註1 |
アメリカはここ20年間、有意味な核兵器製造を行っていない。要するに作りすぎたのである。09年5月「アメリカの戦略態勢」議会委員会が提出した最終報告の補足資料「推定 世界の核弾頭保有量」(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/
USA_SP/strategic_posture_6-02.htm>)によると、アメリカの核弾頭保有は1967年がピークで、この年約3万2000発だった。1発の破壊力を広島型の15倍程度と見れば、48万の広島市を破壊できる核兵器を貯蔵していたことになる。実際に使用する軍事兵器としてみても無意味な数量であり、この年を境にアメリカは保有核兵器を減らしていく。またこれを見てロシア(旧ソ連)も保有核兵器を減らしていく。
|
註2 |
「憂慮する科学者連合」(the Union of Concerned Scientists)マサチューセッツ工科大学に本部を置くNPOシンクタンクだが、その性格はもうひとつ読み取れない。このヤングのコメントも核兵器廃絶を念頭においたものではなく、「核不拡散」を念頭に置いたものであり、オバマの「包括的核不拡散政策」を支援する別働隊という感じがする。
|
註3 |
ジョン・ボルトン(John Bolton)(<http://en.wikipedia.org/wiki/John_R._Bolton>)は、折り紙付きのネオコンで、定期的にアメリカはイラン侵攻を断行すべきというコメントをウォール・ストリート・ジャーナルなど超保守ジャーナリズムに発表する人物でもある。このコメントもあからさまなCTBT批准反対論だ。しかし、彼は最右翼ネオコンの役割を演じているだけではないか、という気がする。彼のような存在がいて、政権の政策の幅の「右側」が決定され、誰かが「左側」を演じて、「超党派」的にその中間を政権が選択するという仕組みだ。「9/11」後のアメリカで、「超党派的」にアフガニスタン侵攻、イラク侵攻が政治決断され、それが中庸的な政策だったという印象を与えることになったのと同じメカニズムではないかという感じがしている。
|
註4 |
独立系上院議員ジョセフ・リーバーマン:Joseph Isadore "Joe"
Lieberman。1942年生まれ。コネティカット選出の独立系上院議員。独立系というのは、民主党にも共和党にも属していないという意味だが、もともとは民主党議員。現在も上院内では民主党と統一会派を結成している。いったん落選したが2006年に返り咲いた。この時イラク戦争熱烈支持派のリーバーマンは、その是非をめぐって民主党と決裂、単独で立候補した。地元共和党の支持を受けて、民主党候補と一騎打ちになり、これを破って当選した。(<http://en.wikipedia.org/wiki/Joe_Lieberman>)NNDBというデータベースを見ると宗教はユダヤ教なので、リーバーマンはユダヤ人である。(<http://www.nndb.com/people/307/000024235/>)
|
註5 |
アメリカの核兵器政策を執行する官庁は、国防省(DoD)ではなく、エネルギー省(DoE)である。従って「マンハッタン計画」で原爆の研究開発製造の重要拠点だったロス・アラモス研究所もテネシー州オークリッジにあるサイトY―12も今はエネルギー省の管轄下にある。ロス・アラモス研究所は、現在スタッフ・従業員約1万2500名で年間予算は22億ドル(1980億円)である。実際の運営はカリフォルニア大学やベクテル・コーポレーションなど、有名大学の軍事研究部門と軍事企業などの連合体にエネルギー省から委託されている。サイトY−12はマンハッタン計画の重要な部分、電磁分解法によるウラン濃縮を行った、「オークリッジ工場」当時のコードネームそのままに今も「Y−12」国立安全保障複合施設と呼ばれている。年間予算は不明だが、多くの核兵器をここで製造してきた。現在運営はバブコック・アンド・ウィルコックス社やベクテル・コーポレーションなどの企業連合体が委託を受けて行っている。
(<http://en.wikipedia.org/wiki/Y-12_National_Security_Complex>
<http://en.wikipedia.org/wiki/Los_Alamos_National_Laboratory>その他)
|
註6 |
