(2010.4.19)
オバマ政権と核兵器廃絶 一般関連資料

オバマ政権 2010年 核態勢見直し
(Nuclear Posture Review−NPR)
国防省(DoD)記者会見


オバマは操り人形?

 オバマ政権は2010年4月6日、「核態勢見直し」(Nuclear Posture Review−NPR)を発表した。担当部署である国防省(Department of Defense-DoD)の見直し報告書を簡単に、やはり国防省がパワーポイントファイルを提示しながら同日記者会見を行った。その記者会見議事録をアメリカ国防省のWebサイトで読むことができる。
<http://www.globalsecurity.org/military/library/news/2010/04/
mil-100406-dod04.htm>

この時使用したスライド・プレゼンテーションが、先に掲載したパワーポイント資料である。
<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/obama_23.htm>)。
この国防省記者会見と09年5月に「アメリカ戦略態勢議会委員会」が発表した最終報告書を合わせ読むとき、当然のことであるが、完全に国防省ペースででき上がったことがわかる。従って大統領オバマは、国防省及びそれを背後で支える軍産複合体制(議会、有力シンクタンク、有力ジャーナリズム、軍産複合体制内大学及び学者・研究者、支配的労働組合、そしてもちろん軍事企業とその裾野の広い産業界全体、またまたそれらに強き影響力を及ぼしている有力国際金融企業などを構成メンバーとするアメリカの支配体制)の操り人形であることが一層明確になった、といえるのではないか?

危機的なアメリカの財政

 アメリカ政府の財政状況は危機的という表現をしても差し支えなかろう。
たとえば、「アメリカ連邦政府総負債の推移とGDP比率―2010年2月」
<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/Economy_of_the_US/07.htm>
あるいは「財務省証券(アメリカ国債)の保有者」
<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/Economy_of_the_US/05.htm>
などを参照のこと)

 アメリカ市民の国家養老年金(Social Security)や高齢者向け医療保険(メディケア)に回す国家投資を削ってまでオバマ政権は、軍事予算や核兵器予算を増やそうとしている。
たとえば、「アメリカの軍事予算―2010年」
<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/Economy_of_the_US/10.htm>

あるいは「国家核安全保障局について」
<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/obama_21.htm>などを参照の事)

 アメリカ社会が日本以上に危機的状況であることを認識していない議会人ばかりではない。たとえば民主党の下院議員バーニー・フランク(Barney Frank。マサチューセッツ州選出)のように「国防予算は25%削減しなくてはならない。これをしないで、ソーシアル・セキュリティやメディケアに回す金を削れば、アメリカの安全保障は、外からではなく内から脅かされるだろう。」と述べる人もいる。
「アメリカ連邦予算の仕組みと連邦負債」の「9.軍事予算について」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/Economy_of_the_US/11.htm>の項参照の事)

 しかしこうした声は「軍産複合体制」を陰に陽に支持する「リーダーたち」の大きな声と彼らがあおる「テロリストの危険」プロバガンダに消されがちである。
そしてこれはそのまま、日本の現状にも投影している。)

 この記者会見議事録はそうした「軍産複合体制」プロバガンダを余すことなく表出していると云えるだろう。

 議事録は頭から順に日本語にしていくのだが、やはり専門用語や概念、彼ら独特の言い回しがあってわかりにくい部分もある。特にカートライト将軍の話はよくわからない。また私もコメントを入れてつっこみたい部分もある。(悪いくせではあるが・・・。)

 そうした部分は文中に(青字)で加えている。またこのやや長めの記者会見をあとから検索する目的で、中見出しをいれた。その部分は青字の見出しとした。(なお質疑応答部分はカットしている。)


ペンタゴンからの新NPRに関する特別ブリーフィング
(Special Briefing on New Nuclear Posture from the Pentagon)

説明出席者: 国防省首席国防副次官(政策担当)、ジム・ミラー(Jim Miller);
統合参謀本部副議長(海兵隊大将)、ジェームズ・カートライト(James Cartwright);
国家核安全保障局局長、トーマス・ダゴスティーノ(Thomas D'Agostino);
国務省次官(軍備管理・国際安全保障担当)、エレン・トーシャー(Ellen Tauscher)

国防省
ジム・ミラー
統合参謀本部
ジェームズ・カートライト
国家核安全保障局局長
トーマス・ダゴスティーノ
国務省
エレン・トーシャー

第3回目のNPR

司会: お示ししたわれわれの原理からして、またあなた方にお知らせしたいということもあり、本日はここに多くの政策専門家、あるいは問題別専門家にきてもらっており、かなり詳細にわたる質問にもお答えしようと思います。

 進め方は、ジム・ミラーの要約プレゼンテーションからはじめようと思っています。ジム・ミラーは国防省(DoD)の政策担当主席国防副次官です。そしてミラーは統合参謀本部副議長のジェームズ・カートライトと共に(プレゼンテーションを)致します。そしてそれから、皆さんからの質問があるかも知れないので、それにお答えするように、その他の省庁からこの問題に関する同僚の人たちを招きいれることにします。ジム、壇上にどうぞ。

ミラー氏: スライドを表示して呉れませんか。これらスライドは比較的素早くざっと見ておこうと思います。質問をしてその答えを聞きたいと皆さんが思っていらっしゃるのはわかっていますので。先に進めて早く質疑応答にうつりましょう。

 今回は当時政権による第3回目の包括的核態勢見直し(NPR)となります。クリントン国務長官が指摘したように、今回が(NPRの内容を)全面的に公開した初めてのものとなります。前回は1994年と2001年でした。

 皆さんも国防省、国務省、エネルギー省が連携しながらこの作業を進めてきたことはすでにお聞きのことと思います。これに加えて、情報統括機関(Intelligence Community)や国家安全保障会議のメンバー達も拡大してこの作業に関わってきたこともお聞きのことと思います。

