(追加更新2010.1.18)
【参考資料】外交問題評議会・オバマ政権と核兵器廃絶・日米安保条約と地位協定

<参考資料>北東アジアで“捨て石”として使われる日本の菅政権 
外交問題評議会、ニューヨーク・タイムズ、そしてシーラ・スミス論文 

1月13日付CFRのニュース日報要約
 
 2011年1月13日付けのアメリカ外交問題評議会(Council on Foreign Relations)はニュース日報要約(Daily News Brief)の中で『ゲイツ、沖縄問題で日本を尊重』(Gates Defers to Japan over Okinawa)と題して沖縄問題を中心にした日米関係を取り上げている。(<http://www.cfr.org/about/newsletters/editorial_detail.html?id=2382>)

 この記事は、1月半ばごろ訪日した『ロバート・ゲイツ国防長官は、アメリカは沖縄島にあるアメリカ空軍基地(むろん普天間基地のことである。)の再配置の計画に関して日本を尊重する(defer to)と語った。』というもの。続けて『このコメントはワシントンがこの島国国家(むろん日本のこと)との安全保障同盟を支援するのに際して、より一層の懐柔的基調を反映したものだ。』としている。

 つまり、普天間基地移転に関してアメリカは日本政府の意向を尊重する、とゲイツは述べたのだが、これはアメリカ政府の日本をなだめようとする姿勢を反映したものだ、という解説である。

 日本での報道は、少なくとも普天間基地移転に関して「日本の意向を尊重する」とゲイツが語った、というニュアンスの報道はない。たとえば、テレビ朝日は、『来日しているアメリカのゲーツ国防長官は、菅総理大臣や北沢防衛大臣らと相次いで会談し、普天間問題のほか北朝鮮情勢や軍拡を続ける中国について対応を協議しました。

 会談で北沢大臣は、日米で合意した普天間基地の辺野古移設を着実に進めていく方針を強調したうえで、沖縄の負担軽減のため、嘉手納基地のF15戦闘機の一部訓練をグアムへ移転することで合意する見通しです。ただ、これに先立って行われた前原外務大臣との会談で、ゲーツ長官は、沖縄側が求めている負担軽減策について「代替施設の進展に応じて実施したい」とくぎを刺しました。』(<http://news.tv-asahi.co.jp/ann/news/web/html/210113023.html>)だし、NHKは『前原外務大臣は、『日本を訪れているアメリカのゲーツ国防長官と会談し、沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設問題に関連して、アメリカ軍の訓練移転など沖縄の負担軽減に協力を求めたのに対し、ゲーツ国防長官は、移設問題の進展と合わせて進めたいという考えを示しました。』(<http://www3.nhk.or.jp/knews/20110113/k10013373541000.html>)

 はっきりしていることは、菅政権がオバマ政権と普天間基地の辺野古移設で合意しており、総理大臣菅直人、外務大臣前原誠司、防衛大臣北沢俊美のもとでは、もはや揺るがない、と見て取ったことだろう。ここが前鳩山政権と決定的に違うところだろう。 

ニューヨーク・タイムズの記事

    しかし外交問題評議会が伝えるニュアンスと日本のマスコミが伝えるニュアンスとは大きく違う。日本のマスコミの伝えるニュアンスでは、ゲイツ(オバマ政権)はあくまで強面だが、外交問題評議会の伝えるニュアンスは、ワシントン(オバマ政権)は、懐柔的態度で、基本的に辺野古移転(日米合意)の線さえ守られれば、あとは菅政権に任せる、という姿勢が感じられる。

 この違いはどこからきているのだろうか?

 外交問題評議会の論評は、実は2011年1月13日付けのニューヨーク・タイムズ、『アジア・パシフィック欄』(Asia Pacific)に掲載された『沖縄基地移設に関し、アメリカは日本を尊重する』(“U.S. Will Defer to Japan on Moving Okinawa Base”<http://www.nytimes.com/2011/01/14/world/asia/14military.html?_r=2&ref=asia>)という記事をもとにしている。

 だから、アメリカのニュアンスを窺うには是非ともこの記事を参照しなくてはならない。

 この記事は東京発で、マーチン・ファクラー(MARTIN FACKLER)とエリザベス・バミラー( ELISABETH BUMILLER)の共同署名入りである。内容からして直接ゲイツから取材をしている。だからここでのゲイツの発言は日本を意識していると言うより、アメリカ国内を意識した発言だろう。さして長くない記事なので、全文翻訳引用してみよう。

