(原文は以下: http://www.trumanlibrary.org/whistlestop/study_collections/bomb/small/mb15a.htm )
1945年9月11日付け陸軍長官ヘンリー・スティムソンの 大統領トルーマンあてのメモランダム |
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議題:原爆管理のための行動提言 (Proposed Action for Control of Atomic Bombs) |
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原子爆弾の出現は、文明世界全体を貫いて、軍事力に大きな刺激を与え、そして恐らくその刺激は政治的利益に対してさらに大きな刺激となってさえいます。世界の雰囲気はすでに「力」に対して極度に敏感となっていますが、この兵器の到来は地球のありとあらゆる部分における政治的考慮に対して、深刻な影響を与えつつあります。 ユーラシア大陸におけるロシアの影響力の増大は、根本的な相殺勘定として、各方面には受け止められています。(ナチス・ドイツの凋落との相殺勘定)ソビエト政府がこの傾向を感じ取って、ソビエトの政治的・軍事的指導者が、できるだけ短時間にこの兵器を手中に収めたいという強い誘惑にかられているであろうことは、まず間違いのないことです。 この兵器の開発にとって、イギリスは実際上もすでにわれわれのパートナーの位置にありました。従って、協力と信頼を基礎に置いたパートーナーシップの関係に、われわれが自発的にソビエト政府を誘わないとすれば、核保有の分野で、ソ連に対抗して「アングロ・サクソン・ブロック」を維持し続けることになります。そのような状態は、ソビエト政府を原爆開発しようとする異常に熱を帯びた行動に駆り立て、より破滅的な性格を持った、密かな軍備拡張競争に突入することは、ほとんど間違いないところであります。実際にそのような活動がすでに開始されていることを示す証拠が存在します。 この新しい力を管理する問題で、いつの日かわれわれが満足のいく国際的調整に到達しなければならないと、われわれが感じているなら-私はそうしなければならないと思っていますが、その時疑問は、喫緊の和平を希求するという意味において、どれくらい間、現在の一時的な優位性を享受できるだろうかということです。 (アメリカの核兵器独占状態がどのくらいの期間、維持できるであろうか、という問題をスティムソンは提起している。) ロシアが核兵器生産に関する秘密を完全に手中に収めるには最短4年、最長でも20年かかるであろうという事は、世界や文明にとって重要ですらありません。 (スティムソンはここで、ソ連が核兵器を持つまでに最低4年かかるだろうと予測しているが、実際ソ連が原爆実験に成功するのは、4年後の1949年だった。) 世界や文明にとって重要なことは、ソ連がわれわれの申し出を受け容れ、世界の和平希求国家の間でソ連が進んで協力関係を構築して、平和を確かなものにすることです。 私が提言するように、今もし彼らに近づくことは、信義の観点から見て、またソ連が自力でなすより少なくとも早く原爆の製造に着手できるようになるといった観点から見て、一種の賭けになるかも知れないことは事実です。 私は、ロシアとの関係は、究極の所、原爆の問題より大きな問題はない、と考えています。原爆の管理問題を除けば、ソ連との問題は比較的重要とはいうものの、差し迫って解決にあたらねばならないものではありません。ソ連とわれわれが相互に確証できる関係を構築することは、物事の進展をより遅くすることもできます。原爆ができあがったことで、ソ連にとってこの問題が極めて緊急となりました。われわれが、この問題に関してロシアに対する接近の仕方によっては、両国の関係にとって取り返しのつかない痛恨事になるかも知れません。もしわれわれがこの問題についてロシアへの接近の仕方を誤れば、そして単に交渉を続けるだけで、そして腰に手をあてがい原爆の保有をむしろ誇示するならば、われわれの目的と動機に関する彼らの疑惑と不信ますます大きくなります。ソ連がこの問題を一挙に解決してしまおうとの努力を触発することでしょう。 (*一挙に解決する、とは取りもなおさず、アメリカへの恐怖から自分も原爆を保有しようと云う努力) もし私の云うような解決方法が達成できれば、将来においてアメリカにとって絶対的に必要な「取り決め」は、これまでと違った形を取ることになります。 われわれの目的は国際社会にとって最良の取引をすることでなければなりません。