 ここでいうintelligence community−ICは、ブッシュ政権の時、アメリカ政府部内各情報・諜報機関を統轄する目的で設立したアメリカ情報統括機関のこと。長は国家情報局長官。設立前はCIA長官が自動的に国家情報局長官をつとめたが、現在は独立して置かれ、大統領に直属している。アメリカ情報統括機関の傘下には、アメリカ中央情報局【CIA】、国防省空軍情報偵察局、国防省陸軍諜報局【MI】、国防省情報局【DIA】、海兵隊諜報活動局 、国家地理空間情報局−国防省傘下、国家偵察局−国防省傘下、国家安全保障局【NSA】−国防省傘下、海軍情報局、エネルギー省諜報・対諜報局、国土安全保障省情報分析局、沿岸警備隊捜査局−国土安全保障省傘下、司法省中央捜査局【FBI】、麻薬取締局【DEA】−司法省傘下、国務省情報研究局、財務省テロリズム金融情報局の16組織が属している。09年度の総予算は498億ドル。以上<http://en.wikipedia.org/wiki/United_
States_Intelligence_Community>
による。)
  

 この見直しは、「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)及び弾道ミサイル防衛見直し(BMDR)の上に構築されています。カートライト将軍が地域安全保障構造と地域抑止へのアプローチについて述べるとき、この2つがお互いに密接につながりあっていることがおわかりになるでしょう。

 議会及び同盟国などとの密接な協議について云えば、この核態勢見直しの始めから最後まで80回以上の会議を持ちました。

核拡散と核テロリズムへの挑戦

 次のスライドをお願いします。

 戦略的安全保障環境の評価を開始すると、それは冷戦時代とは大幅にちがっていることに気がつきます。またここ数年まえとも大きく違っていることに気がつきます。この(核態勢)見直しは最初から、核拡散への挑戦と核テロリズムの可能性に対して大きく焦点を当ててきました。そしてわれわれは大量破壊兵器を入手しようとする国家横断的なテロリスト・グループに着目してきました。この大量破壊兵器には、核兵器と核物質が含まれます。特に以前にも、特にイランと北朝鮮に触れましたように、国際社会に挑戦する形で核兵器を追求しようとする諸国家に着目してきました。
   
 ここで使われている「挑戦」−challengeという言葉使いは、アメリカの国防関係者独特の言葉使いである。たとえば、09年5月に発表された「アメリカの戦略態勢議会員会」の最終報告書では、「挑戦と機会論−On Challenges and Opportunities」という1章がわざわざ設けられており<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/USA_SP/
strategic_posture_4-1.htm>
この言葉が多用されている。「挑戦」とは、アメリカに対する「脅威」に立ち向かっていく事を意味し、「機会」とは、アメリカを取り巻く「危険」や「脅威」を削減することを意味する対句のように使っている。「核拡散」に立ち向かっていい区ことは当然「挑戦」として彼らには認識される。

 次に注目して置かねばならないことは、「テロリスト」の存在である。「テロリスト」の危険がアメリカの国防関係者から指摘されるようになったのは、冷戦終了後の1990年代以降である。これに合わせるようにして、「テロリスト」が原子力発電所を襲ったり、旅客機をハイジャックする話のハリウッドBC級映画も作られるようになった。この一種のお伽噺的ストーリーに俄然現実性を帯びさせることになったのは、いうまでもなく「9/11」同時多発テロである。この事件をきっかけにして、アメリカの支配層は「テロ戦争」を具体的に政策化した。「アフガニスタン戦争」はまさしく、テロリストの温床であるアフガニスタンを「民主化」「安全化」することを口実に実行された。またオバマのプラハ演説では「冷戦」終了後、国家間の核兵器戦争の危険はほぼ去ったが、核テロリズムの脅威は高まっている、というまでになった。
 
 この「NPR」においても「核テロリズム」は最大の脅威として、全体を貫く主要モチーフになっている。しかしアメリカのいう「テロリスト・グループ」は、「アルカイダ」にしても、「タリバン」にしてもその時々の目的で、CIAが援助して育てたものである。また、パレスティナのハマスなどに代表される、一言でいえばアメリカの世界支配に対抗しようとする組織もひっくるめて「テロリスト」として扱っている。こうして「テロリスト」の定義を曖昧にしながら、「テロリズムの脅威」を膨れあがらせ、これを梃子にしてその核政策やエネルギー政策を押し通そうとしているのが実情だろう。

「テロ戦争」という「冷戦」に替わる準戦時体制

  「ヒロシマ」「ナガサキ」への原爆投下は、ソ連を「核軍拡競争」に引きずり込んだ。そして「冷戦」という、第二次世界大戦に変わる「準戦時体制」がアメリカの軍産複合体制にとって都合良く開始された。ここまでは事実である。冷戦終了後、アメリカは一時「麻薬戦争」を大々的に開始しようとしたことがある。特に元国務長官のジョージ・シュルツはその先頭に立とうとしたこともある。【『「核兵器がない世界」−A World Free of Nuclear Weapons−4人は遅れてきたカール・コンプトンか−世界はもう一度他愛もなく騙される?』<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/A_World_
Free_of_Nuclear_Weapons.htm>
を参照の事】しかし、「麻薬戦争」では、「冷戦」に変わる「準戦争体制」としてはアピールしない。しかし「対テロ戦争」は今のところ十分に「準戦時体制」として機能している。

  その梃子となった事件は「9/11」同時多発テロだ。しかし、その「9/11」同時多発テロそのものは当初から一部に重大な疑義が出されていた。根も葉もない「疑い」は時と共に雲散霧消する。しかし合理的根拠のある疑いは時と共の大きくなり、やがて真実を暴いていく。「大量破壊兵器」を口実にした「イラク戦争」がそうであったし、古くは「ベトナム北爆」の口実に使われた「トンキン湾事件」がそうだった。

 「9/11」同時多発テロに対する疑い、すなわち「アメリカ犯行説」も少なくとも無視できない合理的根拠を提出するまでになっている。【「ハルマゲドンへの道―9/11陰謀説」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/
obama_22.htm>
などを参照の事】

 すなわちブッシュ政権−オバマ政権と続く「テロとの戦い」なるものが、真の目的を別に秘めた壮大な「フィクション」である可能性が高まってきている。壮大なフィクションは、隠れてこそこそと行われるものではなく、目の前で堂々とおこなわれるものだ。
   

