参考資料 <福島第一原発は今> | (2013.1.19) | |||||||||||||
原子力規制委員会 特定原子力施設監視・評価検討委員会 第1回会合 | ||||||||||||||
東京電力提出『特定原子力施設に係る実施計画について』 | ||||||||||||||
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2012年12月21日原子力規制委員会はその第1回目の『特定原子力施設監視・評価検討委員会』を開く。これはその時の議題の「2. 実施計画について(事業者説明)」で東電が提出した実施計画である。 日本のマスコミが、意図的にかどうかがわからないが、東電福島第一原発の現状をほとんど報告しなくなった。しかしたとえば、1号炉から3号炉までで放射性セシウム(セシウム134と137の合算)だけで、しかも大気中放出分だけで、現在たった今でも1時間に1000万Bq(ベクレル)放出されている。他施設からの大気中への放出や汚染水という形で流されている放射能は含んでいない。しかもセシウム以外の核種はいまだに評価すらされていない。 もし日本のどこの原発からでもいい、私の住んでいる広島からもっとも近い四国電力の伊方原発から毎時間1000万Bqの放射性セシウムが放出されている、と想像してみて欲しい。これは大事件ではないだろうか?新聞やテレビは連日報道しないだろうか?私たちは「福島原発事故」という危機に慣れすぎてしまって自己防衛本能が麻痺してしまっているのではないだろうか? 東電福島第一原発が今も抱える危険全体に比較すれば、1時間1000万Bqの放射性セシウム放出など霞んでしまうくらい数々の危険が指摘できる。にもかかわらず、民主党政権も昨年12月に成立した自民党政権も、最初の「放射能大量放出」という段階が過ぎた後は、政治としてはなにもしてこなかった。これは東京電力の問題として、東電に任せっぱなしだった。東電に有効に対処できる能力があるのか、といえば明白にない、と回答せざるを得ない。それでは誰が対処するのか?それとも『お上』に任せておいていいのだろうか? 2012年9月19日日本に原子力規制委員会が成立した。原子力規制委員会の任務は第一義的には、『国際標準』の商業用原子力発電の『安全基準』を作って、日本の原発を再稼働させることである。そして事故を起こした原発を『安全』に廃止措置(decommission)に導くことである。福島第一原発がその第1号に指定された。いわゆる『特定原子力施設』指定である。ここでは『事故』は過去形である。しかし、『特定原子力施設監視・評価検討委員会』の議論を見ていると、隠し覆いようもなく『事故』は現在進行形で語られている。それは当然だろう。シナリオでは『過去形』でも現実は『現在進行形』なのだから。 この記事では、原子力規制委員会の『特定原子力施設監視・評価検討委員会』での議論や提出資料の検討を通じ、
を見ていこうとするものである。もって私たち無名の一般市民が、現状を正しく把握し、戦後『日本社会が直面している最大の危機』克服の手がかりを見つけていく、このことを目的とする。 さて最初にざっと、東電福島第一原発が原子力規制委員会の監視下に入る経緯を見ておこう。 2011年3月の事故以来、大量の放射能が放出された。しかし放射能の放出が止まったわけではない。ここが1986年のチェルノブイリ事故との決定的な違いだ。1時間に2億Bq放出レベルに下がったのは、やっと2011年8月頃だ。東電はこの間廃炉までのロードマップを提出し、それを受けて民主党野田政権は同年12月早々と収束宣言を出す。翌2012年1月から2月頃、放射能放出レベルがやっと1時間に1000万Bqレベルに下がる。ここまで約1年間かかっている。野田政権は経済界から強い突き上げを食らっていた関西電力大飯原発の再稼働を認めておいてから、2012年6月20日に懸案の原子力規制委員会法を成立させ、9月19日に原子力規制委員会が成立する。規制委員会は再稼働のための『新基準案』づくりに全力をあげ、そのため東電福島第一原発対策は後手後手に回る。規制委員会が東電福島に手をつけるのは、やっと11月7日。前述のように同原発を、現行法(いわゆる「原子炉等規制法」)の規制対象から外す「特定原子力施設」に指定し、即日『実施計画』提出を命じた。なんの実施計画かといえば『措置を講ずべき事項』の実施計画だ。この言葉の曖昧さが、そのまま東電福島第一原発のステータスを物語っている。11月中に規制委員会のもとに専門家会合である『特定原子力施設監視・評価検討会』をスタートさせ、ばたばたとメンバーを決めた。(この決め方についても今のところブラックボックスである)翌月12月6日に『現地視察』を実施すると、21日に第1回評価会合を開いて東電の『実施計画』検討評価に入る。この資料はその折りの東電提出の『実施計画』である。
