【世界各国の基礎データ】 | |||||||||||||||||||||||||||||
(201012.5) |
|||||||||||||||||||||||||||||
<参考資料> 世界の原子力発電所 |
|||||||||||||||||||||||||||||
その② お金持ちの国だけが脱原発を議論できる |
|||||||||||||||||||||||||||||
▼「別表1:世界の原子力発電」に飛ぶ | |||||||||||||||||||||||||||||
▼「別表2:地域別原子炉」に飛ぶ | |||||||||||||||||||||||||||||
▼「別表3:原子力発電所を計画または検討している国」に飛ぶ | |||||||||||||||||||||||||||||
▼「別表4:国内電力生産にしめる国別原発シェアの推移 2001年-2011年」に飛ぶ | |||||||||||||||||||||||||||||
「その① 西ヨーロッパを一変させた『フクシマ大惨事』」へ | |||||||||||||||||||||||||||||
事情の異なる東ヨーロッパ | |||||||||||||||||||||||||||||
『フクシマ核惨事』(Fukushima Nuclear Disaster)は、2000年代から『国際核利益共同体』が『原子力ルネッサンス』をテコに営々と築き上げてきた『核に対する信頼回復』一挙に吹き飛ばしてしまった。特に西ヨーロッパ諸国ではそれが著しかった。ところが旧ソ連圏を中心とする東ヨーロッパでは、西ヨーロッパ諸国ほど『フクシマ核惨事』に対する抵抗が大きくないように見える。それはなぜだろうか?西ヨーロッパと東ヨーロッパでは何が基本的に違うのであろうか?まず原発の発電に占める各国のシェアの推移を国別に概観しておこう。これら30か国(イランは2011年に操業を開始したものの同年送配電網に電力を供給しておらず国内シェアはゼロ)のシェア推移は次の3つに分類できる。 ① 2001年から2011年の推移が±2%以内で発電シェアは横ばいだったと見なせる国 ② 2001年から2011年の推移が+2%以上で発電シェアが上がったと見なせる国 ③ 2001年から2011年の推移が-2%以上で発電シェアが下がったと見なせる国 単純に2001年から2011年の差を求めて上がった下がったと見るとのは必ずしも目的-すなわちその国の原発依存の傾向を知ること-に沿った処理とはいえないだろう。電力は経済成長の関数でもあるからだ。経済成長すれば、電力需要も伸びる。さらに地続きのヨーロッパ諸国では『電気』は輸出入製品でもある。また逆にアメリカや西ヨーロッパ諸国では、急速に電力需要が経済成長の絶対的関数でなくなっている。経済成長のモデルが『信用経済主導型』となっているからだ。電力需要の増大を伴わない『経済成長』のスタイルになりつつある。(実際経済=Real Economyに対して仮想経済=Virtual Economyが幅をきかせつつある、といってもいい)さらに電力需要はその国の平均生活水準向上の関数でもある。単純に原発シェアが上がった下がったでは、その国の原発動向を読み取ることはできないだろう。しかし±2%を指標に置いておけば、おおむねその国の原発依存の傾向は読み取れるだろう。 こうしてみると次の結果が得られる。 ① 原発依存に変化のない国 アメリカ、フランス、ウクライナ、中国、インド、フィンランド、ブラジル、スロバキア、南アフリカ、メキシコ、パキスタン、オランダ、アルメニアの13か国上記のうち中国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカなどが原発依存に変化のない国に分類されるのは意外と思われるかも知れない。しかしこれらの国の経済成長は2000年代桁外れである。特に2008年秋リーマンショックに端を発した世界的信用危機後の世界経済成長を引っ張ったのはこれらBRICsや新興国である。中でも中国の経済成長は並外れている。この間GDPは約4倍に成長しているから、原発による発電量も4倍になってシェア現状維持ということになるが、スタートから操業まで15年近くかかる原発は簡単に追いつかない。中国はこの間ほぼ石炭発電で経済成長をまかなったのである。その意味でわずかながらも原発シェアが下がっている南アフリカ(-1.5%)やメキシコ(-0.1%)は原発依存度を落としているといえるかも知れない。 ② 原発依存を上げている国 ロシア、カナダ、チェコ、スイス、ハンガリー、ルーマニア、スロバニアの7か国。 上記のうちもっとも古い原発国の一つ、スイスはその①でも見たとおり『フクシマ核惨事』の直後2011年5月原発からの脱却を決めた。現在5基ある原子炉が最後に閉鎖されるのは2034年である。ロシア、カナダは自国内に有力な核産業を抱えている。しばらくは原発依存度を高めていく。残った4か国はいずれも旧ソ連圏の諸国で、ソ連崩壊後西側に市場を開放した。とくに工業国チェコ、ルーマニアの原発依存への急傾斜ぶりは著しい。 ③ 原発依存を下げている国 日本、韓国、ドイツ、イギリス、スエーデン、スペイン、ベルギー、台湾、ブルガリア、アルゼンチンの9か国。日本は『フクシマ核惨事』のため、2011年に次々と原発稼働をを停止していった事情がある。ドイツはその①でも触れた通り、もともと脱原発の流れがあって、第二次メルケル政権で再復活、『フクシマ核惨事』で再転換、原発の段階的解消を決め、やがて原発をゼロにする。韓国、台湾が依存を下げている事情については私はわからない。特に韓国電力公社は原発輸出を目指しており国内でも原発依存度を上げていく計画になっている。実態的には依存度を上げる計画が必ずしもうまくいっていないことを意味している。 |
|||||||||||||||||||||||||||||
台湾も「フクシマ惨事」に注目 | |||||||||||||||||||||||||||||
台湾は現在3か所の原発で6基の原子炉が稼働している。いずれも民主化前戒厳令下に国民党政府が導入したもので、原子炉はGEかウエスティングハウス、また発電機もGEかウエスティングハウスの製造になるもの。アメリカの強い影響下で、いってしまえば台湾に押しつけられた原発である。現在第4の原発で2基の原子炉が建設中だが(別表1参照のこと)、この2基のゼネコンはGEである。GEの下で東芝と日立が原子炉建設、三菱重工は発電機を製造するというもので、典型的な『日本の原発輸出』である。第4原発の建設計画は戒厳令下の1980年からスタートしたが、地元住民の激しい反対運動で今に至るも『建設中』である。これらのいきさつは日本語ウィキペディアの『台湾第四原子力発電所』が優れた記述を掲載している。 また日本エネルギー経済研究所は7月に『「脱原子力依存」に揺れる台湾のエネルギー情勢』(常務理事・首席研究員 小山 堅論文)を公表し中で、次のように述べている。
台湾については反原発運動と結びついた民主化運動が同国の原発の動向を左右するものとなっている、と見て間違いなさそうだ。 アルゼンチンについては、既存原発2基が老朽化しており国内電力需要に追いつかないためのシェア低下と見られる。建設中の3号機は2012年中に完成し2013年中に操業すると世界原子力協会のサイトは伝えている。また4号機5号機も計画中であり、フランスの原発ベンダー大手アレバ社と日本の三菱重工業の原発合弁会社ATMEA社(折半出資で2007年に設立)は同社の原子炉でアルゼンチン原子力発電会社の入札資格を確認したと三菱重工業のプレスリリース『アルゼンチン原子力発電会社(NA-SA)がATMEA1炉の入札資格を確認』は2012年7月に伝えている。だから長期的には原発依存度を下げると思えない。 |
|||||||||||||||||||||||||||||
原発依存の傾向を強めるウクライナ | |||||||||||||||||||||||||||||
その①でも見たように、EU諸国のうち西ヨーロッパ諸国はすでに原発の非導入を決めている国かあるいは原発をもっていても長期的には依存度を下げていく諸国、ここで確認すれば、ドイツ、スイス(いずれも2030年代には原発ゼロ)、あるいは原発ゼロを明言していないものの、状況証拠から原発を縮小していく傾向にある諸国、スペイン、ベルギー、スエーデン、イギリスなど。乱暴にいってしまえば西ヨーロッパ諸国の中で原発に前向きなのはフランスとフィンランドだけ、という状況になっている。 それに対して東ヨーロッパ諸国では、ウクライナ、チェコ、ハンガリー、ルーマニア、スロベニア、そしてベラルーシ(別表3参照のこと)など原発に前向きな国が多い。これは一体どうしたわけだろうか? それぞれ固有の事情があるのだが、それら固有の事情を貫いて共通する特徴は一体なんだろうか?それを次に見てみよう。 これらの国の中では、最多の原子炉保有国でありまた原発シェアも47-48%と依存度の高いウクライナから見てみよう。 