福島原発事故は、「フクシマ危機」へと発展しつつある。「フクシマ危機」という言葉には3つの要素を含んでいる。一つは「事故」そのものの拡大を防ぎ鎮圧(冷温停止状態にすること)するという課題にむけての危機状態。2つ目は仮に放射能放出が現状レベルで止まったとしても、放射線の健康被害はすでに相当深刻である。この対処が危機的状態にある。3つめは現在の政権(看板は民主党政権であるがその中身は自民党政権の亜流に過ぎない)をシャッポにいただく官僚・財界など日本の伝統的支配層が機能不全に陥っており、全般危機に対して増税・値上げといった姑息な手段しか考えつかないなど有効に対処しえない政治的危機を指している。(伝統的支配層がこれまでのそれぞれの既得権益を確保したまま危機に対処しようとしているところに根本問題の一つがある。)
山内知也の申し入れ書は、上記「フクシマ危機」のうち、放射能の影響、特に日本の将来を担う子供たちの健康に対して強い危機感を示し、政府の放射線防護に対する態勢や放射線防護に関する現在のリスクモデルに対する根源的問題提起を含んでいる。以下本文。
2011年5月11日 |
児童・生徒の被ばく限度についての
申 入 書 (4)
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文部科学省学校健康教育科 |
電話 03-6734-2695 |
FAX 03-6734-3794 |
原子力安全委員会事務局 |
電話 03-3581-9948 |
FAX 03-3581-9837 |
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山内知也 神戸大学大学院海事科学研究科 教授 |
大学で放射線を教授している者として申し入れます。
セシウムによる被ばく影響について、その実例としてはチェルノブイリ原発事故があります。国際放射線防護委員会ICRPは2007年に新しい勧告(ICRP Publication 103)を出していますが、そこには同原発事故に関する記述が見当たりませんでした。国連のUNSCEAR2000等の報告書では子供の甲状腺がんについては事故との因果関係を認めていますが、ガンや他の疾患については放射線被ばくとの関係はないとしていました。
ところが2004年には次のような論文が公表されています:
[1] |
A. E. Okeanov, E. Y. Sosnovskaya, O. P. Priatkina, “A national cancer registry to assess trend after the Chernobyi accident”, SWISS MED WKLY, 134, 645-649. (2004) |
[2] |
Martin Tondel, Peter Hjalmarsson, Lennart Hardell, Goersn Carlsson, Olav
Axelon, “Increase of regional total cancer incidence in north Sweden
due to the Chernobyl accident? Journal of Epidemiology & Community
Health, 58, pp. 1011-1016. (2004) |
論文[1]は、ベラルーシのガン登録について記述しており、1976年から1986年までのがん発症率と事故後の1990年から2000年までのそれが比較されています。ブレスト33%増、ビテプスク38%増、ゴメリ52%増、グロードゥノ44%増、ミンスク49%増、モギリョフ32%増、ミンスク市18%増、そして、全ベラルーシ40%増となっており、ガンは確実に増えています。
論文[2]は、スウェーデン北部における疫学調査で、数100 mの区画という高精度のセシウム-137の汚染マップと同国ならではと言える詳細な国民の生活記録に基づいています。調査は1988年から1996年までの期間ですが、汚染レベルとガンの発症率との間に有意な相関が出ており、100 kBq/m2の汚染地帯に暮らす発がんのリスクは11%増という結果です。この汚染レベルで年間に受けるセシウム-137からの外部被ばくは3.4 mSv程度です。これは極めて高いリスクであって、ICRPのリスク係数0.05 /Svでは全く説明できません。
365日休みなく放射線被ばくを受けつづける場合については、原爆や医療被ばくのような一回の外部被ばくとは異なる健康影響が表れているという事実に国際的な機関が目をつぶっている可能性があります。
まずは、子供に対しては法令のいう年間1 mSvの基準を厳格に下回るように対処することを申し入れます。そして避難計画の一からの見直しを申し入れます。今回に震災の復興を担うのは若い世代です。そのような世代の健康を第一に考えるのは最も優先すべき課題かと存じます。
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以上 |
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