(2010.3.21) |
オバマ政権と核兵器廃絶 アメリカの戦略態勢 (ペリー報告) 関連資料 |
日本、トマホークそして拡大抑止
ハンス・クリステンセン(アメリカ科学者連盟―FASのブログより)
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このブログの原文は次。<http://www.fas.org/blog/ssp/2009/07/tlam.php> |
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2009年7月、アメリカ科学者連盟(the Federation of American Scientists)のサイトの中の「FAS
Strategic Security Blog」というコラムに同連盟の「核情報プロジェクト」(the
Nuclear Information Project)のディレクター、ハンス・クリステンセン(Hans
M. Kristensen)が寄せたブログである。09年5月、アメリカ戦略態勢議会委員会が最終報告書を提出したが、その中で日本政府の高官が「トマホーク」ミサイルの退役に関して苦情を言い立てた、という記述があった。この件は日本でも「しんぶん赤旗」が問題にしている。
見出しにはトマホークとしたが、厳密にはトマホーク・ファミリーの中の海洋発射型ミサイルの中の対地ミサイルのTLAM/N型であり、クリステンセンもこのブログの中で「TLAM/N」としているので、今後は「TLAM/N」と表記する。「TLAN/N」は核弾頭専用ミサイルである。クリステンセンは、この問題を取り上げ、その背景を説明し、アメリカ連邦政府予算に対する「核産業」からの圧力の存在を指摘し、これがオバマ政権の核政策に陰で大きな影響を与えていることを示唆している。だから、日本政府からの圧力問題は、彼の本題を展開する具体的な例であって、これが本題ではない。「アメリカの戦略態勢議会委員会最終報告書」をより深いところで理解するには格好の論文であると同時に、アメリカの核政策形成に当たって、表面政治問題と見える出来事が、一皮めくって見るとビジネス問題であることを垣間見せてくれる。
(もちろんそれは民主主義社会の市民の良識から見ると「汚いビジネス」ではあるが。)
前置きが長くなって申し訳ないが、先にハンス・クリステンセンという人物を見ておこう。1961年4月生まれだからもうすぐ59才になる。核問題の専門家で、原子科学者年鑑(the Bulletin of the Atomic Scientists)やストックホルム国際平和研究所の発行する年鑑(Stockholm International Peace Research Institute's annual SIPRI Yearbook)の共同執筆者の一人でもある。公開情報を綿密に分析して記述するタイプである。デンマーク生まれで核兵器の配備や開発には一貫して批判的姿勢をとって来た。教育はすべてデンマークで受けている。「偉大なるデンマーク人」ことニールス・ボーアの流れを汲んでいる、と私が考えてとしてもさして無理はあるまい。2005年以来、アメリカ科学者連盟で現職に就いている。もともとデンマーク・グリーンピースの出身。1998までデンマーク国防大臣の諮問委員会の顧問、2002年まではカリフォルニア大学(バークレイ)のノーチラス研究所の主任研究員、2005年までは天然資源防衛評議会(the Natural Resources Defense Council)の主任研究員を務めた。
(以上英語Wikipedia<http://en.wikipedia.org/wiki/Hans_M._Kristensen>による。)
ついでに、トマホークについても見ておこう。トマホーク(BGM-109 Tomahawk)は長距離・全天候型・亜音速巡航ミサイルである。1970年代にジェネラル・ダイナミクスによって開発された。1基あたりの製造コストは56万9000ドル。幾つかの派生モデルがあり、ここで問題となっている「TLAM/N」(Tomahawk
Land-Attack Missile-Nuclear)はW80核爆発装置などを核弾頭とするタイプで、海洋発射型対地ミサイル、要するに潜水艦から陸地を狙って発射する巡航ミサイルである。到達範囲は2500Km。なおW80は出力0.5万トンから15万トンの幅があり、海洋発射型対地ミサイルに対応するのはモデル0型。
(以上<http://en.wikipedia.org/wiki/BGM-109_Tomahawk>及び
<http://nuclearweaponarchive.org/Usa/Weapons/W80.html>)
