アイゼンハワーの離任(退任)演説 (豊島耕一訳) |
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(以下本文) | ||||||
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Eisenhower’s Farewell Address to the Nation January 17, 1961 日本語訳 | ||||||
→ 原文と録音 | ||||||
アイゼンハワーの国民への離任演説―1961年1月17日 |
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ver.0.95 ('08.4.4) |
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アメリカ国民の皆さん、こんばんは。 まず私は、この何年間、皆様への報告とメッセージを伝えるために私に機会を与えていただいた、ラジオとテレビの関係者に感謝申し上げたいと思います。今夜も皆さんに話しかける機会を与えられたことに対して、彼らに特別の謝意を表します。 3日後に、我が国に奉仕してきました半世紀を経て、伝統的で厳粛な式典において大統領職の権限を私の後継者に与え、私は職を辞します。 |
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今夜、私はお別れのメッセージを皆様にお届けし、後にいくつかの考えを皆様と分かち合いたいと思います。 国民の皆様と同様に、私は新大統領の、また彼とともに働く人々の成功を祈ります。私は、将来においてすべての人々が平和と繁栄に恵まれることを祈ります。 国民は、大統領と議会がこの重要な時に諸問題についての基本的な合意を見つけ、その賢明な解決策が国家をより良く形作って行くことを期待しています。 議会との私との関係は、はるか昔、ある上院議員が私をウェストポイント(陸軍士官学校)の教官に任命した時に遡ります。初めは遠い関係でしたが、戦争とその直後の時期に親しいものになり、最後のこの8年間はお互いに相互に依存し合う関係になりました。 この最後の頃の議会と政府は、最も重大な問題について、単なる党派心ではなく国家のために役立つようによく協力し合いましたので、国家業務は着実に遂行されました。 したがって、議会と私との公的な関係の終わりに際し、私はこのように良く協力し合えたことへの感謝の気持ちを抱いています。 大国の間の4つの大きな戦争を経験した一世紀の中間点を過ぎて、今10年が経ちました。これらの戦争のうちの3つは我が国自身が係わりました。これらのホロコーストにもかかわらず、アメリカは今日世界で最強であり、最も影響力があり、最も生産力の高い国家です。この優位性を当然誇りにしていますが、それ以上に私たちは、その指導力と地位が、単にわれわれの不相応な物質的進歩や富や軍事力だけではなく、われわれの力を世界平和および人々の生活の改善のためにどう使うかということに依存することを理解しています。 |
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アメリカの自由な政府の波乱の歴史を通じて、そのような根本的な目標は、平和を守り、人間活動の成果達成を助けること、そして諸民族および諸国家の自由と尊厳と独立を前進させることでした。 わずかなものをめぐって争うことは、自由で信仰深い民族にふさわしいものではありません。 傲慢や無理解のために、あるいは犠牲を嫌ったために起きるどのような失敗も、私たちに国の内外で大きな傷を負わせるでしょう。 これらの崇高な目標への前進は、いま世界を巻き込む争いによって常に脅かされています。この前進は私たちの全身全霊の注意を要求します。私たちは、地球的な広がりを持ち、性格的に無神論で、目的追及において冷酷で、その方法において狡猾な、敵意あるイデオロギーに直面しています。不幸にもそれがもたらす危険性がいつまで続くかは分かりません。これにうまく対処するには、危機に対する感情的で一時的な犠牲が多く要求されるわけではなく、むしろ着々と確実に、長く複雑な戦いの重荷を淡々と担って進んで行くという犠牲が要求されるのです。自由を支えとして、これによってのみ私たちは、いかなる挑発があろうとも、恒久平和と人類の福祉の増進への針路を取り続けることが出来ます。 |