資源エネルギー庁が2012年1月に作成した『原子力を巡る状況について』という資料がある。総合エネルギー資源調査会の基本問題委員会第9回会合(http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_problem_committee/009/)配付資料の一つらしい。原発肯定の立場から作られた資料であるがなかなかの大作である。その資料に中に現ウクライナ首相、ミコラ・アザロフのコメントが引用されている。『2011年 東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故』と題した項目で、フランス大統領(当時)のニコラ・サルコジの「リサイクル可能なエネルギーを導入したとしても、原子力エネルギーで得られるエネルギー量を代替することはできない」(フクシマ核惨事後訪日時2011年3月)という言葉と「強い地震や津波が発生しうる地域での原発建設を国際的に規制するべきだ」「原発は最も経済的な発電方法であり、設計、建設、運用上のしかるべき規則を遵守すれば安全だ」「規則や基準は(各国に)共通のものでなくてはならない」とするロシア大統領ドミートリー・メドヴェージェフの言葉の中に挟まれていてあまり目立たない。が、アザロフの言葉は次のようであった。 「お金持ちの国だけが脱原子力を議論できる」(2011年3月フクシマ核惨事後) |
|||||||||||||||||||||||||||||
「人口統計学上の大惨事」 | |||||||||||||||||||||||||||||
金持ち国だけが脱原発を議論できる、とはなかなか含蓄に富んだ言葉だがアザロフは何を言おうとしているのだろうか?旧ソ連時代に苛酷事故を起こしたチェルノブイリ原発は現在ウクライナ領土内にある。 1986年のチェルノブイリ事故のためウクライナは2012年の現在も国民全体の健康問題に直面し、激しい人口減少に悩まされている。国連のある報告書はこれを「人口統計学情の大惨事」と形容している。 私たちの普通の良識で考えれば、ウクライナは原発と絶縁し、放射能の影響を最小化する道を選ぶはずだと考える。しかし実際はそうではない。ウクライナは現在も15基の原子炉が操業中であり(2012年11月現在。別表1参照のこと)、電力需要に占める原発依存度は47.2%(2011年実績)であり、前述のように2000年代を通じて原発依存度を高めている。原発の発電容量は1417万kWとカナダに次いで世界第7位。しかも2030年操業開始を目指して、さらに2基の原子炉建設を計画している。 ウクライナにおける原発をめぐる情勢は、世界の原発を巡る情勢の縮図でもある。「お金持ちの国だけが脱原発を議論できる」とは決してウクライナだけに当てはまる形容ではない。日本の、たとえば福井県おおい町にも、青森県大間町にも、山口県上関町にも、世界中の原発立地地域のどこにでも当てはまる言葉だ。ウクライナで何が進行したのか、世界最大の核産業業界団体『世界原子力協会』(World Nuclear Association)のウクライナに関する記述をたどりながら見ていこう。(http://www.world-nuclear.org/info/inf46.html)
ウクライナが旧ソ連崩壊後独立したのは1991年8月である。それまでのウクライナの経済的状況はアメリカCIAの世界実情報告2002年が次のように伝えている。(<http://www.faqs.org/docs/factbook/print/up.html>)
私たちは今忘れがちになるのだが、ウクライナは『ソ連の穀倉地帯』だった。チェルノブイリ事故による放射能汚染はそのウクライナの農業をいっぺんにダメしたのである。かつての同国の主要な輸出品目『農産物』は2010年全体の7.7%に過ぎなくなっている。最大の輸出品目は『鉄鋼金属製品』(33.3%)である。(<http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ukraine/data.html>) |
|||||||||||||||||||||||||||||
独立後の大混乱 | |||||||||||||||||||||||||||||
独立後の同国の混乱ぶりについては、日本語ウィキペディア『ウクライナ』が次のように記述している。
さまざま表現が可能だが、一言でいえば「制度設計」や「社会的安全装置」なしにいきなり強欲資本主義の中に裸で飛び出した、ということだ。同記事を続ける。
