【参考資料】原発 | 2012.11.6 追加2013.6.10 |
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<参考資料>アメリカ電力大手ドミニオン社、 買い手なく原発を閉鎖・廃炉 キウォーニー原発閉鎖・廃炉に見るアメリカの電力事情 |
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<追加>キウォーニー原発 廃炉過程にはいる | |||||||||||
2013年5月7日表題記事のドミニオン社キォーニー原発が廃炉過程に入った。すでに広く伝えられているが、世界核協会(World Nuclear Association)のニュース(WNN)によってキウォーニー原発廃炉過程入りを確認しておこう。 2013年5月7日ウィスコンシン州のドミニオン社キウォーニー原発(加圧水型57万4000kW出力)は約40年の歴史に終止符を打った。昨年10月ドミニオン社が同原発の廃炉を決定し、2013年半ばまでに廃炉にすると発表したが、その言葉どおり5月7日に操業を停止するとアメリカ原子力委員会に通告したもの。同日真夜中12時に電力網(グリッド)との接続を切った。同原発は1974年に操業を開始、2005年7月にドミニオン社がウィスコンシン公共サービス公社及びウィスコンシン電力電灯会社から2億2000万ドルの現金で買収したもの。(3650万ドル相当の核燃料を含む)その時点で同社は中西部地域で原発投資の橋頭堡を築く目論見だった。しかし、中西部で適当な他の原発を買収することに失敗し、キウォーニー原発を維持する経済合理的根拠を失った。そして2011年4月キウォーニー原発の売却を決定した。同原発の操業許可はすでに20年間の延長許可を取得しており、2033年まで操業できるはずだったが(合計60年間操業許可)、ついに買い手は見つからなかった。 おおよそ以上がWNNの記事である。別ないい方をすれば、アメリカの核推進業界からの視点である。しかし別な視点から眺めれば、出力100万kW以下のそして操業から40年近い原発はすでにアメリカで採算に合わなくなっている、ということでもある。もし中西部地域のグリッドがキャパシティ市場制度(電力安定供給のため、発電事業所を所有しているだけでグリッドから補助金を受け取れる制度)でもあれば、話は別となったかもしれないが、ウィスコンシン州はキャパシティ市場ではない。@小規模でA古い原発(安全コストが禁止的に高額になる)アメリカでは経済合理性を失っている、という見方が妥当であろう。日本では「シェールガス革命」のあおりを受けた、という見方一部にあり、それも理由の一つであるが、本質的な要因ではない。さて私の興味は、廃炉の方法(特に何年かけるのか)とコストである。 WNNは次のように書いている。
しかしこの話は誰も信用しないだろう。高レベル放射性廃棄物の処分・管理費用が含まれていないからだ。しかも安全コストはウナギのぼりに高額になっている。MNNも「廃炉費用」については現在のところ、あまり詳しくは触れたくないようだ。 【参照資料】“Kewaunee enters retirement”(World Nuclear Association News 07 May 2013) |
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ロイター・ディサビーノ記者の記事 | |||||||||||
ロイターは2012年10月22日の電子版でスコット・ディサビーノ(Scott DiSavino)の署名記事で『低価格天然ガスのためドミニオン社原発を閉鎖』(“Dominion closing nuclear plant due to low natgas”)と題する記事を掲載した。タイトルだけを見るとエラく短絡した記事だと思われるかも知れないが、アメリカの電力事情やその中での原子力発電の位置づけが俯瞰的に眺められる記事となっており興味深い。必要な補足情報を加えながら早速この記事を見ていこう。
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ドミニオンの操業する原発 | |||||||||||
サリー原子力発電所(Surry Power Station)はバージニア州南部のサリー郡にある。2基の加圧水型原子炉で合計160万kWの発電量。操業開始は1972年と1973年。ドミニオン社の最初の原子力発電所。当初4基の原子炉建設が計画されていたが2基の原子炉はまだ建設されていない。2003年NRCは運転免許を40年から60年に延長した。従ってそれぞれ2032年、2033年まで操業できることになる。1986年12月9日、2号機の原子炉建屋内部分で蒸気爆発が起こり4人の作業員が死亡した。2011年8月16日竜巻が発電所の変電装置を襲って冷却用電源装置が動作不能。予備用ディーゼル電源装置が作動して事故には至らなかった。2011年8月23日の「バージニア地震」の時は操業を続けたがドミニオン社は“非常事態通知”を宣言した。同日通知は解除。
