【参考資料】小出裕章
 (2013.2.15)
2005年12月25日 佐賀県主催
『玄海原子力発電所3号機プルサーマル計画』に関する
公開討論会における発言と資料

 2005年12月25日、佐賀県は九州電力・玄海原子力発電所3号機プルサーマル計画に関する公開討論会を開催した。その折り京都大学原子炉実験所の助教(当時の肩書きは助手)の小出裕章は討論者の一人として招かれ、プルサーマル計画について発言した。これはその時の発言内容とその時使用した資料である。なおこの時発言者として招かれた専門家は小出の他は以下の通り。(肩書きは当時)
 
東京大学大学院教授 大橋弘忠
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会代表 小山英之
拓殖大学海外事情研究所長 森本敏 (後、民主党野田内閣の防衛大臣)
神戸大学海事科学部助教授 山内知也
(コーディネータ)科学ジャーナリスト 中村浩美
(オブザーバー)資源エネルギー庁 大臣官房参事官 野口哲男
原子力安全・保安院 原子力発電安全審査課長 佐藤均
原子力安全・保安院 原子力安全広報課長 伊藤敏
原子力安全委員会事務局 審査指針課 安全調査管理官 吉田九二三
原子力安全委員会 原子炉安全専門審査会委員 更田豊志
九州電力(株) 取締役 原子力本部長 樋口勝彦

 なおこの公開討論会の内容は佐賀県のサイト『プルサーマル公開討論会』で全文読むこともできるし、ビデオ視聴もできる。今読んでみて極めて興味深い内容なので御用とお急ぎなでない方には一読をお勧めする。

 なお、九州電力玄海発電所3号機は、加圧水型原子炉で定格出力は118万kW。この公開討論会の後、2009年11月5日プルサーマル試運転を開始、12月2日から営業運転を開始している。(日本で最初のプルサーマル商業炉)
MOX燃料(二酸化プルトニウム−PuO2と二酸化ウラン−UO2とを混ぜてプルトニウム濃度を4〜9%に高めたもの)費は、1回目18体10.7トンで139億6400万円。2回目20体13トンで150億8200万円、と日本語ウィキは書いている。

【小出裕章発言内容】
 「  私はかつて原子力の平和利用に大変な期待を抱きました。なぜなら、化石燃料は使えば無くなってしまう、将来のエネルギーは原子力に頼るしかないと聞かされたからです。ただし、それは事実ではありません。地球上にあるエネルギー資源で一番豊富な資源は石炭です。石油や天然ガス、オイルシェールやタールサンドという資源もあります。それらがすべて化石燃料ですが、原子力の燃料であるウランは石油に比べても数分の1、石炭に比べたら数十分の1しかないという大変貧弱な資源なのです。こんなものに人類の未来を託すことがまずバカげていると思わなければいけません。

 ただし、原子力を推進する人達には夢があります。原子力の資源にはプルトニウムもあるというわけです。プルトニウムというのは長崎の原爆の材料ですから、原子炉でも燃えます。そのため、プルトニウムを生み出してそれを資源にしたいと考え出しました。

 高速増殖炉という特別な原子炉を動かし、そこから生み出されるプルトニウムを特別な再処理で取り出し、核燃料サイクルをグルグル回すことで核分裂性のウランに比べて60倍ぐらいまで原子力の資源が増えると彼らは言います。ただし、プルトニウムは天然には全くありません。そのため、普通の原子力発電所の使用済み燃料の中からプルトニウムを分離して核燃料サイクルに引き渡そうとしました。そのために日本が分離して保有しているプルトニウム(これは長崎原爆と比較しているので“プルトニウム239”のことを指していると思われる)はすでに43トンにもなり、それを長崎原爆を作ることに使うなら(小出は別なところで長崎原爆のプルトニウム239を13kgだったといっている)、2000発も出来てしまうくらいの量になっています。
 
