【参考資料】ヒロシマ・ナガサキ・フクシマ | ||||||||||||||||||||||||
(2010.4.18) | ||||||||||||||||||||||||
(第1回小出インタビューへ) | ||||||||||||||||||||||||
今私たちはできるだけ東京電力福島第一発電所がどんな状態になっているのかを知っておく必要があるだろう。併せて「原発危機」の行く末を、一人一人がそれぞれの立場で、的確な見通しをたてておかねばならないだろう。そうでなければ、私たちは事態に有効な手を打つことが出来ない。その参考材料の一つとして京都大学・原子炉実験所・助教の小出裕章の話を聞きに行った。インタビューは2011年4月13日(水)、大阪府の熊取町にある同原子炉実験所の小出の研究室で行った。写真撮影は私の同僚の網野沙羅である。 文中、小出裕章の発言は『 』で囲った。また補足資料は文中に最低限補った。煩わしい場合もあるので、補足資料は読み飛ばしやすいように青字の小さめのフォントで表記した。なお補足資料記事の文責は100%哲野イサクにある。小出裕章には全く責任がない。以下本文。 |
||||||||||||||||||||||||
―現在の状況をどう見ていらっしゃいますか?
2011年4月12日、首相菅直人は記者会見を開き、「これから復旧、復興に向かわねばならない」と述べた後、 「この間、大変厳しい状況が続き、放射性物質の外部への放出も生じたところであります。本日、この放射性物質の外部放出を試算した結果、国際的指標に基づいてこの事故の暫定評価をレベル7とすることを発表したところでもあります。 一方で、現在の福島第一原子力発電所の原子炉は、一歩一歩安定化に向かっておりまして、放射性物質の放出も減少傾向にあります。東京電力に対して、今後の見通しを示すように指示をいたしておりまして、近くその見通しが示される予定になっております。」 (<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/ fukushima/20110413_1750.html>を参照の事。) と述べた。これで見る限り、菅政府も「フクシマ危機」の収束が、「復興、復旧」の前提、先決問題と見ていることは明白だろう。そのためには何が何でも「フクシマ危機の収束」を演出しようとしている、と見ることが出来る。従って4月17日に東電が「福島第1原子力発電所の事故収束に向けた復旧作業の工程表」を発表して、「6ヶ月から9ヶ月以内に収束」の見通しを出した(たとえば、<http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C938 19695E3E5E2E2E58DE3E5E2E6E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2>を参照の事。)のもこのシナリオに沿ったものだろう。今の問題は、この工程表が現実的なものか、あるいは単なる作文なのかということだ。もしG20に向けた単なる作文であることが明らかになれば、その反動は大きい。また多分偶然だろうが、4月17日は、アメリカの国務長官ヒラリー・クリントンが韓国の帰途、東京に立ち寄って菅政府の首脳と会談した日でもある。これが現実的な工程表なのか、それとも単なる作文なのかは、以下の小出裕章の話も参考にしながらみなさんが判断していただきたい。
―ということは?
―チェルノブイリ事故の時と同じように?
―現在は、破局の最後の一線で何とか踏みとどまっている、という表現でいいですか?
