2010.2.5


<参考資料>アメリカ国家核安全保障局について



1.アメリカの核兵器敞

 英語の元の名前は、The U.S National Nuclear Security Administration-NNSAで、アメリカの核兵器政策を実施に移す行政機関。エネルギー省(the Department of Energy)の一部局。現在アメリカの核兵器敞とは、より直接的にはこのアメリカ国家核安全保障局を指すものだと考えて良い。2000年、ブッシュ政権下、「国家核安全保障局法」が議会を通過し、それまでエネルギー省の中で、分散していた「核兵器政策」実施部局を集約化して誕生した。2009年5月議会に提出された「アメリカの戦略態勢議会委員会」最終報告書の中では、この国家安全保障局の権限を強化し、もっと独立自律性を持たせて、大統領に直接報告する仕組みに変えるべきだと云っている。

 歴史的には最初に原爆を開発した陸軍の「マンハッタン計画」(Manhattan Project)が、1946年にアメリカ原子力委員会と姿を変え、1977年8月誕生したエネルギー省(DoE)に吸収され、2000年にもう一度最集約化される形でエネルギー省の元で国家核安全保障局に姿を変えた、という言い方も可能ではないかと思う。

 この間、「マンハッタン計画」時代に、誕生し、ほんのよちよち歩きのベビーに過ぎなかった核兵器が、アメリカ原子力委員会時代、手のつけられない、地球を滅ぼすに十分な力をもった凶悪なモンスターに成長し、エネルギー省時代、飼い慣らされていった。(と、彼らは信じている。)国家核安全保障局時代の核兵器は、この飼い慣らされた(と、彼らは信じている。)モンスターを使って、衰えやせさらばえたご主人のためにもう一度かつての栄光を取り戻す役割を果たそうとしているかのように、私には見える。

 国家核安全保障局のWebサイトを見ると、大統領オバマの写真が掲げてあり次のようなヘッドラインが踊っている。<http://nnsa.energy.gov/>
 
 オバマ大統領の核安全保障構想の実施に移す決定的一歩のための2011年会計年度予算を要求』
(FY2011 Budget Request a Critical Step toward Implementing President Obama's Nuclear Security Vision)
 
 記事の冒頭部分は次のようである。

 国家核安全保障局―NNSAの2011年度大統領予算要求は、昨年4月プラハで行った大統領の演説また最近国連でおこなった演説で示された、オバマ大統領の議題、核安全保障実施にあたって、国家安全保障局が演ずる決定的な役割を浮き彫りにしている。
 112億ドル(約1兆円。1ドル=90円。以下同じ)の予算要求は、10年会計年度要求に較べると13.4%のアップである。この予算は、核実験を行わない核兵器貯蔵の維持、核拡散の防止、核海軍力増強、世界規模での対核テロリズム対策及び緊急対応の手法を国家に提供することなどに使われる。』

 

2.国家核安全保障局の役割

 国家核安全保障局(以下煩雑なのでNNSA)の役割は大要次のようである。

(1) 諸防衛計画

 NNSAのサイトで、「諸防衛計画」というタグを開くと次のような記述が見える。
<http://nnsa.energy.gov/defense_programs/index.htm>

 NNSAの主要な使命の一つは、アメリカの貯蔵する核兵器を安全かつ安定した信頼性の高いものに維持強化することである。そしてアメリカの核兵器敞を国家安全保障政策が要求に対応するレベルに維持することである。このため国防省と連携をとって、研究、開発、安定輸送、それから貯蔵核兵器を支援するのに必要な各種製造活動などの計画を実施している。(大意)』

 どういうことかというと、冷戦終了後、アメリカは新規の有意味な核兵器製造を行ってこなかった。要するに作りすぎである。兵器級の核分裂物質に関してではあるが、プリンストン大学教授で、核兵器専門家のフランク・フォン・ヒッペルは、日本原子力委員会の内部会合で講演し、次のように云っている。話題はアメリカの高濃縮ウランの話であるが、少なからぬ部分は兵器級核分裂物質の話である。

