(2010.8.19)
【関連資料】核兵器廃絶

 <参考資料>  ストックホルム・アピール
(Stockholm Appeal for Peace)について 

 1949年から1950年にかけてポーランド・ワルシャワで成立した世界平和評議会(World Peace Council-WPC)が1950年に出した「核兵器廃絶」アピール。1949年8月にはソ連が核実験に成功、アメリカに次ぐ核兵器保有国になっていた。また1950年6月に勃発した朝鮮戦争では、国連軍(事実上のアメリカ軍)総司令官、ダグラス・マッカーサーが核兵器使用を強硬に主張し、中国と北朝鮮の国境に投下すべしと云う議論が公然と行われていた。(のちトルーマン政権はマッカーサーを罷免、核兵器使用は見送られた。)

 こうした核兵器を巡る騒然とした状況の中で、世界平和評議会は、1950年3月ストックホルム・アピールを発表し世界の人々に核兵器不使用を訴えた。以下が内容。

 ・ われわれは、人民の大量殺戮と恫喝の道具である原子兵器が違法であると宣告することを要求する。 
 ・ われわれは、この手段を法的に執行するため、原子兵器の厳格な国際管理を要求する。 
 ・ われわれは、一体全体いかなる国に対してであれ、最初に原子兵器を使用するいかなる政府もヒューマニティに対する犯罪を犯すものであり、戦争犯罪人として扱われるべきだと、信ずる。 
 ・ われわれは、世界中の善意の男性そして女性にこのアピールに署名するように求める。
   (1950年3月19日) 
 ( なお、英語訳文は以下。
We demand the outlawing of atomic weapons as instruments of intimidation and mass murder of peoples.   
We demand strict international control to enforce this measure. 
We believe than any other government which first uses atomic weapons against any other country whatsoever will be committing a crime against humanity and should be dealt with as a war criminal.
We call on all men and women of goodwill throughout the world to sign the appeal.
私はこの英語訳文を国際民主法律家協会−International Association of Democratic Lawyersのサイトのページから引用した。
http://www.iadllaw.org/en/node/438>)

 当時平和評議会の議長は、フランス共産党員でノーベル賞物理学受賞者のフレデリック・ジュリオ・キュリーだった。彼が呼びかけ人代表となった。他に著名な呼びかけ人には、ジェルジェ・アマード(ブラジルの小説家)、ルイ・アラゴン(フランスの詩人)、マルク・シャガール(ロシアの画家)、モーリス・シュバリエ(フランスのボードビリアン)、フランク・マーシャル・デイビス(アメリカのジャーナリスト、詩人)、デューク・エリントン(アメリカのジャズ・ピアニスト)、リオネル・ジョスパン(フランスの社会党政治家、後首相)、トーマス・マン(ドイツの小説家)、イブ・モンタン(フランスの歌手)、パブロ・ネルーダ(チリの詩人)、ノエル・ノエル(フランスの映画俳優)、ジェラール・フィリップ(フランスの映画俳優)、パブロ・ピカソ(スペインの画家)、ジャック・プレヴェール(フランスの民衆詩人。シャンソン“枯葉”の詩は彼が書いた。)、ドミートリイ・ショスタコーヴィチ(ソ連の作曲家)、シモーヌ・シニョーレ(フランスの映画女優)など、学者・文化人・芸術家がズラリと並んだ。アメリカのフランク・マーシャル・デイビスは、このためアメリカのFBIに「反米活動」の容疑で思想行動調査をうけており、このFBI報告書が現在インターネットで読める。
(<http://www.usasurvival.org/docs/Frank_Marshall_Davis_4.pdf>)

 WPCはこのアピールにもあるように、世界で署名活動を開始し、2億7347万566人の署名を集めた。中でもソ連は総成人口のほぼ全員が署名したとされる。(以上英語Wikipedia<http://en.wikipedia.org/wiki/Stockholm_Appeal>などによる。)「ヒロシマ・ナガサキ」の記憶も生々しい1950年時点で、ソ連社会の市民たちがいかに「アメリカの核兵器使用」に恐怖を感じていたかを推測できる。
(日本語のサイト<http://kotobank.jp/word/%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%83%E3
%82%AF%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%
82%A2%E3%83%94%E3%83%BC%E3%83%AB>
は署名数を5億以上としているが、これは2009年末の累計のようである。)


 なお前出の国際民主法律家協会は、2010年6月18日・19日両日パリで、「ストックホルム・アピール60周年祝賀国際会議 1950−2010」を開催し、最終日採択した「宣言」で次のように述べている。

 『 1950年のストックホルム・アピールは次の3つの原理を公式にのべた。(1)核兵器の全面禁止、(2)全面禁止を実地に移すための管理機構の設立、(3)あらゆる国の核の先制使用を自制すること、またこのことはヒューマニティに対する犯罪であることの要求。

ヒューマニティに対する犯罪であった「ヒロシマ・ナガサキ」の恐怖は、ストックホルム・アピールの時点では、まだ人々の記憶になまなましかった。その結果ストックホルム・アピールは数億人の署名を集めた。この圧倒的な支持は、アメリカが朝鮮戦争で核兵器を使用することを抑止したのである。』

 アメリカのトルーマン政権がマッカーサーを罷免してまで、核兵器の使用を思いとどまったことに対する「ストックホルム・アピール」の影響は、それはわからない。しかし、もしこうした世界世論の声に逆らって、アメリカが朝鮮戦争で核兵器を使用していたら、それはアメリカの政治的自殺行為だったことは確実だろう。

 この宣言は次のように続ける。

 『 アメリカは2010年核態勢見直しで、核先制使用ルールを排除することに失敗した。同時に、アメリカは非核攻撃や非核軍事能力への対応として、核兵器を使用する選択を留保した。この戦略はストックホルム・アピールに違反するものである。

アメリカとイスラエルは、彼らの核兵器でイランや朝鮮民主主義人民共和国を一突きしようとまだがちゃがちゃやっている。これらの種類の脅威は国際法に照らして不法である。』

 またこの宣言は、

 『 核兵器不拡散条約が要求する、忠実な核軍縮交渉をするかわりに、アメリカとロシアは、その保有する核兵器の数量を制限する交渉を2国間で進めてしまった。この戦略は明らかに、現存する彼らの核兵器の貯蔵を正当化するものであり、それらは依然として「ヒロシマ」の数千倍の破壊力を有している。依然として核兵器は世界全体を脅かしている。ストックホルム・アピールの有効な実施は、2国間ではなしに、世界全体で行われるべきである。』

 と述べ、ブッシュ政権時代と表面打って変わったように見えるオバマ政権に全くごまかされていない。それも極めて単純な真理を並べた、ストックホルム・アピールの立場から世界を眺めているからだろう。

なお世界平和評議会(World Peace Council)そのものは、国連の重要なNGOの1つとして健在であり、「反帝国主義」「非同盟主義」を旗印に現在も活躍している。
(以下世界平和評議会のサイト<www.wpc-in.org>を参照の事。なお、日本のグーグルやヤフーでは、時にこのサイトにアクセスが禁止されていることがあるので注意して欲しい。)