NPT再検討会議 関連資料 【一般討議】 (2010.6.9)

2010年NPT再検討会議・一般討議、オランダ政府代表演説である。原文は次。
http://www.inaco.co.jp/isaac/info/pdf/22.pdf
訳は柳原伸洋氏。なお氏のサイトは次。(http://researchmap.jp/noby/)。
この演説は5月3日、2010年再検討会議初日、開会会議に続く一般討議の午後の部6番目だった。この演説の直前はブラジル政府、直後はオーストリア政府代表演説。
自ら「ウラン濃縮工場」を所有し、核供給国でもあるオランダは基本的にアメリカと利害が一致している。従ってオバマ政権の見解には一応従っているように見えながら、非同盟運動諸国に対しても必要な配慮がそこここに見える。あたかも「将来のお客さんなんだから、穏やかに行こうよ。」といっているようにも取れる


オランダ(ネーデルラント王国)外務大臣マキシム・フェアハーゲン(Maxime Verhagen)の声明

NPT再検討会議・一般討議 2010年5月3日 ニューヨークにて

「“成功”への梯子は“チャンス”という横木があってこそ、上手に登ることができる。」
“The ladder of success is best climbed by stepping on the rungs of opportunity.”


閣下、ならびにお集まりの皆様、

昨年、プラハにて、オバマ大統領は、合衆国が核兵器なき世界に向けて具体的な一歩を踏み出すことを宣言し、その中に機会(チャンス)という語を使われています。先月、メドヴェージェフ大統領とオバマ大統領が新たな戦略核の削減条約に調印しましたが、その中にも機会(チャンス)という語があります。そして本日(下線は原文のママ)も、その機会という語を用いたいと思います。本NPT再検討会議がうまくいけば、“成功への梯子”にとって新たな“横木”となるでしょう!

長い停滞期の後に、われわれは今、核兵器のない世界という共通の目標へと近づいています。まだ到達には及びませんが、それには長くはかからないでしょう。つまり、まだいくつかの険しいステップを登らねばなりませんが、われわれは正しい方向に向かって進んでいるのです。われわれは階段を、上に上に登っているのです。私たちはみな、次々と生じる好機を無駄にしないように、自身の責任を受け止めなければなりません。

軍縮と核不拡散のより広い基準を築く最善の方法は、NPTに基づいた国際的な条約システムを強化することです。NPTを支える思想は明白です。核兵器を保有する(下線は原文のママ)国家は軍縮を固く約束する、核兵器を保有しない(下線は原文のママ)国家はそれを保有しないと固く約束する、そして、すべての国家は原子力エネルギーを平和的に利用する権利を得るということです。これらの思想は、以前と同様に、重要であり実際的な価値を有しています。

第四次戦略兵器削減条約(新START)協定の結論は、核兵器の全体的な削減に寄与しており、この階段を登る重要なワン・ステップです。オランダはこの協定を心から歓迎いたします。核保有二大大国は、その軍縮プロセスを先導するという彼らの倫理的な責任を担っています。われわれはみな、その過程がいかに複雑であるかを承知していますし、一朝一夕に核のない世界が達成されるというような幻想は抱いておりません。

核保有国が先導する一方で、われわれ核非保有国も自らの職分を果たさねばなりません。私は段階的アプローチを提言します。それは、ヨーロッパにおける核兵器の量的削減、役割の無意味化を目指すものです。わたしたちはNATOでこの議論をすでに始めております。

ゆえにオランダは、欧州におけるアメリカの副次的戦略核が、米露の兵器削減交渉の中で議題に上げられるように提案します。不拡散と軍縮は、互いに補完しあっていくことになるでしょう。

冷戦終結から20年、大量破壊兵器拡散の停止は、今でもなお重要な事柄であります。核の拡散に関わるリスクは、我が国の国民にとっても世界中の人々にとっても、受け入れがたいものです。私は、先月、オバマ大統領が核安全保障サミットを開催したことを喜ばしく思います。しかし、他方で同時に「核の春」と呼ばれている事態にもイニシアティブを取っているわけですが!!!