 『日本とアメリカを分断している問題に関して懐柔的な口調を色濃く漂わせながら、ロバート・M・ゲイツ国防長官は火曜日(1月11日)、オバマ政権は沖縄の米空軍基地の移転は、東京主導の作業に従うと述べた。

 日本の指導者たちとの話し合いの中で、ゲイツ氏は同時にアメリカと日本が共同開発する新たな高度対ミサイルシステムについても議論し、また韓国に対する北朝鮮の最近の軍事的挑発行為に対する対応についても話し合ったと語った。』

 しかしながら、一連の議題の最優先事項(a top item on the agenda)は、普天間米海兵隊空軍基地移転の問題だった。(普天間基地移設問題は)日本では感情的な問題であり、昨年前鳩山由紀夫首相が、沖縄に基地を止めるかどうかについてためらいを見せた時、2カ国の同盟関係に曰く言い難い亀裂を見せたものだった。』

 上記の記述は面白い。ニューヨーク・タイムズ記者の地の文章にはなっているが、「普天間基地移設問題」は「日本では感情的な問題」だという認識といい、鳩山は決めたことを実行するのをためらった、という認識といい、これが日米同盟関係に亀裂を生じさせたという認識といい、これらはゲイツの、従ってオバマ政権の認識と見てまず外れていないだろう。実際は、「普天間基地県外移設」は民主党の事実上の選挙公約だった。その国政選挙で、民主党が圧倒的勝利を収めた以上、日米地位協定に基づく日米両政府間の約束より、日本国民の意志が優先する、というのが法理論だろう。しかしオバマ政権は、日本の国政選挙の結果を尊重する姿勢などかけらもない。先を続けよう。

非現実的な2014年までの普天間移転

    『最終的に両国は(2010年)5月にうるさいヘリコプター基地を2014年までにより人口の少ない沖縄のある地域に移設することに合意したのだが、現地の抵抗を見るとその時間枠(2014年までの移設)は次第に非現実性を増してきている。

木曜日(1月13日)にゲイツ氏は、オバマ政権は日本との全般的な安全保障同盟に影を落とすものとしたくない、と語った。両国の安全保障同盟関係は昨年50周年を迎えた。ゲイツ氏はまた移設計画に関する日本国内の政治的抵抗を東京(菅政府)が解決するにあたって柔軟性を許容するとのシグナルも送った。

 “日本においては政治的に複雑な案件であることは我々も理解している”とゲイツ氏は北沢俊美防衛大臣との会談の後に語り、次のようにいう。“そして我々は沖縄の人々の利益や心配も考慮に入れながら努力している日本政府の主導に従うつもりだ。”』

 この記事を書いている2011年1月15日(金)付けの朝日新聞朝刊一面の左肩に、『普天間移設 米高官、「期限設けず」』『「先送り」日米が一致』という見出しのついたワシントン発伊藤宏の署名入り記事が掲載された。どうもこの記事は朝日新聞とアメリカ国務省との単独会見記事のようで、伊藤がキャンベル国務次官補の話を聞いている。内容は普天間飛行場の移設問題について「我々は再び期限や時期を設けることはしない」と明言した、というもの。『キャンベル氏は「我々は昨年、普天間問題に焦点をあてすぎたために、日米間の多くの課題を進展させることが困難になった」と指摘。「我々はこれは日本の国内問題と認識している」と述べ、日本政府の対応にゆだねる考えを表明。』

 要するにゲイツがニューヨーク・タイムズ紙に語った内容を全面的に裏付けるオバマ政権の姿勢を、今度は国務省の口を通じて語った格好だ。しかしこの記事においても、この姿勢が日本に対する懐柔策である、という認識は朝日新聞にもない。あるいはわかっていても書かなかったのかも知れない。

沖縄の憤激を政権内部の憤激にすりかえ

 さてニューヨーク・タイムズの記事に戻ろう。
 
 『2009年10月東京を訪れたゲイツ氏はその時よりもっと柔らかな口調で語った。昨10月ゲイツ氏は沖縄の基地移転に関するもっと前の合意(2006年5月の「2+2」合意を指す)尊重するようそのときの半人前の鳩山政権に強く迫っていた。その威圧戦術は逆噴射的に、新政権に対して威張り散らすアメリカ政府に対して鳩山政権の中に憤激を起こしたのだった。』

