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さらにこの資料には不可解な点が多い。今一番大事なデータは原子炉内部のデータだ。
原子炉水位、原子炉(圧力容器内)圧力、格納容器内圧力、それぞれの温度などといったパラメータ(変数)だ。ところが『別添1』の「福島第一原子力発電所パラメータ」と題された資料で、1号機、2号機、3号機の原子炉内温度に関するデータは一切書かれていない。
温度は本格的な炉心溶融を読み取る最重要のパラメータである。事故で計器が狂っているのかと思うとどうもそうではなく、4号機では「原子炉水温度」の項目が設けてあり、すべて「−」の表示になっている。5号機では「3月15日21:00 167.0(℃)」の表示以降全て書かれており、「3月20日7:00 185.0」を最後として100℃を切り、「4月1日6:00 29.8」となっており、大変いいデータである。6号機も「3月20日16:00 167.5」を最後に100℃未満に入り、「4月1日6:00 44.1」とこれも安心するデータである。
そうするとこの『別添1』資料は、5-6号機の「原子炉水温度」について安心させるデータだけを公表し、1-4号機の不安を抱かせるデータは公表しない方針なのかと思ってしまう。
また「使用済み核燃料プール」に関するパラメータは、4号機、5号機、6号機についてはわずかに発表されているが、1-3号機については全く記述がない。使用済み核燃料プールにも危険な使用済み燃料棒が存在しているのだ。その危険度は原子炉内にある燃料棒と全く変わらない。
公表されているデータでも疑問点が多い。たとえば、1号機圧力容器の圧力に関する記述である。事故発生3月11日の日付が変わって3月12日深夜、計測時刻は不明ながら、原子炉圧力容器内圧力は「0.800MPaG」だったと記載されている。
「MPaG」は、「メガパスカル・ジー」と読む。「パスカル」とは圧力の単位である。日本語ウィキペディア「パスカル」の項目を読むと「1パスカルは、1平方メートルの面積につき1ニュートン(N)の力が作用する圧力または応力と定義されている。」と書かれている。それでは「1ニュートン」はどういう力かというと「1ニュートンは、1キログラムの質量をもつ物体に1メートル毎秒毎秒 (m/s2) の加速度を生じさせる力と定義されている。」と書かれている。つまり停止している1kg物体に秒速1mの加速度を与える力、ということになる。
ややこしいことは抜きにしていえば、地球上の表面の1気圧とは「0.101325MPa(メガパスカル)」に相当する。だから「0.800」Mpa(メガパスカル)とはおおよそ7.89気圧の圧力があったことになる。沸騰水型の原子炉圧力容器は90気圧が設計強度の限界とされているので、約8気圧は大した数字ではない、と思われるかも知れないが、原子炉は停止中であり、1気圧程度だと正常の範囲であるが、停止中に8気圧は異常である。明らかに内部で異常事態が起こっている。それで圧力が異常に上昇している。
(後に詳しくこうしたデータを見てみることにする)
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そう思ってこのデータを読んでいくと、13日8:00に「0.353」と突然下降する。どんないきさつでこの「0.800」が「0.353」に下降したのか時刻を追っていこうとしてはじめて気がついた。 |
最初の「0.800」の計測時刻は「−」(未知)であるが、次の「0.800」は「2:45」となっている。つまり12日深夜2時45分に計っても「0.800」だった。その次に「0.800」が7回続くのだが、その時刻はすべて「2:45」なのだ。つまり同じデータを9回繰り返したことになる。(上の写真を参照のこと) |
あまりにバカにした話ではないか。どうせ誰も読まないだろうと思って単純な誤記ミスををそのまま災害対策本部が発表したのなら、まだ理解もできる。しかし、この間危機的状況(このデータのままでも十分危機的状況だが)が存在して、それを隠すためにこうした記述を行ったとも考えられる。(それほど私は東電、管政府を信頼していない。)
数字の羅列を見ていくわけだから、ついつい大きな変化のポイントだけが目につく。同じ数字は見過ごし勝ちになる。そこにつけ込んだ悪質な記述の仕方と考えられなくもない。
特に3月12日午後3時30分頃1号機は水素爆発を起こして原子炉建屋が吹き飛んでいる。その時刻近辺まで、圧力は「2:45 0.800」を繰り返している。「なにか隠しているのではないか」と私が疑う理由だ。
全体として云えば、安心させるデータばかりを並べて、不安に思うデータは隠しているのではないかと思わせる「原子力災害対策本部発表資料」だが、それでも福島第一原子力発電所で今何が起こっているのか、を知るのに当たって第1級資料であることは疑いない。
少なくとも、「大丈夫だ」、「電力不足が心配だ」を繰り返し、今や東電・政府の「一大プロパガンダ機構」としてしかその機能を果たしていない既成大手マスコミの報道を読んだり、見たりしているより、はるかに「今起こっている事態」の理解には役立つだろう。
それを次回からに見ていくことにする。 |
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