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厚労省 |
「放射能汚染された食品の取り扱いについて」 |
2011年3月17日 |
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2011年3月11日東京電力福島第一原子力発電所事故(以降「3.11」)直後に、厚生労働省が「厚生労働省医薬食品局食品安全部長」名で出した文書。「飲食物摂取制限に関する指標」として暫定規制値を定めている。この「規制値」は2012年3月31日まで有効だった。またこの規制値にもとづいて「風評被害」などという概念が風靡した。2011年4月1日を期してそれまでの「風評被害食品」が立派な「放射能汚染された食品」に早変わりする。 |
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2 |
食品安全委員会 「放射性物質に関する緊急とりまとめ」の通知について |
2011年3月29日 |
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食品安全委員会は、内閣府の審議会で、食品安全基本法に基づいて食品安全行政を行う機関であり、本来は食品安全委員会が審議し、その中身を厚生労働大臣に答申し、その答申に基づいて厚労省が「食品安全行政」をおこなう建前になっている。ところがこの「食品安全委員会 委員長 小泉直子」名の「厚生労働大臣 細川律夫」あての文書は、日付からして官僚行政を正式設置機関が追認している。はしなくも食品安全委員会がお飾りであることを露呈した格好。それはそれとして、ここでの議論は非常に面白い。第T番目に徹頭徹尾ICRPの勧告・意見に立脚した論理構造になっていること。従って第二にすべての食品基準がICRPの“仮説”基づいていること。それは食品安全委員会自身が『ICRPは放射線分野における国際的な組織であり、その提言は一定の根拠を有し、緊急時のリスク管理措置の参考になるものと思われるが、入手できた資料からはその根拠について確認できていない。』と率直に認めている。(p24)第三に、ここで議論されている内容が、放射線被曝から市民を守ることを目的とした議論なのではなく、いかに原子力産業と折り合いをつけるか、健康を守るよりも、いかに社会の沈静化、低線量放射線被曝に不安に対して社会を沈静化させるかに、関心が注がれていること、などの特徴が指摘できる。たとえば、『食品中の放射性物質は、本来、可能な限り低減されるべきものであり、特に、妊産婦若しくは妊娠している可能性のある女性、乳児・幼児等に関しては、十分留意されるべきものであると考える』(p6)といいながら、乳幼児や妊産婦あるいはその可能性のある女性に対する特別な食品規制値を設けていないことや、『緊急時の対応とそうでない時の対応を混同することがないよう、リスクコミュニケーションについても関係者は努力する必要がある』(p24)としているところにそれが窺える。政府・厚労省・環境省・農林省などが「放射能汚染食品」についてどのような対応をしようとしているかを知るには格好の材料。 |
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薬事・食品衛生審議会 食品中の放射性物質に関する当面の所見 |
2011年4月4日 |
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薬事法に基づいて医薬品・食品に関する安全性にかんして厚生労働大臣に対して意見具申をする審議会が薬事・食品衛生審議会。同会の食品衛生分科会が2011年4月4日に公表した「所見」。中身は2011年3月17日の厚労省「暫定規制値」、それを追認した格好の3月29日食品安全委員会の「答申」をさらに薬事・食品衛生審議会として追認したもの。ただし食品安全委員会は曲がりなりにも議論したあとがあるが、これは全くその気配もない。厚労省の官僚が作文したものと見える。 |
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4 |
食品安全委員会 放射性物質の食品健康評価に関するワーキンググループ |
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第1回会合(2011年4月21日)から第9回会合(7月26日) |
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第1回会合において配布された資料の中でこのワーキンググループ設立のいきさつを大要次のように述べている。『2011年3月29日に「放射性物質に関する緊急とりまとめ」を公表したが、引き続き食品健康影響評価を行う必要がある。そのため専門家を集めてワーキンググループを作った』
福島原発事故の直後、厚生労働省は「放射能汚染食品暫定規制値」を公表した。この内容を追認する形で、汚染食品のリスク評価に責任を持つ食品安全委員会が「暫定影響評価書」をだした。それが「放射性物質に関する緊急とりまとめ」である。本来順序が逆である。本来独立機関である食品安全委員会はリスク評価、厚労省や農林省はそうしたリスク評価に基づくリスク管理機関が建前である。しかしこの時はなりふり構わず、厚労省の高級官僚がものごとを主導している実態をさらけ出した。しかし厚労省も食品安全委員会もこれで終わったと考えてはいない。「放射能内部被曝は汚染食品摂取で発生」する実態をかれらもよく知っているからだ。「暫定」ではない「食品汚染規制値」を作る必要がある。それでこのワーキンググループが発足した。従ってこのワーキンググループの使命は「影響評価書」作成にある。事務局を厚生労働省屋農林省の役人が握る以上、独自の「評価書」ができるわけもない。
しかしその内容は、資料豊富で極めて興味深い。第1回会合から第9回会合まで必要と思われる資料をピックアップして掲載することにした。身も蓋もなく言ってしまえば、それは、ICRP(国際放射線防護委員会。その実態は核保有各国の原子力利益共同体の規制当局者とそれを正当化する科学者の集合体なのだが)の「放射能観」とその科学的外装をいかに日本の放射能汚染食品行政に反映させるか、に関する議論である。しかし興味深い。
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<第1回会合> |
専門委員名簿 |
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主な検討課題 |
