原文:http://www.iaea.org/NewsCenter/Transcript/2005/cnn17032005.html

国連と核不拡散に関する事務局長のCNNクリスティアン・アマンプールとのインタビュー
2005年月17日放映


アマンプール:  過去何十年にもわたって、NPT―核兵器不拡散条約は、その効力を持ちましたね。基本的にNPTは締結国に対して、平和目的の核技術開発を行う権利を認めてきました。この権利は疑惑のある国々にうまく利用されているという見方がありますが、この見方には賛成しますか?
エルバラダイ:  確かにNPTには問題があります、クリスティアン。NPTは過去30年以上にもわたって、平和目的の核技術を実際に使用するに当たって、その規範として極めて有効に機能してきました。また核技術が軍事目的に使われないようにすることにも機能してきました。1970年(NPT国連決議の年)以来、物事は一変したのです。
 しかし核技術は拡散し、どの国でも、たとえば高濃縮ウランやプルトニウムがすぐ手にはいるようになりました。高縮ウランやプルトニウムを入手することは核兵器を入手することと紙一重です。だから私たちは現在のNPTを見直して再評価する必要があります。修正というより再構築の必要があると思います。だから私は、21世紀に対応した核技術使用の新しいフレームワークが必要だと、繰り返し言っているわけです。
アマンプール:  解決法は?
エルバラダイ:  高濃縮ウランやプルトニウムの燃料サイクルという極めて神経質な部分を扱える国が必要だということでしょう。その際、単独の国が、工場に居座って、自分だけが高濃縮ウランやプルトニウムを生産するということがあってはなりません。実際こうした議論はすべてイラク問題が契機になって起こっています。国際社会が、すでに地殻変動が起きた地域に加えて新たな地域がこの核技術を保有していく成り行きに大きな関心をもったわけです。これは何もイラン独特の問題だという訳ではありません。もっと大きな絵を描いて問題を見る必要があります。将来にわたってすべての国が供給を保障された形で、電力目的やその他の目的の平和利用技術にアクセスできることを保障する問題です。しかしこのことに関連して、発生するリスクは最小限に抑えなければなりません。ですからたとえば国際的なコンソーシアムを設立して、燃料生産を行い国際的管理のもとに燃料のリサイクルを行うといったような構想ですね。
アマンプール:  いいかえれば、自分のウランを自分で濃縮させるな、ということですか?
エルバラダイ:  その通りです。いかなる国も単独で自分のウランを濃縮しないということです。国際的なグループやコンソーシアム、あるいは地域のセンターみたいな機関が互いに重複しながらグレーゾーンをなくして、一元管理に当たるという仕組みです。パキスタンのカーン博士の事件の後、核分裂物質を密輸すればすぐ幾月も経たずして核兵器が登場する、安全への限界点が極めて狭くなっていると言う事態を見てきました。
アマンプール:  ブッシュ政権の解決法とは何です?ブッシュ政権はNPTに代替する構想をもっているとお考えですか?
エルバラダイ:  いいえ。私が考えていることは、NPTの誰にたいしても支援を続けると言うことです。ブッシュ政権の考えていることは、切り捨てです。だからすでにウラン濃縮能力を持っている国は濃縮を続け、他の国に供給を続けます。でもその技術を新しい国が獲得することは認めません。多くの国がこの提案に不満を持つことはあきらかでしょう。遅れてやって来たからといってなぜこんな差別を受けなければならないのですか?
 ブッシュと私は最終的には同じ目的を共有しているとは思いますが、ブッシュ構想より良い管理システムが必要だと思います。私の提案は、「早起きは三文の得」(the early bird the worm)ではなく、誰にでも公平な機会を提供しようというものです。もっと時間をかけて考えようよ、それまでいまのところ、個別の国が個別にあらたな施設を作るのを中止しようよ、
 そしてもっとよい管理システムを構築しよう、どの国にも供給が保障できるシステムをもって、どの国に対しても、「ぼくは自分自身の濃縮ウラン工場と処理工場をもちたい」と言わさないようにしようと言うことです。
 私はこの考え方は近い将来においても、中期的将来においても、必須と考えています。特にこれからは、電力供給と発電の分野に置いて極めて大きな拡大期を迎え、従って核技術の使用が大きく拡大していくと予想しています。インドや中国をご覧なさい。ヨーロッパに置いてすらそうですよ。フィンランドはこれから発電用の原子炉の開発に着手します。だからこれから核技術の主要な拡大期を迎えることになります。それに伴い環境に対する影響とか、リスクも増大しますが、そうしたリスクが起こらないようにしていかなければなりません。
アマンプール:  こうした問題はすべてイラン問題が引き金になったといっているわけですね。ロシアはブシェールの原子炉用使用済み燃料を引き取ると明言していますし、そういうことですか?
