(2010.5.19) | |||||||||||||||||
<イラン核疑惑>関連資料 | |||||||||||||||||
イラン、トルコ、ブラジル核燃料取り引きに合意 |
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−テヘラン・タイムス |
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イランの医療用ウラン濃縮問題が一定の解決を見た。イラン、トルコ、ブラジルの三カ国の間で核燃料スワップ合意ができたからだ。この記事は、2010年5月18日付けテヘラン・タイムス(英語電子版)<http://www.tehrantimes.com/index.asp?newspaper_no=10873&B1=View+the+newspaper>を中心にそのいきさつを見ておく。
先に、同じ内容を朝日新聞が5月18日付けで伝えているのでそれを見ておこう。 (<http://www.asahi.com/international/update/0517/TKY201005170227.html>) 短い記事なので、全文引用しておく。
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今までこの問題を朝日新聞で読んできた読者には、いきなり「放射線治療のアイソトープ」だの、「頑なに国際社会を拒否するイラン」がなぜブラジルとトルコと合意したのか、などわからないことだらけだと思う。 もう一つこの記事がわからないのは、朝日新聞のテヘランに駐在する(のだと思う。なのに何故合意の肝心な部分をイラン学生通信の報道に頼らなければならないのか。外相のモッタキにインタビューでも申し込めば、日本のメディアであれば、モッタキは喜んで時間を作ってくれると思う。北川は本当にテヘランにいるのだろうか?)北川という記者が、2つのことを混同しているためだ。 一つは原子力発電用ウラン濃縮問題。もう一つはガン患者治療用アイソトープ製造用のウラン金属棒入手問題。北川が「核燃料棒」と書いているのが、この「ウラン金属棒」のことだ。そして北川の記事で、「テヘラン研究炉の核燃料が少なくなった」と書いているのがこの問題だ。これは研究用原子炉というより(それ自体は間違いではない)、医療用原子炉だ。この医療用原子炉にウラン金属棒(一般にはペレットと呼ばれている。)を投入しなければ、アイソトープ治療用の医療用原料は生成されない。アイソトープ治療ではウラン濃縮度は約20%。それでは20%ウラン濃縮を行えば自動的にこの金属棒を入手できるのかというと、それは別問題だ。20%濃縮ウランから金属棒を製造するにはまた特別な先進技術が必要だ。この技術をもっているのは、フランス、アメリカなど一部「原子力エネルギー利用技術先進国」に限られる。 イランはこのペレット(ウラン金属棒)を入手したかったのだ。 この「ペレット入手問題」と原子力発電用のウラン濃縮問題を、北川は完全に一つの問題として混同している。 |
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しかしそれもやむを得ない。「イラン核疑惑」問題を朝日新聞は、アメリカ国務省(従って日本の外務省)のプロパガンダのブリーフィングの線に沿って報道してきた。アメリカ国務省のブリーフィングに従えば、原子力発電用のウラン濃縮問題とアイソトープ治療用のウラン金属棒(ペレット)入手問題は、一つの問題であり、それはイランが「核兵器を開発している」証拠だ、と説明してきているからだ。 もちろん北川の今回記事も、アメリカ国務省のプロバガンダ・ブリーフィングの線に沿って構成している。それだけに、何故トルコやブラジルが突然出てきたのか、言い替えれば、この非同盟諸国の2つの大国が何故「イラン支援」に回ったのかが全く説明されない。 北川は、『ともに安保理の非常任理事国で、追加制裁に否定的とされるトルコとブラジルが、米国などとの「仲介役」となり』として、トルコとブラジルの動きを説明した積もりだが、なぜ両国が「追加制裁」に否定的なのか、そして何故「仲介役」を買って出たのかもこの記事によっても説明されていない。 実は、トルコやブラジルの動きは、IAEAの民主化の問題、さらには国連の民主化の問題と密接に絡んだ動きなのだが、アメリカ国務省のプロバガンダに完全に洗脳されてしまっている北川には、思いもよらない話になる。 |
