【世界各国の基礎データ】
 (2010.11.10)
<参考資料>世界の中央銀行金保有ランキング 

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 イランの国営英語ニューステレビ放送局「プレスTV」は、2010年10月31日、「イランは今後10年間は金を心配しなくていい。」と題するニュースを発表した。(<http://www.presstv.ir/detail/148995.html>)

 この記事に拠れば、イラン中央銀行はこれまでに数百トンの金を輸入しており、今後10年間は輸入しなくても済む、という。イラン中央銀行総裁のマフムード・バフマーニは

昨年金1オンスの平均価格は656ドルだった。その時2−300トンの金を輸入したので、現在1オンス1230ドルの価格とすれば我々の金準備は1年間で数十億ドルの価値を増したことになる』

 ちなみに1トンの金は、3万2151トロイ・オンスの金に相当する。1トロイ・オンスはヤード・ポンド法による単位で31.103 4768グラムに相当する。金価格の単位になっている。同中央銀行総裁は、これでイランが保有する外貨準備の15%は金保有となった、と述べている。この記事はまた、先週(10月25日からの週)世界銀行はイランの外貨準備は1000億ドルに達した、とも書いている。この記事を信じれば、イラン中央銀行の金準備は150億ドルという事になる。1オンス=1230ドルの数字取れば、イラン中央銀行の保有する金は約1220万オンスの金、すなわち約380トンの金を保有していることになる。

 これは驚くべき数字だ。各国中央銀行が保有する金を含め世界の金の市場在庫・流通量は世界金評議会(World Gold Council。)によってほぼ正確に把握されおり(少なくともそうだとされており)、この記事で使う「各国中央銀行金保有ランキング」も同評議会の2010年9月発表資料を使う。そのランキング資料にはイランの名前は一切ないのだ。イランが保有する金の量は、同評議会でも把握してこなかった。仮に、イラン中央銀行が、2010年11月現在、380トンの金を保有しているものとすれば、このランキングでは、14位のポルトガル382.5トンの次、世界15位となる。

 現在、1944年のブレトンウッズ体制以来続いてきた「ドル本位制」に対する深刻な疑義が出され、金に対する世界的な需要が高まっている。金価格の急上昇については良く知られているとおりだ。

 同評議会が発表している「最近の中央銀行間金準備保有交換報告」(“Recent reported changes in central bank reserve holdings”)の「2002年1月以降。2010年9月更新」という資料(<http://www.gold.org/deliver.php?file=/value/stats/statistics/xls/Changes_latest.xls>)を見ても、2010年1月以来、ロシアは76.5トンの金を買い増しているし、フィリピンは20.8トン、タイは15.6トン買い増している。中でも耳目を集めたのは、2010年6月サウジアラビアが発表した買い増し量180トンだろう。もちろんサウジアラビアが2010年6月1ヶ月間でこれだけ大量の金を購入したのではなく、2008年から買い増してきたのを、今年6月になって発表したものだ。他にも水面下でイランやサウジアラビアのように金を買い集めている国があるかも知れない。(ないと考える方が不思議だ。)
 
 そういう意味でこのランキングは、金を巡る世界の大きな動きを把握する資料という捉え方が正解なのだろう。早い話、世界最大の金準備を持つアメリカは、この資料によれば8133.5トンの金を保有している。が、ケンタッキー州フォートノックスにあるアメリカ連邦準備制度の金保管設備に管理されている金は偽物が多い、という噂は以前から絶えない。しかし、あくまで噂だから信頼するに足りない。(の、だろうと思う。・・・かな?)
 
 次に「金準備」一般について見ておこう。(以下の記述は英語Wikipedia“Gold Reserve”<http://en.wikipedia.org/wiki/Gold_reserve>のほぼ丸写しである。またこの英語Wikiのランキングも世界金評議会の発表数字をほぼ使用している>)ランキングを眺める際の参考になるかも知れない。(まるきり素人の私には大いに参考になった。)

 「金準備」は、中央銀行あるいは国家機関が、価値蓄積、支払いの保証(例えば国債などいわゆるペーパーマネーの償還などに対する保証)、貿易決済あるいは通貨安定の目的で有する「金」のことである。従って以下のランキングの元の表題は「公的機関保有金」である。しかし内容を読んでみると、事実上各国中央銀行保有金であるため、この記事の表題を「世界の中央銀行金保有ランキング」とした。
 
 2004年末、流通している金(above-ground gold。すなわち退蔵されている金は含まない)の19%を、各国中央銀行や投資基金が、準備資産として保有していた。
 