オバマはプラハ演説で、包括的核実験禁止条約(CTBT)をアメリカ議会に批准させる、と約束した。ここは保守派議員が、「CTBT批准はアメリカの国家安全保障にとって障害になる。それを云うなら、核兵器施設近代化に予算をつけろ」とごねて見せ、結局やむなくオバマ政権は、それと引き替えに「核兵器施設近代化」計画に大幅な予算をつける、という筋書きだ。ところが、CTBTは「包括的」というキャッチが泣くのではないかと思うほど「包括的」ではない。臨界前核実験やコンピュータ・シミレーションはその外にある。単に地下核実験を禁止しているだけだ。アメリカはもう20年近く、地下核実験を行っていない。それに代替する「実験」を行えるからだ。批准したとしても何ら差し支えはない。(ボルトンはそうはいっていないが・・・。)しかもこの条約の発効条件には北朝鮮、イラン、イスラエル、インド、パキスタンなどの批准が必要で、アメリカが批准したとしても、当面発効する気遣いはない。こんなものをオバマは「アメリカが核兵器廃絶に向かって前進する確かな段階」の一つだというのである。アメリカ議会はCTBTを批准するだろうが、当面なんの実害もないCTBT批准を随分高い値段(核兵器予算増額)で世界に売りつけるものだ。こうなると詐欺師である。
|
註7 |
北朝鮮はともかくイランがこんな非難をアメリカにぶつける心配はない。もうオバマの「包括的核不拡散政策」の足下は見透かされている。だからこそ、原子力発電用や医療用のウラン濃縮をイラン国外で行って、完成品をイランに売りましょう、というEU諸国の提案をイランは蹴り続けている。足下を見透かしているという点では、ラテン・アメリカ諸国も同様だ。前国連総会議長、ニカラグアのミゲル・デスコト・ブロックマンは09年長崎で次のように云っている。
『 |
今日のジョージ・オーウェル的な世界においては、核攻撃による瞬間的な壊滅の脅威は「抑止」と呼ばれ、お互いに対する恐怖は「安定」と呼ばれています。「軍縮」は通常であれば削減を意味しますが、核戦力の廃絶というより近代化を意味するものでもあります。我々は、この不誠実で偽善的な詭弁をやめなければなりません。次に取り組むべき優先課題は、全ての核兵器の完全で最終的な廃絶に向けて宣言し、断固たる行動を取ることです。これを信頼できるものとするためには、廃絶を確実に実現する野心的かつ現実的な期日を設定する必要があります。』 |
(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_
nagasaki/2009_05.htm>)
|
註8 |
プローシェアーズ基金はPloughshares Fund。個人の篤志家がはじめた基金で、核兵器や大量破壊兵器に特化してその「不拡散」計画を支援することを目的にしているらしい。直接「核兵器廃絶」を目指すのかどうかよくわからない。
<http://en.wikipedia.org/wiki/Ploughshares_Fund>や
<http://www.ploughshares.org/about-us>を参照の事。
|
註9 |
この記事を書いた記者の言葉遣いと理解がずっと気になっていたが、ここはちょっと見過ごせない部分。包括的核実験禁止条約(CTBT)を地下核実験禁止条約と理解している部分は賛同できる。しかし、「核兵器の拡散を止めることを主眼とした国際的な仕組み、不拡散条約」としている点はどうだろうか?
核兵器不拡散条約(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons: NPT)は単に核兵器の拡散を止める条約ではない。NPTの認める核兵器保有国に将来の完全廃棄を目的に誠実な核兵器削減を義務づけることが第一、非核兵器保有国は核兵器の保有はもちろん、その開発研究を放棄することを約束することが第二、原子力エネルギーの平和利用は積極的に押し進め、この利用する権利は「加盟各国」から奪い得ない権利とした点が第三、と3つの骨子から成り立っている。
ところがアメリカのメディアでこの条約を「Treaty on the Non-Proliferation
of Nuclear Weapons」(核兵器不拡散条約)と正しく呼んでいるケースはまずお目にかからない。ほとんど「Nuclear
Non-Proliferation Treaty」(核不拡散条約)だ。単に呼び方の違いにとどまらない。この記事の書き手のように、「核の不拡散」を主眼とした条約と理解し、第一の廃絶を目指した核削減義務や第三の平和目的核エネルギーの利用の権利、を完全に無視した理解になっている。
オバマ政権になってから、私は公式文書を比較的よく目を通している方だが、オバマ政権やアメリカ議会がこの条約をTreaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons」と正しく呼称したケースは一度もない。意図的な世論誘導とすら思える。この点は日本も同じで、すべての主要メディアは「核不拡散条約」と呼称をと統一している。実際に「原子力エネルギーの平和利用は積極的に押し進め、この利用する権利は加盟各国から奪い得ない権利」とした点は多くの日本人が知らないのではないか?