|
||||||||||||||||||||||||
小出がここで述べている1週間以内に炉心溶融が発生し破局がくるだろうという一方の見通しは、実は菅政府も全く同じであった。 菅政府の原子力災害対策本部が随時発表している「福島第一・第二原子力発電所事故について」という資料(以下報告書と略称)を読んでいくと、次のような経過になる。
つまりすべての交流電源が失われたのである。この時大きな不安を抱えながらも東電関係者は、まだたかをくくっていた。非常用電源が働いて、炉心を冷却できるだろうと思っていたからだ。ところがその54分後―、
つまり少なくとも1号機、2号機に関していえば、炉心に全く水が注入できなくなったのである。関係者は事態の悪夢のような展開にはじめて愕然としたであろう。水が注入できなければ、核の崩壊熱でどんどん炉心内部の温度があがっていき、燃料棒のジルコニウム被覆管の融解温度約1650℃に達するのは時間の問題だ。この時水と反応して大量の水素が発生する。さらに次におこることは、燃料棒のペレットの融解温度約2800℃に達し、燃料棒がどろどろに溶けてメルトダウンし、残っていた水と反応して水蒸気爆発を起こす。これはチェルノブイリ4号炉と同じ事態だ。もし炉内に大量の酸素が発生すれば、水素と反応して水素爆発を起こす。水蒸気爆発が先か、水素爆発が先か、どちらにしても同じことだ。圧力容器が大爆発を起こす。圧力容器が爆発すれば格納容器も無事では済まない。炉心の大量の放射能は一斉に飛び散る。 これが1号機で起ころうが2号機で起ころうが事態は同じことだ。あたりは恐らく人が近づけないほどの高濃度の放射能で覆い尽くされる。人が近づけなければ、1号機、2号機、3号機はやがて同じ状態だ。1号機から4号機までの使用済み核燃料プールにも大量の核燃料があって、これも同じ状態になる。1号機から約5−600m離れた5号機、6号機も人が近づけない状態になればやがて大量の放射能をまき散らすようになる。そうなれば、放出放射能量から見るとチェルノブイリ事故の約10倍規模の大惨事になる、こうしたことは11日午後4時36分「原災法第15条事象発生」時点で東電福島原発関係者の頭の中を一瞬で駆けめぐったことだろう。
冷却できないとわかった時点から12分後、「原災法第15条通報」が行われた。ところがこの報告書には通報の内容が書かれていない。原災法第15条を調べてみると、第15条は「原災法の条項であり、原子力緊急事態宣言 について規定したもの。主務大臣(経済産業大臣、文部科学大臣或いは国土交通大臣)は、通報された放射線量が、避難・退避が必要になると予想される異常な水準の放射線量以上の放射線量が検出されたり、又は、原子力緊急事態 の発生を示す事象の場合で、原子力緊急事態が発生したと認めるときは、内閣総理大臣に報告を行う。内閣総理大臣は、原子力緊急事態宣言及び緊急事態応急対策実施すべき区域、原子力緊急事態の概要、区域内の居住者、滞在者その他の者及び公私の団体に対し周知させるべき事項の公示 。原子力緊急事態宣言の解除も本条項による。」(http://www.nisa.meti.go.jp/word/9/0331.html)というものらしい。 この時は間違いなく内閣総理大臣に報告されたであろう。恐らく菅直人は腰を抜かしたに違いない。(以上同報告「4月15日17:00版」1/64p〜8/64p参照の事) |
||||||||||||||||||||||||
「原災法第15条通報」があった9分後の午後4時54分に、首相菅直人は「総理大臣記者発表」を行い、またその3分後の午後4時57分には官房長官記者会見が開かれる。内容はみなさんご記憶の通り、実際の危機とはほど遠い「安全・安心」を強調したものだった。 午後7時03分、原子力緊急事態宣言が発令され、直ちに原子力災害本部が設置された。 何度かの会議が開かれた後、午後9時23分、総理大臣指示として「半径3km圏内の避難、10km圏内の屋内退避が出された。9時52分枝野は短い記者会見を行い、詳しい説明抜きに「冷静な対応」を呼びかけた。(同27/64p参照の事) 所轄官庁である産業経済省の原子力安全・保安院は事態の把握に努めていたが、めぼしい情報はなにもなかった。(同32/64p)しかし、たとえば2号機に例をとってみると、11日午後2時47分に緊急炉心停止していわゆる原子炉スクラムが作動した後、午後8時30分には完全な電源喪失のため、原子炉スクラムが完全に停止した。