フクシマ放射能危機と汚染食品


     
ドイツ放射線防護協会など関連資料

 ドイツ放射線防護協会(<http://www.gfstrahlenschutz.de/en/index.html>)は1990年に設立された放射線防護を目的とする専門家団体。ドイツ連邦政府下の放射線防護規制当局であるドイツ放射線防護局とは全く別。国際的な核利益共同体の影響からは全く独立し、一般市民の立場からの放射線防護に関する一種のシンクタンク。さまざまな調査研究報告や提言を随時発信している。会長はセバスチャン・プフルークバイル(Sebastian Pflugbeil)。副会長のインゲ・シュミット・フォイエルハーケ( Inge Schmitz-Feuerhake)は欧州放射線リスク委員会(ECRR−European Committee on Radiation Risk)の運営機関であるアジェンダ委員会(The agenda Committee)の委員長でもある。日本語ウィキペディア「ドイツ放射線防護協会」によると、会員は現在約50名で、公式ジャーナルとして、同協会主催会議の会議報告書であるオットーハグ放射線研究所レポートがある、という。(<http://www.oh-strahlen.org/berichte.htm>)

 ドイツ放射線防護協会 「日本における放射線リスク最小化のための提言」 2011年3月20日 

   「3.11」の直後、3月17日に日本の厚労省が「放射能汚染された食品の取り扱いについて」と題する通知文書をだして「暫定規制値」を発表する。その直後ドイツ放射線防護協会が発表した提言書。中で『評価の根拠に不確実性があるため、乳児、子ども、青少年に対しては、1kgあたり4 ベクレル〔以下 Bq:訳者注〕以上のセシウム137 を含む飲食物を与えないよう推奨されるべきである。成人は、1kg あたり8Bq 以上のセシウム137 を含む飲食物を摂取しないことが推奨される。』算出の根拠はすべてドイツ国内で施行されているドイツ放射線防護令(2001年)の規定に基づく。翻訳者の松井英介と嘉指信雄による優れた注がついている。

 フードウォッチ・レポート 「あらかじめ計算された放射線による死」 2011年9月 日本語
英語

    様々な意味できわめて貴重な報告である。このレポートはドイツに本部をおく食品監視市民組織「フードウォッチ」(<http://www.foodwatch.de/>)が、フクシマ放射能危機に際し、放射能汚染食品が人間と環境に対して今後どのような影響をもつのか、現在の問題点は何かなどの問題意識のもとに、研究をドイツ放射線防護協会に委託し、同協会のトーマス・デルゼー(Thomas Dersee)とクリスチャン・プフルークバイルが共同で調査研究し、報告したものである。日本ではWHOやIAEAなど主として国際核利益共同体の公表した資料や調査はよく知られている。逆に電離放射線に関する先端的研究や放射能汚染食品に関する最新知見などはなかなか入ってこない。これは「日本語の壁」というよりも、日本全体に非関税障壁ならぬ「情報障壁」が構築されているためであろう。情報障壁構築に一役も二役も買っているのが大手報道機関であろう。なかでもNHKはその影響力の大きさを考えれば一番悪質である。この報告は、フードウォッチと核戦争防止国際医師会議(IPPNW)ドイツ支部が共同で公表した。フードウォッチの趣旨に、IPPNWドイツ支部が積極的に賛同したという以上に、同ドイツ支部は研究資金の一部を負担したのだと思われる。こと核の商業利用や産業利用に関する限り、国際的なIPPNWは一枚岩ではない。ヨーロッパ、特にドイツやスイスのIPPNWは、核の商業利用や産業利用に医師の立場から積極的に反対し、また放射線に対するリスク評価に対しては、核利益共同体の立場に立つICRPと一線を画している。それに対してIPPNW日本支部は核の商業利用・産業利用に積極的に賛意を示していないが、少なくとも反対の立場をとっていない。いわば我関せずの態度である。放射線リスク評価になると人的にも評価の上でもICRP派の学者・研究者と重なり合う部分が多い。体制ベッタリである。

 このレポートは、「はじめに」で『福島第一原発の原子炉からは、依然として放射能が放出されています。人間と環境にたいへん大きなリスクをもたらすことが考えられます。残念ながら、放射線被曝の規模に関して信頼できる情報がありませんが、被曝が日本の人々を数十年に渡って苦しめることだけは確かだと思われます。その原因が食品となるのです。』(p2)と述べ、チェルノブイリ事故の経験に鑑み、放射能汚染食品摂取による内部被曝問題が、今後長期間にわたって日本を苦しめることになるだろう、と指摘している。さらに現在のEUおよび日本の放射能汚染制限値(この報告発表当時は日本の制限値は「暫定規制値」)が、きわめて危険であるばかりでなく、「EU/日本の制限値は防護するものではなく、放射線による死者(過剰死のこと)をあらかじめかなりの数計算に入れている」、「現在の制限値には矛盾があり、透明性がない」こと、「現在の制限値は経済上の利益ために定められている」こと、「現在の制限値は欧州法と国際原則に反する」こと、「放射線被曝に安全な線量はない」こと、「防護のためには規制値を厳しくするほかはない」ことなどを詳しく論じ、最後にドイツ放射線防護令から演繹される汚染食品の上限値として、

