(原文は以下: http://www.trumanlibrary.org/whistlestop/study_collections/bomb/large/ documents/fulltext.php?fulltextid=7 ) 暫定委員会会議議事録 1945年5月31日 木曜日 午前10:00〜午後1:15 午後2:15〜午後4:15
T.委員長開会あいさつ スティムソン長官は以下のことを説明した。暫定委員会は長官自身が大統領の承認を得て指名したこと。そして委員会の役割は、戦時暫定管理、公式声明、法制化、戦後機構などについて勧告を行うことである。陸軍長官は、我が国の科学者がなした輝かしいそして効率的な支援に対して、最高度の賞賛を示した。そして出席している4人の科学者の業績と暫定委員会が当面する複雑で困難な問題に進んで助言をなすことに最高度の感謝を表明した。陸軍長官は、科学者が、全く自由にその所信をあきらかにすることを希望すると表明した。 委員会は暫定委員会(Interim committee)と名付けられているが、これはこの計画がさらによく知られるようになると、議会によってなされるもっと恒久的な組織、あるいは必要な条約でなされる恒久的な組織にとって替わられることが期待できるからである。 陸軍長官はまた、マーシャル将軍が長官と共に、その軍事的観点から大統領に勧告を行う責任を共有していると説明した。従って、科学者の見解を直接把握するためにこの委員会に出席することが、極めて必要であると考えられる。 陸軍長官は、ある見解を表明した。またこの見解はマーシャル将軍とも共有しているとも述べた。この見解は、この計画を単に軍事的目的の観点からのみ考えるべきではない。自然界を含めた世界と人類の関連からも捉えられるべきである。この発見はコペルニクスの理論や重力の発見にも比肩できるかも知れない。人類の生命という観点からは、それよりもっと大きな重要性を持つかも知れない。確かに戦争の必要性のために育成されて発展した分野には違いないが、文明に対する脅威となるよりも将来の平和を保障するような管理が加えられるべきである。 陸軍長官は、この委員会で以下のような議題について議論することを望むと提言した。 1.将来の軍事兵器 2.将来の国際競争 3.将来の研究 4.将来の管理 5.将来の開発、特に非軍事分野 U.開発の段階 討論者のための技術的背景として、A・H・コンプトン博士は開発の色々な段階を説明した。最初の段階はウラニウム235の分離である。第二段階はプルトニウムや新しいタイプのウランから濃縮物質を獲得できる、増殖層の使用である。第一段階は、これまでかつて見られなかった爆発力を持った爆弾原料を製造するのに使われた。濃縮物質の製造は今や数ポンドから数百ポンドの規模になっている。この過程は、トン規模の製造ができるまでに十分に拡張すると考えられている。実際の爆弾は第二段階から製造されるのであり、まだその実効性が証明されていないが、そのような爆弾の実現は科学的知見から間違いないものと考えられている。推測では1946年1月から1年か1年半の間に、この第二段階が証明されるものと考えられる。技術的問題や冶金工学上の困難性から考えて、相当量のプルトニウムが製造できるのは恐らく3年かかるであろう。もし他に競争相手がいるとすれば、その競争相手がこの段階に達するには6年かかるであろう。
V.国内計画 ローレンス博士 この開発計画において、政府の指導者たちが得難い機会を作ってくれたことに感謝の意を表した。ローレンス博士はもしアメリカがこの分野において先頭にとどまらなければならないものとすれば、われわれが他の国より、よく知りもっと研究するのは避けがたいことであると述べた。 博士は、この研究はたゆまず続けていくべきものと感じている。トリウムやウラニウムを超えて、もっと他の新しい物質や新しい方法があり、その分野は依然として未開拓であると述べた。事実、この分野では、すべての重金属物質は、その潜在性があると述べた。彼は将来必要なエネルギーソースは、太陽からよりも地球上に存在する物質から得られるようになるかも知れないと考えている。ローレンス博士はこの計画の健全について、それを疑う現実的な根拠は何もないと指摘した。今発生している失敗や、将来発生しうるかも知れない失敗は、一時的な後退に過ぎず、それ以上ではない、またそのような一時的後退は、すぐに克服できる。 ローレンス博士はこの計画の工場拡張は真剣に追求すべきであると指摘した。同時に一定規模の爆弾の貯蔵や原材料の貯蔵はなされるべきである、と提言した。安全上の理由から、そうした工場は全土に散らすべきであるとも述べた。産業上の適用やその開発は、前進させるべく努力を傾けるべきである、と述べた。必要な工場拡張と基礎的研究の拡大を真剣に追求することによってのみ、そして適切な政府の援助を担保することによってのみ、この国はその最前線にとどまることができる。この見解は、A・H・コンプトン博士によって完全な賛意が寄せられた。