危険性は他の方法より大きいと私は信じます。しかしその方法は4年から精々20年(ソ連が原爆開発に要する時間)の間、文明社会を救うのではなく、永久に文明社会を救うことになるのです。 長い人生の中で、私が学んだ最も大きな教訓は、相手を信頼するにたる存在にする唯一の方法は、まず相手を信頼することだと言うことです。相手を不信に満ちた存在にする最も確かな方法は、相手を信頼せず、また自分の不信感を露骨に示すことです。 もし原爆を、従来の国際関係のパターンにはめて、さらに破壊力の大きい軍事兵器とのみ見なそうとすれば、ひとつだけ実施すれば事足ります。毒ガスの時にやったように、核兵器の将来的使用を警告する国際的慣習に依拠して、国家主義的軍事力の優位性を誇示し、秘密の帳をおろすという古くさいやり方を取ればよいのです。 しかし私は、そうではなく、原爆は人類が自然の力を制御するほんの第一段階に過ぎず、古くさい概念をもってしては、原爆は革命的に過ぎ、また危険すぎます。 人類は技術的にはその破壊力を進展させていますが、その力と自分やグループを制御する内面の力、それはモラルの力と呼んでも云いと思います。この2つの力が互いに競争をし、その競争の頂点を頭から押さえることが必要なのだと思います。 もしそうだとすれば、われわれのロシアに対するアプローチ方法は、人類の発展段階における進化の問題として非常に重要性を帯びることになります。 ロシアは抜きがたい問題です。ですから核兵器を統御しようといういかなる考察・検討も、基本的にはロシアの方向に向かってしまいます。私の判断ではアメリカが核兵器の議題について直接的で率直なアプローチを行えば、それに対して真摯な反応を返してくるのではないかと思います。そして、そのアプローチが全般から見て、国際的枠組みの一環としてなされれば、あるいはもしそのアプローチが、われわれの和平交渉の中で、一種の脅し、あるいは脅しに近いような一連の表明の後になされれば、ロシアは真剣な反応を返して来るのではないかと思います。 私の構想では、ロシアに対するアプローチは、イギリスとの協議の後に、直裁な形でなされるものです。そして事実上ロシアとの有効な協議ができるよう十分な準備がなされるべきです。協議の総体的な議題は、戦争の手段としての原爆の使用の制限と統御であり、可能な限り平和と人類の進歩のための原子力開発を鼓舞し、その方向性をはっきり示す事となります。 そのようなアプローチは、もっと具体的にいえば、軍事兵器としての核爆弾のこれ以上の改善、製造を中止することを意味し、同様な措置をロシア、イギリスにも求めて同意させる事を意味します。 また現在われわれが保有する原爆を進んで封印し、ロシアとイギリスがわれわれと共に、3国間の同意がなければ、戦争の手段として原爆を使用しないという合意をすることになります。またわれわれは同時に、商業的あるいは人道的目的のための相互に満足のいく形での原子力エネルギー開発を提案する国際合意を含む契約をイギリスとロシアとの間に締結することを、考慮しなければなりません。 私は、われわれの早急なる政治的考慮が適切になされるとすぐにそのようなアプローチをしたいと存じます。 恐らくは、ロシアに対するアメリカの提案としてのあらゆる考慮のなかでもとりわけ、イギリスの後援の下に、しかしアメリカ独自の提案としてなされる事の重要性を強調したいと思います。私の意見では、世界のその他の国々、この戦争に責任がなく、また示すべき潜在力もない小さな国々を含めて、そのような国々やグループの動きに対しては、ソビエトはそう深刻には受け止めないと思います。 各国との協議の前に、ソビエトとこの提案を巡る当たり障りのない議論をすることは挑発するだけで、ソビエトからは(この提案に合意しようとする)十分な熱意は得られないでしょう。私が申し上げたように、このことが全体の計画の中でもっとも重要なポイントでありましょう。 この戦争の勝利国の間で合意が得られた後、フランスや中国をこの国際約款に引き入れるための十分な時間があります。最終的には国際連合の枠組みのなかで国際合意がなされるよう協調していくことになります。原爆の使用は、アメリカの主導権と製造能力によってのみ世界から受け容れられています。私は、この要素がソビエトにわれわれの提案をソビエトに受け容れされるもっとも力強い、操縦桿であろうと思います。一方で私は、国際的議論で何か明確な形をとった結果が得られるかというと極めて懐疑的であります。 世界の歴史の中で、極めて重要な一歩を達成する最も現実的な手段がこの方法だと、私は主張するものです。 <ヘンリー・スティムソン 署名> 陸軍長官 |