  乳 児 (1歳以下)の場合 食品1キログラム当りセシウム137、5.0ベクレル
  幼 児 (1歳超から2歳以下)の場合 食品1キログラム当りセシウム137、10.7ベクレル
  こども (2歳超から7歳以下)の場合 食品1キログラム当りセシウム137、11.5ベクレル
  こども (7歳超から12歳以下)の場合 食品1キログラム当りセシウム137、8.3ベクレル
  青少年 (12歳超から17歳以下)の場合 食品1キログラム当りセシウム137、5.7ベクレル
  大人  (17歳超)の場合 食品1キログラム当りセシウム137、7.7ベクレル

あるいは、

  こども全体に対して 食品1キログラム当りセシウム137、4ベクレル
  食品1キログラム当りセシウム134、4ベクレル
  食品1キログラム当りストロンチウム90、2ベクレル
  食品1キログラム当りプルトニウム239、0.02ベクレル
  大人全体に対して 食品1キログラム当りセシウム137、8ベクレル
  食品1キログラム当りセシウム134、8ベクレル
  食品1キログラム当りストロンチウム90、4ベクレル
  食品1キログラム当りプルトニウム239、0.04ベクレル

の規制上限値を提案している。

 さらに、翻訳の正確さとわかりやすさ、またそれ以上に翻訳者が随時入れている様々な注が、私たちにかけている基本情報を補っており、日本語による文献としても優れた仕上がりになっている。

 またさらにこの文書に付属する文書「ウクライナの期限付き許容食品・飲料水放射能汚染制限値」の一覧表、「ベラルーシにおける食品と飲料水のセシウム137とストロンチウム90の制限値(RDU-99)」の一覧表が決定的に重要である。

 フードウォッチ・レポート付属文書
「ウクライナの期限付き許容食品・飲料水放射能汚染制限値」
日本語

チェルノブイリ事故で国土全体が汚染されたウクライナ(うち1/3が重大な汚染)は、放射能汚染食品の摂取による内部被曝に国全体が長い間苦しめられた。現在も基本的にそうであるが、汚染食品の規制を厳しくすることで最悪の時期は脱しつつあるように見える。この資料はウクライナの食品規制の変遷を表現している。

 フードウォッチ・レポート付属文書
「ベラルーシにおける食品と飲料水のセシウム137とストロンチウム90の制限値(RDU-99)」
日本語

 ウクライナと同じくベラルーシも、農業国家であるベラルーシはある意味ウクライナよりも汚染食品摂取による内部被曝に苦しめられている。この表は2006年に確定した現行ベラルーシの制限値RDU-99)。ウクライナと比べるとまだ不十分さがあるが、国際的に見て最先端の規制である。


 ドイツ放射線防護協会 緊急プレスリリース 
「放射線防護の基本規則は、福島原発事故後も無視されてはならない」
2011年11月27日 日本語

    ドイツ放射線防護協会が2011年日本政府が「震災廃棄物」(いわゆる「がれき」)の全国拡散の政策意志を変更しようとしないのを見て、発表した緊急リリース。中で「がれき」の全国拡散に反対すると同時に、汚染食品問題にも触れ、『日本での現行の食品中放射性物質暫定基準値は、商業と農業を損失から守るためのものであり、人々を被曝から防護するためのものではない。ドイツ放射線防御協会は、この基準値が、日本政府ががん死亡者数、がん発症者数の甚大な増加、およびその他のあらゆる健康障害の著しい蔓延を許容する姿勢であることを意味するとして、厳しく指摘する。』と述べている。

 変えよう!被曝なき世界へ 市民アライアンス
「放射能汚染食品許容制限値(基準値) 国際比較」
2012年3月5日

    広島の反被曝・反原発の市民グループ「変えよう!被曝なく世界へ 市民アライアンス」がまとめた放射能汚染食品規制値国際比較表である。国際比較といってもアメリカやEUなど、規制があってなきがごとしのような国はほぼ無視し、世界でもっとも厳しい規制をもつウクライナ、ベラルーシと日本の、2011年3月17日から2012年3月31日までの「暫定規制値」、そして2012年4月1日から実施されている「新基準値」、そしてドイツ放射線防護協会が提案している「推奨値」と比較している。