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事務方(つまり役人)から提示された検討課題である。案となっているものの、事実上の決定事項である。特徴的には電離放射線の健康影響をほぼ「がん」に限定していること、この時点では「ウラン並びにプルトニウム及び超ウラン元素(アメリシウム及びキュリウム)のアルファ核種」、「ストロンチウム(放射性セシウムに関連して)」、「放射性ヨウ素及び放射性セシウム」など原子炉(使用済み核燃料)に由来する放射線核種を全般的に扱おうとしたこと、があげられる。放射線による健康影響をほぼ「がん」に限定するのは、ICRP派学者の大きな特徴であり、悪影響を過少評価する傾向に直結している。 |
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議事録 |
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一応詳細議事録の建前だが、別な文書では「個人の秘密等が開示され特定の者に不当な利益または不利益をもたらす恐れ」がある場合はその限りではないと断っているので、すべてが公表されているわけではない。通読して思うのは、このワーキンググループ(以下WG)に参加している科学者・専門家も、その多くは「放射線」や「放射能による人体損傷」については素人並、ということだ。しかしそれでかえって良かったのかも知れない。今日本においてこの問題の専門家ということはすなわちその多くはICRP派の学者、規制行政当局者のことを意味する。このWGは全体としては、政府官僚・ICRP派の学者の見解に引きずられていくのだが、中でも「この問題のシロウト」が結構鋭い質問を発し、ICRPの学説体系全体の根幹に関わるテーマを提起していて興味深い。ICRPの学説体系全体は大きな「無理の基盤」の上に立っている。「無理の基盤」という意味は「不合理の基盤」ということでもあり「詭弁の基盤」ということでもある。それは一言でいうと、本来「危険な放射能」をいかに「危険を最小化」し、かたわら安全であるかのように見せかける体系でもある。従ってそこで使われる概念や用語は非常に複雑でわかりにくい。しかも矛盾に満ちざるを得ない。「シロウト」の質問は、知ってか知らずかそこを衝いていく。一般市民が必読の議事録だろう。(別途「第1回ワーキンググループ議事録解説」を参照のこと) |
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<第2回会合> |
専門委員名簿 |
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ATSDR等の核種別文献リスト |
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ATSDR(Agency for Toxic Substances and Disease Registry−アメリカ連邦政府「毒性物質と疾病登録局」)は、政府保健社会福祉省傘下の保健行政機関の一つ。危険性物質に対するヒトの暴露を最小化することを任務としている。放射性物質もそうした危険性物質のひとつであるために、その毒性と疾病との関係も調査研究している。そうしたATSDRの研究から、ヨウ素、セシウム、プルトニウム、ストロンチウムに関する研究を抜き出してリスト化している。ウランについてはEFSAの研究。EFSA(European Food Safety Authority)は、欧州食品安全局で、食品や飼料に関連するリスク評価を行い、安全性について欧州委員会などに科学的助言を行う機関。欧州委員会とは独立した機関として2002年に設立。 |
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原子炉の使用済み核燃料に含まれる核種 |
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次の4つの資料が含まれている。「加圧水型原子炉(PWR)に含まれる元素」、「放射性核分裂生成物質の減衰」、「元素の融点及び沸点」、「チェルノブイリ事故」。福島原発は沸騰水型原子炉なので、何故加圧水型原子炉の例が出されているのか理解に苦しむところだが、両者でてくる物質はほぼ同じという理解をするしかない。この表は「新燃料中のウラン1tあたり、取り出し後150日経過した時点の量」という注がついている。「チェルノブイリ事故」と表題がついている資料は表題が恥ずかしくなるほどお粗末。 |
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食品中の放射性物質の検査の概要について |
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厚生労働省食品安全部監視安全課が事故発生から2011年4月25日まで検査した食品のうち4月25日までに公表した資料から作成している。この時点では「暫定規制値」は次の通りだった。
放射性ヨウ素 |
飲料水・牛乳・乳製品 |
300Bq/kg |
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野菜類 |
2000Bq/kg |
放射性セシウム |
飲料水・牛乳・乳製品 |
200Bq/kg |
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野菜・穀類・肉・卵他 |
500Bq/kg |
つまりは規制値はあってなきが如き状況だった。政府の意向を受けた大手マスコミがさかんに「風評被害になく産地」キャンペーンをはじめたのもこの頃だ。(大手マスコミは自分の報道の検証をしないのだろうか?)この時の調査に従っても、全2047件という極めて少ない検査数でも、規制値超過となった検体は208件と全体の約1割にのぼっている。汚染食品が発生した地域は、福島県はもちろん茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都とほぼ日が日本の太平洋側の都県に及んでいる。
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放射線防護の体系―ICRP2007年勧告―を中心に |
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この会合当日、専門参考人の一人で日本アイソトープ協会の常務理事佐々木康人が発表したプレゼン資料である。佐々木康人は、ICRP派の大物学者の一人で、放射線防護を専門分野としている。東京大学医学部放射線科教授歴任。東京大学付属病院放射線部部長、東京大学医学部付属看護学校長兼務。科学技術庁放射線医学総合研究所所長、独立行政法人放射線医学総合研究所理事を経て日本アイソトープ協会の常務理事に納まっている。国際放射線防護委員会(ICRP)主委員会委員、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)日本代表、同議長を務めた、というからいわばコテコテ。しかしこの資料は面白い。ICRP勧告は日本語訳資料を読んでも難解極まる資料である。それは内容が難解だからなのではなく、全体が矛盾の体系に立っているからである。この資料はその「難解」な2007年勧告の骨子を整理して説明してくれている。それだけに矛盾の体系の骨格がよく見える。