この後は日本語ウィキペディア『オレンジ革命』を引用する。
これも一つの間違いない見方であるが、経済的に見ると、「ウクライナ」という市場が西側金融資本主義体制の中に組み込まれるのか、ロシア影響下で経済運営を続けていくのかという選択でもあった。非常に残念なことに第三の道、すなわち『ウクライナ人民のための経済運営』という選択肢は提示されなかった。日本語ウィキの記述を続ける。
こうした状況がオレンジ革命の背後にはある。オレンジ革命そのものは、
|
|||||||||||||||||||||||||||||
オレンジ革命の欺瞞性 | |||||||||||||||||||||||||||||
今となっては、この「オレンジ革命」は、西側が仕掛けた『民主化キャンペーン』に民主主義が未成熟のウクライナ国民が乗せられた事件という疑いが濃厚である。西側の狙いは『民主化キャンペーン』で、ウクライナをロシアから引き離し、西側金融資本主義の枠内に取り込んでおこうというものだったのであろう。後に見るようにチェルノブイリ事故の放射能の影響に苦しむウクライナは、西側金融資本にとって特別な狙いを持つものであったかも知れない。それはその後のウクライナの政治情勢の成り行きで明らかになっていく。日本語ウィキの記述を続ける。
ウクライナの政治情勢に深入りすることが目的ではないので、ここで切り上げるが2004年『悪役』だったはずのヤヌーコビッチが2010年には大統領に選ばれ、ウクライナは再び親ロシアの方向へ舵を切る。 |
|||||||||||||||||||||||||||||
「国民全体の生活水準と生活の質を悪化させている」 | |||||||||||||||||||||||||||||
もうお気づきだと思うが、日本語ウィキペディアの記述も、総合エネルギー資源調査会の基本問題委員会第9回会合での配付資料も、また引用はしなかったが『オレンジ革命』を賛美した欧米日本のマスコミも、ウクライナ国内での「民主革命勢力」も共通してチェルノブイリ事故の放射能による深刻なウクライナ国民に与えている健康影響について一言も触れていない。まるで何事もなかったかのようである。 しかし実際にはウクライナは、チェルノブイリ事故による低線量内部被曝の影響で激しい人口減少に見舞われていたのである。チェルノブイリ事故の6年後1992年、独立の翌年、ウクライナは過去最高の人口5215万1000人だった。表面人口が伸びているように見えたがすでに病巣は進行していた。出生が落ち始めていたのである。チェルノブイリ事故の1986年までウクライナの生児出生は毎年のでこぼこはあるにしてもほぼ70万人から80万人の幅の中にあった。チェルノブイリ事故発生の1986年は79万2574人と70年代以降を通じて1983年の80万7111人に次いで生児出生の多い年だった。それが事故の翌年には早くも対前年比 -3万1723人と減少を見せ始める。そして2001年まで連続して減り続けるのである。出生が上昇に転じはじめるのは2002年だがそれも上向き一直線というわけではない。表現とすれば出生減に歯止めがかかり上昇に転じはじめた、というところだろう。底だった2001年には出生は37万6479人とピークの半分以下になってしまう。出生減を追いかけるようにして増加したのが死亡である。70年代を通じて増加傾向にあった死亡数はチェルノブイリ事故の86年 56万5150人と前年から改善を見せた。87年には再び増加しはじめる。1995年までに死亡が前年をした回った年は1989年だけでそれも対前年135人減とほぼ前年をキープした、と表現する方がふさわしい。死亡増に歯止めがかかるのは1996年からであるが、一直線で死亡が減少に転じたというわけではない。一進一退という表現がふさわしい。 出生減と死亡増に見舞われれば人口は減少せざるをえない。1991年ウクライナが独立した年には早くも出生減が死亡増を上回りウクライナの人口は減少に転じていく。その後ウクライナの人口自然減は2010年まで一直線で続いていく。91年約5200万人だった同国人口は2011年には 4566万5281人と20年間に約650万人も自然減少するのである。これが社会問題化しないとすれば不思議である。というのは「国民の富」とはまずその国の人口である。人口の伸びない国に富は蓄積しない。次にその人たちが人間らしい暮らしができるように生活水準をあげていくことだ。高い生活水準と生活の質を多くの国民が享受できることが「豊かな国」の基本条件である。