関連資料:河野談話に付随する従軍慰安婦調査結果について


 河野談話は「いわゆる従軍慰安婦問題については、政府は、一昨年12月より、調査を進めて来たが、今般その結果がまとまったので発表することとした。」という書き出しで始まっている。
 
 問題はその調査結果である。これに該当する資料は、外務省アジア局地域政策課によると、「いわゆる従軍慰安婦問題について」と題する内閣官房内閣外政審議室名の文書(平成5年8月4日付け)である。(この文書は外務省のサイトから検索できる。)
 この文書の構成は以下の通りである。
  
1. 調査の経緯
2. いわゆる従軍慰安婦の実態について
(1) 慰安所設置の経緯
(2) 慰安所が設置された時期
(3) 慰安所が所在していた地域
(4) 慰安婦の総数
(5) 慰安婦の出身地
(6) 慰安所の経営及び管理
(7) 慰安婦の募集
(8)慰安婦の輸送等
 の極めて簡単なPDFA4版でわずか3枚の報告書ともいえない文書である。内容は河野談話を若干詳しくした内容である。

 調査の経緯には次のように書かれている。
  「この問題は、昨年1月宮澤総理訪韓の際、廬泰愚(当時)大統領との会談に置いても取り上げられ−中略―政府は平成3年12月より、関係資料の調査を進めるかたわら元軍人等関係者から幅広く聞き取り調査を行うとともに・・・」として調査の範囲、期間などを例示している。

 これで見ると政府権限や便宜を利用したかなり幅広い本格的な調査であったことが分かる。その結果がこのような3枚の紙で収まるはずがない。これは調査報告としては何も言っていないに等しい。

 そこで問題になるのが、この「いわゆる従軍慰安婦問題について」という文書で「調査の結果発見された資料の概要は別添の通りである。」と述べている箇所である。

 この別添資料そのものが調査結果の根幹をなす部分であることは疑いようがない。そこで外務省アジア地域政策局に問い合わせると、この調査は内閣官房が実施したもので、実はこれ以上のことはわからない。」という返事だった。そこで内閣官房に連絡すると、この文書を発表した「内閣官房内閣外政審議室」はすでになくなっており、今は内閣官房副長官補室になっていて、「担当は外務省なのでそちらに問い合わせてくれ。」という返事だった。つまり私は内閣官房と外務省アジア局地域政策局の間で玉突きにあったことになる。

 ここで私は「もしかして、政府はこの時の調査結果をすべて公表していないのではないか」。という疑いを持ち始めた。

 そこで衆議院・参議院の質問趣意書に検索をかけてみると、やはり出てきた。「従軍慰安婦の個人補償と資料公開に関する質問主意書 」と題するもの
で提出日は平成7年11月17日、提出者は吉川春子、西山登紀子、須藤美也子、阿部幸代の4名になっている。(いずれも日本共産党所属の参議院議員)質問はその時の内閣総理大臣村山富市に当てられている。(なおこの質問趣意書は次でよむことが出来る。http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/syuisyo/134/syuh/s134002.htm

 この趣意書では、「三 政府資料の公開について」という項目を立てて、次のように質している。
1. この問題について政府は徹底した真相究明の責任をどう果たそうとしているのか。
2. 前回の質問でも指摘したように、「従軍慰安婦」の渡航、強制連行等に警察が関与していた事は明らかである。にもかかわらず警察関係の資料が皆無というは事は絶対に納得できない。警察関係の他にも例えば「従軍慰安婦」の名簿など資料はまだ政府がたくさん保存しているものと思われる。内閣として従軍慰安婦問題に関する資料をまじめに探し調査する事を要求する。各省に依頼したから後は各省まかせにするのではなく内閣の総力を上げて調べ、公開せよ。
3. 警察関係の資料は前回の吉川議員の質問に対し「誠実に調査したが該当する資料はなかった」とだけ答弁した。どのように調べたかも記さず全く不誠実な答弁である。報道によると、自治省がビル建て直しのため民間ビルに引っ越しをするに当たり膨大な旧内務省関係資料がある事が判明した(九四年十一月六日)。積み上げると一万五千メートルもあるというこの資料の中には警察関係、台湾総督府、朝鮮総督府関係の貴重な資料もあると思われる。この資料を早急に調査して戦争中のものをはじめきちんと整理し公表するべきと考えるが政府の見解を問う。
4. 防衛庁防衛研究所図書館所蔵の業務日誌、従軍日誌類を公開しないのは何故か。これらを整理、調査しプライバシー保護上やむを得ないものの他は早急に公開すべきと考えるが政府の見解を問う。
5. 従軍慰安婦問題解決のためにも資料の整理、公開は緊急を要する。担当者をしかるべく配置して作業を行う考えはあるか

 これに対する村山首相の答弁もまた文書でなされていて、要約すると
  1 誠実に探したがなかった。
  2 一部資料はプライバシーの侵害にあたるものを除けば順次公開している。
(この答弁は、次のURLで読むことが出来る。
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/syuisyo/134/touh/t134002.htm


 厚生省エイズ事件の時のような回答ではある。

 政府は、いわゆる従軍慰安婦問題で知り得ている資料をまだすべて公開していない公算がつよい。