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議事録 |
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第2回会合は、大きく3つのパートに分かれる。「原子炉の使用済み核燃料に含まれる核種」に関する専門参考人の岩崎智彦の講義。東北大学の工学の教授。核廃棄物の消滅処理、
臨界集合体を用いた原子炉物理、中性子核反応に関する研究 など。原子炉の専門家である。岩崎の分析は面白く大いに勉強になった。ただしこの会合の時期は2011年4月下旬であり、政府は全く炉心溶融の事実を認めていなかった。従って岩崎の分析も炉心溶融はないものとしての分析で、今は大いに事情が違うだろう。第2のパートは佐々木康人による「ICRPの放射線防護」に関する考え方とその実際。特に2007年勧告の大きな特徴に関する講義は勉強になった。第3のパートは今後の調査研究の進め方と範囲に関する議論。すでにヨウ素とセシウムにターゲットは絞っているものの、一応「α核種」についても研究しておこう、という話。
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<第3回会合> |
専門委員名簿 |
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U、Pu、Am 及びCm の比放射能及び換算係数について |
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ウラン、プルトニウム、アメリシウム、セシウムの4元素に関する比放射能と換算係数である。比放射能について日本語ウィキペディアの同項目は次のように説明している。
『(英: Specific Radioactivity)または質量放射能とは、放射性元素を含む物質の、単位質量あたりの放射能の量のこと。言い換えれば、単位時間・単位質量あたりの放射性元素が壊変する回数である。単位は、ベクレル毎キログラム(記号:Bq/kg)である。比放射能が大きい元素ほど、多くの放射線を出す能力があると言える。放射性元素には、それぞれに固有の半減期があり、同じ質量の放射性元素でも、放出する放射線量が異なる。半減期が小さいほど、多くの放射線を出すために、比放射能は半減期と逆数の関係にある。例えば、半減期8日のヨウ素131の比放射能は
4.6×1018 Bq/kg であるが、半減期30.1年のセシウム137の比放射能は 3.2×1015 Bq/kg である。同じ質量のヨウ素131とセシウム137を比較した場合、ヨウ素131の方が1秒間で約1,000倍多い放射線を出す能力がある。純粋な放射性同位元素に対して、「質量を基準に」論じた場合において、半減期が長い放射性物質の方が危険という表現は完全に誤りである(放射能を基準に、すなわちBq単位で見た場合には長寿命各種の方が危険性が高い)』
つまりは元素質量あたり放射能の量のことである。日本語ウィキペディアは「比放射能」の単位を「Bq/kg」としているが、この表では単位を1グラムあたりの「キュリー」で表現している。1キュリーは3.7X1010である。一方換算係数というのは、単位あたりの放射性元素の量(濃度)を実効線量に換算する係数ということである。 |
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国際機関等における水質基準値、ガイドライン値 |
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WHOの飲料水含有放射線核種の上限値とアメリカ環境保護局の水質基準値の表。 |
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アメリシウム知見のとりまとめ |
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「米国有害物質・疾病登録局(ATSDR)の毒性学的プロファイルを基」にした、というとおり、ATSDRのアメリシウムに関する調査・研究を包括的にまとめている。アメリシウムはアクチノイド系列(原子番号89から106まで)の超ウラン元素。プルトニウム241がβ崩壊して生成される。 |
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ウラン知見のとりまとめ |
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WHO飲料水水質ガイドライン、EPA/統合リスク情報システム(IRIS)のリスト、米国有害物質・疾病登録局(ATSDR)の毒性学的プロファイル、EFSA の意見書などを元に総合的にまとめている。 |
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プルトニウム知見のとりまとめ |
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ATSDRの毒性的プロファイルを基に包括的にまとめている。 |
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放射性物質の食品健康影響評価の基本的考え方 |
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第2回WGの結果を踏まえ、事務局がまとめたWG作業方針書。このWGの目標とその限界が余すところなく示されている。特徴としては@ICRP派の学説を「科学的真実」として全面的に受け入れている。A評価対象核種はヨウ素、セシウム、ウラン、プルトニウム。さらにストロンチウムを追加している。B食品健康影響評価は本来平時、緊急時の区別はないと指摘している。C外部被曝は増大しないことを前提に、事実上内部被曝影響に焦点を合わせる。 |
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議事録 |
