関連資料:イラン核疑惑

イランのアフマディネジャド大統領
日本のNHKとインタビュー


* このインタビューは次のサイトからの引用である。http://japanese.irib.ir/NHK.htm これはイランイスラム共和国放送日本語のサイトである。
* このインタビューは2008年9月4日、イラン大統領府で行われたもののようで、NHKは同日夜のニュースで放送した。この放送の内容はおおむね以下のようであった。
アフマディネジャド大統領は4日、首都テヘランの大統領府で、NHKの単独インタビューに応じました。この中で、アフマディネジャド大統領は、核開発問題などで厳しく対立するアメリカについて、「国内で起きている問題に力を注ぐべきで、世界の国々の内政に干渉するのをやめるべきだ」と述べて、強く非難しました。そのうえで、「アメリカの側がまず、この30年間、イランに対してとってきた敵対的な政策を転換するならば、相互理解に基づいた対話に応じたい」と述べるとともに、アメリカの次の大統領がオバマ氏、マケイン氏のどちらになるにせよ、イラン政策の抜本的な転換を態度で示すべきだとの考えを示しました。また、日本に対しては、「文化的な伝統など互いに理解しあえる価値観を共有しているだけに関係を強めたいが、日本政府は、ほかの国の顔色をうかがわずにイランとの関係を強化したいのか、みずから考えるべきだ」と述べ、制裁の強化などをめぐり、アメリカに追随するべきかどうか、国益を考えて判断するべきだとくぎを刺しました。』
   ただ、以下のアフマディネジャドのインタビューを良く読んでみると、このNHKの要約は少しづつ違うようである。言い換えれば、イラン大統領の真意を伝えていない。
* また東京外語大学の中東ニュースは、9月6日Jam-e Jam紙に掲載されたインタビュー抜粋記事を掲載している。http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/news_j.html 
* 例によって(青字)は、私のコメントである。


(以下本文)


 イランイスラム共和国のアフマディネジャード大統領は、イランに対する経済制裁や圧力の非合法性と不当性を強調し、「イランも理不尽な大国を罰することができる」と語りました。

 アフマディネジャード大統領は、NHKとの独占インタビューで、「我々はまだ、意地の悪い理不尽な大国の制裁に対し、厳しい反応を見せていないが、彼らが領域を侵した場合、イラン国民も対応を示すだろう」と語りました。

 イランの平和的核活動に関する質問に対しては、「イラン核問題は、通常の簡単な問題である。イラン国民は、他の国民同様、核エネルギーの平和利用に関心を持っており、これはイラン国民の権利でもある。すべての国際法規もこの権利を正式に認めている」と語りました。
( おそらくは、この点が「イラン核疑惑」問題の本質であろう。確かに彼の云うとおり、核エネルギーの平和利用は、核兵器不拡散条約=NPTの枠内で認めた非核兵器保有国の『奪い得ない権利』である。この平和利用の権利の中には、原子力発電用ウラン濃縮活動も当然含まれている。この権利に従って日本もまた六カ所村で、核燃料再処理プロジェクトを進めている。NHKの報道ではこの肝心な点に意図的かあるいはインタビューの不見識のせいか、触れていない。)


 また、イランの核問題を巡る一連の騒動について触れ、これらは法的根拠のない政治的なものだとし、「興味深いのは、日本を核爆弾の犠牲にし、現在も、数十基の核弾頭を有している者たちが、イランの平和的核活動に反対していることだ」と語りました。

 さらに、「我々は、あの卑怯な戦いで日本国民が犠牲になったことに遺憾を感じる。このような犯罪行為が人類の生活において、二度と繰り返されないよう願っている」としました。
( ここもNHKが触れていない点だが、アフマニネジャドは、広島・長崎への原爆投下は犯罪行為だったことを明言し、原爆=核兵器の使用が2度とないことを希望している。)