エルバラダイ:  ええ、まあ基本的には、そういっています。これは将来に置いてわれわれが直面する問題の縮図といっていいかと思います。企業や国からなる、適切な管理の下で燃料を供給する国際コンソーシアムをまず我々がもつ、そして使用済み燃料を引き取る、と言うことです。こうして技術に伴う危険を回避して電気を獲得すると言うことです。
アマンプール:  イランは同意しますか?
エルバラダイ:  イランはすべての議論の中での、一つの参加者にしか過ぎません。イランが自分で独自にウラン濃縮をやりたいことは明白です。イランの主張は、他の国々に認めていることがなぜイランに認められないのだと主張することでしょう。だから私はイランにおける解決は・・・、
 もちろんイランは特殊なケースです。過去二十年の間にいろいろ申告していない性質のプログラムがありましたから国際的関心が集まっていることは確かですからね。だからいろいろな懸念があるわけです。イランもその懸念は理解しているはずです。ウラン濃縮を中断することに同意しました。しかしイランは、我々が指摘しているような、より大きな問題の前兆なのです。
アマンプール:  イランは使用済み燃料をロシアに送り返すことに同意していますか?
エルバラダイ:  ええ、イランは使用済み燃料をロシアに送り返すことについて同意しています。ですからさい先上乗と言うところです。イランが言っているのは、我々が欲しいのは電気だ、しかしロシアからの燃料を使用する用意もあるそしてそれを送り返す用意もある、と言うことです。
アマンプール:  イランは自分で濃縮ウランを作る権利があるといっていますね、いまだにそれに固執していますか?
エルバラダイ:  私は彼らが言ってきたこと、また現在言っていることは確かにそうだと思っています。イランに対しても他の国同様に扱わなくてはなりません。イランだけ特別不利に扱ってはなりません。かれらが自分自身で独立した核燃料サイクルを持つのは権利です。しかしそうだとしても、現在(2005年3月当時)、彼らはウラン濃縮を中断しています。現在ヨーロッパと話し合いの最中です。
  いいですか、クリスティアン、今2つのことが起こっています。われわれIAEAは、過去のことを清算しようとしています。過去二十年の間に起こったことをきれいにしようとしています。でもまだそれはできていません。われわれが言っているのは、イランが過去を透明にして自信をもって行動したらいいじゃないかと、それはイランが遵守すべき法的義務だと、イランはNPTのもとでクリーンとなるべき法的義務を負っているのですから。それと平行して、ヨーロッパ勢が言っているのは、イラン核問題は、イランと他の世界の間に起こっているより大きな問題の一部なんだ、より大きな緊張関係の一部なんだ、特にヨーロッパとアメリカとの間における緊張関係の一部なんだとね。これがヨーロッパとイランの間の交渉で起こっていることです。ヨーロッパは核問題をテーブルの上に置くだけではなく、安定、技術、国際貿易などもテーブルの上に置いています。これが起こっていることです。

 核問題を、ある国とそれを取り巻く他の世界とのより広範な関係の一部と見なし置く必要があります。北朝鮮問題にしても同様です。私はアメリカがこの問題解決に参加してくれたことを大変嬉しく思っています。私は、アメリカが腰を上げてくれないと成功はおぼつかないと考えています。まさしくルーガー上院議員が最近指摘したように、核技術における安全問題についてはそのことがよく当てはまります。もし我々が我慢強くなれば、イランの核技術が、平和目的だけに使われる保障を得るばかりでなく、国際社会もイランの計画が平和目的だけに使われると言う確信を得るだろうことに前にも増して、期待を抱くようになりました。
アマンプール:  しかしですね、ここ数週間、特にここ2−3日、イランが遠心分離器を購入したとか、トンネル掘ったとかという報道をよく見受けます。イランはまだあなた方に意図的になにかを隠しておこうとしているんですか?
エルバラダイ:  彼らがなにかを隠そうとしているのかどうか私にははっきりしません。軍事的攻撃を予想してトンネルの中で装置を守ろうとしているのかも知れませんね。彼らは私が言ったように、彼らの法的義務を達成しつつあります。確かにあちこちでささいな違反行為はあるでしょう。また過去に置いて重要な隠蔽工作もあったでしょう。しかしイランにとって重要なことは、こうした違反行為は現在はないと自信をもって示すことです。すべてを透明にして自信を見せることです。それがイランにとって利益にかなうことでもありますし、国際社会の利益にもかなうことになります。
アマンプール:  遠心分離技術をあきらめていないとすれば、イランは原爆を作れるということになりますね?