「イラン核疑惑」問題は核エネルギー平和利用問題

 次に「イラン」と「北朝鮮」である。この順番に注意を払って欲しい。イランは核兵器を持っていない。「核兵器をもつことはイラン国民の権利である。しかしイランは核兵器を持つつもりはない。」【イラン大統領アフマディネジャド。たとえばNHKとのインタビュー参照<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/iran_NHK.htm>】またイランのイスラム革命最高指導者アーヤトッラー・ハーメネイーは「イスラム原理の思想からしてイランが核兵器を保有することなどはあり得ない。」【たとえば、東京外国語大学の「中東ニュース」バックナンバー参照の事<http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/news_j.html>】と言明している。

 しかし最近のWebサイト情報によれば、アメリカの国民の6割が「イランは核兵器を保有している」と信じているという。【残念ながら、マークし忘れたため出典を引用できない。】もし日本で同じ調査をしたらどうだろうか?多くの日本人は「イランは核兵器をもっている」とは思わないまでも、50%以上の人は「イランは核兵器を開発し、保有しようとしている。」と信じているのではないか?

 なにしろ、長崎市長の田上富久が2009年8月9日の平和式典で、
昨年、潘基文国連事務総長が積極的な協議を訴えた「核兵器禁止条約」(NWC)への取り組みを求めます。インドやパキスタン、北朝鮮はもちろん、核兵器を保有するといわれるイスラエルや、核開発疑惑のイランにも参加を求め、核兵器を完全に廃棄させるのです。』<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_
nagasaki/2009_07.htm>
昨年、潘基文国連事務総長が積極的な協議を訴えた「核兵器禁止条約」(NWC)への取り組みを求めます。インドやパキスタン、北朝鮮はもちろん、核兵器を保有するといわれるイスラエルや、核開発疑惑のイランにも参加を求め、核兵器を完全に廃棄させるのです。』<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/
2009_07.htm>
と堂々と宣言する有様だ。田上がこの発言を訂正してイランに謝罪したという話は聞かないし、少なくとも田上は今も「イランは核兵器を開発しよう保有しようとしている。」と信じているだろう。

 これが今のNPT体制のもとでは、バカバカしいお伽噺であることは明白なのだが、日本でもアメリカでも、そして多くの西側世界の一般庶民はこのお伽噺を信じている。もっとも欧米西側社会でも、知識人はアメリカ政権の要人まで含めてこういう言い方はしていない。「イランはウラン濃縮を行っている。ウラン濃縮をするということは、核兵器開発の野心を持っているからだ。」という言い方で、「イランが直接核兵器開発」をしている、といういいかたはできなくなった。特にIAEA事務局長モハメド・エルバラダイが2007年8月30日にIAEA理事会に「最終報告書」を提出して、「イランの核兵器開発疑惑を完全否定」してからは、直接イランが「核兵器を開発している」という疑惑をいうことはできなくなった。【「Implementation of the NPT Safeguards Agreement in the Islamic Republic of Iran GOV/2007/48 Date:30 August 2007. Derestricted 12 September 2007」のIAEA文書参照のこと】その意味では、堂々と「イラン核疑惑」を公式の場で口にする田上のような人物は今時珍しい。この話は証拠が残らない形でこそこそと行うものとなっている。

 しかし何故こんなことになっているのか?欧米・日本の主要メディアから大量に流されるプロバガンダから受け取る「印象」が定着した結果だと云わざるをえないだろう。しかしオバマ政権にとってはそれで十分なのだ。その「印象」がなければ、彼らの政策が説得力を持たないからだ。

 このNPRでも、その印象「イランは核兵器開発を行っている」という印象を最大限活用している。「イラン」「北朝鮮」と並列に並べるのはこうした意味がある。だから主眼は北朝鮮にはない。イランにある。そしてイラン問題は「核兵器開発問題」ではない。平和目的原子力エネルギー独占問題である。「世界を駆けめぐる不気味な戦争待望論<http://www.inaco.co.jp/isaac/back/027/027.htm>」参照の事。)

ロシアとの戦略的安定性

  また同時に、地域安全保証構造を増強しかつ強化することの継続、及び地域における敵を抑止することの継続についても理解していく必要があります。これはNPRが基本的に焦点を当てている核の傘ばかりを意味しているのではなく、われわれのミサイル防衛を強力にすること、通常軍事能力を強力にすること、大量破壊兵器に対する闘いを強力にすることなども意味しています。その目的は、効果的な抑止とともに同盟国に対するわれわれの関与で(安全保障を)再保証することの双方にあります。

 ここはやたら「強化」という意味合いの言葉が並べられている。"reinforce"は「増強する」、“enhance”は「強化する」、“strengthen”は「強力にする」と日本語に置き換えた。)

 第3に依然としてアメリカとロシアは世界の核兵器の90%以上を保有しており、ロシアとの戦略的安定性は必須ということに対する理解です。同様に中国に対しても戦略的安定性に関する話し合いを開始する必要があるということです。この努力にむけては新STARTは次の鍵となる段階といえます。カートライト将軍が後ほどもっと多くを語ってくれましょう。

 次お願いします。

 このスライドは短く表示するに止めます。NPRの5つの異なる分野、われわれが使用した政策の枠組みを網羅しています。とても手短にそれぞれについて言葉を添えるでありましょう。

 次お願いします。

NPT再検討会議の最優先事項

 本日もっとも優先順位が高く、また強調したい最初の話題は、核テロリズムの防止であり、核拡散です。NPRはこの体制(核不拡散体制)を強化し、IAEAのセーフガードを強力にする国際的取り組みを主導するに当たっていくつかの追加的な段階を設置しています。そして条約遵守の強制を期待していますので、5月のNPT再検討会議は、このプロセスにおいては、決定的な次の段階となるでしょう。

