(原文:http://www.nuclearfiles.org/menu/library/correspondence/strauss-lewis/corr_strauss_1949-11-25.htm)
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熱核爆弾(水素爆弾)開発に関する手紙
ルイス・ストロースからハリー・S・トルーマン合衆国大統領へ |
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ルイス・ストロースは、この時、1946年にできた米原子力委員会の委員の一人である。この手紙の日付は1949年11月25日となっているが、この年8月ソ連は原子爆弾の実験を成功させ核兵器保有国になった。ストロースの手紙はこうした状況を踏まえてかかれたものである。この手紙の中でストロースは熱烈に水爆(熱核爆弾)開発の必要性をトルーマンに説いている。ストロースは1953年、アイゼンハワー政権下で米原子力委員会の委員長に就任した。 |
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(*)青字は私の註である。 |
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(以下本文)
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1949年11月25日 |
親愛なる大統領 |
あなたもご承知の通り、戦争の間、ロス・アラモスで働く科学者たちから熱核爆弾(スーパー爆弾)のことが示唆されていました。
(※ |
ロス・アラモスはマンハッタン計画のロス・アラモス研究所のこと。ロバート・オッペンハイマーが所長で原子爆弾を完成させた。) |
ソ連の核実験に関するあなたの9月23日の発表に続く私のメモランダムによって、このスーパー爆弾開発に関する最近の考え方は大いに前向きなものがあると私は信じます。
(※ |
ソ連が現カザフスタン共和国セミパラチンスクで最初の原爆実験に成功したのは、1949年8月29日。9月23日にはトルーマンがこの実験成功の確認を行った。) |
私は11月9日付けであなたに原子力委員会から送られた手紙に先立つ議論には参加していましたが、太平洋岸に居ましたので、手紙作成そのものには参加していませんでした。恐らくはその手紙の中で、かなり決定的な勧告があなたになされていたものだと信じます。またもっとも議論の大きい領域に関する委員会の判断も、国務省・国防総省の見解と一緒になされていたと信じます。しかしながら、私の同僚(*他の原子力委員のこと)はこれらの見解は別々に示されるほうがいいとあなたが思っていると感じています。
(※ |
なんとももって回った言い方だが、要するにソ連の原爆保有と言う事態を受けてどう対処するかという問題である。当時の委員会の委員長、デビッド・リリエンタールをはじめとする他の原子力委員の見解は、原子爆弾の製造を増強した上で、核兵器の国際管理 機関を作ってソ連との核兵器独占をはかろうという考えだったと思われる。これに対してストロースは熱核爆弾、すなわち水素爆弾の開発に着手し、破壊力においてソ連を圧倒しようという考え方だった。この手紙の文面から察するに、国防総省・国務省は、リリエンタールの考え方に不満で、むしろストロースの意見に近かったと考えられる。想像をたくましくすれば、国防総省―国務省はこの時点ではすでに国防総省のいいなりだったーはストロースを使って水爆開発を進めていこうとしたという見方もできる。こう考えた方がストロースのその後の出世を考えてみると、納得がいく。) |
政策問題に関する委員会におけるそれぞれの相違は個人の見解として、あなたに送られた手紙の中に含まれていると思います。ディーン委員の見解と私の見解は正しく述べられてあり、主要問題とも基本的に一致しています。私は私の責任と私自身の言葉でこれらの問題について述べるのが適切であると信じます。
私は、アメリカ合衆国の可能敵に対して、完全なる軍備を装備しなければならないと信じています。この見解からすれば、必然的に、敵が保有するであろういかなる兵器を排除して、単一の兵器を持つのは賢明ではない、と言うことになろうかと信じます。
(※ |
ここはソ連が将来水爆を保有するであろうことを示唆している。) |
私は、大統領が原子力委員会に対して、高い優先性をもって熱核兵器の開発をすすめる指示をするよう勧告いたします。それは国防総省にとって価値のある兵器という判断のもとでの優先性であり、また国務省にとっては「一方的軍縮」(※すなわち水爆開発をしないこと)か、あるいは保有かの外交上結論へのアドバイスの下での優先性であります。あなたが 私の理由に興味を持たれるかも知れないと思い、メモランダムの形でまとめておきました。