またこの記事中しばしば登場する「拡大抑止」(the extended deterrence)という言葉は、クリステンセンは「自国の防衛を他国の軍事力に依存し、それを自国の抑止力とする。」という意味で明確に使っている。たとえば、日本が核兵器を持っていれば、それは潜在敵国に対する「日本の核抑止力」だが、現実はアメリカの核兵器に依存しているのでこれは日本の「拡大核抑止力」だと云うことになる。従って「日本の拡大核抑止力」とアメリカの「核の傘」は同義である。この言葉がわかりにくいのは、あくまでアメリカを中心にした言葉使いであるためである。アメリカは核兵器を大量に保有し、自国を「核の傘」で護っている。アメリカはその核の傘を日本にまでさしのべる、「extend」する、「拡大する」、そこで拡大核抑止という概念が生まれる。
(あくまで彼らの理屈に従えばということだが。)
なお中見出しは原文にあるのでそのまま使用した。その他必要情報は(註1・・n)の形で記事外に出した。 |
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以下本文。
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日本、トマホークそして拡大抑止
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ハンス・クリステンセン(アメリカ科学者連盟) 2009.7.2付 |
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アメリカ太平洋軍(PACOM-United States Pacific Command)の司令官ティモシー・J・キーティング海軍大将(=当時。09年10月にロバート・F・ウィラード海軍大将に交替)は月曜日、「日本の、核装備対地攻撃用トマホークに対する特別な関心については、私は承知していない。」と語った。
これは興味深い。というのは「戦略態勢議会委員会」は明瞭にTLAM/Nとして知られるミサイルに、日本が抱いた関心について言及しているからだ。このミサイルは、中国やこの地域における潜在敵からの日本に対する核攻撃を抑止すべく、日本に核の傘をさしのべている。
われわれが、太平洋軍の司令官たるもの、日本の政府や軍部のもっとも高度なレベルの人たちと、緊密な接触をもっていると考えたところで無理はあるまい。彼は、アメリカの核の傘の、ある特別な兵器に関する日本側の関心について承知しているべきではないのか?だから、最近の議会委員会報告とは全く対照的な、司令官のコメントが訝しく見え、また調べてみるに値すると思える訳だ。
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要求(The Claims) |
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「アメリカの戦略態勢委員会」の最終報告書は日本とTLAM/Nに関して幾つかの要求をしている。主として次のような記述だ。
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(アジアにおける)拡大抑止力は何隻かのロスアンジェルス級攻撃型潜水艦(註1)―トマホーク対地ミサイル/核(TLAM/N)に搭載された核巡航ミサイルに大きく依存している。この能力は2013年までに、もしそれを維持するという段階を経なければ、退役することになっている。アジアにおけるアメリカのいくつかの同盟国は、核計画と同様には一体化していない。そして(核爆発装置の)搬送手段に関わることを要求されてこなかった。委員会としてのわれわれ作業の中で、アジアの幾つかの同盟国はTLAM/Nの退役を非常に憂慮していることが、われわれの前に明らかとなった。』 |
実際の所、この報告書はTLAM/Nは「第一義的には、アジアにおける諸同盟国の拡大抑止力の問題に関係している。」とも述べている。
幾つかの情報源によると、日本政府の高官たちは、核の傘に関する要求リストを書面で委員会に提出したという。この報告書にはこの要求リストもまた要求文言も含まれていない。ただ次のような、「日本」とは名指さない形での記述がなされている。
『 |
ある特に重要な同盟国は、非公式に委員会に対してアメリカの拡大抑止力の信頼性は、危険と見なされる極めて多様な(攻撃)目標を維持し、かつ、目に見える形にせよあるいは秘密裏にせよ、要求される状況に応じて(核)軍事力が配備されることに依存している、と主張した。』 |
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上記の表現自体が婉曲なものだが、要するに、抑止力は具体的に敵の攻撃目標を定め、政治的・軍事的状況変化に応じて、核兵器が実戦配備されることによって維持される、という意味。) |
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太平洋におけるアメリカの核態勢(The U.S. Nuclear Posture in the Pacific) |
