(2010.5.6)
<参考資料> 2010年NPT再検討会議


イランとアメリカの激突の意味、NPT再検討会議


 潘基文の話

 国連の2010年NPT再検討会議の英語のページhttp://www.un.org/en/conf/npt/2010/がなかなかつながらない。世界中からアクセスが殺到しているのだろうと思う。

 別項の行事予定表(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/NPT/2010_calendar.htm#top>)の通り、NPT2010年再検討会議は、5月3日(月)10時30分から、国連総会場で始まった。
日本の毎日新聞によると、

【ニューヨーク大治朋子】・・・国連の潘基文(バンキムン)事務総長は3日、演説し、今年8月6日に広島で「核兵器なき世界」を求める意思を表明すると述べたうえで、核軍縮の推進、核実験全面禁止条約(CTBT)の発効、中東非核化などを目指す考えを示した。』
http://mainichi.jp/select/world/news/20100504ddm003030090000c.html

ということで、いつもながらこの人の話はしまらない。

 イランのテレビ局プレスTVの記事(<http://www.presstv.ir/detail.aspx?id=125313&sectionid=3510203>)によると、潘基文の話はおおよそ次のようだったという。

 【NPT再検討会議で開会演説をする国連事務総長潘基文。(プレスTVの前出のサイトよりコピー・貼り付け)】
 ニューヨークでの不拡散再検討会議を開会するに当たって、国連の事務総長潘基文(Ban Ki-moon)は、世界は核軍備諸国に軍縮に向けて「行動する」ことを期待している、と述べた。

 本日は人類にとって極めて重要な日です。希望と期待は高まっています。世界の人々は行動することを求めています。核兵器の破壊的力から防禦するための行動を。」

 潘基文は2010年NPT再検討会議の初日、国連本部に集まった代表団に向けて語った。

 潘基文は続けて次のように主張した。

軍縮と不拡散は私の中で最優先事項でありました。そして長い間無視され続けて来たことを残念に思います。だからこそ、多くの核兵器に対して私は警鐘を鳴らし続けて来たのです。われわれの時は今だと確信できるような具体的な行動計画を前進させて来ました。」

 潘基文はカザフスタンの元セミパラチンスク実験場の惨禍について注意を喚起した上、ヒロシマへの最初の原爆投下によって結果した破壊から65年たった今、「世界は依然として核の影のもとでらしている。」と警告した。』

とこの記事は潘基文の演説について述べている。


 「反戦ドット・コム」の記事

 この演説に続いて一般討議が始まるのだが、私が国連のサイトにアクセスしたかったのは、順番だ。国連の全体会議の演説の順番はくじ引きで決まるのだそうだが、地位が高い場合は優先的に順位があがる。

 今回の場合は、トップバッターはエジプトの外相、イランは大統領が演説するのでエジプトについで二番目、そのあと国務長官が演説するアメリカと、報道を総合すると、この順番になる。
たびたび引用する「反戦ドット・コム」のジェイソン・ディッツは、「アフマディネジャドの演説中、アメリカは退席」のタイトルで次のような記事を5月3日付けで掲載した。
(<http://news.antiwar.com/2010/05/03/us-walks-out-during-ahmadinejad-speech/>)


 アメリカの高官連中は、イギリス、フランスの同盟者と共に、イラン大統領の演説中に、今日国連総会場から出ていき強い調子で意見を表明した。アフマディネジャドの演説は、軍縮を要求しイランに対して核攻撃をするというアメリカの威しに対して抗議する内容だった。』
 アフマディネジャドは、第三者によるウラン濃縮に対する支持を繰り返し、アメリカによる核第一撃の威しは核兵器不拡散条約違反と見なすべきだ、と繰り返した。また彼は非署名諸国もNPTに参加すべきだ、と主張した。』


 ガン治療用のウラン濃縮

 前半部分の「第三者によるウラン濃縮」というのは、現在イランが行っている原子力発電用のウラン濃縮のことではない。今年2月に開始した、ガン治療用の20%未満濃縮率の放射線治療用の原料となるウラン濃縮のことだ。

 イランは原子力発電用燃料以外のウラン濃縮を行う意図はない。放射線治療用のウラン濃縮ももともとロシアがやってくれればそれでいいと、いったん合意した。ところがいざ本契約の段階になると、ロシアがウラン濃縮をして、その濃縮ウランをフランスに渡してフランスが、医療用原子炉ペレットにするという内容で、それにアメリカが加わる契約内容であった。「イランーロシア」の2カ国間契約だったのに、強引にフランスとアメリカが割り込んで、4カ国契約の内容になった。イランは、これまで何度も約束を破ってきたフランスを全く信用していない。ところが、米・仏・露は下交渉の時と打って変わって、4カ国契約を主張して譲らない。

 こうして膠着状態になったまま、今年2月イランは放射線治療用の原料ウラン濃縮を開始した。ところがこれは、イランにとっても利益にはならない。20%未満濃縮ウランを製造して見たところで、肝心の医療用原子炉に格納するペレットを製造する技術がないからだ。イランとすれば20%未満濃縮ウランではなく、医療用原子炉ペレットが必要なのだから。

