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外交政策の“お盆”はどう見ても鈴なりだ。2010年から2011年にかけてアメリカが直面している難題のリストを一部だけ見てみても、アフガニスタン戦争;核兵器を保有している好戦的な北朝鮮;核兵器を開発しようとしていることが明らかな原理主義イラン:世界でもっとも危険なテロリストと闘う能力もそのつもりもないパキスタン;もし事実上彼らが頼んだとして2011年12月以降もアメリカ軍が駐留すべきなのかどうかが不確定な分裂イラク:スーダンにおける戦争をどうしたら防げるか;変化するキューバにどう対応するか;イスラエルとパレスティナの間の交渉を進展させ復活させるには何がベストの方法か;興隆する中国を何とかすること;地球温暖化問題・・・。
こうしてみると、アメリカの支配層の思い通りになっている事態は一つもないことがわかる。イラク、アフガニスタンについては付け加えることはない。あえて言えばオバマ政権の「イラク撤退計画」の舞台裏を覗かせてくれている点だろう。2011年12月期限が迫る、イラク政権が治安維持を理由にアメリカ軍の一部残留を頼み込む、アメリカはそれに不承不承応じるというのが、もう一つのシナリオだということがわかる。イランについては、2010年5月のNPT再検討会議で、イランの孤立化を狙ったがフタをあけてみるとイランは非同盟諸国とがっちり裏で手を握り、逆にアメリカを非同盟諸国で包囲し、核兵器廃絶の期限を迫り、アメリカは防戦一方だった。そして「中東非核兵器地帯の具体化」を約束させられた。北朝鮮も「哨戒艇沈没事件」や「ヨンピョン島事件」で、孤立化を狙ったが、もともと胡散臭いこの2つの事件では北朝鮮を孤立化させることはむつかしい。キューバはアメリカ抜きにラテンアメリカ諸国・非同盟諸国との連携を強めている。パレスティナを独立国として承認しようという動きは2010年を通じて世界中に拡大した。この動きが強まれば、パレスティナはイスラエルを交渉相手とする必要がなくなる。逆にイスラエルが世界を相手にしなければならなくなる。「満州事変」の時の日本と同じ状況に陥る。パレスティナとイスラエルを交渉させたがっているのは今やアメリカをおいてない。「中国を何とかする」(英語の元の言葉はmanageを使っている)といっても今のアメリカの力では中国はコントロールの外だろう。
全体を通じて言えば、アメリカの世界的な支配力がはっきりとした目に見える形で衰えた、というのが2010年の大きな特徴ではないか。
(しかし)これら諸問題のうちどれを取ってみても存在する国家安全保障上の難題というレベルには達してみない。たとえば前世紀の半ばごろのナチス・ドイツであるとか帝国主義日本であるとか、あるいは第二次世界大戦勃発機のソ連であるとかといったような。 |