【参考資料】トリチウム | 2013.12.18 | |||||||||||||||||||||||||||||
トリチウムについて そのA |
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カナダの原発施設からのトリチウム放出量 | ||||||||||||||||||||||||||||||
カナダの核施設からのトリチウム放出量はどのくらいなのだろうか? カナダの人工トリチウム放排出の大半はカナダが独自に開発した原子炉CANDU(キャンドゥーと一般には発音している)型原子炉からのものだ、とフェアリーは指摘している。これに加えて、オンタリオ州ペンブローク(Pembroke, Ontario)にあるSRBテクノロジーズ社からの工場施設から発生する相当量のトリチウム放出もある。この会社はトリチウムを含んだ自発光サイン看板や緊急灯などを製造している会社である。
ここでいう「将来のエネルギー源に関する研究」にトリチウムが使用されるというのは、熱核融合炉の開発研究のことだろう。熱核融合炉はちょうど核兵器における、熱核融合爆弾(水素爆弾)に対応する。ウランやプルトニウムなどの重元素の核分裂反応を応用した爆弾が原子爆弾だった。核分裂反応を原子炉に応用した技術が現在の原発である。一方、水素やヘリウムなど極めて軽い元素を融合させると極めて大きなエネルギーの発生することが随分昔から知られていた。この核融合技術を応用した核兵器が熱核融合爆弾である。太陽は巨大な熱核融合爆弾であり、熱核融合炉である。しかし人間の作りだした熱核融合爆弾は、技術的にみれば太陽とは似て非なるみじめなシロモノだった。水素やヘリウムを核融合燃料とする太陽では、融合に必要な高温(数億度から数十億度)や超高圧が難なく得られるが、人間の力ではたやすく高温・高圧が得られない。そのため核燃料の重水素や三重水素(トリチウム)を核融合させる高温高圧を核分裂爆弾(原子爆弾)から得ているのである。 この課題(超高温や超高圧を作り出す技術。あるいは超高圧を得るための密閉技術)の未解決は、そのまま熱核融合炉の課題となっている。日本語ウィキペディア『核融合炉』は、「現在開発中の原子炉の一種で、原子核融合反応を利用したもの。21世紀後半の実用化が期待される未来技術のひとつ」という文章ではじまっている。おそらくこの記述は核利用推進派の書いた記述と思われるが、いわばバラ色の『核融合炉』の未来を描いている。核融合炉の開発は、1国の経済力をはるかに越えた費用を必要とする。アメリカといえども1国でその開発費用をまかなえない。この核融合炉の開発に最も熱心な国はフランスと日本だが、1992年『国際熱核融合実験炉のための工学設計活動における協力に関する欧州原子力共同体、日本国政府、ロシア連邦及びアメリカ合衆国の間の協定(EDA協定)』を結び、熱核融合炉開発分野での共同開発時代に移行している。この熱核融合炉の核燃料の1つとされているのが、トリチウムである。トリチウムは自然界の中にも存在するが、自然界のトリチウムを材料に熱核融合炉を作ることはできない。あまりにも少なすぎるためだ。自然界が生産するトリチウムは1年間に最大で7.4京Bqに過ぎない。(『トリチウムについて その1』参照のこと) トリチウムの本格的な生産が必要とされる理由である。OPG発行『私たちの安全と健康を保持する核製品』(”How nuclear Products keep us Healthy and safe”)という題名のパンフレットもそのことに言及しているのである。カナダが独自の重水炉を開発して、大量のトリチウムを人為的に発生させているのは、アメリカで開発された軽水技術を嫌ったと言うほかに、将来の核融合炉開発を見越してのことだろうとは想像していたが、OPGの発行する『私たちの安全と健康を保持する核製品』と言うパンフレットはこの想像を一部裏付けている。 さて話をイアン・フェアリーの『トリチウム危険報告』に戻そう。 個所は第2章『カナダで放出されたトリチウム』に相当する。カナダが世界でもっともトリチウムの放・排出の多い国である理由は、その原子炉が重水炉であることに起因している。原子炉は炉内に減速材(中性子の勢いを弱める)や冷却材として“水”(軽水)を使用している。これが軽水炉と呼ばれている。しかしカナダは独特のCANDU型原子炉を開発し、これが減速材に重水を使用しているために、トリチウムの放・排出が異常に多い結果となっている。 表1〜3はカナダの原発(いずれも重水炉)から年間放・排出されたトリチウム量である。日本の九州電力・玄海原発が放出するトリチウム水(HTO)は、2010年度(2010年4月から2011年3月)100テラBqだった。玄海原発は加圧水型だが、2010年度の玄海原発を基準としてみると、カナダの原発は一部例外があるもののその放出ははるかに大きく、最大8.6倍に上ることもある。(表1の「ブルース原発A+B」の2003年の項参照の事) ただし、日本の原発とカナダの原発を比較する時、日本の原発の場合は「トリチウム水」(HTO)のデータしか公表されていないことに注意を要する。公表されていないからといって「気体」の形のトリチウム(トリチウムが蒸気化されて空中に排出されるケース。これもHTOである)が出ていないのではない。必ず計測されているはずだ。というのは、「もんじゅ」や「ふげん」では、液体と気体のHTOが両方公表されているからだ。一般原発の気体HTO放出量が公表されることを望む。 |
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HT(トリチウムガス)、THO(液体)、THO(気体)、OBT(有機結合型トリチウム)の区別 | ||||||||||||||||||||||||||||||