そのほかにも、日本語Wikipediaは「核拡散防止条約」と呼び、「アメリカ合衆国、ロシア、イギリス、フランス、中華人民共和国の5カ国以外の核兵器の保有を禁止する条約である。」とまとめている。(<http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%B8%E6
%8B%A1%E6%95%A3%E9%98%B2%E6%AD%
A2%E6%9D%A1%E7%B4%84>)
また長崎市のサイトですら、「核不拡散条約(NPT)は、核兵器保有国が増える(拡散する)ことを防ぐ目的でつくられた条約で、1970年(昭和45年)に発効されました。」と何の注釈もなくいきなりはじめている。(<http://www1.city.nagasaki.nagasaki.jp/peace/
japanese/appeal/terms/npt.html>)
さすがに外務省だけは正確に「核兵器不拡散条約」と正しく呼称している。(<http://www.mofa.go.jp/Mofaj/gaiko/kaku/npt/gaiyo.html>)
通常は原点が英語文献だと外務省の解釈や言葉遣いに右にならえするのに、この点だけは頑固に誤った印象を与える言葉遣いをするのはなぜだろうか?言葉遣いの違いは理解の違いである。理解の違いは判断の違いに発展する。アメリカでも日本でも世論誘導の力が働いていなければ幸いである。)
|
註10 |
「核貯蔵管理計画」:the Stockpile Stewardship Program-SSP。1996年、クリントン政権が包括的核実験禁止条約に署名した直後から開始されたプログラム。なおアメリカ議会はこの条約批准していないので、アメリカは正式参加国ではない。「核実験」を行わずに、保有核兵器の信頼性を維持していこうという計画。アメリカは1992年以来、新たな核兵器の実戦配備を行っていない。しかももっとも古い核兵器は17年以上も経っていることから、保有核兵器の信頼性が疑われることになった。そこでこの計画で、点検し、実験してもしその信頼性に疑問があれば、オーバーホールするなり廃棄処分にするなりの作業が開始された。ほとんどの作業は、エネルギー省傘下の、研究所や施設で行われた。ロス・アラモス国立研究所、サンディア国立研究所、ローレンス・リバモア国立研究所、ネバダ核実験場、エネルギー省直下の核兵器製造工場などである。ブッシュ政権になってこの計画は「信頼できる核弾頭代替計画」(
Reliable Replacement Warhead)に引き継がれ、拡張された。2009年オバマ政権はこの計画を中止している。SSPは毎年40億ドルを投じられたといわれる。
|
註11 |
ここで示されているアメリカの核弾頭保有数量は何を根拠にしているのだろうか?先にも引用した「アメリカの戦略態勢」議会委員会が提出した最終報告の補足資料「推定 世界の核弾頭保有量」(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/
USA_SP/strategic_posture_6-02.htm>)は、アメリカが現在保有する核弾頭を、戦略兵器稼働中9400、非戦略兵器稼働中4700、準備または廃棄待ち4200の合計1万8300発としている。
|
註12 |
JASONsを独立系の諮問研究グループとしている点はどうだろうか?JASONs:
JASON Defense Advisory Group。JASONsは科学者のアメリカ連邦政府に対する研究・諮問グループの総称。主として夏の機関に集まり討論する。1960年に作られ、スポンサーになっているのは、費用は主として、国防省やエネルギー省、アメリカの情報諜報統合機関である事が多い。ほとんどの報告は非公開であるという。また現在メンバーは30人から60人というが、指名されるのは、科学者の重鎮クラスではなくその次世代の若手中堅科学者が中心。
(<http://en.wikipedia.org/wiki/JASON_Defense_Advisory_Group>)
|
註13 |
ローレンス・リバモア研究所。ローレンス・リバモア国立研究所は1952年、カリフォルニア大学が設立した科学研究機関。州立大学が設立した機関に「国立」の名前が冠せられる理由は、エネルギー省の資金で運営されているからである。もう少し正確に言えば、エネルギー省が金を出し、「ローレンス・リバモア国立安全保障有限責任会社」(Lawrence
Livermore National Security, LLC -LLNS)が経営・運営する「国立研究所」である。
年間予算は16億ドル=1520億円。研究所の目的は「国家安全保障に関わる科学技術の基礎研究を行う。」ところにある。この研究所の淵源は「マンハッタン計画」にさかのぼる。
マンハッタン計画の中心開発研究所の一つにニューメキシコ州のロス・アラモス研究所があった。オッペンハイマーが所長を務めたところだ。そのロス・アラモス研究所に対抗する形で新たな核兵器開発の拠点としてリバモア放射線研究所が作られる。当初「水爆の父」と云われたエドワード・テラーやオッペンハイマーの同僚で、暫定委員会の4人の科学顧問団の一人だったアーネスト・ローレンスが中心だった。科学技術上の流れで云えば、ロス・アラモス研究所が「核分裂」を研究するのに対して、リバモア放射線研究所は「核融合」を研究する、ということになる。
(https://www.llnl.gov/)
|
註14 |
国家核安全保障局。NNSA―National Nuclear Security Administrationでエネルギー省の一部門。2000年ブッシュ政権の時に新設された。
英語Wiki(<http://en.wikipedia.org/wiki/National_Nuclear_
Security_Administration>)の書き出しは、「核エネルギーの軍事的応用(要するに核兵器のことである)を通じてアメリカの国家安全保障状況を改善する。またNNSAはアメリカの核兵器貯蔵の安全性、信頼性、働きを維持向上することもその機能である。こうした活動には、国家安全保証の要求を満たすための(核兵器の)設計、製造、実験能力維持向上させる事も含まれる。」である。そしてアメリカの国家安全保障に関する4つの使命を次のように記している。
『・ |
アメリカ海軍に安全で、軍事効率に優れた推進力工場を提供し、それらの工場の安全で信頼 性の高い運営を保証する事。 |
・ |
国際的に核の安全と不拡散を推進する事。 |
・ |
大量破壊兵器による地球規模の危険を削減する事。 |
・ |
科学技術の分野におけるアメリカのリーダーシップを支援する事。』 |
となっている。
現在職員数は少なくとも1500名、年間予算規模は91億ドル(いずれも2006年)。なお「マンハッタン計画」の時に電磁分解法でウラン濃縮を行ったテネシー州オークリッジ工場はサイトY−12として現在も同局の傘下にある。 |