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α核種、ストロンチウム、α核種とβ核種の放射性物質、ヒトの健康に及ぼす影響についての評価に関し管理措置に評価が影響されることがないよう留意する、外部被ばくは著しく増大しないということを前提とて、放射性物質の食品健康影響評価について検討する、といった点が当初の議題だったが、実際にはウランとアメリシウムの毒性説明に終わっている。それよりも興味深いのは、「評価と管理」を本当に分けられるのか、外部被曝は一応無視して、内部被曝だけを評価するのか、といった議論。この議論は、食品安全評価を環境濃度の高い場所(例えば福島県)とそうでない場所を一律に論じていいのかといった議論に繋がるが深められた後はない。 |
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<第4回会合> |
専門委員名簿 |
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モニタリングによる核種の検出状況 |
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厚生労働省公表の食品中に含まれるヨウ素とセシウム(2011年6月22日まで)と文部科学省が2011年4月12日に発表した「陸土及び植物中に含まれる放射性ストロンチウムの分析結果について」という資料が含まれている。厚労省の資料はサンプル数も少なく、「暫定規制値」を超過したかしないかを問題にした表でほとんどなんの参考にもならない。文科省の資料はベクレル表示でありそれなりに面白いが、サンプル数が極端に少ない。両資料とも、厚労省も文科省もあまり調べたくはないのだな、ということが窺えるだけだ。 |
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遠山専門委員提供小児白血病関連論文一覧 |
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専門委員の遠山千春が提出した小児白血病に関する研究論文の一覧である。遠山は環境保健学学者で東大教授。国立環境研究所出身で勉強家である。安井至とのダイオキシン論争でも有名。この一覧で面白いのは遠山はICRP派の学者ばかりでなく幅広く蒐集していることだ。また彼がチェルノブイリ事故による低レベル放射線健康損傷にも興味を抱いていることがわかる。またECRR派の頭目の一人と目されるイギリスのクリス・バスビーの論文が2本入っていることも注目される。 |
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放射性ヨウ素知見とりまとめ |
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これまでの「知見とりまとめ」と違って様々な資料を当たって作成されている。しかし全体として言えばICRPやアメリカ国立がん研究所の資料からの引用に見られるように、チェルノブイリ事故からの様々な多様な研究を無視していることは大きな特徴である。 |
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放射性セシウム知見とりまとめ |
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これも出典を幅広く求めている。ただチェルノブイリ事故関連の研究、特にセシウム137による健康損傷の研究は一切無視である。 |
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ストロンチウム知見とりまとめ |
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これもICRPお墨付きの論文で固めている。事務方がこのワーキンググループの結論を一定の方向に持っていこうとしている意図がよくうかがえる。核実験による南太平洋市民いたいする健康影響に関する知見が入っていてもよさそうではないか。 |
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議事録 |
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ヨウ素、セシウム、ストロンチウムを扱ったWGであり、一つのハイライトの筈だが、この3元素の健康影響に関する議論が深まっていかない。議論が深まらない原因の一つは、この3元素、特にセシウムとストロンチウムに関して低線量被曝に関する研究データがあまりに少なすぎると言うことだろう。それでは何故データが少ないのかと言うことになると、その大きな理由は健康損傷のエンドポイントを「がん」、「白血病」に限定しているという点だ。これはこのWGが、全体としていえば、ICRPの学説体系を下敷きにリスク評価をしようという点にある。実際チェルノブイリ事故で、セシウム137による健康損傷で研究データは山ほどある。そうしたデータは多くは「がん」がエンドポイントではない。心臓病であり、呼吸器系の障害であり、不妊や突然死である。こうした研究データに目をつぶったまま、健康影響評価をしようと言う点に無理があるし、それが本来ハイライトであるべきこの議論を低調なものとしている。(食品安全審議会の議論などは、所詮行政的アリバイ作りだ、といってしまえば身も蓋もない。)
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<第5回会合> |
専門委員名簿 |
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アメリシウムとりまとめ |
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先回会合で事務局から提示された「アメリシウムの知見」と大きくは変わらない。こうしたまとめを見るとアメリシウムを放射性物質と見ているのか重金属と見ているのかわからなくなる。以下「ウランとりまとめ」、「キュリウムとりまとめ」、「プルトニウムとりまとめ」も同様。 |
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ウランとりまとめ |
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キュリウムとりまとめ |
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プルトニウムとりまとめ |
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モニタリングによるα核種の検出状況 |