ウクライナはその条件の基本に欠けている。 ウクライナ政府がチェルノブイリ事故の影響を全体的・網羅的に明らかにしたのは、『フクシマ事故』直後の2011年4月だった。20日から22日の間、ウクライナの首都キエフで開催された『チェルノブイリ事故25年:未来へ向けての安全』と題する国際会議で、同名の報告書をウクライナ政府緊急事態省が公表したのである。表紙を含め英語A4版352ページに上る厖大な報告書で、事故後25年経過しなおかつチェルノブイリ事故の影響に苦しむ、またこれからも苦しむであろう同国の実態を明らかにしている。『フクシマ事故』に直面する私たちに対する警告の報告書として読むこともできる。第4章は事故の社会経済面に対する影響に焦点をあてているが、その総括ともいえる冒頭で次のように述べている。(英語原文p170)
そして次の諸点を特記している。
と指摘し、単に国家だけでなく、社会全体がチェルノブイリ大惨事に対して復旧を目指して支援と補償に莫大なコストを支払ったと述べている。そして次のように続ける。
チェルノブイリ事故がウクライナに厖大な人的資源の喪失と国民の生活水準と質の劣悪化をもたらしたことは疑いようがない。このウクライナの状況に前にも引用した現ウクライナ首相ミコラ・アザロフの「お金持ちの国だけが脱原子力を議論できる」という言葉と重ね合わせてみると核産業のもつ陰湿で非人間的な暗渠が垣間見えるように思える。 |
|||||||||||||||||||||||||||||
シェアを上げ続ける原発の電力 | |||||||||||||||||||||||||||||
次にウクライナがなぜチェルノブイリ事故にもかかわらずいまだに15基の原発を操業し、なおかつ2030年までにさらに2基の原発新設を計画しているのかその実情を見ておこう。引用するのは世界原子力協会の「ウクライナ」に関する記述である。次の表はウクライナの出力生産の推移表である。1991年2963億kWhだった同国の電力生産は年々減り続け2009年には1729億kWhと1991年の水準から41.6%も落ち込んでいる。日本語ウィキペディアも世界原子力協会もいっさい触れていないが、ウクライナ政府緊急事態省の報告を下敷きに見てみれば、一言でいって『チェルノブイリ大惨事』の社会経済的影響による電力需要の落ち込みが背景にあることは明らかだろう。しかも原発だけは一貫して750億kWhから900億kWhの生産量を保ち続け結果として同国電力生産に占めるシェアを上げている。
|
|||||||||||||||||||||||||||||
アレバ、ジーメンス、アトムストロイエクスポルト | |||||||||||||||||||||||||||||
ここでようやくチェルノブイリ事故で今なお苦しむウクライナが原発推進をすすめているのかその輪郭がおぼろげながら見えてくる。ここでフラマトムANPと呼ばれる企業はフランスの原子炉メーカーである。今は世界最大の原発ベンダー、フランスのアレバ社の参加に入り、現在は正式にはアレバNPと呼ばれている。アレバNPはアレバ社本体とこれもドイツの原発企業であり世界的な電機メーカーであるジーメンス社の共同出資会社である。 出資比率はアレバが2/3、ジーメンスが1/3である。アトムストロイエクスポルトはロシアの事実上国家独占原発輸出促進独占体である。ロシアのエネルギー分野の最大手ガスプロム社の事実上の子会社でもある。ロシア・プーチン政権でエネルギー相をつとめるセルゲイ・シマトコはアトムストロイエクスポルトの前会長だった。要するに同社はロシア原発輸出戦略の最先端実働部隊だ。つまり、長い間建設が中断していたウクライナのメリヌィーツィクィイ原子力発電所2号機とリウネ原子力発電所4号機はフランスとロシアの核産業最大手が協力して資本と技術を提供し完成させたものということになる。別ないい方をすれば国際核利益共同体が、エネルギー調達に苦しむウクライナの窮状につけ込んで資本と技術を提供しウクライナに原発を保有させた、という見方も可能だ。再び世界原子力協会の記述を続ける。
世界原子力協会は原発建設がなぜ停止したのか全く触れていない。従って推測する他はないのだが、時期的に見て独立後の経済的・社会的大混乱があって、原発建設資金も技術のウクライナ独自で調達できなかったろうことは容易に推測できる。さらの想像をたくましくすれば、ウクライナ国民の原発に対する嫌悪感も背景にはなかったか?ともかくプーチン・ロシアはウクライナで完成途上にあった3つの原子炉の完成に動いた。しかも資金のないウクライナはロシアからの融資でこの原発を完成させるのである。 世界原子力協会の記述を続ける。