ここまでは厳然たる事実である。つまりこの時点で2号機原子炉は完全に制御不能状態に入った。その後午後9時50分に2号機の水位計が復活し見てみると、圧力容器内の燃料棒の下から3mまでしか水が来ていなかった。燃料棒は約4mあるから、すでに炉心は1mむき出しになっていることになる。圧力容器内の温度が核分裂エネルギー熱のためどんどん上昇し、水の蒸発のため水位が下がってきていることを意味している。 原子力安全・保安院は、11日午後10時、ちょうど枝野が記者会見をしているころ、事態をこのまま放置すればどんな状態になるかを2号機に例をとって予測した。この予測はただちに首相の菅に伝えられたことだろう。それによれば―。 (予測)22:30 炉心露出 (予測)23:50 燃料被覆管破損 (予測)24:50 燃料溶融 (予測)27:20 原子炉格納容器設計最高圧(527.6kPa)到達 これは、水位が下がって上部1mほど燃料棒が露出した30分後に圧力容器内の水が全部蒸発し、炉心が全露出してしまうであろう、そしてその後1時間半以内に燃料棒のジルコニウム被覆管が融解するほど温度があがるであろう、その後約1時間で燃料棒がどろどろに溶けるまでの温度に上がるだろう、それから3時間半後に格納容器の設計最高圧に上がって、内部圧力でいつ格納容器が爆発してもおかしくない状況になるだろう、という原子力安全・保安院の予測を示している。(同33/64P参照の事) この予測では水素爆発や水蒸気爆発を想定していないのがなぜなのか私にはわからない。また実際には予測していたのだが、この報告書に記載しなかったのかも知れない。 ともかく、実際には2号機はこの予測のとおりにはならなかった。2号機は3m半ば位の水位からジリジリ水位が下がり、炉心全露出の危機が訪れるのは14日の夕方になってからである。一方格納容器の圧力はさほど上がらなかったが、圧力容器の圧力は12日未明から異常な高さでずっと推移し、13日に圧力容器内の水蒸気をベント(排出)するまで続いた。(同別添1の「福島第一原子力発電所パラメータ」<以下パラメータと略>の4枚目参照の事) |
||||||||||||||||||||||||
実際に、ほぼこの原子力安全・保安院の予測通りの展開を見せたのは1号機である。最初の危機は1号機に訪れていた。まず水位から見ると、12日早朝4mの高さをもつ炉心からさらに1.3m上にまで来ていた水位(炉心最下部からいうと5.3mの深さの水)は同日9時近くからみるみる下がりはじめ、ついに午後3時から午後6時半までの間に全くなくなっていた。この状態は翌々日の早朝5時近くまで続く。つまりほぼ1日半空だきの状態だった。一方圧力は、圧力容器でも格納容器でも12日未明から異常な高さで推移する。圧力容器は停止中にもかかわらず運転中よりもさらに高い値を示し続け、格納容器に至っては設計最高値の2倍以上にも圧力が高まっていた。よく壊れなかったものである。(同「パラメータ」の1枚目参照の事。) そして12日午前10時過ぎから格納容器のベントを開始する。放射能を含んだ大量の水蒸気が格納容器外に放出されたわけだ。この時までには先の保安院の予測通り、ジルコニウム被覆管は溶けており、水と反応して大量の水素が発生していた。つまりベントした水蒸気には実は大量の水素が入っていたわけだ。小出裕章インタビュー「最悪の事態を避けるため全力をあげる時」の「最悪の事態とは?」の項を参照のこと。 格納容器の外に出た水素は原子炉建屋内の天井付近にたまっていった。そして午後3時36分、酸素と反応して水素爆発を起こすのである。原子炉建屋は破壊され、一緒に大量の燃料棒から発生した揮発性のヨウ素、セシウムが大気中に放出され、みるみる発電所敷地内の放射線量は上昇していった。(以上2/64p及び別添2「モニタリング・データ一覧」参照の事。) そのままほっておけば、炉心温度はやがて2800℃に達し、燃料棒がどろどろに溶け(以下本格的溶融という)、メルトダウンし圧力容器内や格納容器内に残っているだろう水と反応して水蒸気爆発を起こすはずだった。しかし福島原発関係者は12日午後8時20分から消化系ラインを使ってホウ酸の混ざった海水を注入していった。(同2/64P及び8/64p参照の事。)