 ここで私はオヤっと思う。時のオバマ政権は鳩山政権を半人前扱いし、頭ごなしに鳩山政権を叱りつけたのは事実だが、鳩山政権内部に憤激(この記事のもとの言葉はresentment)が果たして起こったか?「最低でも県外移設を唱えた鳩山政権は予想外のアメリカの厳しい反応に、右往左往し疲労困憊の体ではなかったか?憤激には、「自ら正しい」と確信していることが必要である。鳩山にはその確信はなかった。だから憤激できなかった。憤激したのは、沖縄県民であり日本をあからさまに属国扱いするオバマ政権に怒りを感じる「批判的愛国者」である。(私などはその一人だが)その時日本のマスコミの多くは右往左往する鳩山由紀夫を、日米同盟を壊すものとして大いに叩いた。民主党内部でも多くは鳩山を白い目で見た。そして鳩山は「勉強すればするほど沖縄の海兵隊は抑止力であることがわかった。」ととってつけたような言葉を放って首相を辞任した。要するにオバマ政権が鳩山をクビにしたのである。(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/zatsukan/006/006.htm>を参照して欲しい。)今ここでの問題は、この記事を書いたニューヨーク・タイムズのヘボ記者が何故沖縄県民の憤激を「鳩山政権」内部の憤激と書いたかである。それは言うまでもなくゲイツないしはアメリカ政権のブリーフィングの結果だろう。

 『鳩山氏はアメリカとの同盟関係を誤処理したという批判の中で事実上辞任した。鳩山氏の後継である菅直人首相は東京の伝統的な保護者(Tokyo’s traditional protector。東京、すなわち日本政府の保護者、すなわちアメリカ)との安全保障関係を強化するために努力した。

 木曜日(1月13日)、ゲイツ氏と北沢氏は両国の2つある共同プロジェクトのうちの一つ、高度新ミサイルシステムの開発についても話し合った。この新システムは空中の大きな弾道ミサイルを撃ち落とすため艦船から発射するというものである。

 ワシントン(オバマ政権のこと)は、この精緻なシステム、SM-3として知られているが、を他の諸国家に販売することを望んでいる。この諸国には恐らく韓国も含まれている。しかしながら、それは現在の日本の厳しい武器輸出に関する規制を書き直すことが必要になる。その規制(武器輸出禁止三原則のこと)は日本の第二次世界大戦後の平和主義の柱の一つであり続けた。』

SM-3と武器輸出禁止三原則

  まず“SM-3”から。SMは標準ミサイル(スタンダード・ミサイル)の略である。つまり標準ミサイルの第三世代ということになろうか。SM-3そのものはすでに実戦配備されている。「RIM-161 SM-3は、弾道ミサイル迎撃(弾道ミサイル防衛/BMD)専用として再開発されたものであり、イージス艦の垂直発射装置から発射される。」
(日本語Wikipedia「スタンダードミサイル」<http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%
82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%
BC%E3%83%89%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%
E3%83%AB#SM-3.E3.82.B7.E3.83.AA.E3.83.BC.E3.82.BA>

「2006年6月23日にはブロックIIAの日米共同開発に合意した。ブロックIIAではキネティック弾頭と赤外線シーカーを大型化させて破壊力と識別能力を向上させ、ロケットもさらに改良して速度を向上させるなどして高性能化をさせる。キネティック弾頭はアメリカ主導で試作し、赤外線シーカーは日米で別々の方式で試作し選考する。研究開発総費用は 21〜27億ドル、日本側負担は10~12億ドルである(配備費用は除く)。2011年に地上試験、2013年に飛行試験、2014年に完成、2015年から配備を始めるスケジュールになっている。このブロックIIAが現在配備されているブロックIAを更新する予定である。この配備により中距離弾道ミサイル(IRBM)にも対処可能となる予定である。さらに2008年5月3日付けの読売新聞によると、ブロックIIBの日米共同開発に合意したことが報道された。ブロックIIBは多弾頭型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を迎撃することを目指して自らも多弾頭化する迎撃ミサイルである。しかし2009年に就任したバラク・オバマ大統領の軍事予算の調整により迎撃ミサイル搭載型多弾頭の開発が凍結されたため、現状では多弾頭型SM-3装備化の目処は立っていない。」(同日本語Wikipedia)とのことであり、このニューヨーク・タイムズの記事で言うSM-3は、2006年の「2+2」合意の時に合意されたブロックIIAであることは間違いないだろう。この記事の関連で言えば、アメリカのSMシリーズはこれまで、アメリカ海軍、オーストラリア海軍、ドイツ連邦海軍、日本海上自衛隊、ポーランド海軍、韓国海軍、オランダ海軍、トルコ海軍などで使用されており、またフランスとイタリアにも販売されている。もともとの開発メーカーは、主契約メーカーはゼネラル・ダイナミクス(カリフォルニア州ポノマ部門)だったがその後同部門はヒューズ・ミサイル・システムの傘下に入った。ヒューズ・ミサイルとレイセオンは合弁会社を作った。これがスタンダード・ミサイル・カンパニー(SMCo)である。その後ヒューズ・ミサイルそのものがレイセオンに売却されたため、現在SMシリーズの実質的単独契約者はレイセオンである。(以上英語Wikipedia“RIM-66 Standard”<http://en.wikipedia.org/wiki/RIM-66_Standard>)
 そしてみなさんすでにお忘れかも知れないが、現在オバマ政権の国防副長官は元レイセオン副社長のウイリアム・リンである。(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/obama_01.htm>を参照の事。)