 ・・・実は、以前、私なりの推定をしてみたことはございました。とにかく、1964年にアメリカが兵器用(核燃料)の生産を停止したわけでありますけれども、その前には、ほとんど原子力発電用の用途については需要がなかったということがございます。
話が横道にそれるようであるが、ここにアメリカが世界で原子力発電を石化燃料に替わる代替エネルギーとして普及させたいという動機の一つが見えている。兵器級や高濃縮ウラン−濃縮度40%以上−を、発電用燃料−濃縮度3.5%〜5%−に転換することは、ゼロから発電用ウラン濃縮を行うことに較べれば、比較的容易である。アメリカは、これはロシアも事情は全く同じであるが、こうした余剰高濃縮ウランを原子力発電用に放出したいのだ。)

 ですから、そういう濃縮関係の理由によりまして、兵器用の用途の必要量というのが大体わかるわけです。これで、高濃縮ウランにつきましても、兵器換算の数字を出すことができます。ロシアの方は、もう完全に憶測の数字で、ロシアについてはこういった情報はございません。

 それでは、ここで高濃縮ウランの処分の問題に移りたいと思います。アメリカは少量の余剰物質を申告しております。それからまた、高濃縮ウランについては、どれぐらいの量があるのかということについては申告をしておりません。この問題が何に関係しているかといいますと、それはアメリカ海軍が、アメリカが余剰だと申告した兵器級のウランについては、すべて将来のアメリカあるいはイギリスの潜水艦用にとっておきたいと考えているんです。私の計算によれば、恐らく100年以上もつような量が存在しています。』
(「2004年10月4日日本原子力委員会、長計についてご意見を聴く会―第16回」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/16_gijiroku.pdf>

 核兵器そのものについても、冷戦終結までにバカバカしいほど無意味な量の核兵器生産をアメリカ・ロシア両国で行っている。人類史上最大の愚行といっていい。

 こうして冷戦終結までに厖大に作り続けた核兵器は、軍事兵器として貯蔵される。しかし10年、20年と経過すると経年劣化はさけられない。兵器としての安全性、信頼性はだんだん疑わしくなっている。部品の中にはもうオリジナルの製造メーカーそのものが存在していないというケースも出てきた。だから、厖大な核兵器の貯蔵を削減すると同時に、実戦配備用の核兵器、保存準備用の核兵器を絞り込んで、近代化し、安全性や安定性、兵器としての信頼性を高めようというのが、ここでいう「諸防衛計画」の骨子であり、国家核安全保障局の重要任務のひとつというわけだ。この「諸防衛計画部門」の責任者は、ギャレット・ハレンカーク(Brig Gen Garrett Harencak)という現役の陸軍准将である。 

【写真はギャレット・ハレンカーク。NNSAのサイトよりコピー貼り付け。】

 このWebサイトの記述は、プロバガンダ評論家諸氏の下手な核兵器談義を聞くよりはるかに面白いのだが先に進もう。


(2) 核不拡散

 サイト<http://nnsa.energy.gov/nuclear_nonproliferation/index.htm>の冒頭の書き出しから引用しよう。

 アメリカと国際社会が直面する破滅的な脅威の一つが、核兵器をテロリストやならずもの国家(rogue nations)が核兵器や大量破壊兵器を入手する可能性である。(朝日新聞の社説にでも出てきそうなセリフだなぁ。“アメリカ”を“日本を含む”と言い替えれば社説が1本できあがる。ねェ、船橋さん。)彼らが、これら兵器を、関連する技術(つまりすべての核に関連する技術)、装置、そして専門的知見や経験と共に入手しようとする継続的な追求は、それに対応すべき緊急性を高めている。』

 つまり、アメリカ及びアメリカが認めた国以外で、核に関するあらゆる技術や物質、装置を入手することを許さない、ということである。こうした議論は一理ある。ともかく「核」は極めて危険である。核に関する「技術や物質、装置」などを管理しきれない国家もある。だから「核」を信頼できる国際一元管理の下におこう、という議論は説得力があるし、原爆が生まれるころから、すでにこの議論は出ていた。
(たとえば1945年の『フランク・レポート』
<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/flanc_report.htm>


 今の問題は、こうした国際一元管理体制を、オバマが主張するように、アメリカがリーダーシップをとってアメリカの支配下に置こうという構想だ。この国際管理組織はフランク・レポートの指摘するように、国家主権を制限してでも、完全に独立した信頼の出来る国際組織の手に委ねなければならない。

 まことに、前国連総会議長ニカラグアのミゲル・デスコト・ブロックマンが、国連総会の演説でアメリカを「戦争中毒国家」と非難した時に述べたように、「一つの国をテロ支援国家と断ずる権利はどの国にもない。」であり、アメリカの基準でこの「核の国際一元管理体制」を運営されてはたまらない。