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ここで昨年からのいきさつをざっと振り返っておこう。 イランにはガン放射線治療を待っている患者が約85万人いる。多くはサダム・フセインと闘った「イラン・イラク戦争」の時、イラク側が使用した毒ガス兵器の影響と見られる。イラン国内からはその医療用アイソトープが急速に欠乏しつつある。 ウラン濃縮度は、原子力発電用3.5%―5%、医療用20%程度、それから研究用、実験用と用途があるが、これらはほぼ濃縮度30%以内だ。アメリカ海軍の原子力潜水艦(他の国も同様だとは思うが)の原子力燃料は、濃縮度40%ウラン燃料である。兵器級となると、一挙に跳ね上がる。濃縮度90%以上である。 イランが癌放射線治療用の濃縮ウラン、もう少しいえば、これを特殊金属棒にした治療用材料を必要とし、IAEAに入手を依頼したのだ。これがいつ頃なのか私には確認できていない。ともかく先の朝日新聞の記事では、「09年5月」としている。 IAEAはこれを断る理由がない。というのはNPTでは、原子力エネルギーの平和利用は、これを積極的に奨励し、援助することになっているからだ。軍事開発で得られた技術でもこれが平和利用に転用できるなら、IAEAはこれを積極的に参加国が利用できるように取りはからわなくてはならない。もちろんIAEAの厳重な監視と立ち会いの下においての話だ。 |
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この話に飛びついたのがアメリカ、ロシア、そしてフランスだ。まずアメリカ。イランが医療用放射線原料として、20%濃縮ウランを材料とした特殊金属棒を必要としているのは事実だが、この医療用原子炉はアメリカ製だ。 次にロシア。ロシアはイランにウラン濃縮作業そのものをあきらめさせたい。はっきりいってウラン濃縮はすべてロシアが行って、イランに供給したい。これはアメリカも同様だ。 フランスはこれまで長い歴史的な確執があって、イランへの「原子力エネルギー市場への進出は皆無」に等しい。今回の話をきっかけにイラン市場に参入したい。なにしろイランは近い将来、国の電力需要全体の15%までを原子力発電でまかなうことを政策化している国だ。 アメリカ、フランス、ロシアはこの話に、イランが在庫している原子力発電用の低濃縮ウランを取り上げる話に結びつけた。 少なくとも09年10月20日ごろまでに、フランス、ロシア、アメリカの三カ国は、放射線治療用濃縮ウラン特殊金属棒を必要とするイランに対して、「イランがこれまで在庫した一定量の低濃縮ウラン(濃縮度3.5%)を提供してくれれば、それを加工して放射線治療用のウラン金属棒を提供しよう。」という提案をした。 これが日本の新聞紙上でいわれる「5+1」提案だ。 |
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09年10月21日、この「5+1」提案でイランが合意する提案の草案が、エルバラダイIAEA事務局長(=当時)立ち会いの下、ウィーンでまとまった。
とイラン国営通信が伝えたのはこの時である。
ところがその後、本案が示されると、イラン側は驚いた。草案ではあくまで契約当事者はロシアである。だからイラン側は了承した。ロシアが自国で20%ウラン濃縮をして、肝心の金属棒(ペレット)製造をどこの国に下請けに出そうが、ロシアの自由である。ロシアが契約当事者として、ペレットの供給に責任をもってくれればそれでいい。だから草案を飲んだ。ところが本案では、フランスがペレット製造供給責任者として名前を連ねている。 これはイラン側は飲めない。というのはフランスはこれまでただの一度も、イランとの2国間合意を守ったことがない。おまけにフランス大統領サルコジはこれまで、アメリカとともにイラン制裁の先頭に立ってきた。 |