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アメリカはおおよそ核武装ミサイルTLAM/Nを300保有している。そのうち約半分がワシントン州バンゴール近くの太平洋戦略兵器施設イグルー式(註2)施設に貯蔵されている。後の半分程度が、ジョージア州キングスベイにある大西洋戦略兵器施設に貯蔵されている。 |
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うち100のTLAM/Nだけが、寿命部品を取り付けられて稼働している。しかし通常の状況では攻撃型潜水艦に実戦配備されていない。アメリカには合計53隻の攻撃型潜水艦があるがTLAM/Nの発射能力をもつ潜水艦は12隻以下である。しかしながら潜水艦は定期的にミッションのための稼働適正検査を受けており、また同じく乗組員も定期的に訓練を行っている。そして(訓練や検査が終われば)再び認証を取り消され、現実世界の非核兵器ミッションに就いている。再び潜水艦や乗組員が(核兵器ミッションを)認証されて核ミサイルを装備し、海洋での実戦配備に就くには数ヶ月かかる。
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写真はTLAM/N巡航ミサイル。アメリカ科学者連盟のブログ・コラムからコピー貼り付け。】
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太平洋戦略兵器施設にあるおよそ150のTLAN/Nはアメリカが大西洋で持っている核態勢の一部分である。そこには1000を越すW76核弾頭(註3)やW88核弾頭(註4)などのトライデントU型弾道ミサイル(註5)がある。それらは、海洋発射型弾道ミサイルを発射する能力のある8隻のオハイオ級原子力潜水艦(註6)に装備される。これら潜水艦は太平洋をパロトールしている。
8隻の太平洋原子力潜水艦のうち5隻か6隻はいつでも実戦配備できる480−570の核弾頭を常時搭載している。別に数百の核弾頭が太平洋戦略兵器施設に、いつでも潜水艦に追加搭載できる形で貯蔵されており、もし必要とあれば両方を合わせて1300の核弾頭が使える状態になっている。
この海洋ベースの軍事力に加えて、450のミニットマンV型大陸間弾道弾に搭載された500の核弾頭部分が太平洋軍地域をカバーしている。これらはB-2型あるいはB-52H型戦闘機が爆弾や巡航ミサイルの形で搭載している。さらにノース・カロライナ州のセイモア・ジョンソン基地の第4攻撃航空団のF―14E爆撃戦闘機が、他の地域と共に太平洋地域の緊急核攻撃ミッションを担っている。
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上の写真はオハイオ級原子力潜水艦「ヘンリー・M・ジャクソン」Henry M. Jackson(SSBN-730)。24基の海洋発射型トライデントU型弾道ミサイルを装備できる。アメリカ科学者連盟のブログ・コラムからコピー・貼り付け。コラムの写真説明には「ハワイのヘンリー・M・ジャクソン。日本覆う核の傘は、太平洋地域にある、このような潜水艦を含む厖大な数の核兵敞で支援されている。潜水艦は継続的に太平洋をパトロールしており、こうして時たまハワイやその他の港を訪れてその存在を知られる事になる。」と記述してある。】 |
これら核軍事力に加えて、アメリカ海軍は空母戦闘航空群の60%を、また核攻撃潜水艦を太平洋に移動している。これら戦闘航空群の一つは日本を母基地化すらしている。太平洋における海軍の訓練は冷戦時代を通じてどの時期よりも大規模になっている。空軍は多かれ少なかれ継続的に長距離爆撃飛行大隊をグアムで入れ替えて回している。
太平洋地域を特徴付けるこのような拡大アメリカ軍があって、東京でも、ワシントンでも、北京でも、ピョンヤンのどこでもいいが、誰か日本を覆う核の傘に疑いを持ち、あるいはTLAN/Nを(核の傘の)基本ベースだと見なす人間は、なぜそう思うのだろうか?これが謎である。 |
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核ロビー:核ミッション説得を声高に云い募る(The Nuclear Lobby: Articulating
a Persuasive Nuclear Mission) |