ドミニオンは近年原発運転延長の許可は取っているものの、原発分野の新規投資はほとんど行ってきていない。 (以上https://www.dom.com/about/stations/nuclear/north-anna/index.jsp http://www2.dailyprogress.com/news/cdp-news-local/2008/aug/08/ 6_arrested_in_protest_at_north_anna_site-ar-67006/、 英語Wikipedia “North Anna Nuclear Generating Station” http://en.wikipedia.org/wiki/North_Anna_Nuclear_Generating_Station#cite_note-6、 日本語Wikipedia“ノースアンナ原子力発電所”、英語Wikipedia “Surry Nuclear Power Plant”、 英語Wikipedia “Millstone Nuclear Power Plant”、英語Wikipedia “Kewaunee Power Station”を参照のこと) |
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石炭火力中心だったアメリカの発電 | |||||||||||
さてここでロイター・ディサビーノ記者の記事に戻ろう。
なんとも派手で大げさな書きぶりでこの記者があまり優秀でないことを示している。シェールガスの生産ブームは事実だがそれはまだ実際の電力生産には大きく影響していない。早くても2−3年かかるだろう。アメリカの原子力発電が小規模で古い施設から採算に合わなくなって来ていることは事実だが、粉砕するほどでもない。次の表は1999年から2010年まで12年間のアメリカの電力生産の推移をエネルギー資源別に見た表である。 |
(クリックすると大きな画像でご覧いただけます) | |||||
大ざっぱに言って1999年から2010年の間にアメリカの電力生産は、3兆6950億kWhから4兆1900億kWhに増加している。大ざっぱにいって11.5%の伸びである。12年間で11.5%の伸びであるから低成長というべきであろう。この傾向は2011年、2012年も基本的に変わらない。 大きな特徴は、石炭火力発電が全体の半分以上占めていたのが2008年-2009年のリーマンショックをきっかけとした金融恐慌の後、45%程度に落ち込んだことだ。その分伸びたのが天然ガスである。約15%程度だった天然ガスのシェアは2010年には24%に達し、恐らくはこれからさらに伸びるだろう。シェアでは第3位の原子力発電はこの間平均20%弱とほとんど変わらない。またもともとコストの高い石油・重油火力は3%程度のシェアが2010年には1%を切っている。この傾向も変わらない。 ところが生産設備から見ると別なピクチャーが浮かび上がる。
生産設備は2010年の統計資料しか準備できていないが、全体の傾向は外れないだろう。石炭火力の生産設備は全体の30%程度でしかない。しかし実際の電力生産は全体の45%を占めている。石炭火力の設備利用率が極めて高いことを示している。これは石炭が燃料として一番安いことを意味している。次に天然ガスは全体の設備約40%に対して実際の生産はまだ25%程度でしかない。これはコストが石炭に比べまだまだ高いことを意味している。 注目されるのは原子力発電だ。全体の設備シェアは10%でしかないのに実際生産は20%近くを維持している。これは原発が石炭に次いでコストが安いことを意味している。しかしこれはアメリカの原発産業がいわば特殊事情にあるからだ。 |
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建設費高騰、燃料以外のコスト要因−原発の弱点 | |||||
アメリカで現在稼働中の原発はほとんどが操業開始以来40年を迎えている。しかもほとんどの原発が20年延長のライセンスを得て実質60年間の操業が保証されている。また操業開始時期から見て建設コストが安かった時期に原発をスタートさせている。つまりは操業コストの中の設備の減価償却という点ではタダ同然で操業できる。残る原発操業コストで最大の要因は燃料費と管理維持コストだけである。この操業コストの安さがアメリカの原発の大きな特徴である。しかしこれから新規建設となるとそうはいかない。この40年間で建設コストが大幅に上がった。最大の要因は安全コスト急上昇である。たとえば、この記事で話題になっているドミニオン社のミルストン原発(コネティカット州)の2号機は前述の通り加圧水型炉87万kWで1975年12月6日商業運転開始した。建設許可を得たのは1970年12月11日だった。この2号機建設コストはわずか4億2400万ドルだった。原子炉を納入したのはコンバスション・エンジニアリング社だった。(Combustion Engineering。同社は今はスイス−スエーデンに基盤を持つ重電多国籍企業ABBグループの子会社になっている。ついでに言えば韓国の標準型原子炉はABBグループとの技術提携によるものである)2号機も115万kWの加圧水型原子炉だが建設許可を得たのは1974年8月9日。商業運転開始は前述のごとく1986年8月23日である。3号機の建設コストは一挙に跳ね上がって37億7000万ドルである。10倍近い。10年間での物価上昇をはるかに上回っている。原子炉を納入したのはウエスティングハウス社だ。 現在原子炉1基あたりの建設コストはどのくらいなのだろうか?2009年12月韓国の受注グループはアラブ首長国連邦から4基の原発を200億ドルで受注した。1基あたり50億ドルの受注である。これは価格競争力のある韓国の価格だ。
