【参考資料】ヒロシマ・ナガサキ・フクシマ
 (2011.5.18)
 
<参考資料>放射線による内部被曝―福島原発事故に関連して―
 沢田昭二

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 これは名古屋大学名誉教授・沢田昭二が2011年3月中旬、福島原発事故後の比較的早い時期に、日本科学者会議の雑誌『日本の科学者』6月号(2011年5月初旬既発行)の「東日本大震災における原子力災害」特集のために書いた論文である。

 この論文の中で沢田は、

 『 (福島原発事故による)放射線被曝は、広島・長崎原爆の原子雲から降下した放射性降下物による被曝と共通性がある。日本政府は放射性降下物による被曝を無視できるとしてきた。これに対し,原爆被爆者は2003 年から,国に対して全国的な集団訴訟に取り組み,放射性降下物の影響を不当に無視した岡山地裁判決を唯一の例外として,現在までに地裁と高裁で27 連勝している。』

 そして上記の事実にもかかわらず、

 『 今回の事故(福島原発事故)による被曝について,政府も内部被曝に触れるようになったものの、放射線影響の研究者を含めて,内部被曝に関する理解は不十分なままである。本稿では,こうした広島・長崎原爆の被曝実態に基づいて、内部被曝に重点を置いて福島原発事故による放射線被曝について考察する。』

 と述べている。残念ながら日本の放射線医科学者、日本政府および文科省は依然として全く福島原発事故に典型的に見られる「低線量内部被曝」に対しては無力で無効な、ICRP(国際放射線防護委員会)のリスクモデルとその基準を用いて対応しようとしている。
 
 この論文では、電離放射線の電離作用が生体に障害を起こすメカニズムを論じ、広島原爆で発生した低線量被曝が実際に起こした障害を、「脱毛、紫斑、下痢」などに例を取って説明し、低線量被曝が実際に障害を起こしていることを論証している。

 その上で、

 『  今回の原発事故による拡散した放射性物質は酸化物などの微粒子として飛散していると考えられるが,1μm 以下の大きさであれば,呼吸で鼻毛などに遮られないで肺胞を経て血液に達して全身を廻る。その際、放射性微粒子が水溶性あるいは油溶性であれば原子あるいは分子レベルに分解し,元素の種類によって特定臓器に蓄積し、集中した被曝を与える。水溶性でない場合には微粒子のまま、あるいはいくつかの微粒子に分解して循環し,体内の特定箇所に付着する。1μm の微粒子でも,原理的には数百億個の放射性原子を含むこともありうるので、微粒子が沈着した周辺の細胞は大量の被曝を継続して死滅する。
 
 とくに微粒子が多数のウランやプルトニウム原子核を含む場合にはきわめて高密度の電離作用をするアルファ線を放出するので被曝影響が大きくなる。こうしたことも外部被曝にない内部被曝の特質である。』

 と述べ、外部被曝とは全くことなるメカニズムで内部被曝が発生しており、単に高線量・外部被曝の応答モデル(被曝障害モデル)を低線量領域にまで延長して放射線障害を予測し、「健康に影響のないレベル」であるとか「健康への影響は無視できる」とかいうことの無責任性を明らかにしている。

 また放射線への感受性は個人差が大きく、その影響を決して平均化して考えてはならないことを広島原爆の実例を挙げて説明し、

 『 被爆者の間に生じた急性症状から推定した値は0.85シーベルトないし1.7シーベルトで、2桁の過小評価である。この過小評価が、国際放射線防護委員会の内部被曝の軽視と,今回の福島原発事故における内部被曝影響の軽視につながっている。』

 と論じている。

 最後に沢田は、

 『 原発は未完成な技術である上に、地震と人口密集の日本ではいっそう危険性が高いので、エネルギー政策を原発から転換すべきだと考えてきた。安全性の問題に加えて、
@放射性廃棄物の処理に見通しがないこと、
A米国核兵器産業維持のための日米原子力協定でスタートしたこと、
B原子力平和利用の自主・民主・公開の3原則のすべてに反する原子力政策の実態、
C国民の安全に責任を持つ独立した原子力安全委員会ないし規制委員会がないこと
 などの問題があり、一刻も早く原発を終息させ、エネルギー政策を太陽光発電などに変換すべきである。』

 と述べている。




放射線による内部被曝――福島原発事故に関連して――沢田昭二