(2010.4.24)
<参考資料>イラン核疑惑:テヘランの「反核サミット」関連


そのF テヘラン会議:核軍縮へ倍加した努力を

 イランの日刊紙「テヘラン・タイムス」(Tehran Times)の4月22付けの記事である。(<http://www.tehrantimes.com/index_View.asp?code=217782>)。2日間にわたるテヘラン国際会議の成果を概括的にまとめている。以下本文。

【テヘラン・タイムズ政治部】

テヘラン−テヘランでの「国際核軍縮会議」の参加者は、日曜日(4月18日)、最終声明を発表し、そして「核軍縮達成に向けての近年のデッドロックを克服するには、努力を倍加すること」と主張した。

「みんなのための原子力エネルギー、誰のためでもない核兵器」をモットーとして、「核軍縮」と「核不拡散」に対して明確な姿勢を示した2日間にわたる会議は、約60カ国から多くの高官や有名な専門家が出席した。

 参加者は、大量破壊兵器(WMD)、特に核兵器の軍縮と不拡散に関する憂慮と「チャレンジ」について討論した。

 次が声明の全文である。

1. 国際的軍縮と安全保障をめぐる複雑な現状、継続するWMD、特に核兵器の存在、そしてその使用、あるいはそのような兵器を使うとの威嚇などに深い憂慮を表明した。

 これは非核兵器保有国にとって当然の主張だろう。NPTに加盟し、核兵器を持たないと明確に約束した上、アメリカは彼らに対して云うことを聞かなければ、核兵器を使用する場合もありうる、と明言する。中国、ロシア、イギリスは明確に先制不使用を宣言しているので、非核兵器国に対して、核兵器を使用する場合がある、と明言しているのは、オバマ政権だけである。恐らくは、5月のNPT再検討会議の重要な争点の一つだろう。)

2. 国際社会は、そのもっとも高い優先順位を核軍縮に置く。そしてそのような非人間的兵器の完全な廃絶の必要性に置く。核兵器不拡散条約、そして特に1995年及び2000年の再検討会議での最終合意文書に従って、核兵器に関する実際的軍縮の13の実際的段階の完結にその優先順位を置く。

ここでいう、核軍縮13の段階は、2000年の再検討会議で合意されたもの。1995年の再検討会議での合意を踏まえている。2000年の合意、すなわち13の実際段階とは、2002年4月4日の合意のことで、

1.包括的核実験禁止条約発効、2.核実験の凍結、3.カットオフ条約の発効、4.核軍縮対話の促進、5.不可逆な核兵器削減、6.核兵器敞の廃棄、7.STARTU、STARTV、及びABM条約の発効、8.余剰核物質の安全保障、9.米ロ以外の核兵器保有国の削減、10.余剰兵器用核分裂物質の処理、11.国際的管理の下での一般的かつ完全な核軍縮、12.核軍縮進展状況の定期的報告、13.査察と検証体制の整備、の13段階。

たとえば<http://www.armscontrol.org/aca/npt13steps>などを参照の事。

逆にいえば、核兵器保有国がこうした努力を誠実に継続することと引き替えに、1995年、非核兵器保有国は、本来極端な不平等条約であるNPTの永久存続を認めたのであった。)

3. あらゆる観点から核軍縮達成向けての近年のデッドロックを克服し、核軍縮及び不拡散の分野における多国間主義を促進するための努力を倍加することの重要性を強調。

4. 「核兵器のない世界」を達成するため、包括的、非差別的な「そのような兵器の開発、製造、移動、貯蔵、使用、あるいは使用すると威嚇することを全面的に禁止した条約」を法的に締結することの必要性を強調。その際、2つの禁止条約締結の経験に留意すること。2つの条約とはすなわち、1992年の化学兵器禁止条約、1972年の生物兵器禁止条約である。また全面的核兵器廃絶にいたるまで、包括的かつ非差別的安全保障を提供することにも留意すること。

5. 世界の各地で、特に中東地域で、非核兵器地帯実現のための手段を講ずることの必要性を強調。これは、国連の明確な決議に基づくこと、またそのような目標に到達するまでの間の最初の段階として、シオニスト体制が核不拡散条約に加盟すること、そしてIAEAの包括的安全保障条項に下にその核施設を置くことなどは、絶対必要なことである。