この記事の冒頭でも扱ったドミニオン社のノース・アナ原子力発電所は3号機建設の話が持ち上がっており、当初日立GEニュークリアエナジーとの話が進んでいたがこれはご破算になったことはすでに述べた。建設コストもさることながらメンテナンス費用も増大していると推測できる。というのは先ほどの韓国受注グループが4基の原発を200億ドルで受注した際、向こう20年間の維持管理費も同時受注しておりそれがやはり200億ドルだった。1年間1基分が2億5000万ドル(1ドル80円で換算すれば200億円)ということになる。しかし私はこれではすまないと考えている。 福島原発事故前の2011年度(2010年4月から2011年3月)、関西電力が保有する3つの原発はほぼ正常運転だった。この年の有価証券報告書を見ると、関西電力は核燃料濃縮関連費49億円や使用済み核燃料再処理費579億円は別としても、廃棄物処理費54億円、特定放射性廃棄物169億円、消耗品費28億円、賃借料25億円、委託費352億円、修繕費1094億円(いずれも原発事業費項目)合計1722億円を計上している。ドルに換算すれば21.5億ドルととんでもない金額となる。NRCの規制が日本に比べればはるかに厳しいアメリカではこんな金額ではすまないであろう。この年関電の核燃料費は443億円に過ぎなかった。原発は燃料費だけ取り出してみればコストの安い発電手段かも知れないが、操業コストという点では決して安い発電手段ではなくなっているのである。 ドミニオン社がノース・アナ原発3号機の新設に関して日立ニュークリアエナジーとの商談を白紙に戻したのも建設コストもさることながら、こうした関連維持費の高コストに嫌気がさしたのではないかと私は想像している。現在は三菱重工業と交渉を進めているのは前述の通りだが、これもはかばかしく進展していない。少々建設コストが安くとも関連維持費がこれだけ高コストについては二の足を踏まざるを得ない。なにしろ2000億円もあれば最新鋭の環境規制に適合した100万kW石炭火力発電所が建設できるご時世だ。しかも建設リードタイムはわずか2か年である。 昨年の4月から売りに出しているウィスコンシン州のキウォーニー原発に、20年間の操業延長許可付きでも買い手がつかず、ドミニオン社が閉鎖を決めた背景には恐らく以上のような事情があったと私は推測する。決してスコット・ディサビーノ記者がいうようにシェールガス生産の激増で、燃料コストが合わなくなったという単純な話ではない。燃料コスト問題ではないところに、原発産業にとってはある意味深刻な問題がある。(ただし買い手がつかなかったのは後でも見るようにウィスコンシンの電力市場の特殊事情もあったのだが) |
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今年に入って拍車がかかる電力料金低下圧力 | |||||
再びディサビーノ記者の記事に戻ろう。
PJMグリッドは有限責任法人PJM内接網社(PJM Interconnection LLC)によって運営されているアメリカ最大のグリッドで、有限責任法人(LLC=Limited Liability Company)は株式会社と共同経営法人(パートナーシップ)の中間型のような法人形式で州によって少しずつ違うようだ。(どこがどう違うのか私にはよくわからない)PJMはペンシルバニア−ニュージャージー−メリーランド内接網(the Pennsylvania-New Jersey-Maryland Interconnection)が母体となっている。もともとは東部一部地域のグリッドだったが、現在は、以上三州以外に、デラウエア州、イリノイ州、インディアナ州、ケンタッキー州、ミシガン州、ノースカロライナ州、オハイオ州、テネシー州、バージニア州、ウエストバージニア州、ワシントンDCの全域または一部を供給地域にしている。東部一部地域からほぼ中西部全域をカバーするまでになっている。参加している業者は650以上、発電所を1325か所、約9万6000kmの送電網、6038か所の送電中継所を持ち、6820億kWhの電力を供給している。(いずれも2009年。英語Wikipedia “Electrical grid” 、”PJM Interconnection”などによる) (PJMのwebサイトから「LMP Contour Map」) |
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キウォーニー原発は廃炉 | |||||