このため、炉心の温度は下がりはじめ、本格的溶融は避けられ現在に至っている。この間数々の疑問があるのだが、今は置くとして、仮に1号機が水蒸気爆発をしていれば、その後は、人が作業できる環境ではありえず、作業員全員退避しなければならなかったし、そうなれば、他の原子炉も、使用済み核燃料プールも、いずれは同じ運命だったろう。 その意味では、1号機の水素爆発の12日午後3時36分の水素爆発から午後8時20分までのわずか5時間足らずが私たち日本の運命を分けたといっても過言ではない。また数々の幸運にも恵まれたはず、という言い方もできなくはない。 随分長い補足説明になったが、小出裕章は、この数々の幸運の上に、私たちを破局の淵から取りあえず救ったのは、そして今現在、最後の一線で持ちこたえているのは、福島第一原発現場の労働者の献身的な活躍があるからだ、と見ている。小出裕章に戻ろう。 |
||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||
崩壊熱について日本語ウィキペディア「放射性崩壊」は次のように説明している。 『放射性物質は、核爆弾や原子力発電所の運転中の炉心のような中性子の照射を受けることで大量、または多量のエネルギーを放出する連鎖反応を伴わない場合でも、放射性崩壊によってそれ自身が勝手に核種などを変えてゆくため、その過程で放出される放射線のエネルギーが周囲の物質を加熱し、崩壊熱 (decay heat) となって現われる。時間当たりに放出される崩壊熱のエネルギーは不安定な物質であるほど大きく、その大きさは元の放射性物質がしだいに放射線を放って比較的安定である核種や安定核種へと変化するに従って減少する。例えば原子炉の炉心では発電のための核反応を停止しても、その1秒後で運転出力の約7%ほどの熱が新たに生じ、時間の0.2乗に比例して減少しながら1日後でも約0.6%の熱が放出される。』
|
||||||||||||||||||||||||
―しかも、今は「正常な冷やし方」ではないんですね?
|
||||||||||||||||||||||||
―それは要するに、冷却水の復水システムの回復ですよね、そのシステムが回復すれば大きく一歩前進する・・・。
―原子力安全・保安院の西山審議官の記者会見を見ていると、この高レベル汚染水は1000mSv(ミリシーベルト)と言っていましたが、先生もそう思われますか?
―もう、それ自体が放射性物質ですよね。
|
||||||||||||||||||||||||
―高濃度汚染水は6万トンですか・・・、でもどこへもっていくんですか?
東京電力柏崎原子力発電所は新潟県柏崎市と、同県刈羽郡刈羽村にまたがる巨大な原子力発電所。「現在1号機から7号機までの7つの原子炉を有する。7基の原子炉が発生する合計出力は821万2千キロワットに達し、7号機が営業運転を開始した1997年7月2日の時点でそれまでの最大だったカナダのブルース原子力発電所を抜いて世界最大の原子力発電所になった。」と日本語ウィキペディア「柏崎刈羽原子力発電所」は説明している。2007年に発生した新潟県中越沖地震(マグニチュード6.8)で、例の「想定外」のためあちこちに不具合と火災も起こり、このため1号機から7号機まですべて運転停止をした。その後運転を再開したが、2号機、3号機、4号機はいまだに運転停止中である。(<http://www.kikonet.org/research/archive/energyshift/list-of-nuclear-power-plant.pdf)を参照の事。)現在東京電力は、今年夏場の電力供給不足を口実にして、この3つの原子炉の操業再開を狙っている。
―(息をのんで、絶句。なるほど言われてみればそうだ。これまでの設備が正常に動作するという前提がなくなっている。) |
||||||||||||||||||||||||
