(2009.12.23)

イラン核疑惑: オバマはイスラエルのイラン攻撃を
止められない


 09年12月17日、イスラエル・ツディの電子版に『オバマ:イスラエルは事実上イランを攻撃するだろう』と題する記事が載った。
<http://www.israeltoday.co.il/default.aspx?tabid=178&nid=20194>
「イスラエルがイランを攻撃する」という話は定期的に世界を駆けめぐる。アメリカ政府高官の話だったり、イスラエル政府高官の話だったり、大概がイスラエル=アメリカブロックの一定の狙いを持ったリークものである。しかし今回の短い記事はオバマが訪中中に中国の胡錦涛に向かって警告した話として紹介されている。今までの話とは筋が違う感じがする。

 「イラン核疑惑問題」の本質は、イランが核兵器を開発しているかどうかではなくて、第一に「核技術先進国」による「核平和利用市場独占」問題であり、次にイスラエルを中心とする中東紛争問題である。そのことを考えれば、イスラエルがイランを攻撃する可能性は常に存在する。さらに、ここ近年のイスラエルは少しく正気を失っている。この点を加味すれば、この手の記事は不気味である。参考までに全文翻訳しておく。




オバマ:イスラエルは実際にイランを攻撃するだろう
Obama: Israel will eventually attack Iran


 先月(*09年11月)、アメリカのバラク・オバマ大統領が北京で、中国の国家主席胡錦涛に対して、これ以上長くはイスラエルのイラン攻撃を防ぎ切れないだろうと警告した。火曜日(*12月15日)、イスラエル外交筋の高官がハーレツ紙(*イスラエルの代表的日刊紙の一つ)に明らかにしたもの。

(* ニュース・ソースはイスラエルの外交筋高官だとわかる。しかし、いままでと違って、イスラエルの動きを知ったアメリカの大統領が中国の国家主席に向かって警告をした、という筋立てになっており、それを知ったイスラエルの外交筋がイスラエルの新聞にリークする、とやや手が込んでいる。なお原文で胡錦涛の肩書きはthe Prime Minister=首相となっている。中国の首相は温家宝であり、胡錦涛の英語の肩書きはPresidentだ。単純に肩書きを間違えたものだろう。)


 中国でオバマは胡に対して、イランの傲慢な核開発計画をやめさせようということで一致している国際的な努力に反対する事をやめるよう説得した。オバマは、イスラエルはその存在(*イランの核開発計画)が大きな脅威過ぎると感じれば実際にイランの核施設を攻撃するだろうし、アメリカにはそれを止める手だてはないと、警告した。

(* オバマが実際にこう云ったかどうかは確認することはできないが、イスラエルの新聞のこのところの微妙な言葉使いの変化が興味深い。この記事でもそうだが、単に“イランの核施設”と呼んでいる。つまりイスラエルにとって、つまりアメリカ・オバマ政権にとって、イランが核兵器を開発していようがいまいが全く関係がない。イランが原子力発電を自前で一貫して手掛けること自体が問題なのだ。今や、「イランが核兵器を開発している」、という言い方は「イラクが大量破壊兵器を開発している」という言い方同様いいがかりに過ぎなくなっている。)


 ワシントンはオバマがアメリカに戻った一週間後、中国がイランに対する国際的な非難を支持したのを見て訪中は成功だったと信じた。しかし、過去2週間の間に中国はイスラム共和国(*イラン)に対するあらたな合意を課そうとする国際合意に反対する以前の政策に戻ってしまった。

(* しかしこれは、イスラエル側の希望的観測からする見方であろう。中国は実効性のない“イラン非難決議”にはしぶしぶ合意をしたが、イスラエルの期待する実効性のある経済制裁には当然反対する。中国とイランの輸出入貿易はいまや大きな金額になっている。だから中国の対イラン政策は一貫している。)


 オバマもイスラエルもイランの原油に対する中国の依存を削減することを望んだ。中国の対イラン石油輸入はイランに確実な収入をもたらしている。

(* やや古いデータだが、2004年中国の原油輸入相手国で、イランはサウジアラビアについで第2位だった。その後中国は原油の中東依存を下げているので、今はイランに対する依存度は上がっているかも知れない。また中国はイランに対して大量のガソリンを輸出している。)


 一方イスラエルとアメリカの諜報関係の社会は秘密裏に、イランがその核開発計画に必要な物資を購入しようとするネットワークを暴きシャットダウンしようとする国際的な努力を主導してきた。そのようなネットワークは最近台湾で暴かれてもいる。

(* イスラエル・ツディの記事はここで終わっている。不気味な記事ではあるが、追い詰められたイスラエルの立場を表してもいる。要約すると次のような事になろう。

1. オバマは中国で“イラン非難決議”に同調しないと、イスラエルは何をするかわからない、と威しをかけた。
2. 中国はしぶしぶ実効性のない非難決議には同調したが、実効性のある制裁には反対した。またそんなことはできっこないこともよく知っていた。
3. EUが、昨年末ガザ爆撃は“戦争犯罪”としてイスラエル非難の論調を強めていることに代表されるように“国際社会”でイスラエル支持に回るのはもうアメリカだけになったことをひしひしと感じている。すでに反米非米諸国はこぞってイラン支持・イスラエル非難に回っている。

 日本のマスコミの論調だけを見ていたのではなんのことかわからないかも知れないが、国際的に孤立しているのは、今やイランではなくイスラエルなのだ。それだけにイスラエルはなにをするかわからない。もしイランを攻撃するとなると、核兵器を使用する可能性も高まっていると見るべきだろう。不気味である・・・。)