 だから、イランはその後、フランスが直接絡まない20%未満ウラン濃縮をしてくれる第三者を捜している。この3月イランのモッタキ外相が日本を訪れたが、この目的はその第三者に日本がなってくれないか、という交渉だったらしい。

 イランは日本に期待し続けているが、全く日本を理解していないようだ。日本がアメリカの意向に逆らって、国際舞台の場で独自性を発揮するなどと云うことは今の体制ではありえない。

 だから、外務省はモッタキの申し出を断ったようだ。

 ディッツが書いている「第三者によるウラン濃縮に対する支持」というのはこういう意味である。
 ( このいきさつについては「イラン核疑惑:世界を駆けめぐる不気味な戦争待望論」<http://www.inaco.co.jp/isaac/back/027/027.htm>の中で比較的詳しく書いたので、そちらを参照されたい。とにかく日本で流される報道ではなにがどうなっているのかさっぱりわからない。)


 アメリカの「核の威し政策」

 「アメリカによる核攻撃の威し」というのは、4月初旬オバマ政権が発表した「核態勢見直し」(NPR)の中で、「NPTの核不拡散義務を守らないイランや北朝鮮は、アメリカの核攻撃の対象になりうる。」と発表したことを指している。

 私からすれば、オバマ政権は無茶苦茶である。「NPTの義務を守っているかどうかはアメリカが判断する。そしてその結果、NPTの義務を守っていない国は、核攻撃の対象となる可能性がある」と云うのだから。しかもアメリカをはじめ、NPTの核兵器保有国は1995年の再検討会議の時に、「NPT加盟の非核兵器保有国」に対しては、「核攻撃しない。」という宣言、つまり「消極的安全保証」を与えているのだから。オバマ政権が、北朝鮮はともかく、NPT加盟国のイランに対して「核攻撃する可能性」があるというのなら、1995年の「消極的安全保証」宣言をまず取り消してからにしなければなるまい。
 ( このいきさつも『雑観「核の威嚇」政策に沈黙を守るヒロシマ・ナガサキ』
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/zatsukan/008/008.htm>と
『オバマ政権と日本の外務省のプロバガンダを垂れ流す広島の中国新聞』
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/zatsukan/009/009.htm>で詳しく書いたので、そちらを参照されたい。)

 後でも詳しく見るが、オバマ政権の「核攻撃威し政策」を、当然イランは今回再検討会議で問題にするだろうと思っていたら、のっけから大問題になった。


 クリントンの怒り

 さてジェイソン・ディッツを続けよう。

 『  その後の演説で、国務長官ヒラリー・クリントンは怒りをあらわにして、アフマディネジャドの“野蛮な告発”を非難した。そしてイランのNPT加盟国としての状況は核兵器不拡散条約そのものを危険にさらしていると主張した。

 クリントンの主張はいささか皮肉である。イランを核攻撃するというアメリカの威嚇は国防長官ゲイツやその他から公式に明らかにされた。イランが「NPT」に違反しているという主張には、これまでいかなる事実の切れっ端も公式に明らかにされたことがないのだから。』
  
 とディッツはこの記事を結んでいる。

 もともとアメリカは、今回のNPT再検討会議にアフマディネジャドに来て欲しくなかったようだ。15人の下院議員が「アフマディネジャドにアメリカ入国ビザを発給すべきでない。」という内容の手紙を大統領オバマに出すという前哨戦もあった。しかし国連に出席するための国連加盟国の元首に対してアメリカの入国を拒否するなどとはできよう筈もない。しかしアメリカはギリギリまでビザの発行を遅らせた。


 ロシアのノボースチ通信

 ここの雰囲気をロシアのノボースチ通信社は4月30日付けの「クリントン、ニューヨークでの核の話し合いを邪魔するな、とイランに警告」と題する記事(<http://en.rian.ru/world/20100430/158811412.html>)で次のように書いていた。

【NPT再検討会議を邪魔するな、と警告するヒラリー・クリントン。(ノボースチ通信社の前掲サイトからコピー・貼り付け)】

 ロシアは先頃、イランの経済制裁には賛成する、という意向を明らかにした。もともとロシアもイランに「ウラン濃縮」などということはやって欲しくない。ロシアには大量の兵器級濃縮ウランがある。これを現在原子力発電用のウラン燃料に転換中だ。この点ではアメリカ、フランスなどと完全に利害が一致している。かといって非同盟諸国の意向も気になる。客観的に云って「平和目的のウラン濃縮はNPTで認められた権利」というイランの言い分は、誰が見ても正しい。だからイラン制裁にロシアが回れば、こうした非同盟諸国の非難はロシアにも向かってくる。もともと、イランは今回の問題ではロシアを「風見鶏」と見ている。ロシアがイラン制裁に賛成すると云うことは、アメリカと何か取り引きが成立した、と見なくてもはなるまい。

 そうした目で、このノボースチの記事を読むと、行間が読み取れて面白い。

 イランの大統領、マフムード・アフマディネジャドは来週(5月3日)から開かれる国連の核会議で歓迎されないかも知れない、もし彼がこの話し合いを邪魔するようなら、とアメリカの国務長官は語った。