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だから、なぜ、日本が精々200か300かそこらのTLAN/Nのことを深刻に心配しているとか云う話を突然聞いたりするのだろうか?結局の所、ケネディ以来ほとんどすべてのアメリカの大統領が核兵器の廃絶を要求してきた。第二次世界大戦中の核兵器の目標として、日本も核兵器の廃絶をずっと要求してきた。恐らくは少しばかり裏表のある、アメリカの核の傘に対しての依存を見せながら、日本の高官達は非公式には、核廃絶などは起こりえないだろう、とも言ってきた。しかし、これまでの伝統的な政治的「塹壕線」を越えて、「核のはしご」をゼロに向かって確実に降りようとする、国際的に大きくなっていく勢いは、日本政府の高官の中のあるものには驚きをもって迎えられた。いまや彼らは突然「ゼロ」に向かって動くとはどういうことか考えることを迫られた。「チェンジ」は常にむつかしいものだ。
別な理由は、冷戦の終結と「核のない世界」へ向かって増しつつある勢い−アメリカとロシアの大統領によってすら、支持すらされている−は国防タカ派と核防衛支持者たちをおきざりにしつつある。
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このブログは09年7月に書かれている。翌8月には広島と長崎の平和記念式典はオバマ賛美一色で塗りつぶされ、たとえば、8月7日朝日新聞の一面トップは広島の平和式典の模様を伝える記事で「響け、オバマジョリティ!」と大きな見出しで伝えたものだ。よくこんな恥ずかしい見出しを考えついたものだ。) |
中国の(軍事力)近代化、ならず者国家、そしてテロリスト達はソビエトの脅威が消滅した後の、「核活性力」を維持することなど全くできそうにない。この(核兵器が必要なくなったとする)空虚の中、日本の高官たちやその他の国の高官達からの、「拡大抑止力」に関する曖昧で秘密の声明は、突然に、核兵器の継続する役割についての、説得力のある、いや肯定的ですらある、声高に云い募ろうとする企ての根源的武器になった。このメッセージのエキスは次のようなものだ。すなわち「核兵器は核兵器の拡散を防止している。もし核兵器がなくなれば、もっと核兵器が増えるだろう。」(註7)
「結託」は蠱惑的である。2006年12月、国防科学諮問会(the Defense Science Board-DSB)(註8)の核能力作業部会は、「軍備管理に関する『守りの見解』を主導することは核兵器の役割についてアメリカの『国民的合意』を働きかけることになる」と警告を発した。ホワイトハウスと長老指導者達は、アメリカの国家安全保障政策にとって、核兵器の近代化がいかに役立つかに関して、『説得力のある事例をもっと直接的大きな声で述べるよう傾注』しなければならなかった。
「複合2030」と「信頼できる核代替計画」(註9)の議会承認取得に関する不器用な企ての後、この2つの計画は不首尾に終わり、その替わりに、議会が核政策再検討を要請するいきさつとなった。2007年7月、国防省とエネルギー省は4ページの合同声明を発表し、そのことを声高に述べた。しかしその声は届かなかった。
その翌月(09年8月)、マイノット空軍基地で6基の核ミサイルの管理喪失事件(註10)が発生し、核事業に関する疑いが生じた。以来この事件は国防科学委員会が緊急案件とする重要な議論の対象となった。過去12ヶ月間、政府関係部局や各国防機関から一連の報告が提出され、核兵器の継続する役割を同一の基本テーマにしながら、近代化の必要性と継続する核脅威が存在することが、谺しあうように緊急問題視されたのである。
拡大抑止のミッションは、次の報告でいずれも支持されている。
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2008年9月:空軍核ミッションに関するシュレンジンジャー特別作業部会第T段階報告。 |
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2008年9月:21世紀の核兵器に関する国防省・エネルギー省合同報告。 |
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2008年10月:空軍核事業の再活性化に関する空軍特別作業部会報告。 |
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2009年1月:空軍核ミッションに関するシュレンジンジャー特別作業部会第U段階報告。 |
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2009年5月:アメリカの戦略態勢議会委員会(最終)報告。 |
これらの報告は、多かれ少なかれ核ビジネス(nuclear business)に深く関わっている、あるいは関わってきた関係部局や個々人が執筆している。(そしてその多くは“冷戦運営者”でもある。)その中で彼らは、21世紀における拡散を防止することが、核兵器の変わらぬそして「良き」ミッションなのだ、と主張している。かれらは、アメリカの核の傘が30カ国かそこらに拡大されて以来、それらの国々が核兵器を獲得するのを防いできた、と主張する。
