【参考資料】ヒロシマ・ナガサキ・フクシマ
追加:訂正 2011.4.7
<参考資料>福島原発事故 原子力専門家の緊急提言 2011年3月30日 一部専門家任せにせず総力を結集せよ

 【追加・訂正】  この「緊急提言」について、カナダのシンク・タンク「ピース・フィロソフィー・センター」(Peace Philosophy Centre)が一層詳しい消息を掲載している。(2011年4月7日閲覧 
http://peacephilosophy.blogspot.com/p/blog-page_31.html>)。

 中で、筆者は次のように書いている。

 『立命館大学平和ミュージアム名誉館長、国際関係学部名誉教授の安斎育郎さんから送られてきた識者による「建言」を掲載します。安斎さんは、東大の放射線防護学の研究者・教員であった1960年代後半から日本の原発政策に反対し、さまざまなアカデミック・ハラスメントを受けました。安斎さん自身はこの「建言」の提言者には入っていません。東大工学部原子工学科の同期生から送られたきたとのことです。私の手元には3月31日(カナダ時間)に届いています。』

 また送られてきた文書の日付は「2011年3月30日」となっている。私はこれまで『赤旗』の報道に従って日付を「4月1日」としてきたが、これは誤りであるので「3月30日」に訂正したい。さらにこの文書には共同提言者16人の名前がすべて記載されている。追加しておきたい。なお提言本文には異同はなかった。

青木 芳朗   元原子力安全委員
石野 栞   東京大学名誉教授
木村 逸郎   京都大学名誉教授
齋藤 伸三   元原子力委員長代理、元日本原子力学会会長
佐藤 一男   元原子力安全委員長
柴田 徳思   学術会議連携会員、基礎医学委員会 総合工学委員会合同放射線の利用に伴う課題検討分科会委員長
住田 健二   元原子力安全委員会委員長代理、元日本原子力学会会長
関本 博   東京工業大学名誉教授
田中 俊一   前原子力委員会委員長代理、元日本原子力学会会長
長瀧 重信   元放射線影響研究所理事長
永宮 正治    学術会議会員、日本物理学会会長
成合 英樹   元日本原子力学会会長、前原子力安全基盤機構理事長
広瀬 崇子   前原子力委員、学術会議会員
松浦祥次郎   元原子力安全委員長
松原 純子   元原子力安全委員会委員長代理
諸葛 宗男   東京大学公共政策大学院特任教授 

 なお同サイトは是非とも一読しておいて欲しい。

 東京電力福島第一原子力発電所事故は、今や地球規模での未曾有の災害に発展しそうな勢いを見せている。少なくとも、原子力災害対策本部発表データ(原子力災害対策本部 平成23年<2011年>福島第一・第二原子力発電所事故についての一連のデータを参照の事)を読む限りそうだ。

 今は、「日本の国民の中に無用な心配を煽ってはいけない」、とかこれを契機に「反原発感情が出てはいけない」とか、「日本の国民の中に自衛隊やアメリカ軍の存在を売り込んでやろう」とか余計なことを考えているべき時ではない。ましてや、東京電力という一民間会社の行く末だろうが、原子力学者個人のメンツや体面だろうが、そんなことを考えている時ではない。「原発推進派」だろうが「原発容認派」だろうが「原発反対派」であろうが、全ての政治家・学者・研究者・技術者・役人・市民の知恵を絞って、総力を挙げて破局を避けるべき時だ。テレビや新聞など大手マスコミで働いている諸君にも云いたい。今は上からの指示とか、自分個人の社内での出世とか、計算とか体裁やミエにこだわっている時ではない。一人一人が自分の判断で、自分の良心のみを唯一の判断基準として動くべき時だ。日本国を守るためではない。自分の家族や友人や、自分の子供や孫を破局から守るためなのだ。

 そんな風に思っている時に、やっと4月1日「原子力専門家の緊急提言」が発表された。彼らこそ福島原発で今何が起きているか、我々日本国民が対応を誤れば、どんな破局を迎えるか誰よりも一番よく知る人たちなのだ。

 『赤旗』2011年4月3日(日)付け1面記事によれば、この提言を発表したのは松浦祥次郎・元原子力安全委員長、田中俊一・元原子力安全委員長代理、石野栞(しおり)東京大学名誉教授ら16人だという。

 松浦は2000年4月7日 - 2006年4月16日まで原子力安全委員長だった。現在の委員長の班目春樹の2代前の委員長である。田中俊一は2007年1月より原子力委員会委員長代理(常勤)である。また原発推進を学術的にサポートしてきた日本原子力学会の学会長をつとめたこともある。石野栞は原発推進の重鎮の一人でもある。

 いわば「原発推進派」の学界の大物たちがズラリと並んでこの緊急提言をした。その骨子は一言に尽きる。

 『 事態をこれ以上悪化させずに、当面の難局を乗り切り、長期的に危機を増大させないためには、わが国がもつ専門的英知と経験を組織的、機動的に活用しつつ、総合的克つ戦略的に取り組むことが必須である。私たちは、国をあげた福島原発事故に対処する強力な体制を緊急に構築することを強く政府に求めるものである。』