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危機は常に存在し続けるでしょう。国内であれ国外であれ、大きいにせよ小さいにせよ、危機に直面する時、華々し、また金を掛けた何らかの行動によって現在のすべての困難が完璧に解決するかのような誘惑に繰り返し駆られるものです。 我が防衛力の新たな装備を大きく増やすこと、農業ではあらゆる病害を駆除するというような非現実的な計画の推進、基礎研究と応用研究の劇的な進展、これらの、また他の多くの可能性は、それぞれがそれ自体としては有望で、我々が辿りたいと思う唯一の方法として提案されるでしょう。 しかしそれぞれの提案はより広い視野から比較考量される必要があります。 すなわち、国家の諸計画の間のバランスを保つ必要性、私的経済と公共の経済との間のバランス、コストと期待される利益のバランス、明白な必要性と「あれば便利」というものとのバランス、国民としての基本的な要求と国家が個人に課す義務とのバランス、現在の施策と将来の国民福祉とのバランスです。 良い判断というものは「バランスと前進」とを求めます。それなしでは「アンバランスと失敗」という結果になります。 何十年にも亘る実績は、私たち人民とその政府が、概して、脅威と圧力に直面しながらこれらの真実を理解し首尾よくそれらに対応したことを証明しています。 しかし、新たな種類ないし度合いの脅威は絶え間なく起こっています。 私は、これらの中の2つについてだけ述べたいと思います。 平和を維持するための不可欠の要素は私たちの軍組織です。私たちの武力は強力かつ即応的でなければならず、そうすればだれも自らの破滅の危険を冒してまで侵略しようとはしないでしょう。 |
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私たちの今日の軍組織は、平時の私の前任者たちが知っているものとはほとんど共通点がないどころか、第二次世界大戦や朝鮮戦争を戦った人たちが知っているものとも違っています。 最後の世界戦争までアメリカには軍事産業が全くありませんでした。アメリカの鋤*の製造者は、時間をかければ、また求められれば剣[つるぎ]も作ることができました。しかし今、もはや私たちは、国家防衛の緊急事態において即席の対応という危険を冒すことはできません。私たちは巨大な規模の恒常的な軍事産業を創設せざるを得ませんでした。 |
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これに加えて、350万人の男女が防衛部門に直接雇用されています。私たちは、アメリカのすべての会社の純収入よりも多いお金を毎年軍事に費やします。 | ||||||
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私たちは、この事業を進めることが緊急に必要であることを認識しています。しかし、私たちは、このことが持つ深刻な将来的影響について理解し損なってはなりません。私たちの労苦、資源、そして日々の糧、これらすべてが関わるのです。私たちの社会の構造そのものも然りです。 我々は、政府の委員会等において、それが意図されたものであろうとなかろうと、軍産複合体による不当な影響力の獲得を排除しなければなりません。誤って与えられた権力の出現がもたらすかも知れない悲劇の可能性は存在し、また存在し続けるでしょう。 |
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この軍産複合体の影響力が、我々の自由や民主主義的プロセスを決して危険にさらすことのないようにせねばなりません。 何ごとも確かなものは一つもありません。 警戒心を持ち見識ある市民のみが、巨大な軍産マシーンを平和的な手段と目的に適合するように強いることができるのです。その結果として安全と自由とが共に維持され発展して行くでしょう。 我が産軍のあり方の根本的な変化とごく類似し、またその変化を生じさせた主たるものは、最近の数十年間に起こった技術革命です。 この革命では、研究活動が中心的なものになり、それはまたより計画的になり複雑化し、費用がかかるものとなってきました。着実に増加する研究予算の配分は、連邦政府のために、連邦政府によって、或いは連邦政府の指示に基づいて実施されています。 今日、自分の仕事場で道具をいじくり回している孤独な発明家は、実験室や実験場の科学者による研究チームの陰に隠れてしまいました。同じように、歴史的に、自由なアイデアと科学的発見の源泉であった自由な大学が、研究方法における革命を経験してきました。莫大な資金が絡むという理由を一因として、科学者にとって政府との契約が知的好奇心に事実上取って代わっています。使い古した黒板の代わりに、現在、何百台もの新しい電子計算機があります。 |