この会合以来、核不拡散を支持する政権をより強化するべきだということが明らかになりました。(NPTの定める)追加議定書はセーフガード・システムの不可欠な部分となると信じています。わたしたちは、新たな発展と見識に対応するために、国際的なセーフガード・システムを強化しなければなりません。

イランのような国々は、IAEAの要求を遵守しなければならなりません。イラン大統領の発言は、イスラエルやアメリカに対する事実無根で受け入れがたい非難とオランダなどのヨーロッパ諸国に関しても無意味な提言でありました。(オランダ演説は、同日午前のイラン・アフマディネジャド演説の後に行われている)

これらのコメントは、今日われわれがなそうとしている議論の助けにならないものであります。この点から、私はわれらが同僚のルクセンブルク代表がおこなった提言に完全に同意を示したいと思います。

しかしながら、わたしたちはこのイランのケースを、この再検討会議における中心議論としたいとは思いません。

本条約は、国際的な安全保障にとってあまりにも重要であります。これは多くの国々が原子力エネルギーに依存する、という決断をしていることからもより明白でありましょう。

これら諸国(すなわち原子力エネルギーに依存しようとしている諸国)は、私たちが注意を払い、また協力するのに値します。

この観点から、国際社会は、核兵器の非保有国すべてが平和的目的のためだけに核を用いているのかどうかを確かめる手段をもつ必要があります。透明性が鍵を握ります。オランダはその責務を担ってきました。わたしたちの核施設は最も厳格な予防装置を備えており、査察に対して開かれています。私はすべて国家がこれと同様の措置を取るように求めます。

オランダは、URENCO傘下でアルメロにおいてウラン濃縮を行っている。遠心分離法で年間生産量は約2,900トンSWUという。<http://www.jnfl.co.jp/business-cycle/1_nousyuku/nousyuku_03/nousyuku_04/nousyuku_04_03.html>)

同時にわれわれは、非遵守のケースに完全かつ包括的な姿勢で対応することを確証する手段について合意しなければなりません。それがもしできなければ、われわれは、NPT条約の統合性(3つの原則が統合されていることを指す)を危険に曝すことになります。検証と遵守は信頼構築のための決定的要素です。

原子力協力でわれわれの間の信頼を醸成しながら、一方で、核セーフガード・システムを強化しなければなりません。その時はじめて、「核の春」に象徴される“チャンス”を捉えることができるでしょう。

原子力エネルギーは将来のエネルギー需要に対応するひとつの妥当なオプションです。増大するエネルギー安全保障問題は、すなわち、エネルギー供給の保障とそれへのアクセスを保証することでありますが、原子力計画を実施する国家にとっての鍵となる関心事です。原子力開発が、高度な安全性、安全保障性、核不拡散の基準と常に共に存在することを確かなものとするためには、われわれは適切に供給保障問題を扱わねばなりません。

オランダは常に積極的に「核燃料サイクル」へのアプローチに関係した多国間交渉や取り組みを積極的に支援してきました。これらは他者の権利を侵害するものではありません。反対に、国家の原子力エネルギーの平和的利用に対する固有の権利実現に貢献しうるものであります。私は、この議論をわれわれがさらに前進させなければならないと固く信じます。オランダは積極的に、これに関わる全てのグループとの対話を模索していくつもりです。

議長。

IAEAの仕事は絶対必要であります。もし、われわれが、“梯子”を登る者であるならば、IAEAの活動は、その梯子を支えてくれるものです。この活動に対して、感謝の意と支持を表明するものであります。“梯子”の頂上に無事にたどりつき、成功を勝ちとるためには、わたしたちはIAEAのさらなる努力が可能となるようにサポートしなければなりません。

ご清聴ありがとうございました。