月から3月までの下院議会開会期間中。どちらにせよ中間選挙後)の間に、この決議案が大幅に見直されることだ。今のところで言えば、日本は首都ワシントンで新たな勝利を買い取った様にも見える。
 
 先ほどのコルター氏はこういう。「今のところ、慰安婦のためにできることはほとんどなにもない、というのが現実です。この60年間、彼らは地獄の中で生きてきました。ほとんどの人はまもなく平穏を見いだすでしょう。この法案のもっとも重要な点は、現在も続いている戦争時の強姦における犯罪者や下劣な人間たちに対する歯止めになると同時に、将来の女性の世代を、類似した暴力から守ることに役立つ、という点にあるんです。」