東電の実施計画を一瞥して判明することは、「①東電自体がまだ事故の全容を把握していないにもかかわらず、把握していると錯覚しているかあるいはそのように装っている」ことだ。極めて危険な徴候である。 典型的には、「全体工程:1~4号機の工程」(p8)とする記述だろう。「対応」として「・中長期ロードマップの主要スケジュールと中期スケジュールを記載」と簡単に書いているが、1号炉から3号炉の格納容器の損傷状態も把握していない。肝心要の燃料の溶融状況(核燃料の残骸であるデブリの状況)すら全くと言っていいほど把握できていない。原子炉建屋は何とか構造は維持できたか、コンクリートの破損状況も把握できていない。その状況で作文以外のどんな中長期のロードマップができるというのだろう。なにより東電には「わかっていないこと」を率直に「わかっていない」という勇気がない。あくまで全て把握できている、と建前を押し通している。これは逆に言えば危機感が希薄であることを示している。もし「想定外」の事態(たとえば再び大地震、津波、火災など天災や人為ミスなどの人災)が発生し、これらは把握できていない危険な放射性物質が再び暴れ出したらどう対処するか、などの備えがない。まだまだ事態を甘く見ているというべきだろう。 P9の『1~4号機の全体工程』のロードマップを見ると2022年度から燃料デブリの取り出し開始としているが、それは核燃料の損傷状態によるだろう。このロードマップには何の根拠もない。特に3号機はプルサーマル炉である。プルトニウム燃料(MOX燃料)の溶融状態にとってスケジュールは大きく変わる。把握できていないことは把握できていない、として「いつ把握できるか」、「それはどういう条件が整った時か」、「把握のためにどんな努力をしているのか」を国民の前に明らかにしなければならない。 第2の大きな懸念は、これもやはり東電の姿勢(基本方針)にかかわることだが、判明しているところから先に手をつけようとする(たとえば4号プールの燃料取り出し)あまり、これから発生するかも知れない新たな危険に対する十分な警戒と備えを怠っていることだ。典型的には、『①現時点での広域的(敷地境界及び敷地外)な環境影響評価』(p12)で、現在の空間線量率からのみ推測して実効線量を算出し、「追加的放出等から起因する実効線量は5km地点で空間線量の18,000分の1以下,10km地点で空間線量の約21,000分の1以下であり,平時における5km地点,10km地点における特定原子力施設(すなわち福島第一原発の6つの原子炉のこと)からの影響は極めて小さいと判断」していることだ。環境への影響を空間線量率や実効線量からのみ判断していることの是非はおいておくとしても、東電の環境影響評価は現在の状況が変化しないという前提に立っている。状況の変化(さまざまな事故や自然災害、あるいは、炉心の急激な状況変化など)を全く想定していない。これでは、原発は事故を起こさない、という前提で原発運営が行われていた時のリスク管理の発想と同じである。状況を静的に見、動的に見ていない。私としては大きな危惧を感じる。 さらに第2の点、すなわち「新たな危険に対する十分な警戒を怠っている点」、言いかえれば状況を静的にしか捉えていない点でさらに大きな懸念は、原発敷地から半径20-30km地点にまだ人が居住しているということだ。現在ただ今放出し続けている放射能の影響は今はおいておくとしても、もし何かあったら、直ちにこれら住民には放射能危険が及ぶ。東電福島第一原発敷地内では現在危険作業が行われている、という認識が欠如している。当然東電から国や関係自治体に対して、一定範囲内からは避難するよう要請が行わなければならない。 これは原子力規制委員会の姿勢についてもいえることだが、日本の原発の中で今最も危険な原発はいうまでもなく東電福島第一原発である。原発再稼働の新基準作りが行われているが、その新基準の要件の一つに「原発苛酷事故時の地域住民の避難計画」整備が含まれている。しかし、今最も緊急な避難計画は、福島原発周辺地域住民の避難計画であろう。私には「福島原発は今以上の危険はあり得ない」ことを前提に政府も規制委員会も東電も「措置」を進めているように見える。 以上2点は東電「実施計画」全体を通じて指摘できる懸念事項だが、さらに詳細には様々なことが指摘できる。一言でいえば、実情も把握できていないのに、よくこれだけ確定的なことが書けるな、作文だな、というのが私の印象だ。 |
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