(レオ・シラード インタビュー記事へ)

原文は以下 http://www.dannen.com/decision/45-07-03.html


シラードの請願書 第1稿 1945年 7月3日


 1945年7月3日の日付のシラードの最初の請願書は最終稿より強い言葉遣いだった。また彼の信ずる人道主義に基づく正義に、より重きを置いた内容だった。 目標を軍事問題におくという、「とりつくろい」もかなぐり捨てて、この請願書は原爆を「残虐な都市絶滅の手段」(a means for the ruthless annihilation of cities)と呼んでいる。

 都市に対する爆撃は、と請願書は続ける、「つい2,3年前、ドイツ軍がイギリスの諸都市を爆撃したときに、アメリカの世論が批判したのではなかったか」

 この請願書は、大統領に「戦争の現段階で決して原爆を使用しないように裁決を」と要求して結ばれている。

 この3日の第1稿はシカゴ大学冶金工学研究所で59名の副署を集めた。しかし請願書はこの形では大統領に送付されなかった。シラードは、さらに幅広い支持を集めるため、この請願書を書き直し、最終稿の形にして7月17日に完成した。この最終稿は、結局冶金工学研究所で69名の共同署名を集めて、すなわちシラード自身を含めて70名の署名を集めて、大統領トルーマンのもとに送られた。

   以上はこのサイトの主催者、シラード研究家、ジーン・ダネン氏の解説である。
同氏のURLは:http://www.dannen.com/

 当時マンハッタン計画は第一級の国家機密であり、これに従事する研究者、技術者はこれに関わる秘密保持条項に同意していた。
違反すると軍事立法(Order Sec Army 720564)に違反することになり軍法会議にかけられることになる。従って大統領にこうした請願書を出すこと自体が勇気の要ることだった。

この請願書を日本語に移しながら、涙がでて止まらない。
何故かはよく分からない。シラードの気持ちが切々と伝わってくるのだ。
原爆を使ってはならない、と私のすぐ傍らで怒鳴っているようだ。
寝不足とタバコの煙で疲れた目に、まぶたの涙が滲みて、痛い。垂れた鼻水が汚い・・・。
 
 


1945年7月3日
合衆国大統領への請願書

合衆国国民が知らない一連の諸発見は、近い将来においてこの国の幸せにとって影響を及ぼすかも知れません。原子の力の解放は達成されましたが、結局アメリカの軍部が原爆を手に入れることになりました。現段階において日本に対するその使用に関し総意を得られるかどうかは別として、原爆は三軍総司令官たる閣下の手中にあります。

 ここに署名した科学者は、何年もの間、原子力の分野で研究を続けてきました。つい最近まで、合衆国が今次戦争の間、原爆による攻撃を受け、それに対する合衆国の唯一の防御策は同じ方法による反撃しかないのではないかという可能性について考慮しなければなりませんでした。今日、この危険を防ぐに当たり、以下のことをあえて申し上げねばなりません。

 戦争を早期にかつ成功裏に終結するには、また原爆でもって日本の各都市を破壊することは、戦争遂行の立場からは、あるいは極めて効果的であるかも知れません。 しかしながら、日本に対するそのような攻撃は現在の状況下では正当化されるものではないと、とわれわれは感じています。われわれは、合衆国はこの戦争の現段階、すなわち日本に対して原爆を使用する事を公な形で伝え、降伏の機会が与えられていない現段階では、日本に対して原爆を使用すべきではないと信じます。

 もし、そのように公表することで、日本がその本土における和平の追求に専心することを確かなものとし、そしてその上で、日本が降伏を拒否するなら、我が国は初めてこの戦争において原爆の使用を再度考慮して良い立場に立つものだと思います。

 原爆は、まず何はさておいても、残虐な都市絶滅の手段であります。いったん原爆が戦争の道具として使用されれば、今後長い目で見ればそれを使用したいとする誘惑に打ち勝つことは難しくなるでありましょう。

 ここ2−3年、残虐性への傾向は強くなっております。現在、われわれの空軍は、日本の各都市を攻撃しており、つい2−3年前ドイツ軍がイギリスの各都市に対して使ったとして、アメリカの世論が非難したのと全く同じ戦争遂行の手段を使っております。この戦争における原爆の使用は、残虐性においてさらにそれを上回る道を世界にもたらすことになります。

 原爆は各国に破壊の全く新しい手段をもたらすものです。われわれの手にある原爆は、この方向性のほんの第一段階に過ぎません。現在の開発が進んでいけばわれわれが使える破壊力はほとんど無制限となっていきます。破壊を目的する、新たに解放された自然の力の使用を前例とする国は、想像を絶する破壊の時代に扉を開ける事に責任を持つべきであります。

 これらの見解からして、われわれこの請願書に署名するものは、おのおの、合衆国の三軍総司令官にその権能を行使して、戦争の現段階において、原爆を使用しないと裁決して頂くよう請願するものであります。

レオ・シラード及び58名の共同署名者