 それこそ地球はより危険な方向に向かって進む。

 現在信頼のできる国際機関は、不完全ながらも国連しかない以上、われわれは国連(あるいはその下部機関であるIAEA)に依拠して、「核の国際一元管理体制」を構築する必要がある。だからこそ国連の非民主的運営、すなわち第二次世界大戦直後の運営体制である拒否権をもった常任理事国制度を改革し、談合ではなくもっとオープンで民主的な運営体制にしなくてはならないという、デスコトの主張はまことにもっともであり、これこそ地球規模での「核兵器廃絶」にまっすぐつながる構想だと考える。

 「核兵器廃絶」は地球レベルでの民主主義達成の問題でもある。このデスコトの主張と真っ向から対立する構想がオバマの構想であり、このアメリカ国家核安全保障局の主張であろう。


 NNSAはこの「不拡散」という任務に関して、大筋3つの役割を担っている。「核分裂物質や放射性物質、大量破壊兵器関連機器」の探知業務、「脆弱な核兵器や使用しない核兵器及び放射性物質」の安全保障化業務、「余剰で使用しない兵器級核分裂物質や放射性物質」の廃棄業務の3つである。

 もし今、世界が核兵器廃絶を決定したとする。その際、探知、検査、安全化、廃棄、検証など厖大な業務が発生する。おそらく20年以上かかるであろう。その時間、間違いなく大活躍するのが、NNSAとその傘下にある研究所のスタッフであろう。彼らは、こうした業務に関して専門的知見となにより経験をもっている。こうした意味では、貴重な人材グループと云わざるを得ない。


(3) 海軍原子炉運営業務

 1982年の大統領執行命令と1999年の国家防衛承認法で定められた任務で、NNSAはアメリカ海軍が使用する「核推進力」、わかりやすく云えば、原子力エンジン、の研究、設計、建造、試験、それから工場の運営に至るまで一切の関連業務を行うことになっている。なぜこうなったのか私にはさっぱりわからない。現在この部門の責任者は現職の海軍大将カークランド・H・ドナルド(Admiral Kirkland H . Donald)である。

【カークランド・ドナルド。写真はNNSAのサイト
<http://nnsa.energy.gov/about/nr_leadership.htm>
からコピー貼り付

(*  ドナルドの英語のタイトルは、admiralである。つい「提督」としたいところだが、アメリカ海軍においてはadmiralは称号ではなく、階級である。ちなみに「中将」はvice admiral、少将はrear admiral-the upper half、准将はrear admiralである。)


(4) その他の業務

 NNSAのその他の業務と云ってひとくくりにすべきではないのだが、あえて、まとめると、「緊急事態作戦業務」「核安全保障業務」「インフラストラクチャー建設・運営業務」「環境安全保証業務」などがある。私にとってはそれぞれ興味深い業務だが、割愛する。



3.NNSAの2011年会計年度の要求予算

 さて次にNNSAの11年度要求予算の内訳を見ていこう。資料はNNSAのサイトの中で「国家核安全保障局 2011−2015会計年度予算の概観」(National Nuclear Security Administration FY 2011-FY 2015 Budget Outlook )というPDF文書があったのでそれを使う。

 前述のように、2011会計年度、オバマ政権がNNSAのために議会に要求した予算は112億1500万ドル(約1兆円強)である。今年9月末で終了する10年度実際に承認された予算が98億8700万ドル(8900億円)だったから、確かに13.5%に近い突出した伸び率である。

 この文書が説明しているように、長期間にわたって、保有核兵器を近代化し、廃棄するものは廃棄して、実戦配備や保存準備などで貯蔵しておかねばならない核兵器はメンテナンスやオーバーホールして、安心して使えるようにすることが第一。

 NNSA傘下の核兵器研究所や工場、実験場の施設そのものが老朽化・陳腐化しているので、インフラの近代化が第二。

 なお前出の「アメリカの戦略態勢 議会委員会」最終報告書と合わせ読んでみると、このインフラ整備には、施設などの物理的インフラとともに、人材の採用や訓練など知的インフラ整備もかなりの程度含まれているようだ。