 次に「武器輸出禁止三原則」。この原則が成立したのはいくつかの積み上げの結果のようだ。1967年(昭和42年)の佐藤栄作首相の衆議院決算委員会における答弁は以下のような国・地域の場合は「武器」の輸出を認めないことを定式化した。

「共産圏諸国向けの場合」
「国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合」
「国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合」

 1976年(昭和51年)三木武夫首相の衆議院予算委員会における答弁は、佐藤首相の三原則にいくつかの項目が加えた。

「三原則対象地域については“武器”の輸出を認めない。」
「 三原則対象地域以外の地域については憲法及び外国為替法及び外国貿易管理法の精神にのっとり、“武器”の輸出を慎むものとする。」
「武器製造関連設備の輸出については、“武器”に準じて取り扱うものとする。」
(以上日本語Wikipedia「武器輸出三原則」<http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A6%E5%99%A8%E8%BC
%B8%E5%87%BA%E4%B8%89%E5%8E%9F%E5%89%87
>)

 これで見る限りニューヨーク・タイムズ記者の言う「戦後日本の平和主義の柱のひとつ」といういいかたは誤りではないにせよ、その歯止めになってきたのは日本国憲法の精神であることは明白であろう。ここでの原則からすると、アメリカと武器に関する共同開発などはもってのほかということになるのだが、1983年(昭和58年)1月14日に発せられた中曽根内閣の後藤田正晴官房長官による談話では以下の解釈が付け加えられた。

「日米安全保障条約の観点から米軍向けの武器技術供与を緩和することを武器輸出三原則の例外とする。」

 そして1983年11月8日、対米武器技術供与を日米相互防衛援助協定の関連規定の下で行うという基本的枠組みを定めた「日本国とアメリカ合衆国との間の相互援助協定に基づくアメリカ合衆国に対する武器技術の供与に関する交換公文」が締結された。後は一瀉千里である。しかしその「交換公文」でも「日米間では武器技術供与は、技術ならびに技術の供与を実行あらしめるため必要な物品であって武器に該当するもの(試作品)に限定されており、その技術を用いてアメリカが生産した兵器を輸出することは許されていない。」(同日本語Wiki)

 従ってこのニューヨーク・タイムズの記事でいうアメリカの要求をみとめるためには、上記三原則をいじらなければならない。これが現在大合唱の「武器輸出三原則の緩和」の背景である。「武器輸出三原則」といっても別に法律ではない。「非核三原則」と同様である。時の内閣の施政方針にすぎない。だから「非核三原則」法制化同様、「武器輸出禁止原則」の法制化を求めて行かなくてはならないだろう。さてニューヨーク・タイムズの記事に戻ろう。

武器輸出三原則緩和に自信を見せるゲイツ

 『ゲイツ氏はこのミサイル・システムを輸出することで、開発コストを圧縮するのがオバマ政権の希望だと述べる一方で、この案件は日本ではセンシティブな案件であるとも承知している、とも述べた。“他の諸国にもこのミサイル・システムを提供するのは経済的に筋の通ったことだ。しかし我々は日本では一定のプロセスをたどらなければならないことも理解している”とゲイツ氏は述べている。』

 『菅氏はこの規制の見直しについて広汎な議論が起こすことを要求した。それは多くの日本人が中国と北朝鮮に対応してアメリカとのより緊密な安全保障協力を前進させるために必要であることを了解することでもある。』

