2013.1.30 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
<ヒロシマ・ナガサキ・フクシマ> | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
<参考資料> 世界保健機構(WHO)第4代事務局長 中嶋宏氏死去 -IAEA(国際原子力機関)のWHO支配に挑戦した事務局長- |
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見る限り、ニューヨークタイムズの訃報が一番詳しい。(1月28日付け電子版。ダグラス・マーティン=DOUGLAS MARTIN署名入り)訃報は「中嶋宏 WHOの指導者、84歳で死去」(“Hiroshi Nakajima, Leader of W.H.O., Dies at 84”)と題するものだ。次にそれを見てみよう。
ニューヨークタイムズの記事の途中であるが「女性器切除」は北アフリカ一帯に古くからある“習慣”だそうである。日本語ウィキペディア『女性器切除』の項目を見てみると「女性器切除(じょせいきせつじょ、略称FGM)あるいは女子割礼(じょしかつれい、Female Circumcision)とは、主にアフリカを中心に行われる、女性虐待とされる批判のある風習」と説明し、概要では「史的に見てFGMは2,000年もの間、赤道沿いの広い地域のアフリカで行われてきた。現在ではアフリカの28カ国で、主に生後1週間から初潮前の少女に行われる。アフリカの人口増加に伴い、以前より多くの少女達が性器切除を施されている。欧米においては、この慣習の存在する地域から移民した人々の間においてもFGMが広く行われていることが昨今の調査で明らかになり、それに対して法的な規制を制定する国も増えてきている。ちなみにこの女性器切除はイスラムとは一切関係がなく、北アフリカの習慣である。」とある。切除の方法もいろいろあるが、ともかく「異文化問題」ではなく、「人道問題」であり、まさに「健康問題」である。ニューヨークタイムズの記事を続ける。
現在の事務局長マーガレット(マギー)・チャンは香港出身の医師・医療行政家である。香港衛生署署長を退職してWHO入りした。2006年中国の推薦で事務局長になっている。私からは国際製薬資本のいうなり、IAEAベッタリの最悪の事務局長に見える。チェルノブイリ事故直後は中嶋が事務局長だった。フクシマ事故ではマギー・チャンが事務局長である。ニューヨークタイムズを続ける。
このニューヨークタイムズの記事から、国際製薬資本を背景にした「エイズ問題の政治性」を感じる人があっても私は見当外れとは思わない。
ざっとお読みになっておわかりのように、訃報としては異例の内容である。ある意味死者に鞭打つ内容ともなっている。ニューヨークタイムズのダグラス・マーティン記者も中嶋への嫌悪感を隠していない。中嶋の任期初期はともかく、アメリカを始めとする西側諸国は中嶋事務局長を嫌っていた。無能で不公平な事務局長ならともかく、中嶋はアフリカ諸国をはじめ医療から遠い人たちへできるだけ医療を近づけ、さまざまな伝染病の撲滅に努力した公平で有能な事務局長だった。だからこそ西側諸国の圧倒的な影響力があっても2期のWHO事務局長をまっとうしたのである。 しかし何故中嶋はこうも非難されなくてはならないのか?中嶋は西側支配層、特に核産業を中心とした国際的結合体(国際核利益共同体)の逆鱗に触れたのである。もともとWHOは世界の健康・医療の守護神として国際的に高い評価を受けていた。しかし放射線被害については別だった。 1945年8月の広島・長崎への原爆投下をきっかけにしてアメリカ、ソ連、イギリスを中心とする大気圏内核実験は気違いじみていた。特に1958年-59年を一つのピークとした核実験による放射性降下物による低レベル放射線による被害がようやく国際社会で問題になりかけていた時だった。 1945年7月のアメリカによるアラモゴード砂漠での核実験、同じく8月の広島・長崎への原爆投下を初めとして、1980年中国による最後の最後の核実験まで、アメリカは合計215回(広島・長崎の実戦使用を含む)、旧ソ連は219回、フランスは50回、イギリスは21回、中国は23回、合計528回の大気圏核兵器爆発をおこなっている。(アメリカの環境問題を専門とするシンクタンク『自然資源防衛評議会』<Natural Resources Defense Council-NRDC>による) 下記の表はTNT100万トンあたりの核実験による生成放射性核種とその量である。 ヨウ素131やセシウム137だけを取ってみても、100万トンの核実験はチェルノブイリ事故やフクシマ事故の数倍、数十倍の死の灰が地球規模で降ったことが推測される。 