 大統領は、「理不尽な大国は、イランの平和的核開発に敵対する上で、同時に2つの大きな過ちを犯している。ひとつは、各国の国民の法的権利を禁じることで、世界に緊張をもたらしていることであり、このような中では、全ての人々が損害をこうむることになる。もうひとつは、彼らが、核エネルギーを核兵器と同等のものと考えていることである。しかし核エネルギーは、有益で健全かつクリーンなエネルギーであり、すべての人々が利用すべきものだが、核爆弾は、非人道的で醜いものである」と語りました。
( この点も興味深い点である。2つの過ちといっているが、実はこれは一つの問題の裏表である。アメ リカの支配体制は、平和利用であろうが軍事目的であろうが、アメリカとその同盟国および既存の核兵器クラブのメンバー以外には、核技術の拡散を防ぎたい。従ってイランが原子力発電用のウラン濃縮活動を行うのはもってのほかだ。ところが核兵器不拡散条約は、原子力発電用ウラン濃縮を含めて条約締結国に認められた奪い得ない権利なのだ。従って、アメリカなど核独占体制を築きたい勢力にとっての言い方は、『原子力発電をするにあたって、ウラン濃縮活動をする必要はない。原子力発電用燃料はその生産国から購入すればいいのだから。ウラン濃縮に固執するのは、核兵器を開発意志対という下心があるからだ。』という論法にならざるを得ない。これがアフマディネジャドのいう『各国の国民の法的権利を禁じること』ということの実態である。これは必然的に、NPT体制を根幹から揺るがす問題である。周知のようにNPT体制は3つの合意=体制の柱から成り立っている。

(1) 核兵器国=米・ロ・英・中・仏、5カ国は核兵器廃絶努力を忠実に履行すること。
(2) 非核兵器国は、核兵器を保有しないことを誓約すること。
(3) 核エネルギーの平和利用は、NPT締結非核兵器保有国の奪い得ない権利である。
 アメリカがイランに対して主張していることは、(3)の権利を認めない、と言っているに等しい。もしこのアメリカの言い分が通るなら、NPT体制は一度ご破算にして、別な体制を設け各国の合意を取り付ける必要がある。シュルツらの論文「核兵器がない世界」は、こうした核兵器を含めた核エネルギーの独占体制を意図し、NPT体制に変わる「核エネルギー独占体制」を法的に保証した枠組みを形成するための国際世論づくりだといっても言い過ぎではないだろう。アフマディネジャドがいう『核エネルギーを核兵器と同等のものと考えていることである。』というのはこの点である。

  もう少し云えば、平和的核エネルギーと核兵器の意図的混同である。平和的核エネルギーがアフマディネジャドがいうように『有益で健全かつクリーンなエネルギー』であるかどうかは別として、アメリカは、核エネルギーの独占体制を企図した世論づくりの一環として、平和的核エネルギーと核兵器を混同させる世論づくりをしていると言うことだ。)


 また、「理不尽な大国は、核エネルギーと核爆弾を同等に扱うことで、各国の国民の平和的核エネルギーの獲得と利用を妨げようとしている」と語りました。

 さらに、化石燃料の消費によって、人間と自然に及ぶ損害は、計り知れないものだとし、「このような損害が世界にもたらされている中で、核エネルギーは、産業やエネルギーの生産に大きな役割を果たす上、完全にクリーンで、汚染の心配もない」と述べました。
 
 大統領は、理不尽な大国は、自分たちの核弾頭を廃絶する代わりに、他国の核エネルギーの平和利用を妨げているとし、「理不尽な大国の野蛮な行為の犠牲となった日本の人々にも、他の国民と共に、核エネルギーを利用する権利がある。このため、我々は、不誠実な2,3の大国に兵器を廃絶させ、人類に安らぎがもたらされるよう、共に団結すべきだ」と述べました。
 
 国連安保理常任理事国とドイツのイランへの提案に関する質問に対しては、「彼らの提案が出される前に、我々も、提案を提出していた。論理的なのは、まず、2つの提案の共通点について話し合うことであり、それらに関して合意に至れば、意見の相違は簡単に解消することができる」と語りました。

 また、イランに対する制裁の非合法性を強調し、「我々は、彼らが強みとして利用しようとしている制裁を、正式に認めない。我々の国の核活動が完全に合法的であることは周知の事柄であり、IAEA国際原子力機関も、報告の中で、イランの核活動の平和生を認めている。そうした中で、我々は、論理、法、公正、相互尊重に基づき、協議を行なう用意がある」と語りました。
 
 さらに、国家安全保障最高評議会の議長も務めるアフマディネジャード大統領は、新たな制裁の行使が怖くないかとのNHK記者の質問に対し、「もし誰かが、日本から独立を奪おうとすれば、日本の国民は、どのような反応を示すだろうか?必ず、抗議だけでは済まされない、それに対抗するだろう。法的権利の利用は、一つの国、国民の独立の一部である」と語りました。