 菅内閣が武器輸出禁止三原則の緩和を求める観測気球を上げた事は知っているが、「広汎な議論を起こすことを要求した。」というのは初耳だ。しかし、私たち日本の市民もオバマ政権にとんとなめられたものだ。中国・北朝鮮の脅威に対して日本がどうしなければならないかを教え諭してもらっているのだから。それにしても菅政権は今や完全にオバマ傀儡政権と化したようだ。このさい私の疑惑を書いておきたい。鳩山が首相を辞めなければならなかったのは日本の首相としてアメリカから不適格の烙印を押されたからだ。つまりオバマ政権にクビを切られたのだ。鳩山の背後には小沢一郎がいる。小沢一郎は師匠の田中角栄の外交思想を受けついでいる。すなわちアメリカと中国との等距離外交だ。そのためには日本がまず対米従属から抜け出さなくてはいけない。小沢は師匠の田中角栄同様、大手マスコミをつかって十字砲火を浴びせられ、今葬られようとしている。田中角栄の下品・卑劣極まる金権政治を私は擁護するつもりはない。同様に小沢の金の集め方も行き過ぎだと思う。しかし彼らの外交政策は正しい。私は小沢一郎の政治手法は好きではない。反民主主義的だ。しかし小沢の外交政策は正しい。それが故に小沢はアメリカの支配層から獅子身中の虫としてひねり潰されようとしている。小沢を葬るのは構わないだろう。しかしその外交思想や外交政策まで葬りさってはならない。アメリカの支配層が本当に葬りたいのは、小沢や鳩山ではなくて、その外交思想や外交政策なのだから。

強面から懐柔主義へ転換する普天間問題

 『ゲイツ氏の次の行き先は韓国である。彼は日本に北朝鮮が再び韓国を攻撃しないように圧力をかけるように依頼したと述べた。またゲイツ氏は韓国が、昨年の戦艦(韓国哨戒艇沈没事件)や島(ヨンピョンド事件)への北朝鮮への攻撃の後、激しい報復の感情に駆られはしないかと憂慮している、とも述べた。ピョンヤンは戦艦の件については関与を否定している。』

 日本が北朝鮮に圧力をかけるなどとはとてもできない。精々朝鮮学校に対する授業料を出し惜しみする程度の姑息な嫌がらせぐらいしかできない。

 『“どの国も自国を防衛する権利を持っており正当な理由のない攻撃に対して自らを守ることは長い間に確立された基本原理である。”とゲイツ氏はいう。“我々すべてが共通してもつ目的は発生する他の国からの挑発をいかに防止するかということではないか?”』

 これがニューヨーク・タイムズの記事の締めくくりだ。どうもロバート・ゲイツはアメリカが世界中で行っている軍事行動はすべて相手の挑発を防止する自衛行為だ、といいたいのであろうが、厳密に言って抑止(deter)は相手に攻撃をしないよう威嚇する行為だから自衛行為ではない。すでに攻撃行為だ。

 ともかく、外交問題評議会のニュース日報要約子は、このニューヨーク・タイムズ紙から、「オバマ政権は普天間問題に関して従来の強面主義から懐柔政策へ転じた。」と読み取ったわけだ。

 そして2010年12月に日本政府が発表した新防衛大綱に触れて次のように述べている。「日本の新防衛大綱は全体的に見ればその防衛能力に対してわずかなもっとも穏当な変化しか見せていない。しかし、中国からの脅威に関して新たな懸念を示している、と外交問題評議会の日本問題担当の研究員、シーラ・スミス(Sheila Smith)のコメントを引用している。シーラ・スミスといえば、外交問題評議会におけるジョセフ・ナイにかわる(ジョセフ・ナイは大物になりすぎた)新たな日本向けイデオローグだ。

 この記事から読み取れることは、アメリカ国務省の対日方針、すなわち日本を中国から引き離し、日本を前線基地として中国と仮想の敵対関係を作らせておくことさえ達成できれば、普天間問題などは些細な問題だ、という認識だろう。前鳩山政権では日本と中国との敵対関係確立は不透明だった。いやより中国寄りの外交政策に転換する可能性があった。しかし、菅政権は大丈夫だ、もはや傀儡に等しい、という認識だろう。

シーラ・スミス論文

  しかし、このことを確認するためには引用されたシーラ・スミスの最近の論文を読んでみなければならないだろう。

 もっとも適切なのは2010年12月17日付外交問題評議会のWebサイトに掲載された「日本の“動的防衛”政策と中国」(Japan's 'Dynamic Defense' Policy and China<http://www.cfr.org/publication/23663/japans_dynamic_defense_policy_and_china.html>)と題する論文だろう。新防衛大綱は2010年12月17日に日本の安全保障会議と閣議で決定し発表されたものだ。だからシーラ・スミスは約12時間の日米時差を利用してこの大綱を入手し、大急ぎで読んでこれからご紹介する論文を書き上げて外交問題評議会のサイトに掲載したものと見える。あるいは閣議決定前にすでに入手していたのかも知れない。(この可能性の方がはるかに高い。)

 『今日発表された新たな防衛計画は、現在進行中の北東アジアにおける変化に日本がいかに即応しようとしているか、という問題に関して新鮮な望みを提供するものとなった。』

 と、まずシーラ・スミスは「新防衛大綱」を大きく評価している。なぜスミスは「新防衛大綱」を評価するのか?