今たとえば、「パラメータ」を見てみよう。1号機の原子炉圧力は3月12日午後3時半頃水素爆発を起こすまで0.800MPaGという信じられないくらいの高い値を示していた。「MPaG」は「メガ・パスカル・ジー(ゲージのジー)」と読む。パスカルは圧力の単位。だから「MPa」は「百万パスカル」の単位になる。「G」は標準大気圧計測(ゲージ圧力)で計っていますよ、という意味だ。地球表面の標準大気圧を「MPa」の単位で表現すると0.101325MPaGという事になる。(日本語Wikipedia「気圧」を参照の事)。だからこの値は7.89気圧、約8気圧という数字になる。沸騰水型の圧力容器の設計圧力最高値は約70気圧。だからこの数字で圧力容器が圧力爆発することはない。しかしこの時点では、1号機はすでに緊急停止している。緊急停止した圧力容器が絶対に検出しない高い圧力だ。明らかに異常事態が起こっている。水位計と併せて見ると水位がどんどん下がっているので、内部温度が100℃以上に上昇し、どんどん水蒸気が発生し圧力が上がっている、ということだ。実は、この時点で、燃料棒近辺の温度はすでに1650℃以上にあがっており、燃料棒の被覆管のジルコニウムが溶け出していたのはすでに見たとおりだ。 格納容器の圧力はもっと凄い。3月12日午前2時45分の計測では0.941MPaabsという値になっている。「abs」はゲージ圧ではなくで「絶対圧」で計っていますよ、ということだ。絶対圧は、「絶対真空を基準に表した圧力」と云う意味で、だから絶対圧 = ゲージ圧 + 大気圧となる。絶対圧が0.941MPaということは、ゲージ圧に直すと0.84MPaGとなる。これを標準大気圧に直すと、8.92気圧ということになる。 格納容器の設計圧力最高値は4気圧程度だ。ここで出ている値は設計値の倍以上の圧力ということになる。よく壊れなかったものだ。こうして異常な値を示していた内部圧力も、12日午後3時半頃の水素爆発の後は、圧力容器が3気圧、2気圧、1.5気圧と下がり、その後上がったり下がったりしながら、4月15日の朝6時の計測では再び2つの計測計のうち1つ(A)が4気圧程度、もう1つ(B)が9気圧程度とまた異常値を示し始めている。 それでは1号機の圧力容器は密閉性が保たれている、すなわち穴があいていない状態なのかというと、どうもそうではなさそうなのだ。前に見たとおり空だきの状態になってから海水を注入し、その後真水に切り替え、今は真水と窒素を注入しているが、どんなに水を入れても水位計は-1800mmから-1600mm程度でほぼ一定しているのだ。4月15日午前6時の時点の圧力容器給水ノズルの温度は196.4℃と報告されているから、今も盛んに水が水蒸気になっていることは疑いない。しかしそれにしても水位が上がらないという事は圧力容器に穴があいてそこから洩れているということを意味している。(同2/64p及び「パラメータ」の1枚目から3枚目までを参照の事。) |
||||||||||||||||||||||||
2号機はどうかというと、圧力は異常な値を示してはいないが、これも3月14日午後5時過ぎの計測で突如空だき状態になった後、大量の水を注入しても水位が−1400mmから−1500mmと一定しており回復していない。15日の圧力容器温度も148.2℃と決して良いデータとはいえない。内部ではどんどん水蒸気になっている。なにより圧力容器のデータがマイナス値になっている。これはもう意味のないデータでほぼ外気圧と同じ、外気と完全につながっているという事を意味している。もちろん放射能は放出され続けている。 ただ1号機も2号機も底が抜けた、と云う状態ではない。もしそうなら水を入れても一定の水位すら確保できないはずだ。やはり「穴があいている」という表現が正しいのだろう。 3号機はどうだろうか?3号機も圧力容器の圧力は3月17日に意味のない値までさがり、3月18日にはついにマイナス値を計測した。その後有意の圧力には回復しておらず、一時期をのぞけばずっとマイナス値だ。これも穴があいていると見なければならない。水位も回復せず−2000mm前後を行ったり来たりしている。なおここでいう水位とはすべて圧力容器の水位だ。先にも触れたように、圧力容器内の燃料棒の長さ(高さ)は約4mある。この4mが全部水で覆われている状態がTAFの状態で、TAFでは水位は±0mmとなる。このTAFの状態から水位がどれだけあるかと云う表示が先ほどのデータだ。−2000mmということはTAFから2mほど水位が低い、燃料棒が2mむき出しになっているということになる。それではどれくらいが正常値かというと、2号機の3月11日午後10時のデータでは3400mmとなっている。この時圧力容器の圧力データは5気圧程度とすでに異常な値を示していた。すなわち水が蒸気になっていたことを示している。だから正常な値では水位は4000mm以上、すなわち燃料棒の最頂部から、さらに4m以上の水で覆って冷やし続けるというのが正常な状態だと考えられる。ということは、1号機から3号機まではまだ燃料棒が半分以上むき出しであり、これまでの最悪の状態ではないものの、依然として危険な状態にあることが読み取れる。 |