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連邦政府による雇用、プロジェクトへの資源配分、および財政力によるわが国の学者層への支配の可能性は常に存在しており、このことは深刻に受け止められるべきです。 しかしまた私たちは、科学研究と発見を、当然敬意を持って扱いますが、その際に公共の政策それ自体が科学技術エリートの虜となるかもしれないという逆の同等の危険性も警戒しなければなりません。 これらの、あるいは他の権力や影響力、それらには新しいものも古いものもあるでしょうが、それらを、自由社会の究極の目標を絶えず目指しているわれわれの民主主義制度の諸原則の中にはめ込み、それらとバランスを取り、それらと統合させていくのは政治家の仕事です。 |
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バランスを維持することにおける別の要素は時間です。 私たちが社会の未来を見つめるとき、私たち‐あなたと私、それに政府‐は、自らの安楽と利便のために、未来の貴重な資源を略奪して今日だけのために生きるという衝動を避けなければなりません。 私たちは、孫たちの世代に属する物質的な資産を抵当に入れることは出来ませんし、それは政治的、精神的な遺産についても、その損失を要求することになってしまいます。 |
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私たちは民主主義がすべての未来の世代において存続することを望んでおり、それが明日は破産してしまった見せかけのものになることを望みません。 まだ書かれていない歴史の長い道を下って見ると、アメリカは次のことを知っています。それは、我々の、いっそう小さくなりつつあるこの世界は、ひどい恐怖と憎悪の社会ではなく、相互の信用と尊敬にもとづく誇るべき同盟にならなければならないということです。 |
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そのような同盟は互いに対等な国々の同盟でなければなりません。最も弱い立場の者が、道徳的、経済的、軍事的な力によって守られた我々と同等の自信を持って話し合いのテーブルにつかなければなりません。このテーブルは多くの過去の失敗の傷跡を残していますが、戦場の悲惨な経験を理由に投げ出してはなりません。 | ||||||
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相互の尊重と信頼による軍備縮小は継続する緊急の課題です。 併せて、私達は意見の相違を、武力ではなく、知性と慎み深い意志をもって調停する方法を学ばなければなりません。 このことの必要性は極めて鮮明かつ明白なので、私は、この分野については明確な失望の気持ちを持ってこの公職を去ることを告白せざるを得ません。 戦争の恐ろしさと今なお残るその悲しみを目の当たりにした者として、また、別の戦争が、かくもゆっくりと、またかくも苦痛を伴いながら数千年以上もかけて作り上げられて来たこの文明を完全に破壊できることを知る者として、恒久の平和が間近であると今宵皆様に言えたらと思うのですが。 幸いにも、私は戦争は避けられて来たと言うことができます。究極の目標へのたゆみない前進がなされてきました。しかし多くのことがなされないままに残っています。一市民として、世界がこの道に沿って進む一助となるよう、どんなわずかなことでも私のできることを続けたいと思います。 大統領としての私のこの最後の挨拶で、私は、皆様方が、戦時においてもまた平時においても私に与えていただいた多くの機会に感謝致します。その仕事の中には、いくつかの価値あるものを皆様が見つけていただけると確信しています。そのほかのことに関しては、私は、将来あなた方がより良い方法を見出して下さることと思います。 市民の皆さん、あなた方と私は、すべての国家が、神の下で、正義をともなった平和という目標に到達するという強い信念を持たなければなりません。私たちが、常に確固として原則に忠実であり、信念を持ちながらも力の行使においては謙虚であり、国家の偉大な目標の追求においては勤勉でありますように。 私は、世界中のすべての人々に向けて、アメリカの祈りを込めた不断の抱負を再度表明します。 私たちは祈ります。すべての宗教、すべての人種、すべての国の人々がかれらの重要な人間的ニーズを満たせるように、いま(仕事の)機会を失っている人々が十分にそれを享受できるように、自由にあこがれるすべての人々がその精神的な恩恵を得られるように、自由を持つ人々はその重い責任を理解するように、他の人々の必要に無関心なすべての人々は思いやりを学ぶように、貧困の苦しみ、病気や無知の苦しみが地球からなくなるように、そしていつの日にか、すべての人間が、たがいの尊敬と愛が結びつける力によって確かなものとなる平和の中で共に生きることを。 さて私は金曜日の正午に一市民となります。私はそのことを誇りに思っています。そして楽しみにしています。 ありがとうございました。おやすみなさい。 |
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