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イランはフランスを全く信用のできない国として排除し、ロシアとアメリカだけなら合意する、といったん表明していたわけだ。だからフランスが金属棒に加工するのは、構わない。それは、米ロ仏3カ国内部の問題だ。あくまでロシアが責任を持つならそれでもいい、と考えていた。 イランがフランスに不信感を持つ最大の理由は、世界最大のウラン濃縮工場ユーロディフに対するイラン側の出資10%と貸付金を、たびたびの約束にもかかわらず、未だにイラン側に返済していないことが挙げられる。 アメリカ、フランス、ロシア三カ国にとって案の定というか、意外にもというか、イランはこの本案を蹴った。日本のメディアが、「イランはいったん受け容れたIAEA案を蹴った。交渉の引き延ばしがその狙いと見られる。」とアメリカの国務省、日本の外務省のブリーフィング通りの報道をしたのは、この時のことだ。 それでも医療用濃縮ウラン特殊金属棒を供給してくれるなら、それでもイランは構わない。しかし、その当の相手国がフランスであって見れば、まずフランスが約束通り、この金属棒を供給してくれる保証はまったくない。またフランス、アメリカ、ロシアの結束は固く、草案時に示した「ロシアが責任当時国」とする提案に戻すことは一切拒否している。イランはまたもフランスに嵌められたというべきだろう。こうして、事態は膠着状態に入った。 そして、イランの大統領アフマニネジャドは2009年2月8日、医療用ウランの濃縮を20%未満で実施することをIAEAに通告し、2月9日その実施を命令したのである。しかし、これはイランにとっても本意ではない。たとえ20%の濃縮ウランを入手できたとしても、必要なのはそこから製造する医療用特殊金属棒(ペレット)だ。それを製造する技術もスタッフも施設もイランにはない。
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だからその後もイランは、信頼できる第三国が契約当事者なら、当初構想通り、「原子力発電用の濃縮ウラン」を引き渡して、その後金属棒(ペレット)を受け取る案は生き続けている、と言明してきた。今年初めイランの高官が日本を訪問したが、これも日本に「信頼できる第三国」になって欲しいという要請が主目的だったと思われる。(もちろん対米従属下の日本がこれを受け入れるはずがない。) 『これまで国外搬出を拒んできたが、相手国を隣国トルコとすることで、譲歩に転じた。』と朝日新聞の北川はテヘランから記事を送ってきているが、「譲歩に転じた。」わけでもなんでもなく、イランは最初から云っていることを、トルコ、ブラジルの助けを得て実行に移しただけだ。 今考えてみて、フランス、ロシア、アメリカの三カ国が、エルバラダイ調停を覆して、4カ国個別契約を本案で示して、イランがこれを蹴れば、国連安全保障理事会で「追加制裁」に持ち込めると考えていたのではないか。拒否権をもつ中国は、賛成しないまでも「棄権」して呉れればいい。ところが、「経済制裁」は、これまでもさほど効果がなかった。これは、外交問題評議会・理事長、リチャード・ハースも認める通りである。
大体、もしこれまでの経済制裁が効果をもっていたとしたら、世界経済が恐慌化し、経済規模が縮小した2009年、イランが4.1%の経済成長を遂げられたはずがない。
従ってアメリカ・フランスが、狙った「経済制裁」は、イラン経済を締め付けるというよりも、「イランの国際的」孤立化のイメージ作りが主眼だったのだろう。 しかし案に相違して、アメリカ、フランスはイランの孤立化イメージを狙った「追加制裁」にも失敗する。(今のところ) それどころか、アラブ諸国やラテン・アメリカ諸国は、陰に陽に「イラン支持」に回った。とにかく朝日新聞の記事だけを読んでいると、イランをめぐる情勢はさっぱりわからない。 |