 2009年末現在で。流通している金は16万5000トンと推定されてきた。2008年から2009年にかけての金価格を1オンス1000ドルと見れば、1トンあたりの金価格は3215万ドルということになる。従ってそれで計算すれば、世界に流通している金の時価総額は5兆ドル以上、ということになる。ちなみに2010年6月末現在のアメリカ財務省証券の発行残高(事実上の国債残高)は、13兆2000億ドルである。(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/Economy_of_the_US/05.htm>)
 
 2009年6月現在、国際通貨基金(the International Monetary Fund IMF)は、3217トンの金を保有していた。この保有量はここ数年ほぼ一定であった。2009年秋、IMFはその保有金の1/8を売却すると発表した。およそ403.3トンに相当する。うち200トンをインドに、10トンをスリランカに、2トンをモーリシャス諸島中央銀行に売却すると発表した。これら売却はその時の市場価格で行われた。IMFは実勢市場価格よりはるかに低い内部帳簿価格をずっと維持している。2000年この帳簿価格は35SDR(特別引出権)であった。これは1オンス47ドルに相当する。(特別引出権については国際通貨基金のサイトを参照の事。<http://www.imf.org/external/np/exr/facts/jpn/sdrj.htm>)
 
 「準備金」を現在の実勢価格で再評価しようという試みは、様々な理由で抵抗に遭っている。たとえばカナダは「準備金」の再評価の考え方に反対しており、これがカナダが金を公開市場で売却した理由かもしれない。このため(一時)金価格を押し下げた。
 
 IMFは定期的に各国からの報告によって、各国国家資産の統計を維持している。このデータは世界金評議会によって活用され、随時各国中央銀行および公的機関のランキング報告に使われている。ただしこの各国の金保有は、必ずしも実際に現物の金塊がそこにあることを意味しない。一般的にいって中央銀行は外部独立した会計監査を認めていないからだ。(特にアメリカ連邦準備制度=Fed、日本では何故かFRB=はそうだ。)
 
 2009年10月現在、金取引投資信託(gold exchange-traded funds)は、民間用・産業用として1750トンの金を保有していた。
 
 ゴールド・ホールディング・コーポレーション(金関連の上場会社<http://www.corporationwiki.com/Texas/Irving/gold-s-holding-corp/29294606.aspx>)は、公に都営引きされている金鉱山企業が統制している、確認された金資源(退蔵分はのぞく)は大ざっぱに5万トンあると推定している。
 
 以下は世界金評議会推定の用途別金保有の内訳である。(2008年)

貴金属宝石類 52%
中央銀行等準備 18%
投資目的(延べ棒、コインなど) 16%
産業用 12%
未分類 2%

 さて以下が、世界金評議会が作成した「世界の中央銀行金保有ランキング」である。



 世界の中央銀行金保有ランキング(註1)