(1) 核兵器アクティビティ

 この概要ではこうした「保有核兵器」や「インフラ」の近代化事業を「核兵器アクティビティ」(Weapons Activities)と呼んでひとくくりにしている。この「核兵器アクティビティ」の要求総額は、70億(6300億円)ドルで、要求全体の62.5%を占めている。前年度の62億4000万ドル(5616億円)からしても、12%の伸びとなる。「核兵器アクティビティ」の具体的な内訳をみておこう。

a.  核兵器貯蔵支援:貯蔵している核兵器をメンテナンス、オーバーホールする事業。割り当ては20億ドル(1800億円)で前年から25%のアップとなっている。重点的にはW76LEP(1978年から87年にかけて製造。トライデントT型・U型用の多頭型核弾頭。1発の破壊力は10万トンと比較的小型。それでもナガサキ・ヒロシマの5倍以上ある。)、B61(これは私はネットで検索し切れていない。“B”だからメガトン級の熱核融合爆弾だとおもうが。どなたかわかったら教えて欲しい。ここに追加で挿入する。)、W78(79年から82年にかけて製造。ミニットマン用のこれも多弾頭型。1発の破壊力は、33万から35万トン。多分今の平均破壊力は1発20万トンだと思うので、平均よりやや大型。)などに充てられている。
b.  科学、技術、エンジニアリング:計画の中身をみるとどうも、コンピュータ・シミュレーションによる核実験や検査、コンピュータ支援の臨界前核実験などに当てられる費用のようだ。要求予算は16億2400万ドル(1462億円)でこれも前年比10.4%アップ。
c.  インフラ:物理的インフラ、知的インフラ近代化改善に充てられる費用。20億ドル(1800億円)で、それでも前年比4.7%のアップ。
d.  安全保障及び核テロリズム対策:連邦政府の予算はハーバード・ビジネス・スクール仕込みの「バジェット・ユニット・システム」になっている。つまりプロジェクト・ユニットごとの積み重ねになっている。だから中身はわからないものの、プロジェクト名を挙げていくと、たとえば「国防核安全保障計画」「ゼロベース安全保障見直し計画」「サイバー安全保障計画」「偶発時対応対核テロリズム計画」などの名前が見える。(カタカナで書くと何もわかっていないのにわかったような気になるから不思議だ。)要求予算は10億7700万ドル(9700億円)。但しここだけは前年度比3.3%の減額。減額の理由はこうした各プロジェクトの効率性に疑わしい点がある、ということらしい。


(2) 大量破壊兵器拡散防止事業

 恐らくはオバマ政権の標榜する「包括的核不拡散体制」を国家核安全保障局の立場で支援強化する予算であろう。もちろん、不要で危険な核分裂物質を安全化する費用も含んでいる。要求予算は26億8700万ドル(2418億円)で、対前年比25.7%アップと、NNSA全体の予算項目のなかでも突出した伸びである。

a.  不拡散及び検証に関する研究開発:要求予算は3億5000万ドル(315億円)で対前年比10.7%アップ。協定監視及び検証支援の目的をもったネバダ核実験場における実験と評価に関する新しい技術開発、のため、ということらしい。
b.  不拡散及び国際的安全保障:1億5590万ドル(140億円)で前年比16.6%の減額。中身は北朝鮮監視・検証体制に必要な予算と云うことらしい。これで見ると、アメリカと北朝鮮は近いうちに手打ちをするかも知れない。イランに注力できるということだ。
c.  国際物質保護管理及び協力体制:要求予算は5億9000万ドル(531億円)、対前年比3.1%の伸び。ここで「物質」といっているのは、広義には大量破壊兵器に関わる物質ということであろうが、より直截的には核分裂物質のことであろう。国際的に危険な「物質」を安全化する費用。2005年、ロシアの大統領プーチンとアメリカの大統領ブッシュがスロバキアのブラチスラバで会談し、両国の核に関する協力事業推進に合意した。(ブラチスラバ合意)。このブラチスラバ合意に基づいて、ロシア国家原子力エネルギー庁(ロサトム。Rosatom)の保有する核兵器施設での安全化作業にアメリカが協力することになった。この予算の中にはロサトム安全化費用も含まれている。
d.  核分裂物質整理処分事業:要求予算は10億3000万ドル(927億円)で、前年比伸びは46.8%と突出している。原爆でも原子力発電でも、ウランの同位体U235を燃料とする。U235は核分裂の過程で、同位体U238とプルトニウムを生成する。このU235とプルトニウムが燃えて(酸化して)、混合酸化物(Mixed Oxide)が生成される。これがMOXである。MOXはプルサーマル発電では燃料になる。しかし基本的には危険な核廃棄物である。
プルサーマルで調べていたらどうしても英語記事がヒットしない。そしたらプルサーマルは、プルトニウムとサーマルリアクターの頭のカタカナだけをとった和製英語なんだそうである。どうせ旧通産省の木っ端役人がこけおどしで作ったものだろうが、こうしたカタカナ和製英語は、言葉から意味内容を剥ぎ取り、記号化し、無意味化し、非歴史化する。その目的はわれわれ一般市民の理解を遠ざけることにある。またその鈍感な日本語と英語に対するセンスにはあきれ果てる。百害あって一利なしである。)