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私は、「イランをめぐる国際情勢」をめぐる日本の主要メディアの報道を見ていると、戦前「日中戦争」の時の日本の主要メディアの報道を思い出す。 たとえば、第二次国共合作の直接のきっかけとなった「西安事件」の報道だ。1936年(昭和11年)12月、西安で「内戦停止派」の張学良が蒋介石を監禁し、8項目の要求を突きつけた。結局、蒋介石は張学良の要求を飲んで、抗日に転ずる。実際この時の張学良の蒋介石に対する要求は次の8項目だった。「@南京政府の改組、諸党派共同の救国、A国共内戦の停止、B抗日7君子の釈放、C政治犯の釈放、D民衆愛国運動の解禁、E人民の政治的自由の保証、F孫文遺嘱の遵守、G救国会議の即時開催」 一言で云えば、蒋介石に共産軍を主要敵とせずに、軍国日本の中国侵略に対して中国人民とともに闘え、という要求だった。ところが、当時スターリン支配のソ連のメディアは「親日分子の陰謀」「反日勢力の団結を破壊する動き」と報じた。日本のメディアは朝日新聞、毎日新聞をはじめ、軍部のブリーフィング通り「張学良独立政府とソ連が協定を結んだ」とソ連陰謀説を一斉に報じた。これは「抗日民族統一戦線結成の動きである」と鋭く予見したのは、朝日新聞の尾崎秀実ただ1人であった。
イランをめぐる情勢も、今や戦前の中国をめぐる情勢同様、日本の既成メディアは「大本営発表」になっているようだ。
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さて前置きが長くなった。朝日新聞の記事も含めて以上の情報を念頭に置いて、2010年5月18日付テヘラン・タイムス「イラン、トルコ、ブラジル核燃料取り引きに合意」と題する記事を見ていこう。
ここまででおわかりのように、今回取り引きは、イラン、トルコ、ブラジルの3カ国間の取り引きであるが、あくまで核兵器不拡散条約の規定に基づいて、IAEAの監督と承認のもとに行おうとしていることがわかる。 ここで冒頭に紹介した朝日新聞の北川の記述を思い出して欲しい。北川は次のように書いている。
私はイラン学生通信が上記のような不正確な報道をしていると確認できていないが、「フランス、ロシア、米国」が合意した場合にのみこの協定が有効だ、トルコの低濃縮ウランはIAEAの管理下に置く、と云う書き方になっている。 テヘラン・タイムスの記述からすると、不正確というか、ウソに近い内容になっている。 IAEAの本来精神、核兵器不拡散条約の条文上の解釈からは、「フランス、ロシア、アメリカ」はすでに局外者だ。その局外者が、事実上NPTやIAEAの支配者のような振る舞いを見せているのが、現在の大問題だ、ということを頭に入れておいて欲しい。 |
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ここで、私たちはこの会談が、「G15サミット」という本筋会談のサイドで行われたことを知る。「G15」(グループ15)は、発展途上国15カ国で結成した国際グループで結成当時からは若干増加して現在は17カ国で構成されている。発展途上国とはいうものの、それぞれ経済地域大国に成長した国が多い。参加国は以下の通りである。
アルジェリア【46位】、アルゼンチン【23位】、ブラジル【9位】、チリ【45位】、エジプト【26位】、インド【4位】、インドネシア【15位】、ジャマイカ【117位】、ケニア【81位】、ナイジェリア【34位】、マレーシア【30位】、メキシコ【11位】、ペルー【41位】、セネガル【111位】、スリランカ【67位】、ベネゼエラ【31位】、ジンバブエ【資料なし】の17カ国である。 イラン【17位】はまだG15の正式メンバーではないようだが、ともかくテヘランで今回G15の会合が開かれた。日本のメディアはこのG15についてほとんど報じていないが、「アメリカの超大国時代」が終えんした現在、これから徐々に影響力を発揮する国が多い。またこれら途上国グループが「イラン支持」に回っていることも容易に見て取れる。