W.基礎的研究
X.管理と査察の問題 陸軍長官は、純粋な軍事目的以外にどんな潜在力を持っているかを模索した。それに答えて、オッペンハイマー博士は、喫緊の関心は戦争を早く終わらせることであると指摘した。この開発をもたらす研究は、将来の諸発見にいかに門戸を開くかにかかっている。この主題に関する基礎的知識は世界中にすでに拡散しているのでわれわれがたどった初期の研究は、世界中に分かるだろう。オッペンハイマー博士は、アメリカが平和時使用目的に重点を置いた形で、世界と自由に情報交換するというのは賢いやり方だと、指摘した。この分野におけるすべての探究の基本的目標は、人類の福祉に拡大すべきである。原爆を実際に使用する前に、もしわれわれが情報交換をするなら、われわれの人道主義的正義の立場は強化されるであろう。 陸軍長官は、非軍事用途の潜在可能性を理解しておくことは、情報交換の問題や国際的協力体制を考慮する際の基本的背景となる、と述べた。陸軍長官は、ブッシュ−コナント・メモランダムに言及し、それは自己規制方針を保証する科学の役割を強調している、と述べた。このメモランダムは、いかなる形でもこれから設立されるかの知れない国際的機構において、完全な科学的自由を提供され、また国際的管理法人が査察の権利を持つことを提言している。陸軍長官は、どの様な種類の査察が効果的であり、また民主主義的政府は、科学的自由と結合させた管理計画のもとに全体主義的政権に対して、どのような立場であるべきか、と質問した。陸軍長官は、今回の戦争において、民主主義的諸国は十全に公平でなければならないと述べた。ブッシュ博士は、この見解を熱烈に支持し、全体主義国家に対するわれわれの優位性は極めて大きいと指摘した。証拠はドイツである、ドイツはこの分野の技術においても他の分野においても、はるかにわれわれより立ち後れている。ブッシュ博士は、われわれのはるかに大きい優位性は、われわれのチームワークの仕組みにかなりの程度由来しており、われわれがそれによって勝ち得てきた自由な情報交換の仕組みは、これからも国際的な科学競争や技術競争の分野でわれわれに勝利をもたらしてくれるであろうと述べた。しかしながら、ブッシュ博士は、もし、相互交換という形でなく、一方的にわれわれの研究の結果を自由競争の下で、ロシアに対して公開してしまえば、永久にわれわれが先頭の地位を維持できるかどうかについては疑わしい、と述べた。カール・T・コンプトン博士は、最低限、建設の遅れを取り戻すまで、われわれの優位性を確保したいと感じている。しかし、どちらにせよ、この秘密は永久には保てるはずはない、だから世界と共有した方がいい、それでも世界のトップの地位を保てるとも感じている。
Y.ロシア 管理の問題及び国際協力の問題を考慮するにあたって、突出した関心事はロシアの態度である。オッペンハイマー博士は、ロシアはこれまで科学に対して常に友好的であり、この問題について仮の装いとして、ロシアに解放して見てはどうか、われわれの生産的努力を詳細には触れないで、一般論として話あってみてはどうかと、提言した。この計画に対する国家的努力について語ってもいいし、この分野での協力関係についても論じてみてはどうかと表明した。ロシアの態度について事前に予断を持つべきではない、と強く感じている。 この点についてマーシャル将軍は、これまでのアメリカとロシアの間の典型的な関係からくる、攻撃の筋書きと反撃の筋書きについて相当程度議論した上で、これらの主張は、何もしっかりした根拠を持っていないことが証明されていると指摘した。もし、ロシアに、軍事的問題で、非協力的姿勢が見られるとすれば、それは安全体制の維持にその原因があるのだろうと、指摘した。ロシアと取引するに際して、それはそれとして受け容れるし、ロシアの態度もそれについて変わってくるだろうと、述べた。戦後の状況や他の純軍事以外の事柄に関しては、マーシャル将軍は見解を述べる立場にはないと言った。この分野(核兵器)では、マーシャル将軍は志を同じくする強国間で結合力を構築し、その連合の力を背景に、ロシアを軸の中に引き入れると云った考え方に傾いている。マーシャル将軍は、もしロシアがこの計画に関する知識を持っていたとして、日本にその情報を公開するとしても何らの恐れも感じないことは確かだ。核実験にロシアの有名な物理学者2名を招待するかどうかという問題を提起した。
Z.国際的計画