 大統領は、「とはいえ、彼らが、イランに制裁を加えることができるとは思わない。なぜなら、彼らはそれによって、実際、自分たちに制裁を加えることになるからだ」と述べました。
( NHKの記者が、新たな制裁が怖くはないか、との質問をしたとは信じがたいが、仮にそうだとして、この大統領の回答は正義は我にあり、との信念を固く持っている、と言う見方ができる。さらに重要なのは次の回答だろう。)


 さらに、「イランは、豊かな資源や能力と、地理的に恵まれた状況を有しており、このような特徴のもとでは、制裁は全く意味がなくなるだろう。それに加え、イラン国民は、発展のために、他国を必要としていない」と述べました。
( ロシアや中国、ドイツとの取り引きで、イランに対する経済制裁は事実上有名無実になっている。逆にイランに対して油田の権益をもっていた国は、その権益をロシアに奪われているのが実情だ。)


 もしアメリカの次期大統領が、将来の関係について話し合うことを要請してきたら、イラン政府はどのような回答を与えるか、との問いに対しては、「イラン国民は、対話の民である。とはいえ、アメリカは、誰が選ばれようと、それまでの政治家の政策や行動を変更しなければならない。彼らの行動は、アメリカ国民の利益にも、世界の利益にもならないようなものだ」と語りました。大統領は、「アメリカの世界に対する干渉を制限すること、イラン国民をはじめとする各国の国民への対応を改めることは、アメリカの次期大統領が実行すべき2つの変更である」としました。また、「アメリカの次期政権は、国内の問題に集中すべきであり、これは必須のものである。そうでなければ、アメリカ社会は内部から崩壊するだろう」と語りました。

 大統領は、アメリカ政府は常に、イラン国民と相対してきたと強調し、「アメリカとその政治家は、これまで、このような行動によって得をしたことはない。賢明なのは、自らの行動を改めることである。もちろん我々も、平等な条件のもとで、相互尊重に基づいた対話を歓迎しており、このような提案については、検討する構えだ」と述べました。

 さらに、「日本やアメリカの国民をはじめ、我々は、すべての国民を尊敬しているが、ダブルスタンダードを受け入れることは決してない」と語りました。
( 今イラン国内で大問題になっているのは、副大統領兼文化遺産観光庁長官のラヒーム=マシャーイー「イラン人はイスラエルの人々の友人」とする発言だ。  http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/src/read.php?ID=14723 イランの国会は大統領に、副大統領罷免を求めている。イスラム原理主義の思想には合致しない、というのが罷免要求の理由だ。同副大統領の発言とこのアフマディネジャドの発言は、国とその市民を厳密に区別していると言う点で一致している。ブッシュ政権を支えるアメリカの軍産複合体制やそれと同調して中東地域に常に紛争の種を残しておきたいとするイスラエル軍部・右翼と、それぞれの国の善良な一般市民とは違うという発想だ。私も賛成する。)


 オバマ氏がアメリカ大統領に選出されることは、イランにとって有利になるかとの問いに対し、「イランにとって、誰がアメリカの大統領になろうと変わりはない。重要なのは、誰が大統領になったとしても、これらの措置(態度の変更と他国の干渉への制限)を実行することである。選挙の公約をそれほど信じることはできないが、我々は、彼らがそれを実践することを期待するだろう。なぜなら、時に実際の行いは、公約とは異なるからだ。時代はアメリカにとって有利なものではない。それを変えるには、アメリカが、この根本的な変更を実行することだ」と語りました。

 大統領は、イラン社会では、アメリカの文化、映画、製品は人気があるかとの問いに対しては、「イラン国民は、すべての国民と良好な関係を有しており、日本の国民にも関心を寄せている。日本の映画もよく鑑賞している」と語りました。
( このNHKの記者はどうも、イスラム民主主義に関して誤解と偏見を持っているようだ。アフマディネジャドは10人近い大統領候補から、国民の直接選挙によって選ばれた。民主党・共和党が決める大統領候補2名の2者択一しか選択肢のないアメリカとどちらが政治的民主主義が根付いているだろうか?)