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「福島第一原子力発電所構内における土壌中の放射性物質の検出状況について」という経産省資料で2011年3月28日の日付がついているもの。文科省資料で福島原発から20-30km圏内でのプルトニウム、ウランの分析結果と表題がついていて、4月1日、4月26日のもの。同じくアメリシウム、キュリウムを対象に6月13日のもの。大きくこの2種類の資料から成り立っている。内容は、おおむね今回事故でこうしたα核種は出なかった、あるいは出ても微量としている。 |
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放射性物質の食品健康影響評価の進め方(たたき台) |
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これまでの会合を踏まえ「影響評価の進め方」のたたき台が出ている。特徴は、@α核種及び必要性が高くない核種についてはSv(実効線量)で評価する。A低線量における影響評価はLNT仮説を使用する。というものでこれでは議論の必要は全くなかったのではないかという気がする。 |
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議事録 |
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主としてα崩壊核種の毒性について知見を得ることに終始したように見える。その知見は事務方が準備した資料を基おこなわれるため、比較的高線量でのデータ屋動物実験によるデータなど、主としてICRP派学者の研究データが使われ、結論として低線量分野でのデータがない話になっている。たとえば、アメリカのワシントン州兵器級プルトニウム工場の労働者の健康損傷を調べたマンキューソの研究や湾岸戦争・イラク戦争などで使用された劣化ウラン弾微粒子による健康損傷などのデータは一切取り上げられていない。 |
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<第6回会合> |
ストロンチウムとりまとめ |
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放射線核種をどう評価するかは、それらが食品中に取り込まれた場合の健康影響評価に直結する。従って「とりまとめ」のためのデータをどこに求めるかは、このWG全体の評価体系そのものに直接影響する。これまでの「とりまとめ」のケースでは、ことさら高線量におけるデータや動物実験での結果、あるいは化学物質としての研究データなどが混在し、ことさら「低線量被曝」における影響評価を混乱させるようなデータの盛り込み方である。それでは低線量における影響研究データはないのかというとそうではない。これまで世界の核施設から放出された放射能による研究データ、核種核事故における研究データ、また核施設で働く労働者や周辺住民の健康影響調査のデータは山ほどある。こうした多くの貴重なデータは、「科学的根拠」がないとして一切無視されている。こうした態度は決して「科学的」ではない。科学的とは無視することでなく、正面から反論し批判し尽くすことだ。彼らは「科学的でない」とするデータを無視する態度は決して「科学的でない」。さすがにこのストロンチウムとりまとめでは、最後に専門委員からのコメントとして旧ソ連のマヤック核施設事故に関連して、大量に放射能が流れ込んだタチャ川周辺住民の健康影響に言及して、『最近のTacha
River のコホート研究からは、低線量の被曝においてもリスクの増加が示唆される』という一言を差し挟んでいる。以下「ヨウ素とりまとめ」、「セシウムとりまとめ」についても全く同様なことが指摘できる。 |
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ヨウ素とりまとめ |
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セシウムとりまとめ |
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モニタリングによる核種の検出状況 |
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厚労省2011年6月22日付「食品中の放射性物質の検出の概要について」、水産庁の6月27日付資料「水産物のストロンチウム測定結果について」、文部科学省の6月9日付資料「福島原発から20km以遠の土壌におけるストロンチウムの調査結果」、東京電力6月12日付資料「タービン建屋付近のサブドレインからのストロンチウムの検出について」、東京電力6月12日付資料「原発取水口付近で採取した海水中に含まれるストロンチウムの分析結果について」の5種類の資料から成り立っている。 |
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議事録 |
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いつものように、事務方の資料説明が長々と続く。事務方の提出資料が会議の方向を決めてしまう側面が強いので、この会合の独自性が疑われる結果となっている。しかし時々はこの流れに抵抗を示す発言も見られる。
遠山専門委員:『・・・食品からどれくらい摂取するかということについて言えば、たとえば、この食品安全委員会でもカドミウムのリスク評価をした時は、モンテカルロ法という方法を使って、実際日本人の集団がどのくらい米に含まれるカドミウムに暴露した時に、現実的に97%とか99%の人がカドミウムに対して暴露するかというエスティティメーションをしているわけですよね。』と述べ、同じような方法論を放射性物質で汚染された食品にたいしても取り得るなどと主張をするが、全体の事務方主導の流れとそれに同調しようとする山添座長の議事進行には逆らえない。 |
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<第7回会合> |
ウラン知見のとりまとめ(案) |
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徹頭徹尾ICRP派の研究をベースにしたとりまとめである。従って「ウランの経口摂取によるヒト及び動物における発がんの報告は見当たらない。」という驚くべき一文からこの「とりまとめ」は始まっている。これは「科学」というよりむしろ宗教的信念である。 |
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人体中の放射性核種についての試算 |