会議は1時15分昼食のために一時中断し、2時15分に再開した。マーシャル将軍を除いて、午前中の出席者は全員出席した。 Z.日本とその戦意に関する原爆投下の効果 一つの原爆を一つの軍事施設に投下するのは、通常空軍による現在の次元の爆撃とその効果に置いて大きな違いはない、とする指摘があった。しかし、オッペンハイマー博士は、原爆による爆撃はその視覚効果がとてつもなく大きい、と指摘した。高さが1万フィートから2万フィートにも昇る、まばゆいばかりの光の柱をともなうだろう。爆発における中性子の効果は最低限半径2/3マイルの間の生命が危険となるだろう。色々な種類の目標物や生み出される効果に関する議論の後、陸軍長官は委員会全体の合意として以下の結論を表明した。
同時に数発攻撃の試みについて、議論があった。オッペンハイマー博士の判断は、数発攻撃は実現可能である、と言うものだった。しかしグローヴズ将軍は、この提案に疑問を呈し、次の点でこの案に反対であると指摘した。 (1)1回1回の連続攻撃でこの兵器に関する追加情報の獲得の利点が失われてしまう。 (2)このような計画は爆弾製造を相当急がせることになり、かえって効力の薄いものなるかも知れない。 (3)通常空軍による爆撃計画との違いを十分には際だたせないかも知れない。 ([の項目はとんでいて、議事録から落ちている。記録ミスによるものなのか、後で故意に欠落させたものなのかは不明。) \.望ましくない科学者の取り扱い グローヴズ将軍は、その開始時点から、ある種の疑わしい方向性を持った科学者や忠実性に欠ける科学者の存在があって、それに計画が悩まされてきた、と述べた。実際にこうした連中を退職させるのは、原爆を使用した後か、精々実験が行われた後でも良かろうと云うことで、合意された。この兵器に関する何か発表がなされた後、計画からこうした科学者の分断を図り、もう必要のない要員の雑草取りを徐々に進めていく。 ].シカゴ・グループ A・H・コンプトン博士 シカゴ計画の規模と性質について手短に概括した。グローヴズ将軍の指示に基づき、戦争遂行に有益な部分だけにシカゴにおける研究開発を限定する事にした。その活動は次ぎにまとめた項目に落ち着く。 1.プルトニウム開発を行うハンフォード計画への支援。 2.サンタフェ・グループへの支援。 3.トリウム使用層の研究。 4.ウラニウム層の拡張のための初期段階調査。 5.この物質の従事員の健康に関する研究。 上記のうち3と4は、今次戦争で使用するための目的という点では直接関連しない。しかし、全体の20%程度の仕事だけがシカゴで遂行されている、この研究を将来的にも継続して開発するという意味では、望ましいと考えられる、と言う指摘があった。シカゴ・グループで何をなされるべきかと言う点に関して、コナント博士とブッシュ博士の提言に委員会全体が学ぶと言う点が会議の総意である。まずブッシュ博士、次ぎにコナント博士は、シカゴを含めた現在の計画は、戦争終結まで現在のレベルで継続すると提言した。この提言は陸軍長官に送付されるということで賛同した。 XI.科学顧問団の位置づけ ハリソン氏は、科学顧問団はブッシュ博士とコナント博士の提言によって、招集され、委員全員が心より承認したものである、と述べた。いついかなる時でも、科学顧問団は委員会に自由にその見解を表明できるものと考えられている。委員会はどんな機構がこの分野で方向性を出し、管理していくのにふさわしいかと言う点で、特に、科学者たちが自由に考えることを保証したいと望んでいる。 委員会は、この議題に関して科学顧問団にできるだけ早くその見解をまとめて欲しいと要望した。 ブッシュ博士は、現在時点では、国家安全研究理事会との関係を考慮して、この分野における機構に関するまとめをする必要はないと指摘した。 カール・T・コンプトン博士は、機構は後には、国家安全研究理事会の核物理部門と連携していくべきだと提言した。 科学者たちは、自分たちそれぞれの部門の人間に暫定委員会についてどう説明するか、どのように招集するかについて疑問が提出された。委員会は以下のように合意した。4人からなる科学顧問団は、暫定委員会は陸軍長官が指名した、また陸軍長官を委員長とする、管理、組織機構、法整備、対外発表などの問題を取り扱うものとして設立された、とそれぞれ自分のチームに説明する。委員の身分については漏らさない。科学顧問団はこの員会に出席していること、またこの議題にいかなる段階についても自由にその見解を述べることができるという事は説明して良い。政府はこの問題について最も活発に有利となるような動きをしているという、印象を絶対に残さなければならない。 XU.次回会合 次回会合は、1945年6月1日金曜日、11時とする。場所は陸軍長官執務室。会合の目的は産業界からの代表団の見解を聴取すること。 会議は4時15分に終了した。 |
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R・ゴードン・アーネソン 米国陸軍少尉 書記 |