WHOに実態調査、健康調査をされては困る核兵器保有国、それらはすべて国連安全保障理事会の常任理事国であり国連を事実上支配している諸国である、は世界的な核産業推進機関である国際原子力機関(IAEA)と合意書を交換させた。1957年10月のIAEA設立から2年後の1959年のことである。この合意書によれば、WHOは核の実態や健康影響について独自の調査を行わない、WHOの公表する資料はすべてIAEAの資料による、ことを骨子とする。放射能に関する限りWHOは完全にIAEAの従属下におかれるのである。WHOの『IAEA従属体制』は現在に至るまで続いている。 チェルノブイリ事故が1986年、中嶋がWHO第4代事務局長に就任するのが1988年。中嶋は事務局長としてチェルノブイリ事故による健康被害を独自に調査しようとした。また当時国連事務総長だったコフィ・アナンも中嶋の意図を支援しようとした形跡がある。中嶋の努力は明白に1959年合意の違反だった。この頃から中嶋はアメリカを始めとする世界の核の産業利用推進派から目の仇にされるようになる。また2期目の1995年、中嶋は「ジュネーブに700人の専門家や医師を集めて チェルノブイリに関する国際会議を開催し、情報を広めようとしたが、待望の議事録は国際原子力機関IAEAの妨害によって一切発表されなかった」とスイスTV制作のドキュメンタリー「真実はどこに?」は述べている。 2001年6月、WHOはウクライナのキエフでチェルノブイリ事故に関する国際会議を開くのだが、その会場で中嶋はスイスの医師ミッシェル・フェルネックスなどの質問に答える形で次のように証言している。引用する。
国際的な産業用核推進機関IAEAに従属するWHO。良心的なWHO事務局長として、中嶋宏は可能な限り独自調査を行い、チェルノブイリ事故による低線量放射線被曝による被害の実態を明らかにし、世界の人々に知らせようとした。そしてまさにその動きが、国際的な核推進勢力の逆鱗に触れ批判を浴びることになる。それが先のニューヨークタイムズの記事で見た中嶋の四面楚歌となるのである。 ここで大きな疑問が一つ残る。リベラルでその名を轟かすニューヨークタイムズの立場である。ニューヨークタイムズは1945年7月のアラモゴードでの核実験、8月の広島・長崎への原爆投下以来一貫して、世界の核推進勢力の拡声器の役割を果たしてきた。そのため軍部と秘密の広報請負契約をした有名記者(ウィリアム・L・ローレンス。同じニューヨークタイムズのウィリアム・H・ローレンスは別人)も存在したほどである。だからこの訃報で中嶋宏に対するあからさまな嫌悪感を示すのも当然だと言えよう。マスコミを使った世論操作・誘導、プロパガンダの刷り込みは、なにも日本の専売特許ではない。いやアメリカこそ、その本家本元なのである。 |
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<参照資料> ・国連ニュース・アンド・メディア部門 国連ラジオ 中嶋宏氏弔辞:http://www.unmultimedia.org/radio/english/2013/01/former-who-chief-who-made-large-contributions-to-public-health-has-died/ ・ニューヨークタイムズ2013年1月28日中嶋宏氏訃報: http://www.nytimes.com/2013/01/29/world/asia/hiroshi-nakajima-leader-of-world-health-organization-dies-at-84.html?_r=0 ・英語Wikipedia:“Margaret Chan” http://en.wikipedia.org/wiki/Margaret_Chan ・NRDC: http://www.nrdc.org/nuclear/nudb/datab15.asp ・哲野イサク「ECRR2010年勧告 第10章「被曝に伴うがんのリスク:第1部 初期の証拠」の解説 記事「その① 地球規模で拡散した大気圏核実験時代の放射性降下物(死の灰)」 http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/fukushima/ECRR_sankou_15.html ・IAEAとWHOの1959年合意書: http://apps.who.int/gb/bd/PDF/bd47/EN/agreements-with-other-inter-en.pdf ・TVドキュメンタリー「真実はどこに?」(日本語字幕つき) http://www.savechildrengunma.com/truth/whoiaea/ |