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ある報告などは、30カ国以上とまで云っている。私は30カ国しか数えられない。) |
しかしこれら諸国の圧倒的大半にとって、拡大抑止の機能は不拡散ではなくて、究極的安全保証(security guarantee)なのだ。もしアメリカの核の傘がなくなったとしても、自ら核兵器の開発をしようとする潜在性をもった諸国は、この30カ国の中では非常に小さい数でしかない。恐らくは2カ国だろう。(註11)しかもこの2カ国がそうするかどうかは、非常に幅広い多様な要素に依っていてわからない。ほとんどは核兵器には手を出さないだろう。しかしこれらの報告は、核兵器の役割をはじめから終わりまで、そうだと描き出している。
2008年9月のシュレンジンジャー報告は、核兵器の「日常的」な貢献について描写しており、そのテーマは他の多くの諸報告でも響きあっている。また議会証言でもそれは使われている。
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われわれの常変わらぬゴールは実際の核兵器の使用を避けることだが、核抑止は友好国や同盟国を保証することで毎日『使われて』いる。またアメリカの能力をはっきり凝視させることで敵にそうしないよう説得することによって、また潜在的な敵の、アメリカやその他の同盟国に対する攻撃を抑止することによって、もし抑止に失敗したら敵を粉砕する潜在力を提供することによって、毎日『使われて』いる。」 |
人はこのような「核の教義」(nuclear dogma)に対してはよほど注意深くなければならない。というのは、この教義はいとも素早く、現実を越えて、目に見える形の貢献だの、ミッションだの、要求だのといったものに膨れあがるからだ。冷戦の終了以来、一体どの国が実際に誰かを攻撃するのに抑止力が働いたと云うことができるだろうか?どの国が、新たな軍事的能力を獲得するのに抑止力が働いてそうしないように説得されたというのだろうか?一体どの同盟国や友好国が核兵器を追求するのを核兵器が(そうしないよう)保証してきたというのだろうか?
このリストは極めて少ない数である。(これらの国が核兵器を保有使用とする)もっともありそうなケースでも、証拠は状況証拠的なものであり、また怪しいものである。
しかし、こうした諸研究やそれに伴うロビー活動が組み合わさった効果は、まず手始めに、少なくともオバマ政権の核態勢見直し(Nuclear Posture Review―NPR)において、一定のトーンで現れてくる。「拡大抑止力」は議題のトップに位置づけられるようになった。そして見直し(これはオバマ政権の核態勢見直しのこと。当初10年2月に発表される予定が、3月1に延期になり、今また4月に延期されている。)のたった4つの作業部会の1つと位置づけられるまでになった。(この作業部会名は「国際的次元」―International Dimensions)。そのほかのたとえば「政策と戦略」作業部会など、別なミッションを押しのけてである。 |
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結論的見解(Concluding Remarks) |
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キーティング大将が、大西洋諮問会議で答えた時、「拡大核抑止」戦線で荒れ狂うPR合戦のことをどの程度承知していたか、をいうのは難しい。
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これは冒頭の、キーティングの「日本の、核装備対地攻撃用トマホークに対する特別な関心については、私は承知していない。」という発言を指している。冒頭の記事では明示されていなかったが、このキーティングの発言は大西洋諮問会議での発言だったことがわかる。なお大西洋諮問会議―the Atlantic Councilはアメリカのシンクタンクの一つ。) |
私は彼はよく承知していたものだと思う。あきらかにキーティングはとても注意深く言葉を選んでいたように思える。
「核」の主唱者たちまた国防タカ派たちは、TLAM/Nや代替ミサイルや統合戦闘機の核の役割など、一つ一つのプロジェクトに対して財源を確保することで、「拡大核抑止」ミッションから引き出せる価値のすべてを、明らかに搾り取れるだけ搾ろうとしている。そんな能力などは必要のないものなのに。しかし議会委員会報告書(アメリカの戦略態勢議会委員会最終報告書のこと)は、アメリカの拡大抑止力は、アメリカの同盟国に保証を与えるという点で信頼性がありかつ効果的なものだとし、「アメリカは核兵器能力の数量や型式を維持することが、それがアメリカ自身の国防には必要ないものだと見えても、(拡大抑止力に取っては)要求されているのかも知れない。」と結論づけている。