恐らく4月の、オバマ政権主導の国際核テロ保安会議を経て、「核テロリズム」の危険性が強調され、1.兵器級核分裂物質だけでなく、すべて平和目的の核分裂物質をアメリカ主導のもとで国際管理に置くこと、2.原子力発電用燃料、医療用燃料まで含めて、生産していい国と生産してはいけない国を分けること、3.NPT参加の非核兵器保有国の平和目的原子力エネルギー利用の権利に制限を加え、それを消費=利用、する権利にのみ限定しよう、というアメリカオバマ政権の提案が出されることだろう。これらはすべて「核テロリズムの危険性」と「核拡散の危険性」を口実に行われるだろう。だからオバマ政権が考えていることは、核兵器不拡散条約を実質的にも「核不拡散条約」に変質させようと云うことだ。すでに多くの新興国、発展途上国は、このオバマ政権の意図を見抜いている。しかし、核エネルギー先進国、特に核兵器保有国は、この点でオバマ政権と利害が一致している。中国やロシアも、この点ではアメリカと利害が一致している。しかもこれらの諸国は、国連やIAEAを事実上牛耳っている。だから、オバマ政権の「核エネルギー独占」の意図を見抜いていたとしても、どこまで抵抗できるかは疑問だ。彼らの最終的な「抵抗形態」は、核兵器不拡散条約からの脱退であろう。もしこうした諸国が多ければ、核兵器不拡散条約、NPT体制の空中分解、ということになろう。もしこの抵抗形態を採用する国が少なければ、アメリカ主体の「核エネルギー独占体制」が形成されることになる。どちらにせよ鍵を握るのは、イランであり、中国ということになろう。)


 われわれがこの見直しを管掌しているので、どのような予算措置が適切かつ必要かについて見通していますし、その一例をスライドに表示しています。これはエネルギー省の不拡散計画の(予算)増加を示したものであります。他の省庁もこの分野の予算を増加させます。

 「核不拡散」に予算増強という宣伝をオバマ政権は行っているし、広島の中国新聞もこのシナリオにそって最近プロバガンダ記事を書いた。もっともこの記事は誰かのレクチャーをたどたどしくなぞっているだけの稚拙な記事で、書き手が理解しているとは思われないお粗末なシロモノだったが。【「オバマ政権の側面援護を広島で担う中国新聞」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/01/01.htm>参照のこと>】 しかし2011年度予算としてオバマ政権が議会に要求したエネルギー省の核兵器関連予算の内容を検討してみると、「核不拡散」予算と特徴つけるよりも、むしろ「核兵器近代化」、「核兵器電子化」、「核兵器体系コンピュータ化」と特徴つけた方が適切だ。こうした特徴はこの記者会見ではまったく触れられていないし、あとの質疑応答でもこの点をつっこむ記者は現れない。【「国家核安全保障局について」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/obama_21.htm>を参照の事。】

   (オバマ)大統領は、これから4年以内のすべての攻撃されやすい核物質の保安や厳重な監視に深く関与していますし、この見直しでもそれをいかに実行していくかについても見通してもいます。来週(4月12日から始まる週)からの核安全保障サミットでのさらなる進展を期待しています。

 核安全保障サミットは“the Nuclear security summit”で核兵器安全保障サミットではないことに注意)

「核の密輸」ということ

 この見直しのある部分は「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)と重なっていますし、またある部分はこれから核抑止を能力を改善するのにどの部分に投資すべきかという見通しや、もし必要なら、核物質の密輸をいかに妨げるかという見通しとも重なっています。そしてわれわれは、その分野にも投資を増大させる積もりです。そしてQDRの発表の時にも触れたように、われわれは国防省内に大量破壊兵器を廃絶するはっきりした合同作業グループを立ち上げるつもりです。

 密輸は“smuggled”という言葉が使われている。発想としてはアメリカが関わる取り引き-たとえば米印核協定やイスラエルとの取り引き、やアメリカが関知し、承認する取り引きは密輸ではないが、それ以外はすべて密輸と解釈しないと、この密輸という言葉は定義曖昧になる。こうしたアメリカの判断が国際社会の判断であり、唯一の正義という考え方は、この記者会見が進むにつれて露骨に打ち出されていく。)

 NPTの義務を完遂させることへのアメリカの関与、軍縮義務も含みますが、を再確認しておくのは、基本原理です。そしてこの見直しは、長期的見通しに立って、核兵器のない世界という大統領の目標をいかに実施していくかまたそのスタート地点に立つものです。

 新STARTでアメリカの義務は果たしている、だから非核兵器国も「核不拡散」を果たしなさい、という論法をするためには、新START締結は必須だった。ところが、NPTが定める「不拡散義務」は「核兵器の不拡散義務」で「核エネルギー利用技術やそのノウハウ、専門知識」などの不拡散義務ではない。だから、オバマ政権としては、アメリカが認めない「核エネルギー利用技術やそのノウハウ、専門知識」の獲得はすべて「NPTの義務違反」という論法を取る以外にはない。だからイランは「不拡散義務」に違反しているが、ウラン濃縮を行っている日本や、ヨーロッパのウラン濃縮・核燃料サイクルコンソーシアムに参加している非核兵器諸国、たとえば、ドイツ、ベルギー、スエーデン、スペインなど、あるいはウラン濃縮を開始すると宣言しているブラジルなどは、「不拡散義務」に違反していない、ということになる。すべてアメリカが判断の基準である。これは「二重基準」などと云うものではなく、「アメリカがルールブック基準」と表現するのが適切だろう。

  さらにオバマのプラハ演説でも、このQDRでも全くそしらぬ顔を決め込んでいるのは、NPTが核兵器国に義務つけているのは「単なる軍縮義務」ではないことだ。「核兵器廃絶のための軍縮義務」だ。その観点から、オバマ政権が胸を張る新STARTは、まったく「核兵器廃絶」とはほど遠いものだ。こんなシロモノでアメリカは「義務」を果たしている、と主張するのだろうが、5月の再検討会議でどの程度の新興国や発展途上国がアメリカの主張に賛同するだろうか?もちろん日本では、「新STRAT」賛美一色である。【たとえば、『「プラハ構想」を動かすとどうなるか?米核独占の走狗となる朝日新聞』<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/zatsukan/004/004.htm>などを参照の事。】)