 この項目の予算が突出しているのは、アメリカのプルトニウム廃棄事業の一環として、新規にMOX処理生成工場を建設するためでもある。またロシアのプルトニウム処理への協力事業としての予算1億ドル(90億円)も含まれている。
e.  グローバル脅威削減イニシアティブ:要求予算は5億5880万ドル(500億ドル)でこれも前年比68%アップと突出している。増額の大きな部分は今進めている、高濃縮ウラン原子炉4基の転換費用と優先核分裂物質の整理廃棄事業費用である。


(3) その他の事業

 その他の費用として、ひとくくりにすべきではないのだが、海軍推進力事業が10億7000万ドル(963億円)と前年比13.3%アップ。それからNNSAを運営管理する事務費用、大きな部分は人件費だろうが、要求予算は4億4483万ドル(400億円)。これにしても対前年比6.4%と大幅な増額となる。恐らく新規スタッフの採用を見込んだものだろう。


 以上、駆け足でオバマ政権が議会に提出したNNSA要求予算を見てきた。国防予算などの議会承認予算の成立のいきさつを見ていくと、NNSA要求予算も恐らくは、増額して承認される可能性が高いと思う。


4.NNSA傘下の核兵器研究所・工場・施設

 これまで述べて来たように、NNSAそのものが、アメリカの核兵器敞である。その核兵器敞を支える、研究所や施設のことは「核兵器複合施設」(核兵器複合体)(Nuclear Weapons Complex)と呼ばれることがある。それを列記しておこう。

カンサス・シティ工場(Kansas City Plant):ミズーリ州カンサス・シティにある。核兵器の非核部品の製造と調達が主な役割。非核部品とは、電子部品、機械部品、特注部品などを指す。同時にその他の核兵器研究所、大学、アメリカの関連産業を支援する業務もある。運営はハネウエル社(親会社の持ち株会社、ハネウエル・インターナショナルは07年度、ディフェンス・ニュース社のランキングで世界第15位の軍需企業。<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/Military-
industrial_complex/defense_news_features_top100_2007.htm>
の子会社で有限責任法人のハネウエル連邦製造テクノロジー社(Honeywell Federal Manufacturing & Technologies, LLC.)に全面委託されている。<http://www51.honeywell.com/aero/kcp/>

ローレンス・リバモア国立研究所(Lawrence Livermore National Laboratory):カリフォルニア州リバモアにある。かつて水爆の父といわれたエドワード・テーラーも所長を務めたことがある。熱核融合爆弾(水素爆弾)研究開発の拠点でもあった。現在は核兵器の核爆発部品(つまり心臓部)の検査、実験、再生、オーバーホール、近代化事業の拠点研究所になっている。またアメリカの貯蔵核兵器全体の監視、評価、改装などの支援業務も行っている。

 運営は有限責任法人のローレンス・リバモア国家安全保障社(Lawrence Livermore National Security, LLC.)に全面委託されている。

 なお、ローレンス・リバモア国家安全保障社は、カリフォルニア大学(University of California)ベクテル・コーポレーション(Bechtel Corporation)バブコック・ウィルコックス社(Babcock and Wilcox)URSコーポレーション(the URS Corporation)バテル記念研究所( Battelle Memorial Institute)5者のパートナーシップによる有限責任法人。カリフォルニア大学はもともとリバモア研究所が同大学の傘下にあったころからの深いつながり。ベクテルは、建設エンジニアリングの世界的トップ企業であると同時に、世界第44位の軍需企業。バブコック・ウィルコックスは原子力エネルギー関連機器、石化エネルギー関連機器の大手で、日本における日立製作所との合弁会社バブコック日立は呉工場で原子力発電用圧力容器を製造している。URSもエンジニアリング大手で、世界第32位の軍需企業。ベクテルに較べると軍需依存率がはるかに高い。バテル記念研究所は、個人慈善信託基金で科学技術研究業務を提供している。世界第56位の軍需受注をしている。