 核不拡散条約(NPT)再検討会議は5月3日ニューヨークで開始される。

もしアフマディネジャド大統領が来たいとして、イランはNPTのもとでの不拡散要求を彼ら自身遵守すると声明すれば、それは全くグッド・ニュースだろう。そしてわれわれはそのことを歓迎する。」

 と木曜日(4月29日)、ヒラリー・クリントンは語った。

しかし、もし彼が会議に出席して、この極めて重要な地球規模の取り組みからいくらかでも転換させられると信じているなら、あるいはイランにかけられている疑い、私自身は疑う余地はないと思うが、に対して何か混乱を投げかける原因となるなら、私は彼が聴衆に受け入れられるとは思わない。」

 と彼女は付け加えた。

 アメリカの国務長官は以前にも、アフマディネジャドは会議に出席するためにはビザを取得する必要があると述べていた。

 西側の大国は、イランの核計画は核兵器を製造するためだと疑っている。一方テヘランは民間用原子力エネルギーで必要な核技術を追求しようとしているだけだと主張している。

 アメリカの大統領、バラク・オバマは4月の初旬、国連安全保障理事会はこの春のできるだけ早い機会に新たな制裁をイランに課すことができうる、と語った。』


 「イランは不拡散体制を危険に曝す」

 このノボースチ通信は、5月4日付けで、「クリントン−イランは不拡散体制を危険に曝している」と題する記事を掲載した。(<http://en.rian.ru/world/20100504/158858062.html>)

 アメリカのヒラリー・クリントン国務長官は、「ルールを軽蔑している」とイランを批判した。そしてニューヨークにおける国連核会議の間、不拡散体制を危険に曝している、とも批判した。』

 アメリカのイランに対する批判は、少なくとも公式には、「ルールを守らない。」「NPTの義務を遵守していない。」という抽象的な批判が絶対的弱点だ。

 クリントンは、記者会見の途中で「私はイランが核兵器開発を行っている、と信じている。」と云うが、決して公式には、イランが核兵器開発をしている、とは断言しない。証拠が挙げられないからだ。イランや非同盟諸国が「証拠をあげろ。」と迫っても、「証拠がないからと云って、核兵器開発をしていないということにはならない。」と逃げてしまう。

 つまり「証拠」「事実」の問題を「信念」の問題にすり替えてしまう。いまでは「核兵器の設計図が格納されているパソコンが発見された。」とも「パキスタンから購入した遠心分離器に兵器級ウランの残滓が付着していた。」とも云わなくなった。

 徹頭徹尾、「イランは核兵器開発の疑いがある、われわれはそう信じている。」と信念の問題にしたり、あるいは「原子力発電用の濃縮ウラン(濃縮率3.5−5%)から、兵器級の濃縮まで2−3年もあれば達成するだろう。あと一歩だ。」という推測を述べたり、とにかく疑いの合理的根拠を挙げられないのが弱い。


 長崎もイラン核兵器開発を信じている

 同じ手口は、ほとんどアメリカと日本の大手メディア、学者、研究者、政治家が使っている。だから「イラン核疑惑」を言い立てても、だれも自分の根拠を挙げられない。

 広島でも同様だ。先日、この手口を稚拙に使っている中国新聞の記事を批判した。
(「雑観 オバマ政権と日本の外務省のプロバガンダを垂れ流す広島の中国新聞」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/zatsukan/009/009.htm>)

 おそらく長崎でも同様だろう。というのは、09年8月9日の「長崎平和宣言」で長崎市長・田上富久はつぎのように云っているからだ。

 さらに徹底して廃絶を進めるために、昨年、潘基文国連事務総長が積極的な協議を訴えた「核兵器禁止条約」(NWC)への取り組みを求めます。インドやパキスタン、北朝鮮はもちろん、核兵器を保有するといわれるイスラエルや、核開発疑惑のイランにも参加を求め、核兵器を完全に廃棄させるのです。・・・

 オバマ大統領、メドベージェフ・ロシア大統領、ブラウン・イギリス首相、サルコジ・フランス大統領、胡錦濤・中国国家主席、さらに、シン・インド首相、ザルダリ・パキスタン大統領、金正日・北朝鮮総書記、ネタニヤフ・イスラエル首相、アハマディネジャド・イラン大統領、そしてすべての世界の指導者に呼び掛けます。』
(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/2009_07.htm>を参照のこと。)

 と述べているからだ。イランのアフマディネジャドは核兵器保有国の元首なみに扱われている。

 田上がイランは核兵器を開発していると信じていることは疑いない。「核開発疑惑のイラン」とは随分思い切ったことを公の場でいうものだと驚いたが、その割にはイスラエルについては「核兵器を保有するといわれるイスラエル」と慎重だ。

 田上が平和宣言でここまで云うと云うことは、これは田上個人の信念ではない。広島の平和宣言は市長の秋葉忠利が個人的に制作するが、長崎の「平和宣言」は、市民の数回の議論の結果制作されている。つまり文字通り「長崎民主主義」の産物だ。田上個人の信念ではない。長崎市民の信念だ。私がこれを「信念」だ、というのは証拠が示されていないからだ。他の誰でもない、長崎市民の調査と研究に基づく「証拠」が挙げられていない。