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「ICRP 標準人(体重:70 kg)の人体の主要な元素組成」が表示され、ルビジウム :0.32 g、ウラン :0.00009 g、ポロニウム(210Po):19
Bq(210Pb):16 Bqが含まれるとする。そして日本人男性に含まれる放射性核種とベクレル数として「炭素 :16,000 g x 65.3/70
x 0.24 Bq/g-C = 3,599 Bq カリウム :140 g x 65.3/70 x 30.2 Bq/g-K = 3,956 Bqルビジウム
:0.32 g x 65.3/70 x 890 Bq/g-Rb = 267 Bq、ウラン :0.00009 g x 65.3/70 x 12,400
Bq/g-U = 1 Bq、210Po :19 Bq x 65.3/70 = 18 Bq、210Pb :16 Bq x 65.3/70 = 15
Bq 計 7,856 Bq」というお馴染みの表が示される。電離放射線核種それぞれの人体に対する影響は大きく違う。(質の違い)。また人によっても感受性は違う。(質の違い)こうした質の違いを全く捨象して、全部放射能の濃度(ベクレル値)に還元して比較し、そのリスクを評価しようということだ。これは少なくとも科学でも論理でもない。(象1頭と蟻10匹はあり10匹の方が多く、あり10匹はほとんど人間生活には影響はないのだから、象1頭は全く影響しない。古代ギリシャに遡る詭弁論法である) |
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低線量におけるヒトへの影響に関する知見の整理 |
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全部で9例あげている。「フクシマ放射能危機」に対処する「食品安全リスク評価」において、もっとも重要な点は、食品経口摂取による慢性内部被曝である。この9例のうちそれに適切に該当する例は一例もない。自然の放射能による被曝研究が3例、医療被曝が1例、チェルノブイリ事故による研究が2例、職業被曝の研究が1例、広島・長崎の原爆被曝の例が1例。これではまるで不適切な研究ばかりをよりだした観がある。特徴的にはすべて疾病を「がん」「白血病」に限定している点だ。
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評価書(たたき台) 食品中に含まれる放射性物質 |
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これまで6回の会合を通して早くも評価書のたたき台が提案されている。委員はやっとゆがんだ形で「知見」を得たばかりではないか。事務方主導のWGである。
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論点に関する座長メモ 7月13日付 |
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山添座長がまとめた論点整理メモである。これまでの主要な論点、たとえばこの食品安全基準は緊急時の基準か平時の基準か等という論点は解決済みとされている。注目される論点は、『低線量の放射線による影響には科学的に不明な点も多いこと(今の科学の限界)を踏まえ、どのように評価結果を取りまとめるか。』と言う点である。これはICRP的アプローチの限界を自ら示したものとも言える。ICRP的アプローチは徹底的に物理量に基づく疫学的アプローチ(ヒトには個体差は全くなく、一定のインプットがなされれば決まった一定のアウトプットがなされるというロボット人間観に基づく統計的・確率的世界)の限界を示している。これは科学の限界なのではなく彼らの方法論の限界である。放射線被曝の人体損傷が細胞損傷に由来する者である以上、低レベル放射線損傷の世界では、疫学は全く通用しない領域なのである。
次に注目される点は、「胎児・小児への影響を成人への影響と区別するかどうか。」の論点である。結局、乳児(生後12ヶ月未満)は区別するが、幼児・子どもは成人と同じ扱いにしていくことになる。
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議事録 |
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別添資料の「評価書(たたき台) 食品中に含まれる放射性物質」の沿って話が進められている。もうすでにまとめに入っているという感じだ。ただ事務方は「ECRRの動向も一部参考資料として掲載。」と述べているようにかつてのように、反ICRP派の研究も無視できなくなっているという感じがする。(実際にはけんとうしたというアリバイ作りで無視するのだが)。それと意外にICRPを支持すると見えている学者の中にも、ICRPの重要な仮説、「直線しきい値なし」(LNT)に対する不信感は強い。座長の山添は事務方の提出するICRP学説にそったまとめ方をしようと四苦八苦している。しかし、電離放射線の影響を「がん」と「白血病」に限定しようとすれば、議論は所詮不毛に陥らざるを得ない。
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<第8回会合> |
食品健康影響評価(たたき台) |
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第7回会合の結果を踏まえたたたき台。事務局としては不本意に後退した内容になっている。それは一言で云って低線量の影響を示すデータがあまりにも少ないことによる。それは世の中にないというのではなくて、事務方が無視しているからに他ならない。事務方が無視する理由は電離放射線の影響を「がん」と「白血病」に限定しているからだ。むしろこの「たたき台」で重要なところは「おわりに」に集約的に示されている。
『累積線量(生涯100ミリシーベルト未満)に基づいて食品中の放射性物質のリスク管理をおこなう場合、食品からの放射性物質の検出状況、日本人の食品摂取の実態を踏まえてリスク管理をおこなうべきである。海水サンプルからはストロンチウムがセシウムの25%程度検出された事例もあり(陸上土壌中からは1%程度)、ストロンチウムについては今後ともモニタリングが継続されるべきである。』
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低線量におけるヒトへの影響への知見の検討 |
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これまで検討された研究論文の信頼性への評価表。「○」、「×」、「△」、「−」の評価。「−」は評価に値せずと云う意味か。議事の中でも、事務方などから提出された研究論文について様々な疑義が出されていた。ICRP学派の研究は、いったん「原子力ムラ」の外に出るとその手法や実験結果の取り扱いについて疑念が多いと言うことでもある。中でクリス・バスビーの研究が1本だけ「△」となっているのが興味深い。 |