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以上の記事では必ずしも明示的ではないが、総合すると、20%のウラン濃縮をするのは、やはりロシアのようだ。そしてそれをロシアはフランスか、アメリカに引き渡す。そしてフランスかアメリカが、医療用原子炉に必要なペレットに製造する。それをやはりロシア経由で(あるいはトルコに直接かも知れない。)、トルコに引き渡す。最終的にはトルコがそれをイランが寄託した低濃縮ウランに交換して、ペレットはイランに、低濃縮ウランはロシアに引き渡す、ということになるのだろう。 従って先の文章で「5+1」が約束を破った場合、というのは、中国、ロシア、ドイツが約束を破るはずはないし、イギリスはほとんど局外者に近いから、フランスとアメリカが約束を破った場合、という意味合いを強く意識していることになる。 いわば、トルコとブラジルが公平な立会人になって、トルコで今回取り引きを完了させようということだが、これまで約束を破ってきたフランスとアメリカに対して保険を2重にかけた内容になっている。 前述の朝日新聞の記事とは全然ニュアンスが違っている。 |
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NPTの精神やIAEAの運用の精神からすると、イランが必要とするガン治療用アイソトープのためのペレット入手については、IAEAが全面的に協力しなければならないものだ。この問題と、イランの原子力発電用濃縮ウランの交換は、アメリカとフランスが考え出したものだ。イランが在庫する原子力発電用濃縮ウランを取り上げようという意図からだ。イランの側からすると本来応ずる必要のない、「核燃料交換」に応じている、というのがサレーヒーの言い分である。 しかしこのテヘラン・タイムスの記事は次のように続く。
ロシアの大統領メドベージェフはこの協定に賛意を表明している。従って後はアメリカのオバマ政権とフランスのサルコジ政権の出方しだいとなる。 私もサレーヒーと同様、この2つの政権は、別な口実を見つけてくるだろうと思う。そしてそれをごり押ししてくるのだろうと思う。 ただ、21世紀はその手法がどこまで通用するのか疑問である。アメリカはもう唯一の超大国ではないし、2009年の恐慌を通して、アメリカや西側先進国は相対的に力を落とした。逆に非同盟諸国は相対的に力をつけてきた。 アメリカの戦後一貫して続けてきた「力の政策」はかなり陰りが見えているのではないか・・・。 |
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最後に5月18日付け中国新聞に掲載された、共同通信の記事を紹介しておこう。この記事は「イラン、国外輸送同意」「トルコ・ブラジル仲介」という見出しを掲げながら、トルコ外相ダウトオール、トルコ外相アモリム、イラン外相モッタキが3人で合意文書に調印している写真をロイターから購入して掲載している。 「はて、仲介者と合意文書に調印なの?」と訝しく思うが、肝心の合意相手は誰なの、と読んでみてもなにも書いてない。
と書いてあるのみである。一体イランは誰と合意したのか?上記文章を読むとIAEAと合意したかのように見える。 ところが続いて、
さらに続けて、
と書いている。ブラジルを含む3カ国とは一体どこなのか?また、掲載写真にはしっかり写っている、ブラジル大統領、トルコ首相、イラン大統領がこの署名に立ち会っていることにも一切触れていない。 |
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それより悪質なのは、「解説」と称した、テヘラン共同=桜山崇の記事だ。ちょっと丁寧に見ておこう。
これまで見たように、イラン大統領、トルコ大統領、ブラジル大統領3者立ち会いのもとでの3国外相が合意したのは、低濃縮ウラン1.2トンとガン治療アイソトープを製造する医療用原子炉(研究用原子炉でもいいが)の燃料となる金属棒120キロの交換(スワップ)である。スワップの場所としてトルコ国内を指定したのも合意の一部だ。 トルコに運ぶのは合意の一部にしか過ぎない。また「核兵器転用防止策」とは、アメリカ国務省の言い分で、IAEAを含め誰もそんな認識は持っていない。 一つの事実を、片々だけ切り取って歪んで描写する見本みたいな文章だ。次にいってみよう。
は桜山の見解だから構わないが、