 われわれが取ろうとしている段階はここに(スライドに)一覧にしてあります。これには条約交渉も含まれています。そればかりでなく、検証に関わる包括的な計画、これにはエネルギー省、国務省、それから国防省からの貢献も含まれています。そして国務長官は、スライドでご覧のような、(大量破壊兵器を入手しようとする国家やテロ支援国家に対して)説明責任を果させるような、新たなアメリカの関与について述べました。

宣言的政策

 次のスライドをお願いします。ここがご説明したかったところなんですが、カートライト将軍にバトンタッチする前に、ここに十分時間を取りたいと思います。このスライドはアメリカの宣言的政策について述べています。

 2つの異なる諸国家のカテゴリーについて考えることができます。一つは不拡散義務を忠実に遵守する非核兵器保有国です。世界の大多数の国がこれに含まれます。

 われわれがここの宣言的政策でなすべきと気をつけておくことは何かというと、核不拡散条約に関連したアメリカの消極的安全保障を強力にすることです。そしてそれ(消極的安全保証)は述べられています。この点はもう繰り返しません。しかしわれわれは次のように注釈しました。すなわち、もしそれ(注釈のこと)を見るなら、そして、これらの国、すなわちNPTを遵守している国が化学兵器あるいは生物兵器を使用したら、われわれは明確に述べていることは、彼らは壊滅的な通常軍事力の対応の予測に直面することになるだろう、という事です。もし、アメリカやあるいはそのパートナー、あるいは同盟国に対して化学兵器や生物兵器を使用したら、ですね。

 宣言的政策について、「アメリカの戦略態勢議会委員会最終報告書」は次のように述べている。

  宣言的政策は、友好国や予想される敵両方に対するアメリカの意図を示すシグナルである。このように宣言的政策は戦略態勢全体にとって重要な側面をもつ。これを有効にするためには、アメリカの指導性の意図をよく反映した形で理解されねばならない。計算された不明瞭という要素が基本的には残るとはいうものの、潜在的な敵対者に抑止力を与えるよう十分に明瞭なものでなくてはならない。アメリカは、極限的な状況においてアメリカとその同盟国を守るためだけに核兵器を使用すると考えておりまた準備するのだということを強調すべきである。』
<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/USA_SP/
strategic_posture_3.htm>
  

核兵器使用の権利を留保

 国防長官が注意を喚起したように、われわれは、もし生物兵器の脅威が甚だしく大きくなりまたそれに対処するわれわれの能力が相対的に増強できない場合には、この保証(消極的安全保証)を調整する権利を明確に留保します。

 この組み合わせの政策は、諸国家にNPTに参加しそれから離れないように利益誘導する意図を持つと同時に脅威を削減し、生物兵器に関連した脅威を増大させない段階に進む意図も持っています。

 非核兵器国でありかつ不拡散義務を遵守しない諸国には異なるルールが設定されます。われわれは依然として、核兵器を使用しないだろう、と云っておりますが、申し訳ないが、アメリカ、そのパートナー及び同盟国の決定的利益を防衛する、究極の状況に置いてのみ、核兵器を使用し得ます。そしてこれらの国を特定しています。アメリカの核兵器が、通常兵器攻撃や化学生物兵器攻撃の抑止に一定の役割を果たすかも知れない、そうした緊急事態に対して狭い余地を残しております。

 そうして国防長官と国務長官が議論したように、核兵器が存在する限り、アメリカ自身、あるいはアメリカの軍事力、あるいは同盟国やパートナーに対する核攻撃抑止に、アメリカの核兵器は基本的役割を果たすと理解しています。

1995年にすでに宣言している消極的安全保証

 ここは非常におかしな言い方だ。まず主題は「消極的安全保証」(“negative security assurance”である。次にNPT加盟国を2つに分ける。ひとつはNPTに定めた核不拡散義務を遵守する国と遵守しない国である。生物兵器や化学兵器が云々といっているが、これは問題の本質ではない。遵守する国に対してはアメリカは、消極的安全保証をあたえるが、遵守しない国に対しては与えない、といっている。

  しかし、1995年NPT再検討会議の際、NPTを永久存続させる見返りに、アメリカを含む5つの核兵器保有国は、NPT参加非核兵器保有国に対して「消極的安全保証」を与えると約束している。アメリカの国内政策は当然この国際的約束の制約を受ける。つまりアメリカはすべてのNPT参加非核兵器保有国に「消極的安全保証」を与えたのだから、いまさらこれを撤回することはできない。ところがここは「1995年のアメリカの約束」は反古にします、と言っているに等しい。

 次にアメリカには、NPT参加国がNPTの定める義務を遵守しているかどうかを判断する権利はない。これはNPT自身しか判断できないことだ。より直接的にはNPTの実務執行機関、IAEAが判断することだ。

 オバマのプラハ演説でもそうだったが、すべて判断・決定権はアメリカにあると主張していると見える。ここでも「オレがルールブック主義」が露骨に出ている。

 次に具体的に考えてみるとここはイランを指している。日本の新聞は「イランと北朝鮮」を想定していると書いたが、理論的には北朝鮮は全く対象外だ。NPTの加盟国ではない。だからイランだけだ。NPTの核不拡散義務を遵守していないから「消極的安全保証」を与えることはできない、というのがこの文脈での要旨となる。

 だから、イランが「NPTの核不拡散義務」を遵守しているのか、していないのかが問題のポイントだ。ここで「核不拡散義務」という曖昧な言葉が問題になる。オバマ政権は、一貫して「核不拡散義務」(the obligations for nuclear non-proliferation)という言い方をしており、核兵器不拡散義務とは云っていない。NPTが定めているのは、「核兵器不拡散義務」であって「核不拡散義務」ではない。

 この記者会見では明確ではないのだが、イランが平和目的のウラン濃縮を行うことを、「NPTの核不拡散義務」を遵守していない根拠として提出しているように見える。ところが、イランに限らず、平和目的のウラン濃縮活動は、NPT参加国に認められた「奪い得ない権利」なのである。アメリカの言い分は、「ウラン濃縮活動をしているということは、核兵器開発の意図があるからだ。」ということであり、これはブッシュ時代から一貫して変わらない。そうすると、NPTがどうあれ、アメリカがいったん疑いを抱けば、その国は「核開発疑惑国」になり、「テロ支援国家」になってしまうということになる。これはまさしく19世紀、20世紀の植民地主義時代、帝国時代に通用した「強者の論理」が常に正義という考え方そのものだ。「冷戦思考」どころではない。アメリカは「帝国主義思考」そのものの「強者の論理」を真っ向から振りかざしている。)