 さらに、「原則的に、各国の国民は、互いの交流を通して成長する。イラン国民もまた、他者との関係に制限を設けてはおらず、これについて、いかなる懸念も存在しない。我々は、豊かな文化を有していることから、文化交流において、常に優勢であり続け、他の文化に影響を与えてきた」としました。

 大統領は、「アメリカ国民も、世界の他の人々と同じように、平和、公正、友好、安らぎを求めており、暴力や衝突を嫌悪している。アメリカ国民は、もし必要な自由と機会があれば、必ず、自国の政治家の多くの行動に反対するだろう。しかし、アメリカには、彼らの主張に反し、完全な民主主義は確立させていない。多くの国民は、自分たちの意見を表現する可能性を持っていない」と語りました。
( 民主主義のチャンピオンを標榜するアメリカにとっては意外な批判だろうが、皮肉なことに事実である。当然このNHKの記者、この発言が理解できていないだろう。)


 世界の多極化をどう考えるかとの質問に対しては、「我々は、すべての国民の発展と強化を歓迎する。ただしそれは、公正と平和のためのものである場合のみだ」としました。

 また、「世界の多極化により、国民の権利が侵害されるべきではない。もちろん、多極化によって、覇権を振るう機会は減少するが、この流れは、必ずしも、公正と平和を意味するものではない」と語りました。

 また、世界は、一部の政府や国家が、他者の権利を損なうことを許すような国際法規を修正するとともに、公正と平和に基づく多極化に向かうべきだと強調しました。

 さらに、「第二次世界大戦後、自らを戦争の勝者と呼んだ一部の国が、世界の法規を、自分たちに都合のよいように定め、他者にはいかなる権利も与えなかった。しかし現在、それから60年以上が過ぎており、今日の日本とドイツの若者が、60年前のために、卑しめられ、虐げられるべきではない」としました。

 大統領は、「我々は世界の政治、経済、治安、文化面の新たな関係を必要としており、互いに助け合うことで、この関係を広めなければならない」と語りました。
( 全体として云えば、アフマディネジャドの認識は、アメリカの政治指導者よりもはるかに健全である。この若いしたたかな大統領は、『核兵器を保有することはイラン国民の権利』とは云うだろうが、核兵器を保有するつもりは全くない。)


 イランと日本の関係は、核問題を理由に、弱まりつつあるが、この関係の更なる拡大に向け、日本の政府関係者にどんなことを期待するか、との問いに対しては、「イラン政府は、すべての国々、特に日本との関係拡大に関心を持っている。なぜなら、我々は、共通の文化的な伝統や緊密さを有しているからだ。とはいえ、我々は日本政府の業務に干渉しない。同国の政府関係者は、自ら決定を下すべきである。明らかに、将来はイラン国民のものであり、他者の圧力のもとで、関係を調整すべきではない」と語りました。

 さらに、「我々は、相互尊重に基づくさらなる関係の拡大に関心を持っているが、選択するのは、日本政府である。イラン国民は、発展する能力を持ち、今後20年の間に、イランイスラム共和国が、先進的な大国のひとつになることに疑いはない。このことから、友人たちには、私たちと共に歩むことを望んでいる」と述べました。

 イランの門戸は、今後も日本の前に開かれ続けるか、との質問に対しては、「状況は変わる可能性がある。もし自分たちで何かを生産することができるようになり、他者を必要としなくなれば、そうなる可能性がある。しかし、各国の行動は、様々な状況において、国民の歴史の記憶に刻まれ、将来の関係の確立に影響を及ぼす」と語りました。

 イランの将来をどのように考えているかとの問いには、「イランは、完全な独立国であり、急速に発展の頂点へと向かい、地域と世界の関係に影響を及ぼしている。イラン国民は、最も自負心を有する国民のひとつであり、イランの歴史は、誇りに満ちている」と語りました。

 大統領は、「イラン国民のメッセージは、常に、歴史の中で、世界の頂点を極めていた時代でさえ、平和、友好、公正のメッセージであった。この特徴は、将来もイラン国民を待っているだろう」と語りました。

 さらに、「イランは、経済、文化、政治の面で、大国となるだろう。しかし、この力は、人間愛、友好、愛情の力であり、イラン人は常に、自らの発展を、人類と分かち合ってきた。なぜなら、完全な幸福に到達するのは、すべての人類が幸福となるときだと信じているからだ。このため、この目的を実現するために、優れた役割を果たそうとしている」と述べています。