 わけ知りの人の中には、国の原子力行政の中でかつての栄光を取り戻すためのパーフォーマンスさ、と解説する人もいるかも知れない。

 しかし私はそうは思わない。というのはこの声明が率直な反省と陳謝ではじまっているからだ。

 『 はじめに、原子力の平和利用を先頭だって進めてきた者として今回の事故を極めて遺憾に思うと同時に国民に深く陳謝いたします。』

 彼らはこれまでのいきさつや行きがかりや体裁をかなぐり捨てて、取りようによれば全面的な自己否定まで行って、国民に陳謝しているのだ。自分が彼らの立場にたったと考えてみて欲しい。これだけ率直な反省と陳謝を行うには相当な覚悟がないとできまい。

 今のところインターネットでこの「緊急提言」が読めない。幸いにして同日付「赤旗」4面に全文が掲載してあるので、これを丸写しする形で再録する。青字の見出しは私が後で検索するためにつけたものである。以下本文。




原子力専門家の緊急提言 2011年3月30日

「国民に深く陳謝」

 はじめに、原子力の平和利用を先頭だって進めてきた者として今回の事故を極めて遺憾に思うと同時に国民に深く陳謝いたします。

 私たちは、事故の発生当初から速やかな事故の収束を願いつつ、事故の推移を固唾を飲んで見守ってきた。しかし、事態は次々と悪化し、今日に至るも事故を収束させる見通しが得られていない状況である。既に、各原子炉や使用済み燃料プールの燃料の多くは、破損あるいは溶融し、燃料内の厖大な放射性物質は、圧力容器や格納容器内に拡散・分布し、その一部は環境に放出され、現在も放出され続けている。

 特に懸念されることは、溶融炉心が時間とともに、圧力容器を溶かし、格納容器に移り、さらに格納容器の放射能の閉じ込め機能を破壊することや、圧力容器内で生成された大量の水素ガスの火災・爆発による格納容器の破壊などによる広範で深刻な放射能汚染の可能性を排除できないことである。

最悪事態回避の唯一の方法

 こうした深刻な事態を回避するためには、一刻も早く電源と冷却システムを回復させ、原子炉や使用済み燃料プールを継続して冷却する機能を回復させることが唯一の方法である。現場は、このために必死の努力を継続しているものと承知しているが、極めて高い放射線量による苛酷な環境が障害になって、復旧作業が遅れ、現場作業者の被ばく線量の増加をもたらしている。

 こうした中で、度重なる水素爆発、使用済み核燃料プールの水位低下、相次ぐ火災、作業者の被ばく事故、極めて高い放射能を含む冷却水の大量漏えい、放射能分析データの誤りなど、次々にさまざまな障害が起こり、本格的な冷却システムの回復の見通しが立たない状況にある。

 一方、環境に放出された放射能は、現時点で一般住民の健康に影響が及ぶレベルではないとはいえ、既に国民生活や社会活動に大きな不安と影響を与えている。さらに、事故の収束については見通しがないとはいえ、住民避難に対する対策は極めて重要な課題であり、復帰も含めた放射線・放射能対策の検討も急ぐ必要がある。

一部専門家任せにせず総力を結集せよ

 福島原発事故は極めて深刻な状況にある。さらなる大量の放射能の放出があれば、避難地域にとどまらず、さらに広範な地域での生活が困難になることも予測され、一東京電力だけの事故でなく、既に国家的事件というべき事態に直面している。

 当面なすべきことは、原子炉および使用済み核燃料プール内の燃料の冷却状況を安定させ、内部に蓄積されている大量の放射能を閉じ込めることであり、またサイト内に漏出した放射能塵(じん)や高レベルの放射能水が環境に放散することを極力抑えることである。これを達成することは極めて困難な仕事であるが、これを達成できなければ事故の収束はおぼつかない。

 さらに原子炉内の核燃料、放射能の後始末は、極めて困難で、かつ極めて長期の取り組みとなることから、当面の危機を乗り越えた後は、継続的な放射能の漏えいを防ぐための密閉管理が必要となる。ただし、この場合でも、原子炉内から放射線分解によって水素ガスが出続けるので、万が一にも水素爆発を起こさない手だてが必要である。

 事態をこれ以上悪化させずに、当面の難局を乗り切り、長期的に危機を増大させないためには、原子力安全委員会、原子力安全・保安院、関係省庁に加えて、日本原子力研究開発機構、放射線医学総合研究所、産業界、大学等を結集し、わが国が持つ専門的英知と経験を組織的、機動的に活用しつつ、総合的かつ戦略的に取り組むことが必須である。

 私たちは、国をあげた福島原発事故に対処する強力な体制を緊急に構築することを強く政府に求めるものである。




 以上が全文である。なおこの緊急提言の内容をよりよく理解するためには、京都大学原子炉実験所・助教、小出裕章の話がおおいに参考になろう。あわせて参照されたい。
(「最悪の事態を避けるため全力をあげる時」

http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/fukushima/20110327.html