中国の脅威を煽りに煽るシーラ・スミス

   『南西海面では中国の駆け込む踵がやってきている。朝鮮半島では緊張が高まりつつある。(日本の)国家防衛大綱は脅威に対して効果的かつ迅速に対応すべき日本の自衛軍(Japan's Self Defense Force - SDF。つまりは自衛隊のこと。)の必要性に対する新たな役割を評価している。』

 わかりにくい表現かも知れないが、日本の自衛隊がアメリカ軍の指揮の下に対“中国抑止力”の役割を担うことが、新防衛大綱の中で定式化されたことを指している。

 それとシーラ・スミスも相当な強心臓の持ち主だ。中国の南シナ海における脅威も、朝鮮半島における緊張関係も全てオバマ政権がつくり出してきたものではないか。少なくとも日本やアメリカを除く世界はそう認識している。私はシーラ・スミス(朝日新聞は彼女が大好きだ。)のことを外交問題評議会の対日イデオローグとしたが、いまやデマゴーグと訂正しなければならない。

 『日本の周辺で噴出している諸危機に(防衛大綱の)計画者たちは、さらに挑発性を高める北朝鮮、あるいは独断的な中国に対して闘う任務についていってしないかも知れない、という認識をますます高めつつある。

この防衛10年計画は、日本の自衛隊が、興隆する中国に対して闘う可能性に関する警戒が必要であることを明白に提言している。計画は日本と中国の利益が共在する海洋地域にその軍事資産をより近づける方向に動いている。』

 はてさて、私たち日本の市民は10年以内に中国と戦争する可能性があるのだろうか?しかしシーラ・スミスによれば日本の新防衛大綱はその危険性に対して備えるものだということになるし、事実内容的にはそうなる。

“動的防衛”を大いに評価

 『(日本の自衛隊の)F-15の1個飛行大隊と1個通信部隊が沖縄に移駐する。サイバーセキュリティ問題が優先順位リストに載ってきた。そしてさらに5隻の潜水艦が日本の沿岸で作戦任務に就く。

 この計画は、その2004年の計画同様に北朝鮮と中国に対する基本的憂慮を反映したものといえよう。弾道ミサイル防衛、それは日本が必要とする能力であるが、北朝鮮から拡大されているミサイルの脅威と闘うものとしてその必要性が認識された。SDFが沿岸諸島や日本の空域を防衛する能力については高い優先順位がつけられたし、今年もまた高い優先順位がつけられた。』

 ここまでは、従来の防衛計画とさほど大きくは変わらない。今回の新防衛大綱でもっとも大きく変化した点は、

 『しかし、日本は過去の防衛装備の基礎となってきた「静的概念」を捨て去った。もしあるいは脅威が現実のもとなった時にライオンが後ろ足立ちで守ろうという基本的防衛態勢を単に維持しようという古くさい考えは過去のものとなった。今回の防衛計画で示されたのは“動的防衛”(dynamic defense)という新たな目標である。』

 いってしまえば、今回の新防衛大綱の一番大きな特徴は、“静的防衛”から“動的防衛”への大転換だ、とシーラ・スミスはいうのである。

毎日新聞坂口記事

 そもそも今回の新防衛大綱とは一体どんなものか?

 新防衛大綱について新聞の中ではもっとも優れた記事を書いている毎日新聞の坂口裕彦の記事から引用しよう。

 『政府は(2010年12月)17日午前の閣議で、今後10年程度の安全保障政策の基本方針となる「防衛計画の大綱」(防衛大綱)と、11年度以降5年間の防衛費総額を約23兆4900億円とする中期防衛力整備計画(中期防)を決定した。大綱では、中国の軍事力増強と海洋進出を「地域・国際社会の懸念事項」と指摘し、これまで手薄だった南西諸島に自衛隊を配置するなど、機動性や即応性を重視する「動的防衛力」の構築を打ち出した。

 防衛大綱の改定は04年以来6年ぶりで、民主党政権では初めて。1976年に策定された最初の防衛大綱以来の指針だった「基盤的防衛力」構想から転換したのが最大の特徴だ。同構想は旧ソ連を敵国として想定し、外国からの侵攻を抑止する必要最小限の防衛力整備を図る考え方で、これに基づき、北海道に戦車部隊を重点配備するなどの現行態勢が構築されてきた。

