中高生のための「核兵器廃絶」基礎知識

【第8問】ヒロシマ、ナガサキは結局、世界に何をもたらしたのでしょう?



 これも一つの正解が出る問題ではないと思います。色々な解答が出てくることが予想されます。

 しかしこうした問題意識をもっておかないと、現在の核兵器を巡る状況が理解できないことは確かでしょう。

 また「ヒロシマ、ナガサキは世界に核兵器時代をもたらした。」といって見たところで、ほとんど何も言っていないことも確かでしょう。

 私の解釈を示して、ひとつの解答例としたいと思います。

 話は1945年8月にさかのぼります。

 トルーマン政権は太平洋戦争の末期、日本に対して「原爆の使用」を決定し、それを実行します。その理由については諸説あります。

 以下並べてみましょう。

(1) 戦争を早期終結に導きたかった。
(2) ソ連との冷戦を有利に導きたかった。
(3) 実戦使用をしてみたかった。

 その他実に細々した理由、たとえばマンハッタン計画で20億ドルの予算を使ったので何も成果が上がらないでは議会に対して言い訳できない、パールハーバーの復讐だった、など取るに足りない理由も挙げられています。

 しかし、当時の状況からして、上記3つの理由がない交ぜになって「原爆の使用」が実施されたのだと考えてもよいと思います。

 「ヒロシマ、ナガサキは結局、世界に何をもたらしたのでしょう?」という設問を念頭において考えて見ると、何が主要な理由だったのか、あるいは何が決定的な理由で何が副次的な理由だったのか、という発想が必要だと思います。

 私は上記のいずれもが決定的な理由ではなかったと考えています。

 当時トルーマン政権トップレベルの、原子爆弾開発計画に携わった人々の議論を秘密指定解除後に明らかになった文書から読んでいって見ると、色々な特徴が浮かび上がります。


 以下に列記します。

(1) 当時の政権トップは、革命的なエネルギー問題として原子力開発問題を捉えていたこと。
(2) 原爆開発を目的としたマンハッタン計画も、大きくは「革命的エネルギー開発問題」の一貫として捉えていたこと。
(3) しかし核兵器にしても、原子力の平和利用にしても、すぐに民間企業が投資・開発できるレベルにはなく、太平洋戦争終結後も、多額の連邦予算を費やす必要があったこと。また、発注請負制をとっていたマンハッタン計画では、その方が参加企業にも都合がよかったこと。
(4) しかし、戦争中だからこそマンハッタン計画の予算は、議会をほとんどノーチェックで通過したのであり、戦争が終われば、厳しい査定で思うように「原子力エネルギー開発」に連邦予算を注ぎ込める情勢にはなかったこと。
(5) 「原子力エネルギー(核兵器開発を含めて)」に連邦予算を自由に、しかも国民に対する説明なしに使いたい勢力にとっては、終結の見えていた太平洋戦争に替わる「準戦時体制」が必要だったこと。
「準戦時体制下」では引き続き、ほとんどノーチェックで、この分野に連邦予算が注ぎ込める見通しがあった。
(6) その準戦時体制では仮想的として「ソ連」「共産主義」が想定されたこと。
「準戦時体制」に緊迫感を与えるためには、特にソ連をも準戦時体制に追い込む必要があり、これに狂奔させる必要があったこと。
(7) このため、予告警告なしの「広島への原爆投下」が実施された。
(8) 狙い通り、原子爆弾に恐怖したスターリンは、戦後復興を後回しにしても、「核兵器開発に狂奔」し、49年には早くもナガサキとそっくりのプルトニウム原爆を開発した。
(9) その後、狙い通り、「準戦時体制」が開始され、「核兵器軍拡競争」が始まった。その後アメリカの国際政治、すなわち世界の国際政治は核兵器をテコに展開することになった。
(10) この準戦時体制は後に「冷戦」と呼ばれるようになった。


 私は以上のような見方をしています。

 従ってこの見地からすると、広島や長崎に原爆を投下したのは、ソ連を恐怖させて「冷戦を創り出す」ことが目的だったということになります。

 その意味では、「ヒロシマ、ナガサキ」は地球市民の安全を人質にして、国家予算を思うままに使い、核兵器を政治的なテコに使って、世界を支配し、一部の人たちが肥え太る時代をもたらした、ということになります。

 それが「核兵器時代の本質」だと考えています。

<以下追加2010.2.14>

 これに関して、「1984年」の著者、ジョージ・オーウェルは1945年10月に発表した「あなたと原爆」の中で面白いことをいっています。

 しかし、思ってみて欲しい、・・・生き残った大国がお互いの間で原爆を使わないという暗黙の協定を結ばないだろうか?思ってみて欲しい。彼らが原爆を使用するのは、あるいはそれを威しで使用するのは、報復の手段をもたない人々に対してだけではないのか?・・・

 われわれは、全体的壊滅に向かっているのではなくて、古代の奴隷帝国のような、空恐ろしい「安定」の時代にむかっているのかも知れない。・・・

 原爆は大規模な戦争に終止符を打つもののように思える。ただし、それは無期限に続いていく“平和のない平和”という代償を払っての話だが。」

 核兵器大国同士が、原爆(核兵器)をお互いに使わないと暗黙の協定を結び、報復の手段を持たない人々だけに威嚇の道具に使い(実際に使おうとしたこともありました。)、奴隷制のような安定をもたらしている、それが核兵器時代だ、とオーウェルは云っています。

 私も同感です。


【第9問】核兵器のない世界」を目指すと宣言したオバマ大統領は、
核兵器廃絶に向けてどんな具体的な道筋を描いているのですか?