は事実関係に関するところだ。この記述は間違っている。記述の曖昧さを加味して見るなら、明らかにデマだ。これまで見たように、イランの対応は一貫している。医療用原子炉の燃料となる金属棒(ペレット)は欲しいが、フランスが契約当事国になるのは困る、この立場でイランは一貫している。逆に二転、三転したのは、アメリカとフランス、それにロシアだ。これもこれまで見てきたとおり。 |
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次、行って見よう。桜山は次のように続けている。
これも人の言葉を、都合のいいところだけを切り出したコメントだ。これまで見たようにサレーヒーは、「彼らの主張してきたことのポイントは、核燃料スワップはイランの領土外で行わなければならないということだった。われわれはこれを受け入れた。そしてこのようにして、われわれは彼らの口実を排除したのである。」と云ったのだ。
と桜山は書いている。事実関係からいうと、今回問題ではイランは、ロシアについては最初から「どっちつかずの風見鶏」と見ており、最初からあてにしていない。それに前にも見たように、経済制裁をイランはさほど恐れていない。もちろんない方がいいが、あってもさほど大きな影響はない。09年のGDPの伸び率などを先にも見たとおりだ。 桜山や日本の外務省、アメリカの国務省のシナリオでは「イランは経済制裁を恐れている。これを回避するために躍起になっている。」ということだが、現実はさほどの影響はない。それにイランがあてにしている、あるいはイランを支持しているのは、先ほどG15会議のところでも紹介したように、テヘランに集まった非同盟諸国なのだ。今回問題では、中国、ロシアも5常任理事国で、イランにとっては「5+1」グループという言い方にも良く現れているように、一応敵対相手だ。少なくとも利害関係は対立している。桜山のいうように、今回問題では「友好国」とは決していえない。 次に行ってみよう。 |
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一体桜山は何を根拠にここの部分を書いたのだろうか? 昨年10月の合意とは、イランとロシアの2国間契約でイランの低濃縮ウランをロシアが20%濃縮化して、ロシアが責任をもって、金属棒(ペレット)をイランに引き渡すという内容で、エルバラダイ立ち会いの下で合意した。これが草案段階だった。ところがぐずぐずと本案が出ないうちにフランスがひっくり返し、本案ではなんとフランスがイランにペレットを引き渡すことになっていた。イランは話が違う、としてこれを蹴った。このいきさつは前述の通りである。 桜山は輸送量や輸送方法で条件をつけた、というがどこからこの話をひっぱってきたのか?
次に行って見よう。 |
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私は桜山が意図的に、原子力発電用の低濃縮ウラン事業と医療用アイソトープための20%未満ウラン濃縮事業を混同しているのだと思わない。彼の書きぶりからしてそこまでものがわかっているとは思えないからだ。 しかし意図的であろうがなかろうが、彼は2つの問題を混同している。既存の原子力発電用ウラン濃縮と医療用アイソトープのための20%未満ウラン濃縮事業は全く別ものだ。しかし、桜山は原子力発電用ウラン濃縮がそのまま20%濃縮に移行していくと信じている。
私が、桜山はものがわかっていないと感じるのは、例えばここの記述だ。イランの3.5%ウラン濃縮は遠心分離法で行われている。現在稼働しているのは3000基の連結だと思うが、3000基程度だと年間の濃縮ウラン量は1トン程度にしかならない。半年で約0.5トンである。イランはこの低濃縮ウラン事業を継続しているのでここに書かれているように、1.5トンの在庫量が7ヶ月で2トンに増加するのは何の不思議もない。しかしこれではパイロットプラント程度の生産量だ。 |
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たとえば、アメリカはパデューカで原子力発電用のウラン濃縮を行っているが(ガス拡散法)年間生産量は1万1300トン、フランスのユーロディフも1万800トン、イギリスのカーペンハーストは3400トン、オランダのアルメロは2900トン、ドイツのグロナウは1800トン、ロシアは4箇所合わせて1万5000トン、中国は2箇所合わせて1000トン、日本の六ヶ所村でも1050トンだ。