再びディサビーノ記者の記事に戻る。
ロイターはこのところ経済ニュースに特化しているので、株価などにも触れている。もともとこの記事は「原発関連記事」として書かれているのではなく、電力業界をテーマにした経済記事として書かれている。この記事を読む限りウィスコンシン州を中心とした地域では、天然ガスの燃料価格が大幅に下がって電力卸料金が低下し、原発の発電コストでは太刀打ちできそうにもなくなった、だからキウォーニー原発を売ろうとしたのだが、買い手がなかった、税控除も受けられるのでこの時期に閉鎖・廃炉を決定した、と読めてしまう。この記事を続ける。 |
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他にも原発閉鎖予備軍が・・・ | |||||
「原子力発電は現在のところまだ天然ガスより安く電気を生産できる。とはいえ、アナリストによると、既存の原発においても、将来の資本投資を考えると、それは数億ドル以上にのぼるだろうが、原発事業者がさらにいくつかの原発の閉鎖を早めてしまうかもしれないという。『もし現在のガス価格予測が正確なものだとなれば、多くの原子炉が運転免許期間の60年を生きながらえることができないだろう』というのは、アメリカ原子力規制委員会の職員だったピーター・ブラッドフォード(Peter Bradford)である。ブラッドフォードはエネルギー政策を専門とする教授職についておりバーモント法科大学院で教えている。『決定要因は原発事業者が大きな資本投資を決定する必要に迫られる地点に近づくことにあるように思える』とブラッドフォードはいくつかの原発の例を挙げながら指摘する。たとえば、デューク・エネルギー社(Duke Energy Corp)のフロリダ州にあるクリスタル・リバー原子炉(Crystal River reactor)は新たな原子炉格納容器(containment dome)が必要となるかも知れない。これは30億ドル以上かかるだろう。またエジソン・インターナショナル(Edison International)がカリフォルニア州にもつサン・オノフレ原子炉(San Onofre reactors)は新たな蒸気発生装置が必要となるかも知れない。特にこのシナリオ(新たな大規模投資が必要となって原発を放棄するシナリオ)以下での閉鎖は古くて、小規模の単独原子炉サイトに現れることになるだろう。このような条件に当てはまるかもしれない原発は他にもある。リストにすれば、エクセノン社(Exelon Corp)のオイスター・クリーク原発(Oyster Creek。ニュージャージー州)、エクセル・エネルギー社(Xcel Energy Inc.)のモンティセロ原発(Monticello。ミネソタ州)、エンタージー社(Entergy Corp)のパリセイズ原発(Palisades。ミシガン州)、バーモント・ヨンカー原発(Vermont Yankee。バーモント州)、ピルグリム原発(Pilgrim。マサチューセッツ州)などがある。 『将来の決断はそれぞれの原発が独自に抱える個別の事情によってケースバイケースでなされるだろう。化石燃料発電所がそうであるようにね。』と業界団体である核エネルギー協会(the Nuclear Energy Institute)のスポークスマンであるスティーブン・ケラケス(Steven Kerekes)はいう。ケラケスはまた次のようにも指摘する。『低価格のガスで競争の矢面に立たされているのは、(原子力発電ではなく)石炭火力発電だ。強まる連邦政府の環境規制に対応するため火力発電全体は数十億ドルにものぼる新規投資が必要だからだ。発電業者はすでに石炭火力からの撤退かあるいは3500万kW相当の石炭火力から他の燃料への転換を公言している。3500万kWといえばアメリカの全石炭火力発電の10%以上にのぼる。』 ケラケスは原発業界の人間だけにこうした指摘をするのは当然だが、アメリカの石炭火力発電設備が老朽化していることは事実だ。石炭火力からの撤退かあるいは低炭素社会に対応する石炭火力発電設備に更新していかなければならないことも事実だ。しかし元原子力規制委員会の職員だったブラッドフォードの指摘も事実である。またブラッドフォードは指摘しなかったが、他の選択肢に比べて原発の最大の弱点は厖大に『安全対策』が必要なことだ。原子力規制委員会もさらに高まる反原発運動や放射能による健康損傷問題に対応するためさらに規制を強めねばならない。それは原発の安全対策コストの増加要因となって跳ね返ってくる。この記事を続ける。
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キウォーニー原発の特殊事情を強調 | |||||