(※ |
以下は添付のストロースのメモランダムである) |
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1949年11月25日 |
これは大統領は原子力委員会に対して、熱核兵器(※水素爆弾)の開発促進に再優先度を置くべきであるという私の勧告の理由を提供する同日付け手紙に付随するメモランダムである。 |
【前提条件】 |
(1) |
そのような兵器の製造は十分実現可能である。(すなわち、実現可能性は50−55%以上である。) |
(2) |
最近のソ連の達成結果から見ると、熱核兵器の製造は、彼らの技術的射程距圏内にある。 |
(3) |
無神論者の政府(※ソ連政府のこと)は、「道徳」的見地に基づいて熱核兵器の製造を思い止まりそうにない。 |
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(※ |
なんとも奇妙な論理展開ではある。ソ連は無神論者だから、道徳的見地に基づいて、水素爆弾の製造は思い止まらないだろうから、アメリカ政府は対抗上、先に水素爆弾の製造に着手すべきである、という内容になる。いわゆる核抑止論の論理展開、原爆投下正当化の論理展開と全く同じで、仮定に基づく恣意的な推測を、事実と見なして、それを根拠にして自分に有利な結論に導く、あのやり方である。) |
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(4) |
熱核兵器の製造の可能性は、すでに6年以上も前に示唆されている。そしてかなりの理論上の研究はなされており、ソ連に知られているかも知れない。少なくとも原理は確実に知られている。
(※ |
原理という点では、原爆同様科学者の常識であった。) |
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(5) |
この兵器の開発に着手する完璧な時期はここ2年だろう。そうすればソ連が数年間からこの兵器の開発に着手しているかも知れないので、十分に対抗できる。
(※ |
これまでの理由でもそうだったが、ストロースは先に水素爆弾を開発する、と言う結論を出しておいて、それに合致する理由を探して並べている。) |
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(6) |
アメリカ合衆国は、他の国より劣った軍事装備をしないというのが歴史的政策だった。(すなわち5:5:3の海軍比率などなど。) |
(7) |
明らかに限界のある原爆などと違って、提案されている兵器は、軍隊に通常占領されている地域に置いて動員されている軍事力に対して戦術的に採用できる。
(※ |
ここは水素爆弾が、戦術核兵器となるが、原爆はそうではないと云っているように見える。つぎの項目で水素爆弾は原爆より汚染が少ないと云っているので、そのことを指摘しているかのようにも見える。破壊力に置いて原爆より段違いに大きい水素爆弾が戦術核兵器になる、とは到底信じられないが・・・。)
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(8) |
11月9日付けの原子力委員会からの大統領への手紙の中で、「これらの爆弾が地球環境に危険なほどの放射能汚染を引き起こす可能性は小さい。恐らくは10%。」と述べている。原子力委員会が要請した研究によると、このような兵器が地球環境を汚染させるためには、数百発が必要と指摘している。環境汚染は、現在の原爆がかなりの程度使用されるために生ずるものである。
(※ |
この人物の嘘つき体質、デマ体質は度し難いものがある。ストロースは最後には自分の強引な論法のため、議会で宣誓下の偽証にとわれ失脚するのであるが、ここで述べていることも相当なものである。考えてもみよ。メガトン級の水爆を数百発地球上で爆発させれば、環境汚染の前に地球がなくなっている・・・。) |
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【結論】 |
(1) |
兵器一般の危険性はその性質の中に存在するのではなく、人間の姿勢の中に存在するのである。合衆国の一方的な軍縮(※すなわち水爆をもたないこと)は、いとも容易にソ連による一方的な(※水爆の)保有をもたらす。このようなみとおしに対しては私はまったく不満足である。 |
