原文は以下:http://www.trumanlibrary.org/whistlestop/study_collections/bomb/large/
documents/fulltext.php?fulltextid=8


暫定委員会会議議事録
1945年6月1日 金曜日
午前11:00〜午後12:30 午後1:45〜午後3:30

出 席 者

委員会メンバー
ヘンリー・L・スティムソン長官 委員長
ラルフ・A・バード閣下
バニーバー・ブッシュ博士
ジェームズ・F・バーンズ閣下
ウイリアム・L・クレイトン閣下
カール・T・コンプトン博士
ジェームズ・コナント博士
ジョージ・L・ハリソン氏

   (委員会メンバーについては「暫定委員会について」を参照のこと)


招聘参加者
ジョージ・C・マーシャル大将
レジール・グローヴズ少将
ハーベイ・H・バンディ氏
アーサー・ページ氏
(ハーベイ・ホリスター・バンディは当時陸軍長官特別補佐官。法律家。ケネディ政権時有名なマクジョージ・バンディの父でもある。アーサー・ページについてははっきり確認できないが、8月6日の原爆投下時の大統領声明原稿を書いたArthur W. Pageではないかと思われる。)



T.委員長開会あいさつ
 
 開会に当たり、スティムソン長官は、戦争遂行における産業界の得難い貢献を称揚した。また長官は本日参加した産業人の人たちの特別な貢献に対して感謝すると共に、その貴重な見解を提出する目的で委員会に参集したことについても謝意を表明した。

 長官は委員会のメンバーを紹介した後、委員会は長官自身によって大統領の承認の下に設立されたこと、戦争期間中、この兵器(核兵器)の統御に関し、大統領になすべき勧告内容について陸軍長官とマーシャル将軍支援することが目的であること、また戦後における統御組織に関する勧告に関する支援なども目的であることを説明した。

 長官はまた長官とマーシャル将軍の両方のグループが核エネルギーの分野における一連の発見が意味するところ関し、完全に認識を一にしていることも保証した。戦争中に必要となる即座の軍事的有用性をはるかにこえた潜在拡張力が第一の関心事であることについても認識している。この開発(核エネルギー分野における開発)は人類の福祉にとって巨大な潜在力を持つと共に、この分野の統御を考える際には、その意味する所を考慮に入れなければならない。

 長官は、本日参集の産業人が国際関係における諸問題について何か意見を開陳して欲しい旨、表明した。また、国際協力の問題に関し何らかの意志決定をする際、最も重要な要素は、他諸国が合衆国に追いつくのにどれほどの時間がかかるかという問題であることを指摘した。

 従って、長官は、この時間的要素をできるだけ精確に推定することを希望した。
 
 

U.競争力の懸隔

 カーペンター氏(デュ・ポン社 社長)は、デュ・ポン社は基礎計画を受け取ってハンフォード工場を完成するのに27ヶ月かかっている、と指摘した。全体基礎設計、建設、操業に要した人員は他関連人員も含めて1万人から1万5000人程度だった。
この時デュ・ポン社は、補助要員も参集できたので、かつて例がないほど素早く完成することができた。同氏の推測では、もし仮にロシアが基礎計画を持っていたとしても、同様な工場を建設するのに最低でも4年から5年程度かかることだろう。ロシアが抱える最大の困難は必要な技術者の確保と適切な生産設備の確保にある。もしロシアが大量のドイツの科学者の確保とI.G.ファーベンインダストリーエまたはジーメンスの協力を得るなら、もっと短期間に完成するであろう。
 (I.G.ファーベンインダストリーエは戦前ドイツのコングロマリットである。アグファ、BASF、バイエル、ヘキストなど多くの企業を傘下に持った。ジーメンスは電機、通信、電子などの分野での世界的企業である。戦前はドイツの再軍備に関連していたとされる。)

  ホワイト氏(テネシー・イーストマン社 社長)の最大の関心事は一貫して、Y-12電磁分解工場の操業に関する計画にあった。生産に必要な非常に複雑多岐にわたる装置に関する議論があった。 (Y-12電磁分解工場そのものは、テネシー州ノックスビル近くのオークリッジ工場にあった。Y-12はどうもウラン燃料製造のコードネームらしい。Y-12は、同位元素U-235を電磁分離する過程のコードネーム。詳しくはhttp://en.wikipedia.org/wiki/Oak_Ridge_National_Laboratoryを参照。)