 新大綱は中国への懸念のほか、北朝鮮が核・ミサイル開発に加え軍事的な挑発行動を繰り返している問題を指摘。こうしたアジア太平洋地域の不安定な安全保障環境に対応する新たな考え方が動的防衛力で、その意義を「防衛力を単に保持することではなく、平素から情報収集・警戒監視・偵察活動を含む適時・適切な運用を行い、我が国の意思と高い防衛能力を明示しておくこと」とした。

 具体的には、海上・航空自衛隊を重点的に整備。潜水艦は現大綱の16隻から22隻に、弾道ミサイルの迎撃能力を持つイージス護衛艦も4隻から6隻に増やす。冷戦型の装備は縮減し、陸上自衛隊の戦車は約600両から約400両へ減らす。

 陸自定員は1000人減の15万4000人(即応予備自衛官7000人を含む)とする一方、島しょ部を「自衛隊配備の空白地域」とみなし、特に南西地域に陸自の「沿岸監視部隊」を新たに編成・配置することが中期防に盛り込まれた。

 武器輸出三原則の見直しについては、反対する社民党に配慮し明記は見送ったが、国際共同開発が「先進国で主流になっている」として禁止対象から外す必要性を指摘。「このような変化に対応するための方策を検討する」と将来的な見直しの検討を示唆した。

 国連平和維持活動(PKO)への「参加の在り方を検討する」として、紛争当事者の合意などを条件とするPKO参加5原則の緩和を検討する考えも示した。国家安全保障に関する首相への助言組織を設置することも明記した。より若い自衛隊員を増やすため、幹部の割合を減らすなど「人事制度改革」も実施する。

 中期防の総額は前回(05〜09年度)から7500億円減だが、10年度予算並みの水準は維持された。防衛大綱の策定は76、95、04年に続き4回目となる。』(<http://mainichi.jp/select/seiji/news/20101217dde001010040000c.html>)
 
 要するに「旧ソ連」を仮想敵国とする「防衛計画」から、北朝鮮や中国を「懸念」とする(仮想敵国という言葉は使われていない)防衛計画への転換ということだ。しかしこの坂口の記事によっても「動的防衛力」はうまく説明されていない。

前田哲男の話

 わずかに「防衛力を単に保持することではなく、平素から情報収集・警戒監視・偵察活動を含む適時・適切な運用を行い、我が国の意思と高い防衛能力を明示しておくこと」という防衛省の公式見解を繰り返すのみである。これが何故防衛概念の転換なのか、なぜシーラ・スミスのいう古くさい考えをすてさったことになるのか?

 ジャーナリストの前田哲男は、次のように説明する。

 『日本の伝統的な国防計画はソ連を仮想敵国としたものでした。しかもソ連が北海道に攻めてきたらどう対応するか、という計画でした。だから“静的防衛”なんですね。しかし今回の防衛大綱はそうではありません。これまでの“専守防衛”と訣別したわけです。文言上中国を仮想敵国とは言っていませんが、言うとこれは国際問題ですからね、しかし事実上中国の脅威を念頭に置いてそれに対処する、しかも単に対処するのではなくて、中国が日本に対して攻撃を加えないように日本の防衛能力を誇示する、そのためにいろいろな軍事装置を配置しておくし、情報収集活動もやる、だから“動的防衛”なんですね。』(2011年1月15日土曜日広島県廿日市市で開かれた「岩国基地の拡張・強化に反対する広島県西部住民の会」結成5周年記念総会の記念講演より。なお文責は哲野イサクにある。以下同じ。)

 従って“動的防衛”は“静的防衛”に比べ、軍事挑発的にならざるを得ない。また同時に軍事敵対的にもならざるを得ない。外交問題評議会のシーラ・スミスが新防衛大綱の“動的防衛”を高く評価するのもこのためである。

 『しかし、みなさん、おかしいとはおもいませんか?』と前田哲男はいう。

 『日本の憲法の前文には、“日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。”とあります。私たちは、ここでいう“諸国民の公正と信義”を信頼することを前提にして日本の安全と生存を保持しようと、言い換えれば日本の安全保障を、世界の人々の公正と信義を信頼することに求めようと決意したのでありまして、その日本が、新防衛大綱でしめされた中国観や北朝鮮観をむき出しにすることはおかしいのではありませんか?』