||||||||||||||||||||||||
中国電力が今、上関原子力発電所を建設しようとして現地山口県上関の地元に札束攻勢を行っているが、地元上関の住民をはじめ多くの広島市民も是非これを潰してやりたいと思っているが、この原子炉が福島第一原子力発電所の1号機と同型の軽水炉沸騰水型のMk-1である。ただしMk-1の改良型である。この改良型の「全体系統構成概要図」(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/pdf/kaminoseki_genpatsu_gainenzu.pdf>を参照の事)を見ると、残留熱除去系(RHR)ライン、すなわち小出裕章の言う余熱除去系ラインにすでに熱交換機が入っている。恐らくは事故対策を念頭に置いた安全装置なのだろう。だから、今回東京電力もせめて改良型に改造しておけば、と悔やまれる。いや改良型にしたところで事故は起きる時には起きる。事故が起きた時、取り返しのつかない事態になるようなシステムを、私たちは絶対に使ってはならないのだ。それが今回の「フクシマ危機」で唯一学べる教訓であろう。私は今回の「フクシマ危機」で原子力発電の仕組みを付け焼き刃でざーっと勉強してみたが、学べば学ぶほどこの仕組みのアンバランスな技術構造に驚いた。原子力という巨大な力を相手にするには、それを扱うハードウエアの技術体系があまりにも旧態依然たる体系なのだ。アインシュタインの世界に、ニュートン力学で対応しているようなものだ。このアンバランスを補うために、一つの装置を導入する、それがまた次の矛盾と問題を生む、それを解決するために次の装置を導入する・・・と云う風に永遠のいたちごっこを演ずることになる。そのたびごとにシステムは煩雑、複雑になり、それがまた事故のたねを蒔くという風に危険を増していく。逆に事故や操作員の誤作動を生まない方がおかしいぐらいの複雑さだ。優れた技術は例外なくシンプルな構造をもっている。これでよく「原子力は安全」だなどと云ってきたものだ。私もいまさら勉強しても時すでに遅しなのだが・・・。 |
||||||||||||||||||||||||
−先生、・・・そうおっしゃいますけれど、誰がその危ない作業をやるんですか?国際放射線防護委員会(ICRP)の2007年の勧告に関する文書(< http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/pdf/ICRP2007kankoku_Pub103_shingi.pdf>を参照の事)というのを読んだんですけど、その中に放射線作業者が自分の危険を知って作業を行う場合と知らされずに作業をする場合と状況が違う、だから放射線危険規制値(許容値)も異なる、という記述がありました。表現は違うと思いますけど、意味合いはそうでした。緊急事態を想定した項目の中でそういう記述がありました。福島第一原発では、作業者のみなさんが、それを承知でやっているんでしょうか?
―覚悟してやっている人たちはまだしも、その今たまたま鉄砲玉と云う言葉を使われたけれども、鉄砲玉に使われているということならばこれは別な意味で大問題ですよね。
|
||||||||||||||||||||||||
―ええ?現場を・・・?それはどういうことですか?
菅政府は今回被曝線量の上限許容値を急遽、年間100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げた。そして御用学者は、今までが相当余裕をもっていたんだから、250ミリシーベルトでも問題ない、とテレビに登場してうそぶいた。
―消耗戦になってきている?
―しかし原子力対策本部の報告書を読む限り、3月11日の晩から、少なくとも政府・東電には、次に何が起こるかは想定できた筈だと思います。
|
||||||||||||||||||||||||
(以下そのAへ) | ||||||||||||||||||||||||
(第1回小出インタビューへ) |