(2010.5.21)
<関連資料> 2010年NPT再検討会議

<参考資料>5月15日−17日、テヘランで開催された「G15」サミット

 テヘランは、「核兵器のない世界」を標榜しつつ、永遠の核兵器保有を目指し、変わらぬ力による支配体制を維持しようとするアメリカのオバマ政権にとって、「梁山泊」と化しつつあるようだ。(実際オバマの「核兵器のない世界」は、永遠に的を射抜かない「ヘラクレスの矢」だ。詭弁に満ち満ちている。)

 2010年5月15日から5月17日まで、テヘランで「G15」会合が開かれた。その前4月17日(土)18日(日)の両日、「不拡散及び軍縮に関する国際会議」(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/iran/03.htm>を参照の事)が開かれた。そして「G15」会合のサイド・イベントとして、5月17日にはイラン、トルコ、ブラジル3カ国間で「核燃料スワップ合意」が発表された。(<「イラン、トルコ、ブラジル核燃料取り引きに合意−テヘラン・タイムス」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/iran/04.htm>参照の事。)

 私はこの「G15」について、お恥ずかしながら、テヘラン・タイムスの記事を読むまで全く知らなかった。その後、「テヘランG15会合」について、網羅的な情報を探したが、とりあえずここに紹介する5月14日掲載のアジア・タイムスの記事などは適切ではないかと思う。(<http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/LE14Ak02.html>
 私たちは「興隆する途上国世界」と「没落する西側世界」の「主役交代」の、劈頭に今立っているのではないか?

 アジア・タイムスはタイに本社を置く1995年設立の比較的新しい英語新聞。(<http://www.atimes.com/>)しかし、経済問題や政治問題では参考になる記事を多く掲載している。この記事の書き手はカベ・L・アフラシアビ(Kaveh L Afrasiabi)で、「ホメイニ後:イラン外交政策における新ドクトリン」などの著書のあるイラン問題の専門家。(だそうだ。私はもちろん彼の記述を読むのは初めてだ。)なお、記事の中に私の(註)を挿入している。青字の小さいフォントで表示した。私の検索のために青字の小見出しを入れている。


 クールなG−15、熱くなる
(Cool G-15 heads take the heat)


テヘラン、グループG-15会議

【テヘラン】―8人の大統領と1ダース以上の外相が織りなす騎馬行列はテヘランの騎馬武者たちのテンションを高めるかもしれない。しかし「グループ15」(G−15)でこの街に集まった彼らの存在は、西側の沸々煮えたぎるようなイラン批判に対して冷や水を浴びせかけるのかも知れない。

 アメリカとその西側同盟国はニューヨークでの核不拡散条約(NPT)再検討会議(5月3日―28日)でイランを孤立化させるのに全力を尽くしている。だからこのサミットは政治的にも国際的にもタイムリーなものとなった。G−15は、118カ国からなる非同盟運動諸国(Non-Aligned Movement−NAM)内で厳しい条項を数え上げ、来月(6月)開かれる「イラン−6カ国協議」にかける圧力のほんの前奏曲にしようとしている。イランのウラン濃縮計画に関してイランに対してさらなる制裁をかけようという見地でいる6カ国とイランの間の話し合いは膠着状態に入っている。

 先ず非同盟運動諸国について。世界の主要勢力には属さないと自ら考える諸国政府の歴とした政府間機構である。その淵源は1950年代のエジプトのナセル大統領、ユーゴのチトー大統領、インドのネルー首相三者の合意にまでさかのぼる。現在正式メンバーは118カ国、オブザーバーは17カ国。(<http://www.namegypt.org/en/Pages/default.aspx>)国連加盟国の優に半数以上を数える。現在事務局長はエジプトのムバラク大統領。その前の事務局長はキューバのラウル・カストロ、その前はフィデル・カストロであった。アメリカの軍事侵略を受けたアフガニスタンもイラクも未だに「非同盟運動」のメンバーである。今回のNPT再検討会議でも「非同盟運動」を代表して、インドネシアのナタレガワ外相が重要な一般討議演説を行った。(<http://www.inaco.co.jp/isaac/info/pdf/09.pdf>)(以上の記述は主として英語Wiki<http://en.wikipedia.org/wiki/Non-Aligned_Movement>の記述に依った。)