 一方、高速増殖炉は世界的にも実現できていないし、日本でも“もんじゅ”という実験炉が潰れてしまいました。こうなると、国際的に大変な疑惑を受けることになります。それで、しょうがないのでプルサーマルで燃やしてしまおうということを考えたわけです。プルサーマルはもともと必要だったのではなく、原子力をやろうとしていた人達の夢が破れてしまい、どうしようもなくて今追い込まれている道なのです。プルサーマルをすれば、安全性も経済性も犠牲にします。資源的にはほとんど意味がありません。それを皆さんが受け入れるのかどうかが問われています。」

 また『パネルディスカッション』では、
 「  九州電力は『MOX燃料はウラン燃料より低い温度で溶けて危険が増すと言われていますが、大丈夫ですか』という質問に次のように答えています。『ウランにプルトニウムを混ぜると、溶融点は、混ぜたプルトニウムの量によって低くなります。従って、玄海3号機で使用するMOX燃料ペレットの場合、溶融点はウラン燃料よりも70度低い約2720度となります』と。なかなか正直です。(これはウラン燃料よりプルトニウム燃料の方が溶融しやすい、別ないい方では危険度が大きい、ことを認めている、という意味)今まで使っていたウラン燃料に比べて溶け易くなるというのは確実です。ただし、そうなった時にどうなるかというと、『MOX燃料ペレットの溶融点は約2720度ですが、出力が異常に上昇する場合でもペレットの最高温度は約2250度までしか上がらないため、MOX燃料のペレットは溶けることはありません』というのが九州電力の答えです。(九州電力の回答が誤っていたことは、東電福島事故のメルトダウン現象が証明した)

 私はこういう考え方はダメだと思います。つまり、技術は一歩一歩の蓄積で、少しずつは進歩するけれど、常に落とし穴もあるわけです。想定していることに関しては対応できるが、想定していなかったことが起これば対応できないのが技術なのです。だからこそ安全余裕が必要なのだし、安全余裕はなるべく大きく取っておくというのが原子力のようなものを相手にする時の鉄則であるわけです。その安全余裕を、融点のことも富化度のこともそうですけど、一つずつ削っていってしまっていることが問題です。」

 『富化度』とは『プルトニウム富化度』のことである。つまりこういうことである。天然に存在する核分裂しやすい物質はウランの同位体ウラン235である。天然のウランにはウラン235は0.7%しか存在しない。残りは核分裂しにくいウラン238でありこれがほぼ99%以上。このままでは原発(軽水炉)では使用できない。ウラン235の比率が低すぎるためだ。燃料ウランに占めるウラン235の割合を高めなければならない。これがウラン濃縮である。商業用原子炉ではこの比率が約3-5%である。つまりウラン濃縮率が3-5%ということになる。因みに核兵器に使うウラン燃料は90%以上とされる。現在では事実上99.9%の濃縮率でないと設計仕様どおりの機能は発揮できないとされる。商業用原子炉ではウラン濃縮率が3-5%だから残りの95-97%は核分裂しにくい(原子炉の中では燃えない)ウラン238となる。プルサーマルではこの核燃料のウラン235に相当する部分をそっくりプルトニウム239(実際には二酸化プルトニウム)に入れ替えてしまおうという話だ。それでは全体のどれくらいをプルトニウム239にいれかえるのかというと、軽水炉では4-9%程度だという。残りの91-96%がウラン238になる。核燃料全体に占めるプルトニウム239の比率を『プルトニウム富化度』という。これを概念図にすると、下図のようになる。


【参照資料のATOMICAのページから引用】

 プルトニウムは先ほど小出も指摘しているように、ウラン燃料に比べると危険度が高い。商業用原子炉に対しては適切な『富化度』が必要だ。ちなみに『もんじゅ』などの高速増殖炉ではプルトニウム富化度は15%程度だそうだ。しかしこの『事故を起こさない適切な富化度』も、東電福島事故のような苛酷事故にあっては全く用をなさなかった。(東電福島第一原発3号機はプルサーマル炉)