順位 国   名 保有金
(トン)
準備比率
(註2)
1 アメリカ 8,133.5 72.1%
2 ドイツ 3,402.5 67.4%
3 IMF 2,907.0 (註3)
4 イタリア 2,451.8 66.2%
5 フランス 2,435.4 65.7%
6 中国 1,054.1 1.5%
7 スイス 1,040.1 15.1%
8 日本 765.2 2.7%
9 ロシア 726.0 5.7%
10 オランダ 612.5 55.8%
11 インド 557.7 7.4%
12 ヨーロッパ中央銀行 501.4 25.9%
13 台湾 423.6 4.1%
14 ポルトガル 382.5 79.6%
15 ベネスエラ 363.9 48.5%
16 サウジアラビア 322.9 2.7%
17 イギリス 310.3 15.6%
18 レバノン 286.8 25.2%
19 スペイン 281.6 35.9%
20 オーストリア 280.8 54.3%
21 ベルギー 227.5 33.8%
22 フィリピン 175.9 13.5%
23 アルジェリア 173.6 4.2%
24 リビア 143.8 5.1%
25 シンガポール 127.4 2.3%
26 スエーデン 125.7 8.7%
27 南アフリカ共和国 124.9 10.9%
28 国際決済銀行(BIS) 120.0 (註4)
29 トルコ 116.1 5.6%
30 ギリシャ 111.7 76.5%
31 ルーマニア 103.7 8.7%
32 ポーランド 102.9 4.2%
33 タイ 99.5 2.5%
34 オーストラリア 79.9 7.0%
35 クエート 79.0 (註5)
36 エジプト 75.6 7.7%
37 インドネシア 73.1 3.5%
38 カザフスタン 70.4 9.5%
39 デンマーク 66.5 3.1%
40 パキスタン 64.4 14.9%
41 アルゼンチン 54.7 4.0%
42 フィンランド 49.1 18.1%
43 ブルガリア 39.9 9.3%
44 西アフリカ経済通貨ユニオン 36.5 11.1%(註6)
45 マレーシア 36.4 1.4%
46 ペルー 34.7 3.6%
47 ブラジル 33.6 0.5%
48 スロバキア 31.8 62.8%
49 ベラルーシ 30.0 20.0%
50 ボリビア 28.3 12.6%
51 ウクライナ 27.2 3.3%
52 エクアドル 26.3 25.6%
53 シリア 25.8 (註7)
54 モロッコ 22.0 4.2%
55 ナイジェリア 21.4 1.8%
56 スリランカ 15.3 11.1%
57 韓国 14.4 0.2%
58 キプロス 13.9 44.7%
59 バングラデシュ 13.5 4.6%
60 セルビア 13.1 3.8%
61 オランダ領アンティルス 13.1 36.4%
62 ヨルダン 12.8 3.9%
63 チェコ共和国 12.7 1.2%
64 カンボジア 12.4 2.0%
65 カタール 12.4 2.0%
66 メキシコ 7.8 0.3%
67 ラトビア 7.7 4.0%
68 エルサルバドル 7.3 9.9%
69 中央アフリカ経済通貨ユニオン 7.1 2.0%(註8)
70 グアテマラ 6.9 4.5%
71 コロンビア 6.9 1.0%
72 マケドニア 6.8 11.9%
73 チュニジア 6.8 2.6%
74 アイルランド 6.0 10.4%
75 リトアニア 5.8 3.7%
76 バーレーン 4.7 (註9)
77 モーリシャス諸島 4.0 6.5%
78 タジキスタン 3.5 (註10)
79 カナダ 3.4 0.2%
80 スロベニア 3.2 11.3%
81 アルバ 3.1 14.8%
82 ハンガリー 3.1 0.3%
83 キルギス共和国 2.6 6.2%
84 ルクセンブルグ 2.2 10.8%
85 ホンコン 2.1 0.0%
86 アイスランド 2.0 1.6%
87 パプア・ニューギニア 2.0 2.8%
88 スリナム 1.9 9.4%
89 アルバニア 1.6 2.7%
90 イエメン 1.6 1.0%
91 カメルーン 0.9 1.0%
92 モンゴル 0.9 2.3%
93 ホンジュラス 0.7 (註11)
94 パラグアイ 0.7 0.6%
95 ドミニカ 0.6 0.8%
96 ガボン 0.4 0.7%
97 マラウイ 0.4 5.6%
98 モーリタニア 0.4 6.0%
99 中央アフリカ共和国 0.3 6.8%
100 チャド 0.3 2.7%
101 コンゴ共和国 0.3 0.3%
102 ウルグアイ 0.3 0.1%
103 フィジー 0.2 (註12)
104 エストニア 0.2 0.3%
105 チリ 0.2 0.0%
106 マルタ 0.2 1.7%
107 コスタリカ 0.1 0.1%
108 ハイチ 0.0 0.2%
109 ブルンジ 0.0 0.4%
註1 この表は2010年9月更新版。このデータはIMFの国際金融統計2010年9月版に依拠。IMFのデータは処理に2ヶ月かかるのでこのデータは2010年7月時点を反映している。過去6ヶ月以内にIMFに報告していない国は表から省かれている。保有量が0.05トン未満の国は「0.0トン」と表示されている。
註2 各国中央準備制度の保有する外貨準備のうち金保有の比率。金のドル換算については、2010年7月末時点の金価格、1トロイ・オンス=1169ドルを使用。(1トンは32,151トロイ・オンス)
註3 このデータは2010年9月7日にバングラデシュに販売した10トンを省いてある。IMFは後93トンを販売用として残している。
註4 国際決済銀行のデータは年次報告書に依拠している。数字は金投資残高。契約末年にスワップ取引に関連して返却することになっている金は除いてある。
註5 外貨準備高を公表していない。
註6 西アフリカ経済通貨ユニオン(West African Economic and Manetary Union)は参加各国中央銀行を含んでいる。参加国は、ベニン、ブルキナファソ、コートジボアール、ガンビア、ガーナ、ギニア・ビサウ、リベリア、マリ、ナイジェリア、セネガル、シオラ・レオネ、トーゴの13カ国。後2カ国が国内クーデタのため資格停止。
註7 外貨準備高を公表していない。
註8 西アフリカ経済通貨ユニオン(Central Africa Economic and Manetary Union)には参加各国中央銀行を含んでいる。参加国は、アンゴラ、ガボン、カメルーン、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、サントメ・プリンシペ、赤道ギニア、チャド、中央アフリカ、ブルンジの10カ国。
註9 外貨準備高を公表していない。
註10 外貨準備高を公表していない。
註11 外貨準備高を公表していない。
註12 外貨準備高を公表していない。