ロス・アラモス国立研究所(Los Alamos National Laboratory):ニュー・メキシコ州ロス・アラモスにある。現在はリバモア研究所同様、淵源はもちろん、「マンハッタン計画」に遡る。ロバート・オッペンハイマーが所長時代に最初の原爆を完成した。

 現在は核兵器の核爆発部品(つまり心臓部)の検査、実験、再生、オーバーホール、近代化事業の拠点研究所。また中性子拡散、放射線学、プトニウム科学などでは世界トップクラスの研究水準をもっている。

 運営はロス・アラモス国家保障社(Los Alamos National Security, LLC.)に委託されている。なお同社は、カリフォルニア大学、ベクテル、BWXテクノロジーズ、ワシントン・グループ・インターナル社4社のパートナーシップによる有限責任法人。ワシントン・グループ(Washington Group International)は、建設エンジニアリングの大手で世界第53位の軍需企業。

ネバダ核実験場(Nevada Test Site):ネバダ州の広大な地域ある実験場。もよりの町はラス・ベガス。アメリカ国内最大の地下核実験場だった。

 現在はNNSA、国防省などの政府機関を支援する形で、危険作業、実験、訓練を行っている。大統領から命令があれば地下核実験を実施できる能力を維持している。

 運営は契約ベースで、有限責任法人の国家安全保障技術社(National Security Technologies, LLC)に委託されている。なお同社の背景については今わからない。

パンテックス工場(Pantex Plant):テキサス州アマリロから30km北東に位置している。貯蔵核兵器全体のメンテナンスが主業務。メンテナンスは核弾頭の寿命延長業務、廃棄業務など。なお全米唯一の核分裂廃棄施設でもある。なおプルトニウム廃棄物の暫定貯蔵施設も持っている。

 運営はB&Wパンテックス社(B & W Pantex)に委託されている。同社はBWXテクノロジーズ、ハネウエル、ベクテル3社のパートナーシップ法人。

サンディア国立研究所(Sandia National Laboratories):アメリカが貯蔵する核兵器全体の品質管理、システム・エンジニアリングについて責任を持つほか、開発、実験、特注非核部品の製造を行っている。名称が複数形になっているとおり、研究所施設は、ニュー・メキシコ州アルバカーキ、カリフォルニア州リバモア、ハワイ州カウアイ、ネバダ州トノパに分散している。

 運営は世界第一位の軍需企業ロッキード・マーチン社の子会社、サンディア・コーポレーションに委託されている。

サバンナ・リバー・サイト(Savannah River Site):サウス・カロライナ州のアイケンの南に位置している。核兵器の重要な材料、三重水素(トリチウム)の加工製造工場。トリチウムの原子核が融合してヘリウムに原子変換する際、莫大なエネルギーを放出する。つまり熱核融合爆弾(水素爆弾)の重要原材料を製造する。

 ワシントン・サバンナ・リバー・カンパニー(Washington Savannah River Company)が運営の委託を受けている。同社はワシントン・グループ・インターナショナル100%出資子会社。

Y−12国家安全保障複合施設:(Y-12 National Security Complex):テネシー州オークリッジにある。マンハッタン計画時代、最大の難関の一つが、兵器級濃縮ウランの製造であった。当時その濃縮ウランの製造に成功した工場がこの工場である。兵器級濃縮ウランの濃縮度は現在90%以上とされており、私もこの工場で生産されたリトル・ボーイの濃縮ウラン濃縮度は90%以上と理解していたか、フランク・フォン・ヒッペルはあるところで、リトル・ボーイのウラン濃縮度は80%だった、といっている。

 現在もY−12は、アメリカで唯一の兵器級ウランの供給工場であり、また海軍に対しても濃縮ウランを提供している。海軍の原子力潜水艦の燃料は40%濃縮度のウラン燃料である。運営はB&W Y−12社(B&W Y-12)が委託されている。同社は、バブコック&ウィルコックス、ベクテル、マクデモット・カンパニー(McDermott company)三社の有限責任パートナーシップ法人。マクデモットの持ち株会社マクデモット・インターナショナルはアメリカ有数の建設エンジニアリング会社。