  われわれは、非核兵器攻撃を抑止するなかで、核兵器の役割を削減するために通通常防衛能力の強化を継続します。これにはミサイル防衛や反大量破壊兵器能力を含みます。アメリカの核兵器はアメリカやパートナーや同盟国に対する核兵器攻撃を抑止する、これがアメリカが核兵器を保有する唯一の目的です。

  そしてそれについて、カートライト将軍に交替したいと思います。

相当な削減と胸を張るが

カートライト将軍: スライド。私はルールがわかっているので、ここであと2枚くらいのスライドをお目にかけて、すでに云われていることはもう繰り返さないようにし、あなた方が誰に対しても質問するようにします。(笑い)OK?


 さて、このスライドはSTARTを反映しています。START、大統領がメドベージェフ大統領と作業中で、ここ2日のうちに署名となると思いますが、新START協定です。STARTを見てまた新STARTで発生している削減に関連する数字を見て、まとめて云えば、それらは冷戦終了時以来65%の実戦配備戦略核兵器の削減、ということができます。戦略核兵器と非戦略核兵器を合わせると75%の削減、配備戦略発射運搬装置は80%の削減ということができます。

 ですから相当な削減が冷戦の終結以来最新のTARTでは続いていることになります。

 この米ロ削減がなければ、オバマ政権はNPTの再検討会議に臨んで、平和利用を含めた「核独占政策」を打ち出せない。しかしこんな内容で、新興国や途上国の非核兵器保有国を納得させられるか?少なくとも私は全然納得しない。胸を張ってこのカートライト将軍が喋っている様子が目に浮かぶが、この人物は、たとえばわれわれは地球を10回破滅させる核兵器の実戦配備を2回破滅させるだけの数量の実戦配備に削減しました、といっているようなものだ。地球を1回滅ぼせば、それだけの数量の核兵器が実戦配備されていれば、その以上の数量はわれわれにとっては無意味な数量なのだ。この人物は「狂っている」としか云いようがない。オバマも狂っている。)

 1550が戦略核弾頭の上限です。700が戦略運搬手段の上限です。さて発射装置と運搬手段の組み合わせです。だからたとえば、複数運搬手段としての複数発射管―24、を持っている潜水艦。爆撃機は1と数えます。一つの核弾頭をもった大陸間弾道弾は1と数えます。これで意味あるものとなります。

ここは吹き出してしまうような箇所だ。問題は多弾頭の核弾頭だ。アメリカの核兵器は、トライデントI・U型用核爆発装置「W76」やミニットマン用の爆発装置「W78」などに代表されるように、一つの核弾頭容器に複数の核爆弾が格納できるようになっている。場合によってはダミーなども入れて、敵の迎撃ミサイルをかわす仕組みを持っている。一つのミサイルを迎撃ミサイルで撃ち落とすのは、パトリオット・ミサイルの極端な低命中率でみるように、難しい。ましてやその一つの核弾頭から、ダミーをも含めた複数の核爆弾がばらまかれてはお手上げ、という他はない。我がカートライト将軍によれば、計算が面倒なので、多弾頭ミサイルであってもこれを1と数えましょう、という事になる。私の理解が間違いでなければ、多発射管―最大は24―をもった攻撃型潜水艦も1と数えましょう、ということだ。複数の核ミサイルが搭載できる戦闘爆撃機も1と数えましょう、となる。これは事実上無制限に近い。後は、できるだけ核爆弾を小型化して、多弾頭化、複数発射型にする技術開発競争になる。子供だましの酷いシロモノである。)

新STARTの抜け穴

 われわれには、ここで配備する目標に到達するまで7年あります。配備800という数字、これは戦略運搬手段の上限数字ですが、これには追加の数百が非配備としてあります。ですからたとえば、燃料補給中の潜水艦、ミサイルを外して戻ってきた潜水艦、保守中の潜水艦、などは数に入りません。スペアが許されます。

 同時に(軍備の)「移行」も許されます。ロシアは近代化中です。そうして、われわれはこれから10年間の間に近代化の時期に入ります。ですから、新たな爆撃機が次々とやってきます。ですから古い爆撃機を隊列から退役させて、云ってしまえば弱みを見せる期間なしに新しいものを持って来ることが許されます。ですから、この追加的な800という数字はこうして構成します。

 この条約の有効期間中ずっとわれわれは核の三本柱を保持します。ですから、爆撃機、潜水艦、そして大陸間弾道弾(ICBM)です。実際のところ、条約の有効期間の間、それぞれ単核弾頭とする大陸間弾道弾に関係する核弾頭は削減します。われわれのミサイル防衛に関係した規制、あるいはわれわれの即時世界攻撃能力、通常兵器と解釈できる能力に関係した規制はありません。

 これほどボロボロと抜け道や裏技を紹介されると、いっそ鼻白む思いだ。)

大統領決断時間の延長

 われわれは相当な新投資をします。また命令指揮や管理、決定時間に関する研究への取り組みに対しても投資をします。

 何年にもわたってこうした活動を続けていれば、一つの問題は敏感な機構をもつ警戒体制のレベル構成に関する心配です。また爆撃機についてわれわれがやったことを国防長官レベルでなおざりにすることです。われわれは既存の兵器やその基盤の物理的能力や構造についてできる限りやってきました。

 ですから、近代化を進めるにつれて、われわれが研究していることは、それを確かにするそうした分野でわれわれができることです。第一に、この国の指導者が核兵器を使用する全面的な決断をする前に、最大限の量の時間をこの国の指導者たちに確保することです。これはより良い監視システム、より良い命令指揮管理システム、そして同時に兵器自身の構造があって起こりうることです。それらを安全なものとするために、いかにそれらを安全に保っておくか、実際のところ、いかにそれらを構築するか・・・。今日国防長官はそれらの一つを、いわゆる「オープン・オーシャン・ターゲティング」として表現しました。