 多くの長崎市民もまた、イランは「核兵器を開発中」と信じているに違いない。

 証拠を示さず、噂とデマだけで白を黒と言いくるめようとする「歴代アメリカ政権」の手口は、広島・長崎の市民まで汚染している。せめてIAEAの報告ぐらい引用したらどうか、と思う。しかしオバマ政権は、IAEAの報告を引用できない。エルバラダイ時代はアメリカに都合のいい報告書は提出しなかった。
(現在の天野事務局長時代は、どうかわからない・・・。)


 スワップの枠組み

 さてノボースチ通信の記事を続けよう。

「イランはその説明責任を巧みにかわして、自分自身の過去の記録から注意をそらそうとありとあらゆることをするだろう。」と、国連本部の核不拡散再検討会議に集まった189カ国の代表団に対して(クリントンは)強調した。

 彼女はイスラム・イランの議論かまびすしい核計画について、それは西側諸国が核兵器製造を目的としていると疑っているのだが、「核不拡散体制の将来を危うくするものだ。しかしイランはそれを転換し、切り分けすることには成功しないだろう。」と付け加えた。

 また同時に彼女は、会議代表団に向けた演説後の記者会見で、アメリカは依然としてIAEAが何度が提案している「スワップの枠組み」に対するイランの前向きな回答を待っている、イランの指導者がこの提案を受け入れる徴候はないにも関わらず、とも記者団に語った。』

 ここでクリントンが言う「スワップの枠組み」というのは、昨年いったん合意しかけた放射線治療用のウラン濃縮事業に関することだ。

 2009年、イランがガン放射線治療用の濃縮ウラン、もう少しいえば、これを特殊金属棒にした治療用材料を必要とし、IAEAに入手を依頼した。この話にすぐ飛びついたのがフランス、ロシア、アメリカだ。

 少なくとも09年10月20日ごろまでに、フランス、ロシア、アメリカの三カ国は、放射線治療用濃縮ウラン特殊金属棒を必要とするイランに対して、「イランがこれまで在庫した一定量の低濃縮ウラン(濃縮度3.5%)を提供してくれれば、それを加工して放射線治療用のウラン金属棒を提供しよう。」という提案をした。

 これが日本や西側諸国のいう「5+1」提案だ。

 09年10月21日、この「5+1」提案でイランが合意する提案の草案が、エルバダイ立ち会いの下で、ウィーンでまとまった。

 しかし、後に本案が示されると、イランはこれを蹴った。草案と本案では肝心な点が違っていたからだ。

 草案では、この取り引きは「イランとロシア」の2国間契約だった。イランとすれば、ロシアが責任を持ってウラン金属棒(ペレット)を提供してくれれば問題はない。ロシアをそこまで信頼していないわけではない。
大体いつまでたっても請け負ったイランの原子力発電所をなんのかんのといって稼働させないロシアも段々信用できなくなるが・・・)

 ロシアが、イランが供給する3.5%濃縮ウランを原料にしてフランスだろうがどこだろうが、下請けに出すのは問題はない。それはロシアの問題でイランの問題ではない。最終的にロシアが金属棒の供給に責任をもって呉れればそれでいい。

 ところが、本案では、20%ウラン濃縮はロシアとの契約、金属棒の供給はフランスとの契約、医療用原子炉に関する問題はアメリカとの契約と4カ国契約だった。

 イランが保有する医療用原子炉はアメリカの提供である。

 アメリカはともかく、肝心要のペレットの供給責任がフランスにあるというのはイランとしては全く認められない。過去のいきさつからしてフランスは、イランとした重要な約束を一度として守ったことがないからだ。今回も守らないことは目に見えている。

 だからイランは蹴った。フランス、ロシア、アメリカの三カ国は自分たちの提案を撤回しない。イランも譲らない。
フランスがもう少し信用のできる国なら良かったのだが・・・。事情を調べるにつけ、フランスの歴代政権はウソのつき通しだった、ことがわかってくる。)

 膠着状態のまま、2010年2月8日、イランは医療用核燃料の濃縮を開始した。20%濃縮だと「高濃縮ウラン」ということになるので、イランは20%未満の濃縮をIAEA査察官立ち会いの下で開始した。このことはIAEAも確認している。

 しかしイランが欲しいのは、ペレットであって、20%濃縮ウランではない。だから前述のように、イランは信頼のできる第三国に責任をもってこのペレット供給をして欲しい、としてまず日本に目をつけたわけだ。

 またこのノボースチ通信の記事の中で、ヒラリー・クリントンがいう「スワップの枠組み」というのは、あくまで4カ国契約のことを指している。

 イランは到底飲みそうにない。
 以上のいきさつは「世界を駆けめぐる不気味な戦争待望論」<http://www.inaco.co.jp/isaac/back/027/027.htm>の中の「米ロ仏の提案」「東京外語大学中東ニュース」項以降に比較的詳しく書いた。またイランがなぜペレットを必要とするかは「医療用ウラン濃縮」の項に比較的詳しく書いたのでそちらを参照されたい。)