(2) |
原子力員会は大統領にこの兵器の製造が十分実現可能であると自信を持って提言する。:原爆に較べて核分裂物質が経済的である。:要する時間的要因:原爆に比較したときの特徴的性質。しかしながら、軍事戦略的重要性及び戦術的重要性に関する判断は国防総省に一任されるべきだし、友好国に与える影響あるいは一方的軍縮に関する見解に関しては、これは国務省の問題だ。しかしながら、専門家との討議による私の個人的意見は、この兵器は攻撃的兵器としても、我が国海外線に敵の侵攻を妨げる防御的兵器としても、強大な敵の軍事力に対して、決定的に有用であるかも知れないと云うことだ。 |
(3) |
私は、これがかつて見ないほどのスケールでの大量破壊をもたらすという点での議論に強い印象を持った。しかし、こうした議論は原爆が最初に思い描かれ、1941年11月5日の米国科学アカデミーの報告の中で「もの凄い破壊力をもつ」と指摘しているのと同じ議論である。また1945年6月16日の原子力に関する暫定委員会の科学顧問団が、その幾人かは現在の総合諮問委員会と同じメンバーで構成されているが、陸軍長官に対してなした報告の中で、「軽い核の間で発生する熱核融合反応は研究を要するもっとも重要なものの一つである。核分裂爆弾は、重水素やトリウムなど軽い核の反応を開始するものとして使われる。もしこの反応が実現できるとすれば、現在実現されようとしている核分裂爆弾の1000倍以上の爆発時エネルギー放出が見られる。」としている。この明言は、以下の勧告に先立つものである。「われわれはここで指摘した課題に関して研究を続けたいと思っている。」
(※ |
ある意味、陸軍長官スティムソンの編成した暫定委員会は、米原子力委員会の前身である。その暫定委員会の時にすでに科学顧問団は水爆の開発を提言していた。だから米原子力委員会がその勧告に従わない法はない、というのがこの項目でも趣旨であろう。しかし、ここはオッペンハイマーを当てこすった記述と見られないこともない。暫定委員会の時の科学顧問団のメンバーと米原子力委員会の総合諮問委員会のメンバーには同じ人物がいる、とストロースは指摘しているが、ロバート・オッペンハイマーもその一人である。そのオッペンハイマーは、水爆開発反対論者であり、ストロースと対立していた。暫定委員会の時には賛成しておいて、今になって何故反対に回るのだ、と言うわけだ。
この後、ストロースは1953年、アイゼンハワーに指名されて原子力委員会の委員長になるが、この時の条件はオッペンハイマーを総合諮問員会から外すと言うものだった。ストロースが委員長になったのち、オッペンハイマーは完全に米原子力委員会から追放される。) |
米原子力委員会の総合諮問委員会の「超爆弾」開発に関する最近の提言は、超爆弾(水素爆弾)開発には反対であり、原爆の爆発力を増強し、従って原爆の破壊地域と殺人能力を増そうという「ブースター計画」を提言している。こうした立場や議論は極めて強い主張とはいえず、また全員一致の科学的見解でもない。 |
(4) |
明白に原爆も現在提案されている熱核兵器も考えるだに恐ろしい兵器である。すべての戦争は恐ろしいものだ。しかしながら、戦争を完全に排除できる手段が見つかるまでは、今の時期アメリカは熱核兵器の開発に着手すべきでないとした大統領に対する勧告を出した私の同僚に、私は賛同できない。それは以下の理由による。
(a) |
この声明は決してクリムレンに信用されないだろう。 |
(b) |
もし、今後水爆の開発を進めると言う声明を出した場合、あるいはその時には、その声明は明確な敵対意志を表明するものとして見なされるだろう。 |
(c) |
軍縮が普遍的になるまでは、われわれの兵器敞はわれわれの技術力が許す限り最大限の能力以下であってはならない。 |
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【勧告】 |
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総体的に云って、大統領は米原子力委員会に対してすべて可能な限りの費用を投じて熱核兵器の開発を促進するよう指示すべきである。
(※ |
この人物の強引な論法には辟易する。結論を先に決めておいてその結論にあわせてすべての屁理屈を総動員する、といった案配だ。しかしこの最後の勧告部分では、やっと本音が出ている。つまり、この開発に、可能な限りの連邦予算を使いなさい、ということだ。これが究極、軍産複合体制の論者の主張となる。) |
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