 そして他に何がわれわれにできるか?その研究が始まります。事実、命令指揮管理システムについては3年前に始まりました。次世代兵器の構築についても3年前に始まっています。10年間の寿命に関しては、われわれのできることを眺望しています。実際の運搬手段そのものやなされるだろうことを眺望した2011会計年度で、その研究が開始されるでしょう。

 このスライドでは、われわれはまた、ロシアと中国との関係を確立する、高いレベルでの対話について述べています。そしてこれはさらに透明性を、また自信を獲得するための取り組みです。そして、われわれはロシアと共に中国とも両方、高いレベルでの対話を企画します。

地域核抑止の強化とミサイル防衛

 次、どうぞ。

 地域抑止の強化です。われわれは、ここにこれまで厖大な作業をしてきました。多くの作業はその初期的な段階にあります。「弾道ミサイル防衛見直し」(BMDR)は段階的に採用したアプローチについて語っています。

 しかし、地域戦域レベルでは抑止の要素としてわれわれが持つことを許されているのはミサイル防衛能力です。これに加えてわれわれは、「総合目的軍事力」(general-purpose forces)を、偏見を持たれていますが、是非とも次の段階で。

 この能力―それを改善し、維持し、そこの(地域戦域の)脅威と共にあるという態勢をもち、その(地域戦域の)存在において凌駕するというのではなく抑止すること、世界中の諸地域に対してそれらを構築し、また(地域の特性に合わせて)それらを作っていくということ―これらはわれわれが、できるようにならなければならない決定的な諸活動です。

 実際われわれは戦術面において能力を継続します。爆撃機に適用するかどうか、これが次世代航空機、F-35のことですが、に適用するか、あるいは現在の複合能力航空機に適用するかどうかに関わらず、です。

 しかしそこで(地域戦域で)その能力を持つと云うことは、戦術的な意味において、事実上、前線へ進出するそして前線へ基地を構えることを確実にするという事です。そうすることが適切な場合には、です。

トマホークの正式退役

  われわれは、長いこと兵器敞に居た兵器の一つを退役させます。それはトマホーク、トマホークの核対応モデルです。(トマホークTLAM/Nのこと。)実際それは退役します。それは長い間、傍流にありまた配備されていませんでした。しかしわれわれは公式にその兵器を退役させます。

  アメリカ科学者連盟のハンス・クリステンセンによれば、

 アメリカはおおよそ核武装ミサイルTLAM/Nを300保有している。そのうち約半分がワシントン州バンゴール近くの太平洋戦略兵器施設イグルー式施設に貯蔵されている。後の半分程度が、ジョージア州キングスベイにある大西洋戦略兵器施設に貯蔵されている。・・・

うち100のTLAM/Nだけが、寿命部品を取り付けられて稼働している。しかし通常の状況では攻撃型潜水艦に実戦配備されていない。アメリカには合計53隻の攻撃型潜水艦があるがTLAM/Nの発射能力をもつ潜水艦は12隻以下である。

・・・太平洋戦略兵器施設にあるおよそ150のTLAN/Nはアメリカが大西洋で持っている核態勢の一部分である。そこには1000を越すW76核弾頭やW88核弾頭などのトライデントU型弾道ミサイルがある。それらは、海洋発射型弾道ミサイルを発射する能力のある8隻のオハイオ級原子力潜水艦に装備される。これら潜水艦は太平洋をパロトールしている。

 8隻の太平洋原子力潜水艦のうち5隻か6隻はいつでも実戦配備できる480−570の核弾頭を常時搭載している。別に数百の核弾頭が太平洋戦略兵器施設に、いつでも潜水艦に追加搭載できる形で貯蔵されており、もし必要とあれば両方を合わせて1300の核弾頭が使える状態になっている。

 この海洋ベースの軍事力に加えて、450のミニットマンV型大陸間弾道弾に搭載された500の核弾頭部分が太平洋軍地域をカバーしている。これらはB-2型あるいはB-52H型戦闘機が爆弾や巡航ミサイルの形で搭載している。さらにノース・カロライナ州のセイモア・ジョンソン基地の第4攻撃航空団のF―14E爆撃戦闘機が、他の地域と共に太平洋地域の緊急核攻撃ミッションを担っている。』(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/USA_SP/
strategic_posture_etc02.htm>

と述べている。要するにトマホークTLAN/Nは、時代遅れの無用の長物であり、実際実戦配備もされていない。こんなものを退役させるのは当然だ。すでに、トマホークに替わり、その数十倍もの核兵器能力が「太平洋戦域」を核の傘=拡大抑止力でカバーをしている。

09年5月に発表された「アメリカの戦略態勢議会委員会最終報告書」作成中の協議の中で、日本の高官が、「日本を核大抑止しているトマホークを予定されている2014年に退役させないでくれ。」という要求があったことを先の議会報告書は指摘している。(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/USA_SP/
strategic_posture_4-2.htm>
を参照の事。)

 クリステンセンの指摘を念頭に置いてみると、いかにも不可思議な要求であり、いかにも不可思議な「報告書」の記述だ。当初、アメリカと日本で、「核の傘」の実情が情報共有されていないのか、とも思った。しかしこれも納得しかねる、間の抜けた話だ。しかし、その後、「有識者委員会」の「核密約報告書」の発表のあと、「日本へはアメリカの核兵器の一時立ち寄りはないのか?」という質問に、民主党政権の外相岡田克也が、再三再四「トマホークが退役するので、通常はアメリカの核兵器が日本に立ち寄ることはない、と信ずる。」という意味合いの発言を繰り返している。この発言自体が、先の「核の傘」の現状と照らし合わせてみるとピンぼけの発言だ。というのは日本の「核の傘」の実情はすでにトマホークではないのだから。