 再び「核の威嚇」ノボースチ

 ノボースチ通信の記事を続けよう。

 イランの大統領、マフムード・アフマディネジャドは月曜日(5月3日)彼の演説を西側大国の二重基準を糾弾することに使った。

 「残念なことに、アメリカの政府は核兵器を使用したばかりではない。今もイランを含む他の諸国に対してそのような兵器を使うと威し続けている。」

 と彼は云った。

 「イランの大統領はNPTを改善するためにここにやってきたのではないことは明らかだ。」とクリントンは応じた。

 「彼は(アフマディネジャドは)、その国際的な義務を果たすことに失敗した彼自身の政府から注意をそらせ、国際社会を無視して説明責任をないがしろにし、NPT条約を強化しようというわれわれの共通した関与を萎えさせるためにやってきた。しかし彼は成功しないだろう。」

 と彼女(クリントン)は云った。クリントンはアフマディネジャドのコメントを否定し、「相も変わらぬ退屈な非難であり、時には野蛮な責め口調だ。」として片付けた。

 「今日から、アメリカはわれわれの核兵器の貯蔵数を公表する。そして1991年以来われわれが破壊してきた核兵器の数を公表する」

 とクリントンは語った。

 「だから、アメリカがそうすることを軍縮努力の一部だということを疑うものにとって、これが事実だ、これがわれわれの関わりかたなのであり、はっきりした間違うはずのないサインを送るものだ。」

 と彼女は続けた。

 その後すぐに、アメリカ国防省(DoD)はアメリカが合計5113の核弾頭を貯蔵していることを明らかにした。』

 とこのノボースチ通信の記事は結んでいる。アフマディネジャドの演説は、少なからぬ事実を含んでいるのに対して、クリントンの演説はボキャブラリーは豊富なものの、事実をまったく含んでおらず、100%彼女の解釈であり、信念であることが特徴だ。

 貯蔵核兵器数は、アフマディネジャドの演説があろうがなかろうが、発表される予定だったのか、それともアフマディネジャドの演説次第では発表する予定だったのかはうかがい知れないが、いずれも国防省との緊密な連絡があったことだけは、この記事から推測できる。


 ロイター電

 そこでアフマディネジャドがどんな演説をしたのか、やはり知りたくなる。5月3日付けロイター電は、「イラン:“恥知らずな”核の威しでアメリカを罰する」(<http://www.reuters.com/article/idUSTRE6423OK20100503>)という表題でルイ・シャボネー(Louis Chabonneau)の署名入り記事を掲載している。

【5月3日、NPT再検討会議での一般討議で演説するイラン大統領アフマディネジャド。写真説明には議場からの拍手に手を振るアフマディネジャド大統領とある。(前掲ロイターのサイトからコピー貼り付け)】

 (ロイター)核兵器を「おぞましく、恥知らず」と呼びつつ、イラン大統領マフムード・アフマディネジャドは、月曜日国連でアメリカのように核兵器を使うと脅すような国は罰すべきだと主張した。・・・

 年次国連総会の集まりで過去そうしてきたように、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツやその他の国の代表団はアフマディネジャドの火の出るような演説の間、会場を出て行った。』

 アルジャジーラの別記事によると、退場劇は年中行事で、今回もアフマディネジャド演説の間は退場する取り決めができていたそうだ。従ってイラン側もそこは十分予測している。

 「核軍備を保有していることは誇りの源とはならない。」

 アフマディネジャドは1970年の核不拡散条約の189カ国の署名国の1ヶ月にも及ぶ再検討会議の開始時点でこういった。

 「核軍備をしていることは、むしろおぞましく、恥ずべきことである。さらに恥ずべきなのは、そのような兵器を使用したり、あるいは使用すると脅すことである。」』

 これはなかなかきつい一発である。云うまでもなくアメリカは、広島と長崎で原爆を使用した。またつい最近オバマ政権は、イランや北朝鮮に対して、「核兵器を使用するかも知れない。」と威嚇したばかりだ。ヒロシマとナガサキは今でもアメリカにとって大きな傷口である。今までアメリカに遠慮して誰もこの傷口には触らなかった。
例えば「アメリカが失った利益」(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/USA_SP/strategic_
posture_4-2_ext1.htm
>を参照の事。)

 アフマニネジャドは、今回この会議に参加した最高位の高官であるが、「核兵器を使うと脅すこと、あるいは平和的核施設に対して攻撃を加えることは、国際平和と安全を侵犯するものと見なす」ことを要求した。

 そのような威しを行う国は、国連からの「速やかな反応」に直面すべきであり、NPTのメンバーから追放される(be ostracized)べきである。

 クリントンは後で、イランのようなNPT条約を侵犯するような国は似たような厳しい罰を与えるべきである、と要求した。

 アメリカとその同盟国はイランを、民間用原子力計画の表層のもとに、核兵器を製造する能力を開発していると糾弾している。テヘランはただ電力を起こそうとしているだけだ、と主張している。しかし、イランは国連の査察官から微妙な核活動を隠していたという長い履歴を持っている。

