(2010.10.15)
 <ヒロシマ・ナガサキ参考資料>

 『米機の新型爆弾による攻撃に対する抗議文』
−日本政府 1945年8月10日
 
   1945年(昭和20年)8月10日日本政府が、アメリカ・トルーマン政権による広島への原爆攻撃に対して出した抗議文である、8月11日付け朝日新聞の報道によると、日本政府はスイス政府を通じてアメリカ政府に提出した。また同様の趣旨を赤十字国際委員会に説明するように、在スイス加瀬(俊一)公使に訓令を発した、という。今読んでみると、全く正論であるが、当時日本軍が各地で行ってきた残虐行為、毒ガス兵器の使用などを考えると、「よくいうよ」という感じがしないでもない。肝心な事は、この時日本政府は、原爆の使用に関して、「国際法違反」「人道法違反」の立場を明確に取っていたにもかかわらず、戦後政府はこれを一切明言していないことだ。日本政府の見解がいつ、いかなる理由によって変更されたのかについても説明されていない。

なお出典は「『朝日新聞に見る日本の歩み』昭和20年−21年」(昭和49年1月15日第3刷 P-67)。旧漢字や旧仮名遣いは改めた。また当時の新聞記事の書き方で句読点が明確でないため、必要に応じ句読点を入れた。また原文には段落がないが、読みにくいため、必要に応じ段落を入れた。

 本月6日米国航空機は広島市の市街地区に対し新型爆弾を投下し瞬時にして多数の市民を殺傷し同市の大半を壊滅せしめたり。広島市はなんら特殊の軍事的防備ないし施設を施しおらざる普通の一地方都市にして同市全体として一つの軍事目標たるの性質を有するものに非ず。

本件爆撃に関する声明において、米国大統領『トルーマン』は、我らは船渠工場及び交通施設を破壊すべしと言いおるも、本件爆弾は落下傘を付して投下せられ、空中において炸裂し、極めて広き範囲に破壊的効力を及ぼすものなるを以て、これによる攻略の効果を右の如き特定目標に限定することは技術的に全然不可能なこと明瞭にして、右の如き本件爆弾の性能についてはすでに承知しておるところなり。

また、実際の被害状況に徴するも被害地域は広範囲にわたり右地域内にあるものは交戦者、また男女老幼を問わず、全て爆風及び輻射熱により無差別に殺傷せられその被害範囲の一般的にして、且つ甚大なるのみならず、個々の障害状況より見るも、未だ見ざる残虐なるものと言うべきなり。

聊々、交戦者は害敵手段の選択につき無制限の権利を有する者に在らざる事及び不必要の苦痛を与うべき兵器、投射物その他の物質を使用すべからざる、とは戦時国際法の根本原則にして、それぞれ陸戦の放棄慣例に関する条約付属書陸戦の放棄慣例に関する規則第22条及び第23条(ホ)号に明定せらるるところなり。

米国政府は、今次世界の戦乱勃発以来、再三に渡り毒ガス乃至その他の非人道的戦争方法の使用は文明社会の世論により不法とせられおり、とし相手国側において、まずこれを使用せざるかぎり、これを使用することなかるべき旨声明したるが、米国が今回使用したる本件爆弾は、その性能の無差別且つ残虐性において従来かかる性能を有するがゆえに使用を禁止せられおる毒ガスその他の兵器をはるかに凌駕しおれり。

米国は国際法及び人道の根本原則を無視して、すでに広範囲にわたり帝国の諸都市に対して無差別爆撃を実施し来たり。多数の老幼婦女子を殺傷し、神社仏閣学校病院一般民家などを倒壊または焼失せしめたり。

而して今や新奇にして、且つ従来のいかなる兵器、投射物にも比し得ざる無差別性残虐性を有する本件爆弾を使用せるは人類文化に対する新たなる罪悪なり。

帝国政府は、ここに自らの名に於いて、且つまた全人類及び文明の名に於いて米国政府を糾弾すると共に、即時かかる非人道的兵器の使用を放棄すべきことを厳重に要求す。