 ここで前田が指摘する憲法前文の安全保障の思想はシーラ・スミスがみせる安全保障の思想とは全く対極関係にあることは確実だろう。しかも戦後65年以上も日本が戦場にならなかったのは、シーラ・スミスが示している思想のおかげではなくて、憲法前文が示している思想のおかげであることもまた確実だろう。もひとつ。シーラ・スミスの思想は、軍事企業、すくなくともレイセオンを喜ばせることもまた確実だろう。

日本の防衛政策に積極的に関与するアメリカ

 さてシーラ・スミスに戻ろう。

 『ここで示されている概念(すなわち“動的防衛”)は日本が何と闘おうが、その対処する柔軟性そのものだ。そして今日の北東アジアの中では、その目標は長く渇望されていたものであり、むしろ遅きに失した(long overdue)感がある。アメリカの防衛政策立案者はこの地域の戦略的評価を共有するにあたり日本ともっと密接に協働することを望むであろう。そして2つの同盟国軍隊が協働すべき役割や使命についてもっと忌憚なくどしどしものを言うことを望むであろう。』

 ここは憲法に縛られて歯がゆいばかりの日本に対して遠慮なくどんどんものをいい、中国との準戦時体制構築にアメリカが日本を指導していく、と解釈した方がいい。

 『ワシントン(オバマ政権)はまた、次世代型兵器体系の研究開発に向けてより大きな協力関係をもつようさらに大きな圧力を日本にかけていくことになろう。新防衛大綱(NDGP)は、東京(日本の菅政権)が、その対話(新兵器体系の共同開発に向けた対話)に用意が調っていることを暗示しておりまたアメリカおよびNATOとの共同開発への参加を行うためにその武器輸出禁止三原則の緩和を喜んで考慮することもまた暗示している。』

 うーむ、なるほど「新防衛大綱」はそう読めるのか・・・。というよりもそう読まなくてはならないのか・・・。

 『現在のところ、技術関連に関する武器輸出禁止原則は、NATOや他の同盟国が購入する場合、共同開発した場合に限定されている。その上さらに、F-35、次世代型戦闘機、の開発への日本の参加は、この政策(武器輸出三原則)の緩和いかんにかかっている。』

 『この防衛計画では、主要な兵器体系の新たな購入は明示していない。むしろ日本の全般的な軍事能力の変化という点ではもっとも穏当な変化である。しかし、既存の軍事能力をもっと柔軟に、もっと迅速な対応に編成していくことに焦点をあてているということでは、北京やピョンヤンを外していない。』

 これでシーラ・スミスの論文は終わりである。外交問題評議会の2011年1月13日付けニュース日報からスタートした考察だったが、外交問題評議会の、従ってアメリカ・オバマ政権の北東アジア戦略がおおよそ浮かび上がってきたのだと思う。

日本は北東アジアでは“捨て石”

 第一に、地域的には中国と日本を敵対関係にたたせ、この地域で常に緊張関係を維持して置きたいということ。

 第二に、その前面に立つのは日本なのだが、鳩山政権ではこの任務が果たせないが、菅政権ではその任務が果たせると考えていること。これは言い換えれば、菅政権の傀儡化に成功した、と判断していること。

 第三に、新たな武器体系開発に日本を協力させアメリカのコストダウンを図ること。そのためには、日本の武器輸出禁止三原則が大きな障害になっているが、これも菅政権の積極的緩和姿勢をオバマ政権は十分感じ取っていること。

 第四に、以上の3点の基本的な見通しさえたてれば、普天間基地の移設問題などはささいな問題であり、あとは日本の国内問題として菅政府に委ねておけばいいという判断があること。

 第五に、ここでは扱えなかったが、アメリカとしては中国と直接の敵対関係をもたず、グローバルな問題でできるだけ中国を協力させたいと考えている。(中国は胡錦涛がアメリカを訪問するが、恐らくオバマ政権は胡錦涛をこれ以上ないほどのもてなしをもって迎えるだろう。)

 こうしてみると、北東アジアで中国と敵対関係をもつという日本の役割は、アメリカの捨て石として考えられていることがわかる。

 それで私の最初の疑問に戻る。アメリカ(オバマ政権)は、普天間基地のスケジュール通りの移転にもはやこだわってはいない。菅政権を傀儡化したと自信を深めたからだ。にも関わらず、そのニュアンスは必ずしも日本側に伝わっていない。それはアメリカの圧力を利用して、普天間基地の移転を菅政権側に有利に進めようとしているからだ。そしてそれを無批判に報道する大手マスコミが協力する。だから普天間問題に関するニュアンスが違ってくるのだ。

 批判的愛国者としての私は、できるだけ早く民主党菅政権を打倒して、日本の市民の利益を最優先する民主的な政府を樹立しなければ、と思うばかりである。