 しかし、こうやって一連の出来事をつなぎ合わせてみると、「密約報告書」発表に合わせて、「トマホークが退役するのだから、もう日本にアメリカの核兵器が一時寄港することはありません。」というイメージ作りを狙った外務省プロデュースの「猿芝居」だったのではないか、と思えてくる。こう考えてみると、昨年からの、日本側の不自然な動きも説明がつくし、アメリカ側の不自然なほどの大げさな取り上げぶり、今回発表のアメリカのNPRでわざとらしく、アメリカがもう廃品同然のトマホークTLAN/Nの退役を発表することの不自然さも説明がつく。つまり、「日本にアメリカの核兵器が一時寄港することはこれからはない」という「イメージ」―実際には自由に出入りする
―を日本の市民の間に定着させることが狙いの「猿芝居」だった、という解釈である。)

核兵器の寿命延長計画

 そして前のスライドでも云ったように、いわゆる拡大抑止力(核の傘)の有効性と信頼性について話し合いをもち、われわれの同盟国と地域レベルで協働することに時間を割くつもりです。

 国防長官が、国務長官と共にアメリカのNATOに対する責任について相当量お話ししたかと思います。しかしそれら(責任のこと)は同時にまた太平洋地域及び中東地域にも延長しそこでの同盟国と協働します。次のスライド、どうぞ。

 いいよ。そんなに責任を持たなくても、カートライト君。君らが張り切れば張り切るほど、アメリカ市民の税金が軍事費に流れて、おまけに日本の市民の税金も巻き上げられる・・・。しかしアメリカべったりの日本の政権与党ももうやめにしなければならんな。日米安保条約は、日本の一般市民にとっては百害あって一利なしだな・・・。独占大企業にとってはこれほど望ましい体制もないが。)

 さて、われわれの「寿命延長計画」は事実上、すでに実験で検証されたモデルに焦点を当てます。

寿命延長計画とは、経年劣化した核兵器を近代化したり、新品再生したりして、実戦配備できるようにする計画。「国家核安全保障局について」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/obama_21.htm>の「3.NNSAの2011年会計年度の要求予算」などの項目を参照の事。)

 3つの基本原理、あるいはカテゴリーがあります。磨きをかけた再生をするもの、再使用するもの、置き換えるもの、です。磨きをかけた再生のケースでは、核兵器モデルであって、以前に核弾頭として製造され、寿命延長を経たもの。ですから別な言い方をすれば、われわれの言い方でいうところの、物理的パッケージ、この核兵器部品、一次部品や二次部品を全く変えないものです。そこには触れません。磨きをかけた再生では、経年劣化した部品や何度も使い古した部品や、そんなものにだけ手をつけ、入れ替えます。これは(核兵器の)貯蔵のかなりの改善となります。そして安定し安全かつ効果的なものとなります。OKですか?

 再使用のケースでは、貯蔵の中の現在、あるいは以前のモデルで抑止用核弾頭から使用します。ですから一つの核弾頭モデルから一つ、核兵器を保存することができるようにする目的で、その他のモデルと合致させます。新しい能力は付加しませんし、新たなミッションもなしです。しかし、テスト済みのモデルとしてわれわれが見なしても構わないモデルですし、再テストや動作検証計画を改めて確立しなくても貯蔵の中に保持できます。全く新しいモデルとして貯蔵できます。

 それから3番目のもの、恐らくはもっとも議論の大きいものと思いますが、置き換えです。これは、貯蔵の中のモデルは使わずに以前にテストしたモデルを使います。ですから、これはわれわれに余裕を生みます。たとえば、安全性や安定性を改善し続けた第一次部品に交換することによってです。OKですか?これら部品に関係して色々なことができますが、それがその方法に軌一する限り、われわれはそうし得ます。

 それでもそれ(寿命延長すること)は大統領の承認が要求されます。そして議会もこのことを視ています。また彼ら(議会)(近代化への)移行も視ていることでしょう。エンジニアリングの段階に行けば、彼ら(議会)は実際上それらの再検討もするでしょう。置き換えのカテゴリーの核兵器のタイプなどをですね。

 鍵となること。これから数年の間の50億ドル以上の(予算の)話をしているのです。国防省からエネルギー省までの複雑な過程に(これから数年の間)入っていきます。年を経た諸施設、科学技術能力に対する最新の支援、この能力に関連する科学者や物理学者の継続延長や新たな採用、そしてそれからこの企てを主導する国防省内の核ミッションに焦点をあてたわれわれの継続的指導性を、更新し常に新たにすると云う約束・・・などですね。

中身のない「核テロリズム」

  最後のスライド。今まで述べたことを振り返り、再び述べています。私は、振り返る一つのポイントは、今日われわれが生きる世界の現実、だと思います。この分野で護り見つめる多面性に視点の範囲を広げなくてはなりません。テロリズムを通して、核兵器が使用されることで影響するすべてのこと、アメリカに向けての「極」を覆うすべてのことからICBMまでのこと、ですね。

 われわれの防衛能力、われわれの抑止能力、はすべての幅に触れたものでなくてはなりません。そして、この「核態勢見直し」に費やしたわれわれの、厖大な努力は、ここに示されているように、本来そうであるべきほど強調されていないかも知れません。それは、非国家主体に影響されたテロリズムの分野です。これから前進するに際して、この種の脅威に力点を置く能力をわれわれは持っているとはっきりさせておきます。そしてこの能力をわれわれは発展させていると、われわれはこの能力をたくましくし信頼できるものにしていると、そしてそれが抑止力の鍵となる性質なのだと、いうことをはっきりさせておきます。

 核テロリズムについて、カートライトが強調するほど内容がない。いわば中身のカラッポな化粧箱みたいなものだ。彼が強調するればするほど、「核テロリズム」は中身のない「レッテル」だけ、と思えてくる。それと、カートライトは矛盾に満ちたことを云っている。「テロリズム」に対しては、お得意の「抑止力」は全く有効ではない。敵が「報復」を恐れるから「抑止」は有効ではなかったのか?そして報復を全く恐れないのが「テロリスト」ではないのか?大体、テロリストは「正体不明」だから「テロリスト」なのではなかったか?

それと、この最後のスライドには「核兵器のない世界へむけて」というキャッチがタイトルに掲げてあるが、カートライトはこれに全く触れなかった。)

(質疑応答はカット)