6. 核兵器数の削減に関する2国間あるいは多国間のいかなる協定においても、その不可逆性(irreversibility)、透明性(transparency)、検証性(verifiability)の原則を強調。

7. NPT参加国には、いかなる観点からも原子力エネルギーを使用する、奪い得ない権利(inalienable right)があることの確言。そしてNPT第4条に基づくNPTの一つの柱として、国際的な協力を促進する必要性を確言。

 NPTの第4条は、
1  この条約のいかなる規定も、無差別にかつ第一条及び第二条の規定に従って平和的目的のための原子力の研究、生産及び利用を発展させることについてのすべての締約国の奪い得ない権利に影響を及ぼすものと解してはならない。【原子力エネルギーの平和利用の権利】
2  すべての締約国は、原子力の平和的利用のため設備、資材並びに科学的及び技術的情報を可能な最大限度まで交換することを容易にすることを約束し、また、その交換に参加する権利を有する。締約国は、また、可能なときは、単独で又は他の国若しくは国際機関と共同して、世界の開発途上にある地域の必要に妥当な考慮を払って、平和的目的のための原子力の応用、特に締約国である非核兵器の領域におけるその応用の一層の発展に貢献することに協力する。【国際協力の原則】

の2つの項目から成り立っている。<http://www.gensuikin.org/data/npt.html>

8. 平和的核施設を攻撃することは、人類とその環境に対して深刻な否定的結果を招来すること、またそれは国際法及び国連憲章に対する重大な侵犯であること、を強調。

 これはイスラエルがシリアの核施設を、核兵器開発の疑いがあるとして一方的に領空を侵して空爆したり、またイスラエルがイランの核施設を同様な理由で攻撃したりするという最近の報道を念頭においたものであろう。NPT加盟国でもないイスラエルが、NPT加盟国の、NPTの権利に基づく核施設を一方的に攻撃するなどということは、もはや19世紀的現象と云わざるを得ない。しかもアメリカを始めとする「国際社会」なるものが、事実上これを容認するなどということは、アヘン戦争の昔に戻ったような完全に時代錯誤的出来事であろう。アメリカの有力論調の一つは、「アメリカがイランを攻撃することは能動的防禦である。」と主張している。<http://www.inaco.co.jp/isaac/back/028/028.htm>

9. ある種の核兵器保有国による二重基準の実施や差別的アプローチが「不拡散体制」を弱体化させていることへの深甚な憂慮の表明。特にある種の核兵器保有国のNPT非加盟国への協力関係やシオニスト体制の核兵器敞を問題にしないことなど。

 明らかにアメリカやフランスを念頭に置いている。イスラエルは核兵器保有国であり、イスラエルの核兵器開発にはフランスとアメリカが関わっていることは、もう公然の秘密ですらなくなっている。たとえばキッシンジャー・メモなど。しかもアメリカは長い間、イスラエルの原子力発電計画に技術協力を行ったり、消耗的部品の供給や開発技術の提供も行ってきた。またアメリカは、やはりNPT非加盟国であるインドと米印原子力協定を結び、公然とインドの原子力市場に進出をした。またイスラエルが核兵器を保有していることを、少なくとも核兵器保有国は問題としていない。こうした、恣意的な、特にアメリカの対応が、「核不拡散体制」を弱体化させている、というのがこの項目の骨子である。)

10. 化学兵器を、合意された時間枠(2012年)の間に破壊するというそれぞれの義務を遵守することの必要性を強調。また生物兵器禁止条約に関しても同様である。

11. この会議とその結果の重要性を特記。われわれは、ホスト国として、この会議の結果を、国連事務総長やその他のしっかりした国際組織に送付して、これら組織の文書として記録されることを提案したいと考える。

12. この会議での話題に向けて参加者から示された関心以上ものはない。そしてこの会議の目標へ至る手段と方法を見直すため、また多くの参加者からその関心が表明されたため、2011年4月にテヘランにおいて、第2回「国際軍縮及び安全保障会議」を開催しよう。

(そのGに続く)