 アフマニネジャドが、イスラエルはその「テロと侵略」で隣国の脅威になっており、また無条件でワシントンとその同盟国の支援を享受していると攻撃している時、西側が退場した。

 イスラエルは、核軍備国であるインドやパキスタン同様NPTに決して署名しない。イスラエルは一定規模の核兵器を持っていると見なされているがしかしその存在を認めもしなければ否定もしていない。』

 このロイターの記事は、西側の報道にしては珍しく、アメリカやフランスの言い分を無批判に書いていない。


 アメリカ、マクラチー新聞

 次に、アメリカの新聞シンジケート、マクラチー・ニューズペーパー(McClatchy Newspapers)の5月3日付け、ジョナサン・ランディ(Jonathan S. Landay)の署名入り記事で、マイアミ・ヘラルドの掲載された「アメリカ、イギリスの代表、アフマディネジャドが核計画を防衛中に退場」と題する記事を見てみよう。
(<http://www.miamiherald.com/2010/05/03/1610933/us-british-envoys-walk-out-as.html>)

 国連―イランの大統領、マフムード・アフマディネジャドは、彼の体制が核兵器敞を開発中だという“信頼するにたる”根拠はない、と』

 さらにこの記事でも、
アフマニネジャドは、イランに対してイランに対する核攻撃を行う選択肢を留保するとしたオバマ政権を攻撃した。』

 とこの点に着目している。また、
彼はまた、アメリカや他の核大国は自ら核兵器の貯蔵を行っていながら、他の諸国が平和的核技術にアクセスすることを(核不拡散を理由に)否定している、と告発した。』
核兵器諸国が犯している最大の不正義の一つは、原子力エネルギーと核軍備を同一視していることだ。』


 核兵器の犯罪性

 アフマディネジャドは、彼の演説の中で重要なことを幾つか云ってきた。

 その一つは、「核軍備をしていることは、むしろおぞましく、恥ずべきことである。さらに恥ずべきなのは、そのような兵器を使用したり、あるいは使用すると脅すことである。」としている点だ。

 これは、単純素朴だが、極めて重要な思想だ。

 20世紀に置いては、核兵器を保有することは「大国の証拠」だった。そして核兵器を保有している国が大国として、他の諸国から尊重され、畏怖されてきた。そして世界の政治を牛耳ってきた。国連の安全保障理事会で拒否権を持つ国はすべて核兵器保有国である。北朝鮮が核実験に行った時、北朝鮮のメディアは「これで北朝鮮も大国の仲間入りをした。」と報じた。嗤うべしである。北朝鮮は大国の仲間入りをしたのではなく、「恥ずべき諸国」の仲間入りをしただけだ。

 しかしアフマディネジャドはこうした考え方を真っ向から否定する。彼によれば、「核兵器」を装備すること自体「おぞましく、恥ずべきこと。」なのだ。

 この考え方を押し進めていくと、フィリピンで成立している「非核兵器法」の考え方につながっていく。フィリピンの「非核兵器法」は、核兵器を取り扱うこと自体を犯罪と規定している。そのための刑事罰すら具備されている。

たとえば、

第十条(罰則)

本法律の第五条に於て違法或は禁止と宣言されている行為を犯した者は以下のように処罰される。

(1) 違反が核兵器を含む場合には、裁判所の判断により、20年ないし30年の禁固、または、
(2) 違反が部品又は構成部分、或は核兵器関連設備に関わる場合には、裁判所の判断により、6年ないし12年の禁固。

違反者が、船舶又は車両或は航空機、設備又は施設の、船長、指揮官、責任ある職員及び乗組員又は補助職員であるならば、場合に応じ、また彼らの違反への関与の程度に応じて、船長、指揮官或は責任ある職員は上記に規定されたうち最高の処罰、乗組員又は補助職員の構成員は上記に規定されたうち最低の処罰を受ける。

核兵器を組み立てる共謀が立証された場合には、すべての共謀者に対して上記に規定されたうち重い方の処罰が科される。』
(「フィリピン非核兵器法案」
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/philippines_2.htm>)

 この考え方を踏襲すれば、さしずめオバマも、メドベージェフも、サルコジも、ブラウンも、胡錦涛も、みんな揃って、公民権剥奪の上、禁固30年である。

 この法律は、「核兵器」を「麻薬」や「奴隷取り引き」並に人類に対するもっとも恥ずべき犯罪として取り扱っている。

 アフマディネジャドは、国連総会場の場でこのことを最初に指摘した現職の大統領ということになろう。

 私はこれが21世紀核兵器廃絶を準備する思想だろうと思う。


 核兵器と原子力エネルギーの独占

 アフマディネジャドが指摘するもう一つの重要な点が、先に引用したこの記事に出てくる、

核兵器諸国が犯している最大の不正義の一つは、原子力エネルギーと核軍備を同一視していることだ。』

 という指摘である。

 オバマ政権の目論んでいることは、「核兵器国の秩序」をそのまま「原子力エネルギーの平和利用」の分野に持ち込もうとしていることだ。そしてイランや多くの国は、単に金を出して、産出される「原子力エネルギー」の結果だけを消費する国に分類される。

 オバマ政権によれば、イランなどはウラン濃縮などを行ってはいけない国であり単に消費する国に分類している。こうして世界で40か50ばかりの「核エネルギー生産供給国」と150ばかりの「単純消費国」に分類し、これを新たな「平和利用原子力エネルギーの国際秩序」としようとしている。

 なぜこのことが、アフマディネジャドのいう「不正義」となるのか?