 さてこの小出の発言に対して東京大学大学院の大橋弘忠(東京大学工学系研究科システム創成学専攻教授 1980年から1986年まで東京電力に勤務して86年に東大助教授。よほど“優秀”な人らしい)は、次のように発言する。
 「  これは安全余裕を完全に間違えておられる方の考えで、融点が下がるということがプラントにどういう問題を引き起こすかという観点から解析をして、何かが起こった時に、それが溶けるのか、溶けないのか、そういう議論をしているのであり、融点がちょっと変わったから危険になるというような話は技術的には何の根拠もありません。」

 一般論として原子炉内の核燃料の融点が下がるということは、蓋然性として溶けやすいことを意味し、それは危険度を増す、という私の理解は技術的には何の根拠もない、と大橋は一蹴する。物理原則は技術力で克服している、というのが大橋の主張だろう。よほど技術力に自信があるものと見える。

 大橋に対して小出は次のように切り返す。

 「  たとえば、スリーマイル島事故(1979年)の場合には、原子炉の半分が溶けました。圧力容器の底に沈んだ段階でようやく事故が収束し、圧力容器は幸いに壊れなかったし、格納容器も壊れませんでした。それは起こりうる事故のうちの一つの例です。ただし、スリーマイル島の事故が起きるまでは、そのような事故は決して起きないと原子力を進める人たちは言っていました。ところが事故はやはり起きました。
 そして事故というのは、どのように進展するか分かりません。たまたまスリーマイル島の時には水蒸気爆発は起きませんでした。だから、軽水炉で水蒸気爆発が起きないかというと、そうではないのです。軽水炉という今の玄海原子力発電所の場合でも、水蒸気爆発あるいは水素爆発が起きるということは、きちんと技術的に想定できます。ただし、国はある程度以上のことは考えないという姿勢を現在取っており、水蒸気爆発や水素爆発を伴うような事故は“想定不適当”として無視しているに過ぎません。」

 要するに小出のいうところはこうだ。「大橋さん、あんたは技術力で克服するというが、技術力で克服できるのは想定できる事態の範囲にすぎない。その想定できる範囲というのは国が限定している。それ以上はいわば思考停止状態になっている。思考停止を解除してみれば、水蒸気爆発だって技術的には想定できるんですよ。大橋さん、あんたの技術力とやらで水蒸気爆発に対処して見て下さい」

 小出は温厚な紳士だから、私のようなつっかかったものいいはしない。しかしいいたいことはこうだろう。なお小出はシンポジウム発言をスライドでプレゼンしたようだ。スライドプレゼン資料はPDFでダウンロードできる。

【スライドプレゼン資料】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 2005年佐賀県が主催した公開討論会は、3.11福島原発事故を下敷きにおいて今読んでみると極めて興味深い。是非一読をお勧めする。関西電力大飯原発の次の再稼働は四国電力・伊方原発の3号機であろう。プルサーマル炉である。現在建設中の電源開発大間原発(青森県)もプルサーマル炉で建設中だ。私たちももっと深い理解をしておかなくてはならない。



【参照資料】
・佐賀県Webサイト 『プルサーマル公開討論会』(2005年12月25日)
 http://saga-genshiryoku.jp/plu/plu-koukai/
・同京都大学原子炉実験所助手:小出裕章資料
 http://saga-genshiryoku.jp/plu/plu-koukai/pdf/koide.pdf
・同「パネラー意見」小出裕章『プルサーマルは安全性を犠牲にする』
 http://saga-genshiryoku.jp/plu/plu-koukai/shinbun-2.html
・同『議事録』
 http://saga-genshiryoku.jp/plu/plu-koukai/gijiroku-1.html
・日本語ウィキペディア 『玄海原子力発電所』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8E%84%E6%B5%B7%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9
B%E7%99%BA%E9%9B%BB%E6%89%80

・ATOMICA 『軽水炉用MOX(プルサーマル)燃料』
 http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=02-08-04-02