 また同氏は大量生産に関する標準化がアメリカで進んでいることに大きく助けられたとも指摘した。この工場では大量の真空チューブに使用する特殊なセラミックや特殊なステンレススティール、その他大量の色々な種類の製品が必要だった。ホワイト氏はロシアにおいて、操業を可能とするこのような大量の精密な製品が安定供給できるかどうか疑わしい、と指摘した。またホワイト氏はこの操業に関し、2000人以上の大学卒業者、1500人近い大卒レベルの従業員、それに5000人以上の熟練技術労働者を必要としたと述べた。また多くの場合、特殊な機械装置の運転の訓練のため専門技術訓練校を作る必要があった、とも述べた。

  ロシアの潜在力については、多くの熟練労働者や大卒レベルの技術者の確保が難しいのではないかと感じている、と述べた。これに関連して、クレイトン氏(国務次官補)は、ロシアは多分科学者や技術者に関しては、ドイツの人的資源を多分確保できるだろうと、見解を表明した。

  ブッチャー氏(ウエスティングハウス社社長)は、ロシアはもしジーメンスやI.G.ファルベンインダストリーエから科学者や技術者の供給を受ければ、おそらく9ヶ月以内に電磁分解工場のサンプルを建設できるだろうしかしそれでも実際操業に入れるのには3年かかるだろう、と推定した。また同氏の指摘によれば、この種の運営でもっとも大きな問題は、部品の交換や極度に精密な工具類の確保にある、とのことだ。ドイツなら、現在存在する基本的情報に基づいて類推すなら、生産段階までに15ヶ月から18ヶ月かかるであろう、フィアットを擁するイタリアも、15ヶ月から18ヶ月、イギリスなら1年でできるだろうと指摘した。

会議は12:30に昼食会のために休会 午後1時45分に再会



V.戦後の機構―産業人の見解

 バーンズ氏(国務長官)は、この計画を持続するため、戦後はどのような型の機構を設立すべきであろうか、と質問した。この質問を補足する形で、カール・T・コンプトン博士(科学技術研究開発局現業活動事務所長 マサチューセッツ工科大学学長)は、もっとも現実的な問題は、産業人の目から正当に見て、いかなる形の機構がこの分野における潜在力を最もよく引き出すことができるかである、と指摘した。

  ラファーティ氏(ユニオン・カーバイド社副社長)は、現在の政府・産業界・大学間のパートナーシップは継続すべきだと述べた。

 ブッチャー氏は、現在の機構は少なくとも後1年が継続すべきだと奨めた。更なる基礎開発の必要性は、特に(核エネルギーの)「パワー」点でその必要性が高まる、そしてそれは産業界においても十分に有用性が出てくるだろうと指摘した。カール・T・コンプトン博士は、特定の民間企業が核に関する研究人材を保持し、公開の形で政府予算に支えられて継続し、この分野の潜在力を評価するのが望ましい、と指摘した。

  カーペンター氏は、この懸命な努力全体の中で、産業界の積極的な参加は、恐らく今後も継続するであろうが、操業レベルにとどまっている。もっと幅広い基礎的研究にその必要性があるのではないか、と強調した。産業界は、この基礎的研究を、それ相当な規模で推進する立場にない。産業界の実用的研究を鼓舞すべく、政府がそれ相当な規模での基礎研究に責任を持つべきである、と述べた。この開発に関わる範囲は同心円的に巨大であり、民間産業界で行うべきではないと深く確信している、と述べた。国家的利益の観点からは、政府が圧倒的にこの役割を担うことは当然のこととして誰しも疑いようなことである。政府がこうした大規模な基礎開発計画を統御し財政的に支援を行うことは必要であるばかりでなく、ウラニウムの安定供給を責任をもって保障することにもなる。そして以下のような計画を推奨した。

      1.原子爆弾の積み上げ方式での貯蔵。
      2.非常体制を備えた工場の設置。
      3.基礎研究への傾斜集中化
      4.ウラン供給の安定的統御の保障

  上記第2項目に関し、ブッシュ博士は、基礎的研究の中においても実用的原材料の生産の継続は必須である、一定の実験(核実験のこと)の実施はこうした生産工場への道をあけておく意味で必須である、と指摘した。

  各業界の代表が委員会を辞去する際、産業界全体に替わってカーペンター氏がグローヴズ将軍の達成した素晴らしい業績に対して、多大なる評価を表明した。

 まだ議題を抱えているため、委員会は午後2時15分にハリソン氏の執務室で再開した。



W.戦後における機構―委員会討論

 コナント博士(国家防衛研究委員会委員長 ハーバード大学学長)は、
4人の科学者が戦後における機構に関するメモランダムを完成し、ハリソン氏の手を通じて陸軍長官に送付されたことを報告した。コナント博士はこの問題の大きな複雑性について言及し、この理事会メンバーには最高の力量と賢さが必要とされる、と強調した。
(ここで突然、理事会メンバー members of board of directors と言う言葉が出てくるわけだが、ここはこれまでの文脈から、戦後機構の理事会メンバーのことと解釈して訳を進めた。)