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議事録 |
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そろそろ確定も間近い時期の議論であるが、ほとんどが、「低線量におけるヒトへの影響への知見の検討」の研究論文の評価に終始している。私はこの議事録を読んで、食品安全審査会に関係している学者の「従属性」を強く感じざるを得ない。「職業科学者」としての彼らはまず、先行研究に従属し、国際的権威に従属し、また国内では政府権力(その源泉は社会的地位と身分の賦与権)に従属している。本来であれば、彼ら自身が自ら調査研究をなさなければならない。こうした科学者の従属構造がある限り、ICRP学説の鉄壁性は彼らが打ち破っていきそうにもない。
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<第9回会合> |
評価書(案)食品中に含まれる放射性物質 |
2011年7月26日 |
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全部でA4版230Pに達する分厚な評価書である。つまみ食い的に内容を概観しておく。まず評価書は率直に対のようにいう。
『ウラン以外の核種については、甲状腺への影響が大きく、甲 状腺がんが懸念される放射性ヨウ素、及び食品中からの放射性物質の検出状況等を勘案すると、現状では、食品からの放射性物質の摂取に関して最も重要な核種と考えられた放射性セシウムも含め、個別に評価結果を示すに足る情報は得られなかった。
』
この理由は、ICRP学説に大きく依存したためである。何度も繰り返すが、ICRP学説では低線量における健康影響は「がん」や「白血病」だとしてるためその他の疾病は全く眼中にない。そのため厳しい汚染食品基準を実施したウクライナ政府やベラルーシ政府の報告などは一切無視している。そして食品安全委員会がもっとも重要な参考とした研究は次の3点である。
『@ インドの高線量地域での累積吸収線量500 mGy強において発がんリスクの増加がみられなかったことを報告している文献(Nair et al. 2009) A 広島・長崎の被爆者における固形がんによる死亡の過剰相対リスクについて、被ばく線4 量0〜125 mSvの群で線量反応関係においての有意な直線性が認められたが、被ばく線量0〜100 mSv の群では有意な相関が認められなかったことを報告している文献(Preston et al. 2003) B 広島・長崎の被爆者における白血病による死亡の推定相対リスクについて、対照(0 Gy 群と比較した場合、臓器吸収線量0.2 Gy以上で統計学的に有意に上昇したが、0.2 Gy未満では有意差はなかったことを報告している文献(Shimizu et al. 1988)』
そして次のように結論している。
『以上から、本ワーキンググループが検討した範囲においては、放射線による悪影響が見いだされているのは、通常の一般生活において受ける放射線量を除いた生涯における累積線量として、おおよそ100 mSv以上と判断した。』
また小児に関しては次のように述べるにとどまっている。
『なお、小児に関しては、より影響を受けやすい可能性(甲状腺がんや白血病)があると考えられた。』
個別の核種の健康影響に言及してまずヨウ素。
『チェルノブイリ原発事故では131I(ヨウ素131) が主体で、そのほか137Cs、103Ru等も比較的高濃度であった」(滝澤 1987年)
1987年、事故の起こった翌年の研究である。まだ、ベラルーシでもウクライナでも「ヨウ素ショック」という言葉も概念も発見されていないころの研究を引用している。
さらに「チェルノブイリ事故」、アメリカ・ワシントン州ハンフォード核施設」、南太平洋ブラボー核実験(マーシャル島住民の健康損傷)、ネバダ州核実験場周辺住民の健康損傷、フランスによる核実験場周辺のポリネシア諸島における住民健康損傷など幅広い研究に目を配っているが、実際に起こった健康損傷ではなく、ほぼ「がん」と「白血病」に標的を限定している。
次にセシウム。まず旧ソ連・マヤック核施設事故のケースが引用されている。50年経過してまだ調査研究中で、貴重なデータが得られるはずだが、ほぼがんや白血病に標的を絞っている。チェルノブイリ事故ではスエーデンのマーチン・トンデルの研究が引用されているが、これも「がん」に絞っている。ベラルーシについても述べられているがこれも「がん」に標的を絞っている。病理学的な研究では実際には心臓病や呼吸器系疾患、不妊などが多かったが、「がん」を標的にしているためこれら研究は誤りとして排除している。
ウランについては放射能の毒性はわからないとして、重金属としての毒性(放射性物質ではなく化学物質としての毒性に話を事実上絞っている)それはそれとして、ウランに関しては見応えのあるデータを公開している。
「日本産各種岩石のウラン含有量」(94p)、「食品のウラン濃度」(95p)、「食品群ごとのウラン一日摂取量(Shiraishi et al. 2000)(98p)、「日本人のウラン一日摂取量」(99p)等がそうである。これだけウランを日常摂取しているのだから、食品からの放射能摂取などは大したことはない、というためのデータかもしれない。しかし私は別な興味をもってこれら表を眺めた。フクシマ原発事故が起こらなくても、これまでの核実験の降下や日本中にある核施設からの放射能で私たちの日常生活はここまで汚染されているのかという驚きである。「警告」でなく「安心材料」としてこうしたデータを研究し、公表する「学者」や「行政当局者」とは一体どんな存在なのか?
プルトニウムについては次のように言及している。『プルトニウムは超ウラン元素の一つであり、原子炉の使用済み核燃料の再処理によって得られる』
ここでも様々な事例が取り上げられているが、これもほぼ「がん」に標的を絞った調査。ただ
コロラド州ロッキー・フラッツプのルトニウム施設のケースでは染色体異常が確認されている。『同施設で被ばくした作業員では被ばくしなくなった後も染色体異常頻度の上昇が何年も 続いている。』『プルトニウムについては、内部被ばくと肺がんに有意な関連があるが、プルトニウムの 寄与は必ずしも明確ではない。また、リンパ球染色体の異常に対する量反応関係のデータは存在するが評価に足る情報であるとは言えない。』矛盾したことを言っている。