 NPTの「参加国平等の原理」と真っ向から対立するからだ。アメリカを始めとする核兵器保有国は自らの「核兵器独占権」を認めさせる代わりに、「平和目的のための原子力分野」では、「参加国平等の原理」を認めた。これは譲歩であり取り引きだった。

 オバマ政権は、事実上「参加国平等の原理」を「平和利用原子力エネルギーの国際秩序」に転換しようとしている。これが、オバマがプラハ演説で触れた「NPT体制の強化」ということの本質である。

 アメリカはイランを「単純原子力エネルギー消費国」の中に押しとどめたい。これが「イラン核疑惑」の本質である。だからアメリカにとってイランが核兵器開発をしているかどうかは問題ではない。「平和目的の原子力エネルギー生産」の根幹部分である「ウラン濃縮事業」そのものが問題なのだ。


 クリントンの不拡散体制とは

 イランは不拡散体制を遵守しているか、いないか?

 ヒラリー・クリントン、すなわちオバマ政権の、イランに対する非難は一言で云って、「イランは不拡散体制を遵守していないし、その積もりもない。そのような国は罰せられるべきである。」と云うことにつきる。イランは核兵器を開発している、という非難は「不拡散体制を遵守していない。」という命題をひっぱり出すための口実である。いわば言いがかりである。

 しかし「イランは不拡散体制を遵守していない。」という批判は、オバマ政権を含むアメリカ歴代政権のロジックからすれば、それなりに首尾一貫性がある。つまり「正しい」主張だ。

 ところがイランはアメリカを「不拡散体制を破壊する元凶だ」と非難している。

(アメリカは)いわゆる「抑止政策」の一部分を構成する核兵器の開発を続けているが、これは近年の大量破壊兵器拡散の主要な理由となってきた。』
(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/iran/tehran_03.htm>あるいは
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/zatsukan/007/007.htm>を参照の事。)

 こっちがこんがらがってくる。

 しかし詳細に両者の主張をトレースしてみると、両者が同じ「不拡散体制」という言葉を使いながら、定義が全く異なっていることがわかる。つまり「イランは不拡散体制を遵守しているか、いないか?」という問題の立て方は誤りであり、正しい問題の立て方は「両者のいう不拡散体制」はそれぞれどういう意味なのか?である。

 まずアメリカのオバマ政権のいう不拡散体制とは、「核兵器不拡散条約はアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5カ国がNPTで認める核兵器保有国である。この5カ国以外に核兵器保有をする国が現れれば、それは核兵器の拡散である。」という事になる。

 イランのいう不拡散体制とは、言い替えれば多くの非同盟非核兵器保有国の定義する不拡散体制とは、「NPTは少なくとも1995年及び2000年の再検討会議の後は、究極的な核兵器廃絶を目標とする国際的取り決めとなった。その観点からすれば、核兵器国が5カ国以上もあり、そこで核兵器保有国が自ら核兵器廃絶への努力をしていないのだから、これが拡散状態である。その元凶は、核抑止論を言い立て、拡大核抑止の傘を世界中に広げているアメリカである。」ということになる。

 つまり、アメリカ・オバマ政権は、NPTの確認する5つの核兵器国を固定化するところで「核兵器不拡散」論を展開している。

 イラン・アフマディネジャド政権は、核兵器保有国がゼロの状態を想定して「核兵器不拡散論」を展開している。

 これが第一の違いだ。

 次の違いが、アメリカ・オバマ政権は、「核兵器不拡散」論を「核不拡散」論に拡張して、そのまま自らの「核不拡散」の定義を援用している。だからオバマ政権にとって、核兵器であろうが原子力の平和利用であろうが、「核の技術」や「核の材料」が基本的には5核保有国以外に、あるいはアメリカが承認した国以外に拡散していくことは、立派な「核拡散」なのである。

 たとえば米印原子力協定によって、インドはアメリカの認める「核技術国」になった。だからアメリカがインドに核技術援助を行うことは、「核拡散」に当たらない。

 またアメリカは永年イスラエルに対して「核技術協力」を行ってきた。(例えば<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/obama_24.htm>などを参照の事。)だからイスラエルが核技術国になるのは「拡散」に当たらない。

 ところがイランは「アメリカの認める核技術国」ではない。だからイランが平和利用であれ、「核技術」を持つのは「拡散」なのである。

 だからクリントンのいう「イランは不拡散体制を遵守していない。」という主張は、アメリカからみるとそれなりに筋の通った主張なのである。

 問題はイランなど、アメリカから「核技術国」として認められていない国々もこのアメリカの論理に従うかどうかである。

 もちろん「平和的原子力エネルギー利用の権利は参加国の平等の権利」とするNPTの論理はイランの言い分を支持している。

 『核兵器諸国が犯している最大の不正義の一つは、原子力エネルギーと核軍備を同一視していることだ。』とするイランがアメリカの「不拡散定義」に真っ向から対決していることは明らかだ。