  ブッシュ博士は、4人の科学者から出てきた機構では国家安全に関する全体的研究機構の問題は考慮の必要なし、と提案されたことを報告した。またブッシュ博士は理事会が抱えるであろう問題の一つは各大学や研究グループに対する原材料や融資金の割り当て問題だろうとも述べた。各大学が研究目的で一定の品質を保った原材料確保の道を欲するだけでなく、パイロット工場への道確保も欲するだろうとも述べた。
  コンプトン博士はこの意見に賛意を表明した。
  コナント博士は暫定委員会はこうした細部の問題について決定するにはふさわしくない、それより恒久的な機構設立に導く勧告について責任を持つものである、こうした機構がこうした細部の問題を扱うのにふさわしい、と述べた。科学者から提出された文書の中で、必要な法整備のために、その基礎になる草稿を考慮すべき、としている点に賛意が示された。


X.直近の予算 (Appropriations)

  グローヴズ将軍はこの計画に割り当てられている直近の予算で、1946年の6月まで運営できると報告した。しかしながらバーンズ氏は、1946年の6月までに戦争が終了した場合、その後(1946年6月までに)未執行部分の承認は、米議会から取り消される感じがすると述べた。その場合委員会は、引き続き米議会がこの計画に予算を割り当ててくれるかどうかと言う問題に、すぐさま直面することになるだろう、議会にこの問題を引き続き取り上げさせようとすれば、関連した総費用の見積もりを仕上げる必要がある、と述べた。

  グローヴズ将軍は最近テネシーの計画地を訪ねて来てくれた5人の下院議員は工場に非常に感銘を受け、計画の国家的重要性とその影響の大きさについて、最も高く評価している風であった、と報告した。


Y.日本への使用

  バーンズ氏は次のように勧告し、委員会全体はそれに同意するものである。陸軍長官に以下の如くアドバイスがなされるべきである。最終的投下目標の選択は基本的に軍の決定に任すべきと云う共通認識を土台とした上で、現在の所の我々の見解は、できるだけ早く日本に対して原爆は使用さるべきである。また工場従事者の住宅に囲繞された軍事工場に対して使用さるべきである。さらに事前の警告なしに使用さるべきである。テストで小爆弾を用い、そして日本への最初の一撃は大型爆弾(発射型 ここではGun Mechanism と言う英語が使われている。ウラン爆弾が一方から他方へ同位元素U-235を発射してぶつけ、核分裂の連鎖反応を起こさせる構造をもっていたことからこう呼んだと思われる。)を用いることになる。


Z.広報活動
  ハリソン氏は、昨日の会議での議論と中間結論によって、アーサー・ページ氏が準備した大統領声明はすでに古くなっている、と指摘した。過去2−3日、長官(ハリソンの発言であること、前後の文脈から見てこの長官は、陸軍長官のスティムソン。)目標問題について、マーシャル、アーノルドの両陸軍大将と議論した。また恐らくキング海軍大将と再びマーシャル大将と議論もするだろう。投下目標の案件については、これは軍部の決定する案件なので、この委員会は最終決定するのにふさわしくないと考えられる。
 ハリソン氏は従って、委員会から付託された権能によって、進んでいる投下目標問題に関し、状況が許す委員会メンバーに参照し、次回会合までに委員会全員が熟考できうる声明草稿を仕上げてくるものとする。


[.法制化

  ハリソン氏は、必要とする法制化のために草稿を準備する問題は、早急に考えなければならないと声を高くして主張した。4人の科学者のメモランダムを草稿の基礎におくのが良かろうと述べた。委員会は、協力できる委員の支援を得て、ハリソン氏がこの案件を進め、次の委員会までに研究のために法案に含まれるべき主要な論点の概要を準備することに同意した


\.次回会合
 次回会合は6月21日午前9:30、陸軍長官の都合によって場所を決定することに同意した

  委員会は機構に関する提案及び法制化の必要性について考慮することに同意した。また委員会は広報活動に関し、その時々の状況を熟慮するものとする。

  会議は午後3:30に終了。


書記
R・ゴードン・アーネソン
合衆国陸軍中尉