エルバラダイ:  まあ、かならずしもそうとはいえません。ウラン濃縮をするからと言ってそれが自動的に原爆製造ができる、将来原爆製造をするだろうと言うことにはなりません。核技術の難しさは一面、それが軍事及び平和目的の両方に使えるという事実にあります。そのつもりがあるかないかが問題です。イランについて言えば、皆さん方は相当イランにそのつもりがあるという話をきいておいでですね。だからイランについて語る場合には、イランはそのつもりがあるのだと・・・、その野望をもっている・・・、非常に懐疑的だ・・・。人の意志を読むのはとても難しいことです。だから私はいうのです。事実に基づこうと。
 中東情勢のために、非常に不安定な中東情勢のために、あるいはイランが過去長い間隠蔽をしてきたために、疑惑は大きくなっています。だからこそイランは、自信を持って示すためにすべてを明らかにする必要があると私は言っているのです。過去をきれいに精算しないかぎり、ものごとを軌道に乗せるのはむつかしいと。だからイランは過去を明らかにすればするほど、現在成功する可能性は大きくなると、私は見ています。ヨーロッパとの交渉においてもアメリカとの交渉に置いても。
アマンプール:  あなたは常々アメリカは話し合いの席につくべきだと言っていますね。いま話し合いの席についているアメリカに満足を感じていますか?またアメリカはよくやっていると思いますか?
エルバラダイ:  正しい方向へ第一歩は踏み出したと思います。私としてはアメリカがもっとこの問題にかかわってくれて前進させてくれることを希望します。しかしとはいえ、私にとって、これは一大変化(sea-change)です。私はアメリカがかかわってくれなければこの問題について楽観的に見ることができなかったのですから。しかし今深く関わってくれるのを目の当たりにしています。そしてブッシュ大統領もライス国務長官もヨーロッパ勢を支援すると言ってくれているのですから。これは歓迎すべき第一歩です。
アマンプール:  深く関わる、とはどういう意味ですか?またそれがなぜヨーロッパ勢がうまく仕事をするに当たって重要なんですか?
エルバラダイ:  イランが大きな不満を感じていることや、ウラン濃縮を中断していることの見返りや、十分有効なフレームワーク作りに成功することを想定しても、この問題をめぐるどこを見てもアメリカの一歩の踏み出しが必要です。たとえばイランがWTO(世界貿易機構)に加盟すると言ってもアメリカの同意が必要になるでしょう。イランが近代化のためにボーイングを購入したい、エアバスでもいいですが、その場合でもアメリカの同意が必要となりますね。満場一致の同意が必要ですからね。特に地域的な安定の問題を考えてみたときにはそのことがよく当てはまります。地域の安全保障という問題を念頭に置くとアメリカの関与は不可欠です。
アマンプール:  アメリカがWTO加盟の可能性やその他ことを提起しても。イランは鼻先でせせら笑うだけではないですか?一体どうなっているんです?
エルバラダイ:  ええ、それは全体の交渉の一部分というべきでしょう。アメリカがWTO加盟への障害をいつでもとりのぞいてやるよ、と言ったとしましょう。交換部品をいつでも供給するよ、とばかりね。基本的にはイランはそれには、それだけでは十分じゃない、というでしょうね。いやこれで十分だ、いや十分じゃない・・・。両方からいやというほど聞かされるわけです。ですから申し上げたように、我慢強くないといけない訳です。これは交渉の一部分なんですから。イラン人は交渉ごとは上手です。ヨーロッパ人も交渉ごとに長けています。大事なことは、交渉を継続させること、打ち切らないことです。私にとってはこれが最も重要と思えます。双方が交渉のテーブルについている限り、私たちは正しい軌道に乗っていると言ってもいいと思います。
アマンプール:  アメリカ大統領の直接の指揮の下で、長い間イランのような国における核兵器保有潜在能力について情報収集を続けてきています。初期の間に漏れてきた情報では、イランや北朝鮮の核をめぐる状況は、「スキャンダラス」という言い方になっています。どう思いますか?
エルバラダイ:  私は提供されたもの以上にその事情に通じていません。私がこれまで言ってきたことは、イランは長い間、未申告の計画を進めてきたこと、イランはウラン濃縮事業を進めており、これは明らかに平和目的のためのものであり、軍事目的ではないこと、そしてこれはなんら他の国でのウラン濃縮とかわりはないこと、イランで核兵器開発が進められている証拠はないこと、それは核兵器となりうる核材料や核物質を見ていないからです。こうしたことをこれまで言ってきました。しかし同時にわれわれはこれでイランは完全に平和目的のための核開発だという最終判定をしていません。これは私がこれまでワシントンから聞いてきたことと大きな違いはありません。これまでワシントンが言ってきたことは、未申告の性格を持つ計画がある、だからイランの野望については疑わしく思っている、と言うことです。これは私とそんなに大きく違う見解とは思えませんが。しかし、今まだ調査の途中です。あるいはイランの計画を吟味中です。私は銃をとって、これが核兵器計画だ、と飛びつくわけにはいかない、というだけです。
アマンプール:  全体的に言って、イランに関してIAEAの方が情報が豊富ですか、それともアメリカが提供する情報の方が豊富ですか?どうお考えですか?