年間1トンや2トンではまるきりお話にならない。 それより私が桜山はものがわかっていないと感じるのは、「核兵器1個分に相当する1.5トン低濃濃縮ウラン」と本気で書いている点だ。1.5トンの3.5%濃縮ウランに含まれるウラン同位体U−235の量は計算上、52.5Kgになる。現在99.9%の濃縮度のウラン同位体U−235が40Kgあれば、広島型原爆が1個作れるという計算になる。だから「核兵器1個分に相当する1.5トン低濃縮ウラン」という言い方は文脈によっては誤りではない。しかし3.5%の濃縮ウランを何万トン集めてみたところで、核兵器は1個も作れない。兵器級のウラン濃縮度は90%以上、しかも連鎖反応を保障するためには99.9%という純度であることが望ましい。つまり、原子力発電用のウラン濃縮と兵器級ウラン濃縮は全く別物なのだ。製造工程も全く違う。
アメリカの大手メディアの記者(たとえばAPやニューヨーク・タイムズ)も同じような言い方をする。しかし彼らはものがわかっているので、「核兵器1個分に相当する1.5トン低濃縮ウラン」とは決して書かない。あとでつっこまれるのを避けて、「理論上は」とか「計算上は」とか必ず但し書きをつける。 私は桜山は、「1.5トン低濃縮ウラン」があればイランは核兵器を1個製造できると本気で信じているのだと思う。
それを感じさせる箇所がもう1箇所ある。上記に続く文章である。 |
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としている箇所がそれだ。イランがペレットが必要なのは、ガン治療用アイソトープを製造したいためである。なにも欧米が狙って「兵器転用の難しい核燃料棒」に製造しようと提案したわけではない。 ところがアメリカ国務省の記者ブリーフィング(ほとんど毎日開かれている)を読んでいると、時々一般論として、「こうしてイランの低濃縮ウランを、ペレットに変えていけば、そのうちイランからは濃縮ウランはなくなる。」と説明することがある。この話が全く架空の話で、単に理屈上の話として聞いている記者もいれば、本気で信じている記者もいよう。 桜山はなおタチが悪い。今回のイランのペレット入手を、「兵器転用の難しい核燃料棒に加工する」ための欧米の戦略だ、と本気で信じている点だ。 これまで見てきたように、ペレット入手はイランが希望したもので、欧米が押しつけたものではない。桜山の無知は哀れを催す、という他はない。次は、桜山の「解説」の最後の文章である。先ほどの文章に続けて、次のように書いている。
どうにも意味がわからない。まず「欧米」と書くが、欧米とは具体的にどの国を指すのか?明らかにフランスとアメリカだろう。この2カ国が、桜山の云う「欧米」だ。 「欧米が冷ややかな態度を見せる」とは同意しない、ということだろう。イスラムの地域大国「トルコ」の首相と南米の地域大国「ブラジル」の大統領が、テヘラン現地に乗り込んで、斡旋し、「もし5+1が約束を破れば、トルコは預かっている低濃縮ウランを直ちに無条件で、イランの要請に基づいてイランに返還しなければならない。」と謳っている協定に、アメリカとフランスが「冷ややかな態度」が取れるか? その時、アメリカ・オバマ政権やフランス・サルコジ政権に対する反発はイラン国内だけではなく、すべての非同盟諸国の間に拡がっていくだろう。「トルコ、イラン、ブラジル」三カ国の首脳のコメントからは、「やれるものなら、やってみろ」という気概が窺える。 桜山は、「イラン核疑惑」問題をめぐる国際情勢をまったく、読み違えている。オバマ政権は「2010年NPT再検討会議では、合意文書に至らなくても、イランを孤立化させられば成功だ。」と云ったが、事態は逆の方向に向かっている。アメリカを始めとする核兵器保有国が逆に孤立化し始めた。 外務省のブリーフィングを垂れ流しにするのは、そろそろやめにした方がいい。 |
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