注意を要するのは表4だ。これはダーリントン原発から放出されるトリチウムガス(Elemental Tritium−HT)の量である。やや混乱するような話だが、トリチウムガスは英語の名称“Elemental Tritium” の語が示すように、トリチウム水素の基本形である。従って形状は気体(ガス)である。このHTがヒドロキシ基と結合した形がHTOである。(ヒドロキシ基はOH基。以前は水酸基と表示されていたが、私なども水酸基と記憶していたが、今は不適切とされヒドロキシ基と表示されるようになったという。たとえば日本語ウィキペディア「ヒドロキシ基」を参照のこと) HTOは水に溶けて(と言うよりも水そのものとして)とリチウム水として原発から放出されている。(液体HTO)さらにHTOは細かい水蒸気として空中にも排出される。(気体HTO) 随分ややこしい話になるが、まず原子炉内でトリチウムガス(HT)が発生する。そのHTがヒドロキシ基と結合しトリチウム水(HTO)となる。HTOがそのまま水の形で放出されれば液体トリチウムというわけだが、気化して蒸気となり空中に排出されれば、気体トリチウムとなる。これらが自然界の炭素と結合したり、人間など生物の体内に入って体内の炭素と結合すれば、有機結合型トリチウム(organically bound tritium −OBT)となる。そして内部被曝で大きな問題となるのは、さまざまな理由によりこの有機結合型トリチウム、ということだ。 表4の興味深いのは、HTOになる前のトリチウムガス(HT)の形でも原発から排出しているという事実だ。従って「トリチウムの危険」を知るには、液体トリチウム(HTO)の排出を知るだけでは不十分ということになる。トリチウムガス(HT)及び液体と気体の形でのトリチウム水の放出量を知らなくてはならないということになる。現在福島第一原発、九州電力玄海原発、四国電力伊方原発、関西電力の美浜、高浜、大飯の3原発から大量のトリチウム水が放出されているが、これも液体トリチウムだけの量が公表されているに過ぎない。トリチウムガスや気体の形のトリチウム水の量も合わせて知らなくてはトリチウムの危険は正しく評価できない、ということになる。 表3は「カナダの原発からの総トリチウム放・排出量」の表である。もしこのデータが正しいとするなら2001年から2005年の間にカナダの原発からの1万7451テラBqのトリチウムが様々な形で環境に放たれたことになる。1万7451テラBq、すなわち1.75京Bqである。フェアリーの「トリチウム危険報告」によれば、自然界で生成されるトリチウムは全地球で年間約7.4京Bqだった。(「トリチウムについて その1」参照のこと)カナダの原発は全地球で生成する自然のトリチウムの約5%を放排出していることになる。 |
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六ヶ所村核燃料再処理工場から放出されるトリチウム | ||||||||||||||||||||||||||||||
そしてアクティブ試験の第4ステップでは、使用済み核燃料551体(加圧水型;236体、沸騰水型:315体、合計約160トン [t・UPr])を使って、再処理試験を行った。期間は2007年8月31日〜2008年2 月13日までの約5か月半だった。この報告書全体も非常に興味深いものだが、今はトリチウムに絞って見てみよう。 トリチウムについては、
と評価している。『放出管理目標値』なるものは後でも出てくるのでここでは触れない。そして次のように続ける。
これは、気体の形でのトリチウム水(HTO;水蒸気化したトリチウム水)の推計と考えられる。それでは、液体の形でのトリチウム水はどうかというと、
それでは実際の放出量はどうだったか? 同報告書45Pに掲載してある「表−13 設計上除染係数を設定している核種の年間の推定放出放射能量」によれば、アクティブ試験中(2006年3月31日〜2008年2月13日まで。この期間の試験期間は合計16か月になる)、気体の形で放出したトリチウムの測定値は約16テラBqだった。年間の放出推定値に換算すると75テラBqとなる。これに対して設定されている『放出管理目標値』は、1900テラBqだから当分目標値に達することはない。それは75テラBqが危険でないレベル、ということを意味しない。1900テラBqという目標管理値がデタラメなのである。実際には青天井でいくらでも放出していいですよ、という意味に過ぎない。 一方、液体の形で放出したトリチウム水は同期間で1800テラBqになる。同報告書には年間推計換算値が明記されていないので、単純に16ヶ月間を12か月間に換算してみると、1200テラBqということになる。年間1200テラBqという液体の形でのトリチウム放出は、日本の原発すべてが1年間に放出する液体トリチウム合計の約10倍である。またカナダの原発から放出されるトリチウム水(液体)の年間総合計に匹敵する。これはアクティブ試験の結果であり、本格操業が始まれば、恐らくこんな数字ではすまないだろう。カナダでトリチウムによる健康被害が出ているならば、六ヶ所近辺の青森県地域、陸奥湾、津軽海峡を隔てた北海道南端部でも必ず健康被害が発生するだろう。 日本原年の核燃料サイクル事業は、「核燃料サイクルの是非」、「溜まり上げるプルトニムと核不拡散」という観点からばかり論じられるが、今こそ視点を大きく変えなければならない。「再処理事業問題」はエネルギー問題でもなければ「核不拡散問題」でもない。住民、特に若年者、幼児、乳児の健康と生命の問題、いいかえれば生存権問題なのだ。 |
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(以下そのBへ) | ||||||||||||||||||||||||||||||
【参照資料】
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