エルバラダイ:  IAEAは根拠をもった情報をこれまで数多く報告してきました。特に過去1年半の間に達成した仕事をごらんいただければいいと思います。私は非常に誇りに思っています。
アマンプール:  それでは根拠もった情報という意味ではIAEAが唯一だということですか?
エルバラダイ:  根拠のある情報という意味では私たちが唯一です。だって私たちは法的な権限をもっているんですからね。イラン現地に置いてもそうです。今のところ二十年前と現在ではイランの核開発の性質と計画は一変しているという認識を持っています。そのころはイランの核開発計画は全くブラックボックスだったんですからね。だから根拠に基づいていると言うことは絶対的に重要なことです。
アマンプール:  あなたがIAEAの事務局長に再選されないようにアメリカがロビー活動をしました。ブッシュ政権の高官の中には、イラク情勢をめぐる分析結果にあなたが反対を唱えている、あなたは自分の分析の方がより正解に近いとしているから、交代させてしまえ、と言う人もいます。アメリカはまだあなたの更迭へ向けてロビー活動をしていますか?またあなたは事務局長に再選されると思いますか?
エルバラダイ:  全くわかりません。大多数の国が私に続けて欲しいと言っているのを聞いていますが、それ以上のことは全くわかりません。私に続けてくれと言っているのは、今危機の中途だからです。イラン問題もあるし、核技術の不拡散問題もある。IAEAの理事会から聞いているところでは、理事会がこれら問題の全責任を負うのですが、私を強く支持するということでした。
アマンプール:  あなた以外に他に候補者がいますか?
エルバラダイ:  私が唯一人の候補者です。しかし繰り返しになりますが、この仕事は公僕です。たくさんの仕事抱えていますので私自身は続けたいと思っていますが、私が仕事を続けられるようみなさんに支援をしてもらわなければなりません。皆さんの支援がはっきりと保障されれば。私は続けますし、そうでなければ去ることになるでしょう。
アマンプール:  イギリスもあなたを支持していますか?
エルバラダイ:  誰にしろ私を支持しないという話は聞いていません。
アマンプール:  ナン上院議員によれば、1994年のアメリカと北朝鮮との合意の際、少なくとも北朝鮮の核物質はピョンヤンにある原子炉に保管されていました。今どれがどこにあるかご存じですか?
エルバラダイ:  全くわかりません。だからイランに置いてもスローペースだとおしかり受けるわけですが、 しかし北朝鮮とイランの情勢を比べてもらえれば一目瞭然だと思います。多かれ少なかれ、 何がどうなっているのかは把握しています。
 北朝鮮については、全くブラックボックスです。だって私たちはそこにいないんですから。どこにしろ査察権限のない国に置いては、憶測に頼る他はありません。だから北朝鮮に対してはそうしています。衛星探査で彼らが、使用済み核燃料の処理を行っていること、プルトニウム型原爆が製造直前にあることなどはわかっています。(注:このインタビューは2005年3月)また彼らが原爆を保有していることを明言していることもわかっています。北朝鮮についてはできるだけ早く戻りたいと思います。希望的には私を北朝鮮に呼んで、IAEAとの話し合いを再開してくれないものかと思っています。これが正しい方向への第一歩だと思います。私は彼らが自国の安全について大きな関心を抱いていることは当然のこととして理解しています。しかし同時に国際社会も彼らの核開発計画に大きな関心を抱いているのです。だから一緒にテーブルについて、自国の安全と国際社会の安全について話し合いましょう、と言うわけです。
アマンプール:  北朝鮮は原爆を製造していますか?
エルバラダイ:  すぐ原爆を製造できるプルトニウムを保有していると言う事実を除外するわけには行きません。しかしそれよりも重要なことは、彼らが原爆を製造するつもりだと明言していることです。私たちの技術的評価基準から見れば、彼らが原爆を製造する、あるいはすでにもっていると考えるのに何らの技術的障害はありません。
アマンプール:  核兵器の脅威という意味では、イランと北朝鮮はどちらが大きな脅威だと思いますか?
エルバラダイ:  北朝鮮はすぐに核兵器化するプルトニウムをもっている、しかしイランには全くそんなものがない、もし核兵器をつくる物質がなければ、核兵器を作るわけにはいかないでしょう、私はそういっているんです。核兵器を作る意図があり野望をもっていたとしても、肝心の原材料がなければ、核兵器は作れません。北朝鮮は核兵器の材料をもっている、イランではそれが見いだせない。北朝鮮とイランを比較して、顕在化している脅威なり危険なりを論じる時、これだけの決定的な違いがあります。イランについては、「核兵器製造計画があるのではないかという疑い」について論じているんです。全然違う話です。