 しかし、これまでは正しい論理ではなく、力で「正義」が決められてきた。力こそ正義だった。

 だからもし私の考え方が正しいとすれば、2010年NPT再検討会議で、その力のダイナミズムがどのように転換していくか、が鍵を握ることになる。

 結論から言って、今のアメリカはもうかつてのアメリカではない、ということだ。


 超大国から相対大国

 ところが、オバマ政権はとんでもない計算違いをした。

 第一には、アメリカはもうかつての超大国ではない。G7やG8どころかG20の協力を得なければ、彼らの云う「国際秩序」を維持できないところまで来ている。その一方で新興国や途上国(その多くが非同盟諸国である)は、国内で中産階級を産生しつつ、経済成長のスピードを加速している。要するに彼らの力はかつてのように無視できなくなっている。彼らはもうかつてのように、大国のいうなりになる存在ではない。
「国際通貨基金(IMF)が推測する主要各国の経済成長 2007年―2013年」
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/world_data/GR_IMF.htm
あるいは「国際通貨基金-IMF-推測による世界各国のGDP推移」
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/world_data/GDP_IMF.htm
あるいは「アメリカ連邦政府総負債の推移とGDP比率 2010年2月」
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/Economy_of_the_US/07.htm>などを参照の事。)

 その代表格がイランだ。いいかえればイランの背後には、そうして力をつけてきた非同盟諸国が控えている。オバマ政権は彼らの力を過少評価した。あるいはそのことにまだ気がついていないのかも知れない。

 第二、オバマ政権を支える核問題や軍事問題、国際問題の指導者や専門家たちは、歴代アメリカ政権を陰に陽に支てきたし、その中でキャリアを積んで出世の階段を昇ってきた人たちだ。オバマ政権になって急に彼らの手法や発想が変えられるわけではない。
例えば「オバマ政権の核不拡散チーム顔ぶれ揃い、活動を開始」
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/obama_15.htm
「アメリカの戦略態勢議会委員会 各委員の履歴」
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/USA_SP/strategic
_posture_6-08.htm
>などを参照の事。)

 彼らは「超大国アメリカ」時代に育った人たちだ。「相対大国アメリカ」の今の現実がなかなか受け入れられない。ブッシュからオバマへシャッポを変えれば従来通用した方法や手法が通用すると思っている。

 この4月に発表された「アメリカの核態勢見直し」などは典型例であろう。イランや北朝鮮を名指しで威し上げれば、他の国は沈黙を守ると彼らは思ったかも知れないが、イランは孤立しなかった。逆に「核の威し」政策は、イランに逆襲される原因になった。非同盟諸国の結束が固いのかどうかは私にはわからない。ただ、はっきりしていることは、大国の云うなりになるのではなく、それぞれが自国の利益と独自性を主張しはじめていることだ。オバマ政権の指導層や実務家たちにこの現実がしっかり認識されているのかどうか疑問である。

 これを象徴する最近のエピソードがある。(本当かどうか私には確認する手段がない。)ただある記事で読んだのだが、いかにもありそうだと思わせるエピソードだ

 オバマがエジプトを訪問した時に大統領ムバラクに、「エジプトを核の傘で守ってあげましょう。」と持ちかけた。エジプトは大衆レベルでは、「反米・親アラブ」だが、支配層レベルでは親米だ。ムバラク政権も親米と見なされている。ところがムバラクはオバマの申し出を断った。「エジプトは誰の力も借りずに自分の力で守ります。」と。

 アメリカの核の傘にはいると、アメリカの世界戦略にがっちり組み込まれる。かつてアメリカが超大国だった時代には、それも一つの方策だが、今相対大国となったアメリカの体制に組み込まれることは、エジプトの支配階級にとっても得策ではない、と云う判断だろう。

 オバマ政権は、今回の再検討会議でイランを孤立させ、一気に「原子力エネルギー利用の世界新秩序」を確立しようという戦略だったが、再検討会議が始まる前にすでに、これは不可能と分析したのではないか。以上は私の推測である。


 中国新聞5月5日付け

 マクラチー新聞の記事から相当に脱線した。マクラチーのランディ記者の書くアフマディネジャドの演説の引用を続けよう。

 「実際のところ、これらの国(核兵器保有国であり核先進国のこと)は、排他的に核兵器と原子力エネルギーを独占しようと模索している。というのはそうすることで、彼らは国際社会に彼らの意志を押しつけることができるからだ。」』

 この記事は、結局イランが核兵器開発をしていることは先ず間違いない、というニュアンスで締めくくられる。

 2010年NPT再検討会議は、のっけから「イランとアメリカ」の激突から始まった。私はこれは単なる「非難合戦」とは考えない。

 核兵器を巡る「新思想」と「旧思想」の対立、国連を含む世界の民主化の問題、「力による支配」を脱する新しい21世紀の国際関係の構築、など主要な対立軸を含んだ「激突」だと考えている。