(2010.4.15) | |||
No.005 | |||
外務省の「猿芝居」?トマホーク退役発表の不自然さ |
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2010年4月6日、アメリカ国防省(DoD)は、「核戦略態勢見直し」(Nuclear Posture Review−NPR)を発表した。国防省で記者会見が行われ、国防省側はスライド・プレゼンテーションを使って説明する中で、説明役の一人、統合参謀本部副議長、ジェームズ・カートライト(James Cartwright)(海兵隊大将)は、わざわざトマホークの退役をおごそかに発表した。 (発表スライド<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/obama_23.htm>では、8枚目) これが極めて不自然であり、唐突なのは、話題の「トマホークTLAN/N」(核弾頭が搭載できるトマホークのタイプ)が廃品寸前のポンコツであり、カートライトも記者会見で述べているように「事実上長い間配備もしていない」シロモノだからだ。 (<http://www.globalsecurity.org/military/library/news/2010/04/mil-100406-dod04.htm>) こんなものの退役をわざわざ取り上げる必要もないはずなのに、おおげさにとりあげる不自然さである。 アメリカ科学者連盟のハンス・クリステンセンによれば、
と述べている。 要するにトマホークTLAN/Nは、時代遅れの無用の長物であり、実際実戦配備もされていない。こんなものを退役させるのは当然だ。すでに、トマホークに替わり、その数十倍もの核兵器能力が「太平洋戦域」を、日本の核の傘を含めて、強力な拡大抑止力でカバーをしている。 09年5月に発表された「アメリカの戦略態勢議会委員会最終報告書」作成中の協議の中で、日本の高官が、「日本を核大抑止しているトマホークを予定されている2014年に退役させないでくれ。」という要求があったことを先の議会報告書は指摘している。 (<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/USA_SP/strategic_posture_4-2.htm>を参照の事。) クリステンセンの指摘を念頭に置いてみると、いかにも日本の要求は、不可思議な要求であり、いかにも不自然な「報告書」の記述だ。 当初、アメリカと日本で、「核の傘」の実情が情報共有されていないのか、とも思った。しかしこれも納得しかねる、間の抜けた話だ。日本の外務省や防衛省はもっと密接に協議しており、日本側が、太平洋戦域におけるアメリカの「核の傘」の実情を知らない、と考えることはできない。 しかし、その後、「有識者委員会」の「核密約報告書」の発表のあと、「今後日本へはアメリカの核兵器の一時立ち寄りはないのか?」という質問に、民主党政権の外相岡田克也が、再三再四「トマホークが退役するので、通常はアメリカの核兵器が日本に立ち寄ることはない、と信ずる。」という意味合いの発言を繰り返している。 (たとえば次のようなブログを参照の事。<http://blog.yuto.net/?eid=914468>) この発言自体が、先の「核の傘」の現状と照らし合わせてみるとピンぼけの発言だ。というのは日本の「核の傘」の実情はすでにトマホークではないのだから。 だが、ちょっと待て、こうやって一連の出来事をつなぎ合わせてみると、「密約報告書」発表に合わせて、「トマホークが退役するのだから、もう日本にアメリカの核兵器が一時寄港することはありません。」というイメージ作りを狙った外務省プロデュースの「猿芝居」だったのではないか、と思えてくる。 こう考えてみると、昨年からの、日本側の不自然な動きも説明がつくし、アメリカ側の不自然なほどの大げさな取り上げぶり、今回発表のアメリカのNPRでわざとらしく、アメリカがもう廃品同然のトマホークTLAN/Nの退役を発表することの不自然さも説明がつく。 つまり、「日本にアメリカの核兵器が一時寄港することは、これからはない」という「イメージ」―実際には自由に出入りする―を日本の市民の間に定着させることが狙いの「猿芝居」だった、という解釈である もしこの推測が正しいものだとすれば、外務省は、「トマホーク退役反対表明」、「アメリカの戦略態勢委員会報告書」の完成・発表、「有識者委員会」の密約報告書の完成発表、「核兵器搭載艦船の一時寄港はないと信ずる」発言、アメリカNPRでの「トマホーク退役正式発表」までを一連のストーリーとして捉えて、「アメリカの核兵器が日本に一時寄港することは、今後はない。」とするイメージ作りと世論操作を狙ったものだ、ということができる。 しかし、それにせよ「猿芝居」であることには変わりない。 |
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