実際、議会委員会は、2009年1月のシュレジンジャー報告に呼応するかのように、拡大抑止ミッションは「戦略態勢の実施を設計する。」と云っている。また核兵器の「近代化は、拡大核抑止から得られる核不拡散利益にとって基本中の基本だ。」とも言っている。
問題は拡大抑止力が必要かどうかではない、拡大抑止力とはどんな特徴をもっておりまた何の目的があるかということだ。
核巡航ミサイルや複合機能戦闘機(空軍のF-35や海軍のスーパーホーネットなどが好例)は冷戦時のような核拡大抑止力がいかなるものかを特徴付けている。しかし、それらは必要のないものだ。いや今日においては不適切なものだとすらいえる。長距離システムで十分ではないか。
日本の高官たちが「核の傘」の役割や構成について何を云ったか知らないが、恐らくは目の前に見えていること以上の話があるだろう。かりに日本の高官達が、TLAM/Nに対して独特の価値を見いだしたとしても−アメリカの軍部は全然その見解には与していないが−日本の高官たちが云っていることは、彼らが読んできた「核抑止文学」や「冷戦の歴史」に関する話以上のものがあるだろう。そして日本の高官達が云っていることは、アメリカの高官達の(要求に)ぴったり一致する。
結局の所、私は、日本政府がTLAM/Nに関して根拠のない主張に基づく興味を示して太平洋軍の注意を引いたのでない、という奇妙なことを発見した。太平洋軍の司令官は、日本に対するアメリカの安全保証を形成する軍事的能力を提供すべく、日常ベースで日本の高官達と働いているのだ。
そして太平洋軍は核の傘にたいする日本の高官たちの関心のことを知らないからでもない。キーディング大将が、大西洋諮問会・不拡散研究センターのマイルス・パンパーの質問に答えた言葉を引用すれば、
『 |
私は(太平洋軍の責任範囲地域を)あちこちと動き回っているが、遅かれ早かれ、私が話をする人たちは、「アメリカの核抑止の傘は、虫食いを埋めるように、別な国に拡大延長し続けるだろうか?』という質問をしてくる。この地域におけるわれわれの(拡大抑止)能力は、この地域全体をカバーするのが当然というわけではない。私がどこに行こうが、寸分同じ会話ではないものの、こんな会話になる。
私は、あなたが指摘される、その特定のシステム(TLAM/N)に関する日本の特殊な関心のことについては承知していない。私は日本が核の傘について関心を持っていることは承知している。』 |
日本の高官たちが云ったことそして(要求リストを)提供したことを知るのは、ここアメリカで議論されるアメリカの核の傘の質や信頼性にとって重要だ。またその高官達が日本の政府の中でどのような地位を占め、どのような機能を持った人たちかを知ることも重要だ。
(議会委員会は、ワシントンの駐米日本大使館の4人の個人名をその報告書の中で挙げているだけだ。)(註12)
そして彼らが明確に何を訪ねたのか、またそれは誰かを知ることも重要だ。高官達がみんな知っているように、こうした質問やその回答は常にいろいろな要素に左右されるからだ。もし将来のアメリカの拡大抑止政策や能力が、偏った、特殊な権益の犠牲になるものとすれば、それはアメリカ自身にとってもまた同盟国にとっても貢献するものではないだろう。
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ハンス・クリステンセンの推測に従えば、日本の高官達は、日本を覆う拡大抑止力に関して、「トマホーク」を過大評価したために、「これを退役させないでくれ」と議会委員会に申し入れたことになる。議会委員会は、この申し出をこれ幸いとばかり、大いにとりあげ、拡大抑止力問題から財源的基礎を着々とつける方向で報告書を作成し、予算編成を準備していったということになる。これも一つの見方であろう。また、日本の高官達は、トマホークがすでにガラクタになっていることを知っていて、アメリカに申し入れをしたとも考えることもできる。この場合は日本の高官達はアメリカの「核ビジネス」を日本から援護射撃したことになる。いずれの場合にせよ、「核ビジネス」がアメリカの指導者層と一体化し、無駄な予算を「核ビジネス」のためにつけさせている、というクリステンセンの推測の価値は変わらない。
ここでの問題は、どのような形にせよ、クリステンセン自身も「核の傘」が必要と考えているかどうかだ。「核の傘」そのものが、「核ビジネス」のために存在し、それをいろいろな国に拡大する過程の中で、この地球上に、無用で有害な戦争の種をまいている、言い替えれば、日本の核の傘は、日本を誰かから護るためにあるのではなく、アメリカの「核ビジネス」のためにある、とする私の見方からすれば、クリステンセンの「核の傘」に関する見解は是非知りたいところだ。 |
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