 近年「非同盟運動諸国」は、インド、ブラジルなどそれぞれ経済成長をとげ、全くもって無視できない勢力に発展した。彼らは一様にアメリカの「力の政策」に反発を持っており、オバマの「核兵器のない世界」の狙いを見透かしている。つまり騙されていない。日本のわれわれももっと彼らの主張に耳を傾け、アメリカ国務省―日本の外務省、そしてその手の平で踊らされる支配的マスコミ、学者、研究者、平和運動家、「核兵器廃絶論者」のプロバガンダが形作る世界観を修正していかないと、歪んだ世界観のまま、この地球を眺めることになる。

 この記事の書き手、アフラシアビはG-15に集まった諸国は「非同盟運動諸国」の尖鋭分子という見方を取っているようである。

西側の「制裁戦略」に対抗

 インド、ブラジル、アルゼンチン、インドネシアそしてナイジェリアは5月15日―17日の会議に最高レベルの代表を送り込んでくることだろう。またこの会議はニューヨークで現在進行形で続いている議論(NPT再検討会議のこと)においてイランの立場を有利にすることに役立つものと見える。そのニューヨークでは(NPT再検討会議のこと)、エジプト率いる非同盟運動諸国(NAM)がすでに、イスラエルの核兵器計画にスポットライトを絞っている。

このテヘランでの会談は同時に、西側の“制裁戦略”("sanctions strategy")に対抗する弾みをつけるものとなるだろう。その制裁戦略はイランに対する直接投資を挫くことを狙いとするもので、「南―南」の直接投資を強力に推進することを狙った主導に光を当てるものだ。

 「南―南」とは、いうまでもなく「途上国と途上国」という意味だ。私はこの彼の見解は鋭いものだと思う。従来西側の経済制裁戦略で、イランが一番困ったのは、外国からの投資や技術が導入されないことだった。例えば、イランは大量の石油埋蔵量をもっている。しかし外国からの投資が少ないため、大量の石油埋蔵を活かせないでいる。ガソリンの供給不足などが典型的な例だろう。しかしここ2−3年事情が変わってきた。一つには西側諸国だけが豊富な投資資金を持つというパターンに変化が起こってきたことだ。中国はイランに対して資源投資を強めている。ロシアは09年の世界恐慌でいったん後退したものの、10年からはまたイラン投資を強めている。これは一種の「南―南」直接投資だろう。結局、経済制裁戦略がもたらした結果は、西側が引っ込んだ分、「南」からの直接投資がそれを埋めつつあるということではないか?

核で協力関係を強めるイランとブラジル

このサミットは「南対南」の協力関係改善に焦点を当て、地球的な不公平に着目しつつ、発展途上国の地球規模の経済回復がもたらす影響について厳密に評価しようというものだ。』

 とテヘラン大学のある政治科学者はいう。

 この教授によると、ブラジル大統領、ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領の参加は、イランとブラジルが「核燃料取り引きに関してより緊密になる」ことを意味するかも知れない、という。(この記事が出た3日後、この教授の予想は的中することになる。)両国は数百ものイランの病院に放射性同位体(ラジオアイソトープ)を供給するテヘランの原子炉をブラジルが支援する可能性について話し合ってきた。

 現在NPT再検討会議は最終合意案の作成段階に入っているが、内容は必ずしもアメリカ・オバマ政権主導ではないようだ。今になって段々はっきりしてきたのだが、「非同盟運動諸国」は、エジプト、トルコ、ブラジルなどを中心としてかなり事前に緊密な連絡があったようだ。そしてイランを押し立てて、アメリカ・オバマ政権と対決させるという構図が段々明らかになりつつある。


経済協力を中心にグループの結束を強める

 核問題を別としても、イランにとってこの会議の成功の意義は大きいと思われる。それは他G-15諸国からの資本流入が最高潮に達するだろうからだ。これら諸国、例えば、インド、ブラジル、ベネズエラ、マレーシアなど多くの国が貿易収支受け取り国でありまた対外直接投資国だ。

 CIA世界実情報告-World Fact Book-によると、2009年インドは世界第21位の輸出国であるがそのGDPに対して7.2%の純輸入国、ブラジルは同じく23位で1.5%の純輸出国、ベネズエラは42位で3.1%の純輸出国、マレーシアは24位で17.8%の純輸出国である。ちなみにイランは36位で39位の純輸出国。以上「世界:国別 輸出・輸入高ランキング」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/world_data/ex_inport_CIA.htm>を参照の事。

