【参考資料】ヒロシマ・ナガサキ・フクシマ | 2015.12.20 |
<参考資料>通常運転で日本の原発から放・排出される 希ガス・ヨウ素131 |
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「原発は事故を起こさなければ環境に放射性物質をださない」-日本の社会のみならず世界中で多くの人たちが信じている大きな“誤解”だ。原発は通常運転でも大量の放射能を環境に放・排出している。 この誤解を誘導してきたのは世界中の核産業を推進する政府や核産業界、日本でいえば電力会社などの原子力事業者である。 たとえば、図1は電気事業連合会のWebサイトに説明されている「5重の壁」と題する図解である。なかで電気事業連合会は、核燃料たるペレットは、丈夫な燃料被覆管に入れられ、「万が一被覆管に穴があいたとしても、その外にはさらに原子炉圧力容器や格納容器、建屋で囲まれており、放射性物質を外に出さない(閉じ込める)ようにしています」と述べている。
これを読むと不測の事態(たとえば事故や操作ミス)さえ起きなければ、放射性物質は、原発敷地外はおろか、原子炉建屋の外に絶対に漏れないものだと思い込まされてしまう。 もちろん電気事業連合会は、通常運転でも大量の放射性物質を環境に放出しています、とは一言もいわない。たまに、どれくらいの放射能が出ていますか?と問われると「人体に影響が出ない程度です」と答えている。 実際には以下に見るように多様な核種の放射性物質を環境にまき散らしながら原発は運転を続けている。 原発はCO2を出さないが、放射能を出している。仮に「CO2地球温暖化」の仮説を認めるにしても、私たちはCO2か放射能かの2者択一を迫られていることになる。 |
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放射性希ガスの排出量 | |||||||||||||||||
表1は、日本の原発から通常運転で放出される「放射性希ガス」である。このデータを公表しているのは「原子力施設運転管理年報」であるが、放射性希ガスとはどこまでを含めているかを明記していない。原発業界で希ガスといえば、アルゴン41、キセノン133、クリプトン85などを指すようなのでそのように注に入れておいた。
この表で、「N.D.」とあるのは「検出限界値未満」という意味で、放射能を出していない、という意味ではない。それでは検出限界値はどれくらいなのかというと、放射性希ガスの場合、1cm3あたり0.02ベクレル(Bq)だ。えらく小さい値のように見えるが、誤魔化されてはいけない。図2で見るように、1m3でみるとその100万倍、2万Bqが検出限界値で、1m3あたり2000万Bq未満では検出限界値未満として全くカウントされない。
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計測値はすべて事業者の自己申告 | |||||||||||||||||
しかもこれらの値は、すべて原子力事業者が自分で放出上限値を決め、自分で計測する自己申告による値である。希ガスの場合、原子炉建屋の排気筒に計測計が取り付けられ、その計測値に全排気量を掛けて放出量を算出する仕組みになっている。ですから計測計で検出限界値未満となれば、最初から放出していない計算になる。 次にこれら計測値がどこまで信頼のおけるものかという問題がある。原子力事業者が水からの基準で自らが計測したデータがどこまで信頼のおけるものか、という問題である。 原発を再稼働をするしないに係わらず、信頼のおける第三者機関が計測とそのデータの管理・公表に責任をもつ仕組みを作るべきだ。 その次に、データ改竄やサボタージュは原子力業界では日常茶飯事だ、という点である。データ改竄やサボタージュは、住民にとっては生命・健康に係わる死活問題だという点を重く見るならば、データ改竄やサボタージュが発覚した場合は、原子炉設置許可の取り消しや責任者に対する刑事罰などの重い罰則規定が必要だろう。こうした安全保障措置がないまま、フクシマ事故後の日本で原発再稼働はありえない。 そうした目で表1を眺めて欲しい。特に北海道電力泊原発、関西電力美浜原発、同じく高浜原発、同じく大飯原発、九州電力玄海原発、同じく九州電力川内原発など加圧水型原子炉を有する原発からの排出量が飛び抜けて大きい。2008年度の高浜原発は1年間で9300億Bqである。四国電力の伊方原発もけっして負けてはいない。2006年度には6900億Bq、2007年度には8700億Bq。またこうした数値の背景には膨大な「検出限界値未満」というカウントされない放排出があることにも注意を払うべきだろう。 |
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ヨウ素131の放出量 | |||||||||||||||||
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ヨウ素131の放出量である。ヨウ素131は特に危険な核種として、検出限界値も1cm3あたり10億分の7Bqと厳しく規制している。かつては、ヨウ素131は健康に害のない放射性物質として事実上野放しにされていた時代があった。下表はアメリカのドレスデン原発からの放射性物質放出量の実績値である。 |
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そしてその多くがこうした希ガスやヨウ素131で占められていた。中でもヨウ素131は、ドレスデン原発の位置するイリノイ州グランディ郡やその周辺地域の赤ん坊や住民に深刻な奇形や腫瘍、乳児死亡などをもたらした。(この詳しい報告はアーネスト・スタングラスが『赤ん坊を襲う放射能』新泉社刊 1982年6月の中で書いています。上記表も同書からの引用) ヨウ素131はその後、もっとも危険な放射性物質ということになったが、それは当時安全だと宣伝されたヨウ素131の健康被害を、スタングラスなど多くの良心的な科学者が立証したおかげだった。こうした良心的な科学者や放射能と闘った市民グループの存在がなければ、いまでもヨウ素131の危険性は無視され通常原発からの放出も野放し状態だったろう。当時のヨウ素131は現在のトリチウムの扱いによく似ている。 しかし、そのヨウ素131も表2を見ると、ちらほらと通常運転で放出している原発がある。特に関西電力の2004年度の大飯原発は1.9億Bqの放出と悪質だ。伊方原発も2006年には73万Bq、2007年度は11万Bq、2009年度には9.9万Bqと結構ヨウ素131を環境に放出している。ところで伊方原発は2010年度には1.7万Bqを放出してるが、これは原子力運転管理年報の注によれば、福島第一原発事故で放出されたヨウ素131を四国の伊方原発で検出したものだ。苛酷事故で検出されるより多いヨウ素131を通常運転で放出するのが伊方原発だという事実をみなさんよく頭に入れておいて欲しい。 |
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福島事故の放射能はいったん日本全体を包んだ | |||||||||||||||||
福島第一原発からのヨウ素131は、1cm3あたりの濃度はわかっても、肝心の分母となる移動してきた大気量はわからない。 ここで重要なことは、福島第一原発からの放射能はいったん日本全国を掩ったということだ。ヨウ素131が検出されたのはたまたま全国の原発が精度の高いヨウ素131計測計をもっていたからというに過ぎない。つまり原発施設が偶然に観測地点の役割を果たしたわけだ。 福島事故で、ヨウ素131だけが日本全国に拡散したと考えることは合理的ではない。実際には別表のような様々な核種が濃淡の差こそあれ、日本全国を掩ったと考えるのが合理的だ。 |
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