ここでディサビーノ記者の記事は終わりだが、この問題はまだカタがついていないようだ。というのは10月25日付でディサビーノ記者は『ドミニオン、3発電所に買い手が大きな興味を示す、と語る』(“Dominion says high interest in sale of 3 power plants”)と題する補足記事を書いているからだ。この3発電所とはドミニオンが所有する発電所で、マサチューセッツ州のブレイトン・ポイント発電所(153.6万kW:石炭、天然ガス、石油を燃料)、イリノイ州のキンケイド発電所(114.8万kW:石炭)、エルウッド発電所(141.4万kW:天然ガス。ただし同社の所有比率は50%)のことである。アメリカで発電事業を順調に経営していくのは大変である。特に自由化以降独占に胡座をかいてすますことはできなくなった。市場は毎日価格を変えていく。刻々変化する価格の中で安い卸電力を買って行かなくてはならないし、少しでも高く売らなくてはならない。また自社発電設備はコストをできるだけ下げなければならない。それでは最終ユーザーに売る価格を好きなように変えられるかというと、契約と規制でそれも自由にできない。その上電力供給は一定程度州と連邦政府によって義務づけられている。経営者も無能ではつとまらない。地域独占、送電線網の独占、販売の事実上の独占など二重三重の独占に堅く守られ、その上総括原価方式で一定程度の利益を確保できる日本の電力会社の経営者は無能でも十分つとまる。必要な条件といえば、押しが強くて鉄面皮で恥知らずなことぐらいだろうか。もちろん頭は悪い方が望ましい。なまじ頭がいいと自分の主張していることに矛盾や誤魔化しがあることに気がついてしまい、やりにくくするだけだからだ。 とにかく変動激しいアメリカの電力業界で発電設備の売り買いは日常茶飯事だ。他の業者が発電所買収に興味を示したという程度ではニュースにならない。だからこの25日付の記事も本当に書きたいことは、後半部分にある。私の全くの想像だが、恐らくはドミニオン社のCEO・トーマス・ファレルはディサビーノの22日付記事に不満を抱いたのではないか?あるいは核エネルギー業界がファレルを突き上げたのかも知れない。そしてファレルはディサビーノに電話をかけた。(あるいはニューヨークでビジネスランチに招待したのかも知れない)こんな具合ではなかったか? 「スコット、22日付の記事はとてもよかった。いい記事だったよ。でも少し足りないところがあるんでちょっと書き足して置いてくれないか。いやね、あの記事でもちゃんとキウォーニー原発が売れなくて閉鎖するのは、ウィスコンシン州の特殊事情で決してアメリカの原発全体の事情を反映したものではない、と書いているんだが、それでも誤解する読者がいるんじゃないかと思ってね。どうだろうか、今3つの発電所に興味をしめしている買い手がいっぱいあるというニュースを提供するから、キウォーニー原発の件ね、ちょっと補足しておいてくれないか?いやね、いろんなうるさいことをいう連中がいてね、私もちょっと実は弱っているんだよ」私の全くの想像である。(妄想であると思ってもらっても構わない)ということでこの25日付記事の後半部分を紹介することにする。 |
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キャパシティ市場の存在 | |||||
ディサビーノもここでは自説を譲らない。が、次のように書いている。
キャパシティ市場(Capacity Market)とは一体何だろうか?インフラ産業コンサルティング部上級コンサルタント、伊藤剛の報告『次世代電力システムの鍵を握るデマンドレスポンス』によると電力事業者がピーク時電力の供給力を確保するため、一定の発電設備容量を義務づけられているグリッドのことを『容量市場』(キャパシティ市場)と呼ぶと説明している。電力自由化以降様々な混乱を経験して整備された電力安定供給制度の一つというべきだろう。アメリカのグリッドがすべてキャパシティ市場というわけではないし、発電所をもっているだけで支払いを受けることができるという仕組みそのものの妥当性についてはまた別な議論である。アメリカも電力自由化後の制度設計に関してまだ試行錯誤中というところだろう。日本でも本格的な電力自由化が議論されているが、電力自由化は絶対必要であることは間違いないにしろ、『電力自由化』ですべてが解決するわけではなく、新たな制度設計の構築を含め『いばらの道』になることだけは覚悟し、あらかじめ十分に調べ考え抜いておかねばならない。 |
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天然ガス、バイオマス発電に投資するドミニオン | |||||
ディサビーノの記事に戻る。
この記事の冒頭で紹介したバージニア州ミネラル市にあるノース・アナ原子力発電所の3号機は三菱重工業が受注を狙っているのだが、どうも近々には予算化・スケジュール化の予定はなさそうだ。 ディサビーノ記者の10月25日付の記事の狙いは、来年閉鎖・廃炉が予定されているウィスコンシン州キウォーニー原発のケースは非常に特殊なケースで、アメリカの原発産業全体の傾向ではないことを、『キャパシティ市場』について説明しながら強調する狙いを持つものだった。が、私には逆効果のように思える。というのはアメリカの小規模で比較的年数を経た原発は、キャパシティ市場でキャパシティ支払金受け取りにしか存在価値がないように読めるからだ。 |
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