 大統領マフムード・アフマディネジャドの下でのイランの対外経済政策は、G-15諸国のより拡大する投資という意味で、すでに「確固とした配当」をもたらしている。インドの会社OVL、インド石油、IOCなどのイランのファルシ石油天然ガス鉱区や南パルズガス田などへの投資はこうした事例の好例だろう。

 OVLはインド石油天然ガス会社の国際部門会社で、ベトナム、サハリン、スーダンなどへ資源投資を行っている(<http://en.wikipedia.org/wiki/Oil_and_Natural_Gas_Corporation>)。IOCはIndian Oil Corporationで、インド最大の民間会社で2009年フォーチュン誌105位(<http://en.wikipedia.org/wiki/Indian_Oil_Corporation>)

 タタ製鉄(タタ・グループの鉄鋼会社)はすでにその製鉄工場に投資を行っている。政府系企業のRITESやIRCONはイラン南西部のチャバハール地区でコンテナ・ターミナルの開発援助に乗り出している。その他の国ではベネズエラがイランの南部ガス油田の7億6000万ドル、アサルイエ(Assaluyeh)の共同石油化学事業に7億ドルの投資を行っている。

 RITESはインド政府系の建設コンサルタント(<http://en.wikipedia.org/wiki/RITES>)、IRCONはインド鉄道建設会社の国際部門で、マレーシア、リベリア、モザンビークで鉄道関連施設を手掛けている(<http://en.wikipedia.org/wiki/IRCON_International>)。話は違うと見えるかも知れないが、戦後日本は日米安全保障条約のもとで、いわばアメリカの傘の下で、安全で確実な対外経済進出ができた。特に日本企業にとってアメリカ市場の開放は、日米安保体制を維持する大きな動機となった。しかし、21世紀を境に、日米安保体制は日本の大企業にとっても大きな桎梏となりつつある。アメリカの支配領域が縮小し、非同盟諸国市場は急激に膨張しつつある。従属下の日米安保体制の下の日本企業は、こうした新興市場を指を加えて見ていなければならない。日米安保体制は日本の政治的独立を譲り渡す替わりにアメリカから経済的恩恵を受ける体制であり、多くの日本の市民の犠牲の上に一部大企業の繁栄を保障する仕組みであった。しかし、その大企業にとっても桎梏となりつつあるのではないか。

 さらに、イランの「南南協力」進展の具体的証拠があるにも関わらず、イランの貿易全体にしめるG-15ブロックの割合は6%にすぎない。中で最大の貿易相手国はインドである。

イラン全体の最大の貿易相手国は昨年ドイツを抜いて中国が1位となっている。

イスラムD-8とG-15の重なり合い

 昨年(2009年)、イランの総輸入のうちG-15諸国で11%を占めた。G-15諸国とテイランの関係は様々である。アルジェリア、ジャマイカ、ナイジェリア、セネガルなととは比較的小さな取引額であるのに対して、ブラジル、マレーシアやほか2,3の国との取り引きは急速に発展しつつある。

 地域横断的なG-15諸国は、西側文化覇権及び西側経済覇権に対抗する決定的役割を演じている。そして多くの意味で、ポスト冷戦時代における「非同盟諸国」の存在意義を確かなものとしてきた。それは「D-8グループ」の縮小版といっても過言ではない。イスラムD-8の大きな部分、すなわちイラン、インドネシア、エジプト、マレーシア、ナイジェリアの5カ国はまたG-15諸国に属しているのである。
 
 イスラムD-8というのは、イスラム国で発展途上の8カ国(Developing 8)という意味で、別個のグループを形成している。参加国は以下である。()内は直近の人口。人口はいずれも日本語Wikipediaによる。

 バングラデッシュ(1億5200万人)、エジプト(8300万人)、インドネシア(2億3000万人)、イラン(7400万人)、マレーシア(2750万人)、ナイジェリア(1億5500万人)、パキスタン(1億8000万人)、トルコ(7480万人)

スリランカが会長国に

 2006年以来G-15はその代表を決めてきたが、今週イランはその代表権をスリランカに渡した。これはスリランカにとっては滅多にない機会となるかも知れない。というのはスリランカはその輸出先をこれまでアメリカ、イギリスなどに依存してきた。「南南」貿易や投資を拡大することによってその地位を向上させる可能性があるからだ。