ストロンチウムについては次の言及が注目される。『妊婦の骨格に含まれるストロンチウムは妊娠期間に胎児に移行され得る。プルトニウム生産プラントからの放出が原因でストロンチウムに曝露したテチャ川エリアの居住者の調査では、ストロンチウムの胎児への移行に係る証拠が示された(Tolstykh et al. 1998,9 2001)。』『胎児:母体の移行率(胎児と母体の骨格中の90Sr(Bq/g Ca)比)は、妊娠前に曝露した被験者とそれら6名の死産児について測定された(Tolstykh et al. 1998)。』
いよいよまとめになる「低線量における健康影響」。「4.チェルノブイリ原子力発電所事故」という項目では、疾病を「がん」と「小児白血病」に絞っている。またここでは「9.国際機関等の見解」(209p〜)という項目もあり、ほぼICRP派の低線量被曝による健康損傷に関する見解が網羅されている。
『米国産科婦人科学会1995』、全米科学アカデミーの「電離放射線の生物学的影響委員会」の報告「BEIR V 1990」、 「ICRP Pub 60」、同じく「Pub 84、2000」同じく「Pub 94 2007」、同じく「Pub 99 2005」、同じく「Pub 103 2007」、アメリカ放射線防護審議会(NCRP)の「 Report No.128 1998」、原子放射線の生物学的影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の「1993報告」、同じく「 2000報告」、国際保健機関(WHO)の「 2006報告」などがズラリと並ぶ。これら諸機関は内部で人事的にも予算的にも相互に繋がっており、ほぼ同じ見解の研究報告が使い回される仕組みになっている。そしてこれら見解に反する研究はピアレビューで排除される仕組みとなっている。
『2.低線量放射線による健康影響について』という項目では次のように述べている。
『本評価の趣旨に照らせば、本来は、食品の摂取に伴う放射性物質による内部被ばくのみの健康影響に関する知見に基づいて評価を行うべきであるが、そのような知見は極めて少なく、客観的な評価を科学的に進めるためには外部被ばくを含んだ疫学データをも用いて評価せざるを得なかった。』
『以上から、本ワーキンググループが検討した範囲においては、放射線による悪影響が見いだされているのは、通常の一般生活において受ける放射線量を除いた生涯における累積の実効線量として、おおよそ100 mSv以上と判断した。』
『なお、小児に関しては、より影響を受けやすい可能性(甲状腺がんや白血病)があると
考えられた。100 mSv未満の線量における放射線の健康影響については、疫学研究で健康影響がみられたとの報告はあるが、信頼のおけるデータと判断することは困難であった。種々の要因
により、低線量の放射線による健康影響を疫学調査で検証し得ていない可能性を否定することはできないが、追加の累積線量として100 mSv未満の健康影響について言及することは現在得られている知見からは困難であった。』
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議事録 |
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第9回は最後のワーキングである。この会合でWGとしての「評価書」をまとめなければならない。事務局の設定した「締め切り」である。(このようなWGにどのような評価書が期待できるか?)議事は当然の如く、事務局がまとめた「評価書案」の検討会議となっていく。最初に事務局からの「案説明」延々と続く。そして恐らくは事務局を主導したであろうICRP派の大物の一人、アイソトープ協会の佐々木康人(専門参考人)が、補足説明を差し挟むという格好で議事が進んでいく。専門委員の遠山千春は出席していない。国立がん研究センター がん予防・検診研究センター 予防研究部長の津金昌一郎(専門委員)あたりが、若干の抵抗を示すが大勢は決まっている。
『津金:・・・悪影響が見られているのは100mSv以上というのを根拠にしているのは瞬間被曝のデータで、かつモデルに基づいて、後はモデルではなくても、恐らく100mSv以上でのリスク増加というのは統計的有意に確認されているので、そういうことを言っているのですけど、一方では、なんで生涯の累積線量で評価しているというのは、私が論文を見ていた限りにおいてはそんな、逆になくて、悪影響とか見られているのはやっぱり瞬間的とか、後せいぜい1年とか、そういう短期間における被曝において悪影響が見られているというものなのですが、そこが何かちょと整合性が合わない気がします。
山添座長:・・・それで、広島、長崎において実際に曝露された方は・・・非常に多くの人数のデータを使っていると言うことで、信頼性とか、それから曝露の補正とかがキチッとされていると言うことで、安全側のサイドとしてこのデータはやはり無視はできないと言うことで採用したという経緯があります。
津金:いや、それはそうなのですけど、でも基本的にほとんど瞬間的な被曝ではないですか、ほとんどは。90%以上は。
これを採用するのは別にいいのですよ。いいのですし、別にそれは。ただ、要するになんでそれが突然累積線量に置き換わるのかなというのが、ちょっと理解ができなかったので教えていただきたいと。
これ以上いってもあれなので、それで、やっぱり100mSvというところに何か閾値的な、そういうものをどうしても出すというか、出そうとしているように読めてしまいます。だから、逆にいえば、ある意味でゼロリスクを捨てきれないと言うことの呪縛から離れられないというような気がするのです。だけどやっぱり安全側に立って、100mSv以下でもリスクがあると。要するに(放射能は)ゼロにならなければ(リスクは)ゼロにならないと考えて、やっぱりちゃんと、これは7回目に出席した時に私は発言していますけれども、基本的に安全側にたって、ゼロにならなければゼロにならない、と考えて、要するにゼロではない、リスクはゼロではなくて、ある程度、要するにリスクを受け入れなければいけないという、そういうことをきちっと認めた上でね、認めた上でリスク評価をした方が僕はいいのではないかなとずーっと思っています。それだけは言っておかないとあれなので言っておきます。』(議事録11p〜12p)
『津金:緊急とりまとめの時は(暫定規制値を追認した時)、例えば年間10ミリとか5mSvでも十分安全すぎるという結論に至ったと思うのですけれど、もしこれ累積100ミリを採用したら、年間1ミリとかそういう話になるので、今まで緊急とりまとめで言っていた話が、安全ではないという話になってしまう可能性もありますよね。(可能性ではなくそういっている)』
こうして9回にわたるWGの議事が全て終了し、「評価書」がめでたくできあがることになる。 |
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