 2008年以来。地球規模の金融危機はスリランカの輸出、海外送金、直接投資や街国援助などを縮小させた。G-15の作業文書によれば、2009年の輸出による貿易収入は前年と比較して15%、海外からの送金は6%も下落した。スリランカの経済進展における一つのステップは、G-15の掲げる議題と見事に合致しており、友好的な諸国の中央銀行とのスワップ調整(スリランカ・ルピーと他の通貨とのスワップ)を実施している。この通貨スワップとスリランカが抱える大きな国外労働力は、G-15諸国から大きな恩恵を受けるだろう。こうした関係はイランを含むG-15諸国との拡大経済結合と解すべきなのだ。

世界金融恐慌は経済恐慌

 この記事の書き手、アフラシアビは2008年から2009年いっぱいにかけて発生した世界的な経済変動を「金融危機」(the financial crisis)と呼んでいる。確かに見方の分かれるところだが、『今回の金融危機の根源はなにか。過剰生産か。過少消費か、信用危機か、それとも他の原因か。過去の経済危機の根源とくらべて、どのような類似点と相違点があるか。』と中国の経済理論家たちに問われた日本共産党社会科学研究所の不破哲三は次のように答えている。

 事態を金融分野の破綻という面からだけとらえる見方は表面的だと思うからです。この危機の性格は「金融危機と過剰生産の結合」としてとらえるのが、正確であって、過剰生産恐慌が危機全体の土台をなしており、その比重をますます増してきている、私はこう見ています。
金融危機の面だけを見ると、金融関係の制度的な欠陥や政策上の失敗ということだけでとらえてしまう傾向も生まれますが、現在おこっているのは、そんなものではありません。まさに資本主義体制の全般をゆるがす状況が進行しています。その面からいっても「金融危機と過剰生産の結合」という見方が必要だと思います。』
(「激動の世界はどこに向かうか 日中理論会談の報告」新日本出版社09年12月25日第5刷 p24-25)

 私は不破の見方が全面的に正しいものだと思う。でなければ、金融不良債権ではもっとも浅手だった日本経済がOECD諸国の中で突出した深手を負ったことが説明できない。結局日本経済の繁栄は、金融によって、言い替えれば借金漬けで底上げされた仮想需要にその基盤を置いていたのだ。金融というつっかい棒を外してみれば、結局とんでもない過剰生産だった。これは中産階層がやせ細った日本経済の中で進行した自動車生産、自動車輸出に端的に表れている。

G-15からのメッセージは西側には不快

 このテヘラン・サミットでは国際金融機関の再構築という以前からの要求を再び繰り返すことになろう。そうしてこれら機関における途上国のより正当な代表権も要求することになろう。

 さらに、G20諸国と「対話のできるパートナー」として役立つというG-15の当初からの課題の線に沿って、テヘラン・サミットでは食糧安全保障問題に力点を置いて、途上国を支援するため数十億ドルの資金を食糧バンクへ投資することなどが議題になろう。「水資源」問題はずっと最優先事項だった。従って「水基金」に関する議題も話し合われよう。

 このG-15サミットの議論では、世界貿易における悪名高い不当・不公平に関する議論が毎日のようにかまびすしくなろう。そして発展途上国の財とサービス市場へ向けての地球規模市場がより容易にアクセスできることの重要性も話し合われよう。

 経済先進国はテヘラン・サミットからのメッセージを必ずしも気に入らないかも知れない。しかし西側世界の電波独占を悲しむ途上国世界に住む世界人口の大半は、このサミットからの知らせが、音楽のように耳に心地よい。


【原文注】
 1. グループ15(G-15)は、1989年9月ユーゴスラビアのベオグラードで開かれた第9回「非同盟運動」会議で設立された。協力関係を育成し、世界貿易機構やG8など富裕な工業国などの他の国際グループに必要なはたきかけを行う目的で設定された。北アメリカ、南アメリカ、アフリカ、アジアなどの国で構成され、成長と繁栄を強化していくことを共通の目的としている。G-15は該当地域における途上国同士の投資、貿易、技術交流を通じて協力関係を強めていく狙いをもっている。参加国は15カ国から現在は18カ国に拡大している。しかし名称は発足時のまま。参加国は以下の通り。ジャマイカ、メキシコ、アルゼンチン、ブラジル、チリ、ペルー、ベネズエラ、アルジェリア、エジプト、ケニア、ナイジェリア、セネガル、ジンバブエ、インド、インドネシア、イラン、マレーシア、スリランカ。2006年にイランは会長国となった。