2006年は欧米と協調協力関係を目指すユシチェンコ政権が成立していた。しかしウクライナの核産業ビジネスモデルは明らかにロシア型であった。ウクラトプロムは6つの核関連国有企業を統合しており資産はおよそ100億ドル。この中には63億5000万ドルと最大の資産をもつ原発保有電力会社エネルゴアトム、ウラン鉱山採掘会社ボストGOK(VostGOK)、ウラン開発会社ノバコンスタンティノフ(Novokonstantinov)などが含まれている、と世界原子力協会は記述している。
AES-23型はロシア型の原子炉でいわゆる第3世代に属する原子炉に分類されている。第三世代の原子炉とはよく聞く名前だが、定義がはっきりしていない。恐らくは原子力発電推進派の誰かが書いたのだろうと思われる日本語ウィキペディアの「第3世代原子炉」から引用しておく。
要するに第2世代と比較して、安全性が向上し効率化され従って長寿命(当初設計60年。延長すると120年)の原子炉、ということらしい。典型的な原発メーカーによる営業トークの分類である。世の中に第3世代原子炉と称する原子炉には以下のようなものがある。
さて改良型ロシア原子炉の導入を決めたウクライナで計画中の2基の原子炉は37億ユーロ(3700億円)必要とされ、そのうち85%がロシアからの融資、残り15%はウクライナ自身の資金調達である。この融資は2基の原子炉が操業開始してから5年以内に返済されるとしている。両国は2012年以内にこの融資について最終調印し建設がスタートすると見られている。ウクライナのGDP全体は1652億ドル(2011年世界銀行。13兆2160億円。1ドル=80円 http://data.worldbank.org/country/ukraine#cp_wdi)で、静岡県の県民総生産が16兆4527億円であることを考えると、ウクライナにとって原発への投資がいかに過大でリスキーかが理解できよう。しかし、西側もロシアも原発を推進するならお金も技術も提供しましょう、というスタンスだ。ウクライナ首相ミコラ・アザロフの「お金持ちの国だけが脱原子力を議論できる」という言葉の背景はこのような事情である。 |
|||||||||||||||||||||||||||||
(以下次回) |
▲戻る | ||||||||||||||||||
別表1:世界の原子力発電 | ||||||||||||||||||
|
順位 | 国 名 | 原子力 発電容量 (万kW) |
原子力 発電実績 (億kWh) |
国内 原子力発電 占有率 |
原子炉数 | 特記事項 | ||||
操業中 | 建設中 | 建設中 発電容量 |
計画中 | 提案中 | ||||||
1 | アメリカ | 10,220 | 7,904 | 19.2% | 104 | 1 | 122 | 13 | 13 | 核兵器保有国。「フクシマ事故」の影響と天然ガス価格の下落で計画中案件は流動的。 |
2 | フランス | 6,313 | 4,235 | 77.7% | 58 | 1 | 172 | 1 | 1 | 核兵器保有国。 |
3 | 日本 | 4,440 | 1,562 | 18.1% | 50 | 3 | 304 | 10 | 3 | ”建設中”の原子炉は中国電力島根発電所3号機と電源開発大間原発1・2号機と見られる。大間2号機はまだ建設未着手。 |
4 | ロシア | 2,416 | 1,620 | 17.6% | 33 | 10 | 916 | 24 | 20 | 核兵器保有国 |
5 | 韓国 | 2,079 | 1,478 | 34.6% | 23 | 4 | 521 | 5 | 0 | |
6 | カナダ | 1,417 | 883 | 15.3% | 20 | 0 | 0 | 2 | 3 | |
7 | ウクライナ | 1,317 | 849 | 47.2% | 15 | 0 | 0 | 2 | 11 | 2030年までに新規原子炉2基建設の予定。 |
8 | ドイツ | 1,200 | 1,023 | 17.8% | 9 | 0 | 0 | 0 | 0 | フクシマ事故の影響で6原子炉を閉鎖、既存の9原子炉も段階的に閉鎖。 |
9 | 中国 | 1,188 | 826 | 1.8% | 15 | 26 | 2,764 | 51 | 120 | 核兵器保有国。2020年までに70GWhにする計画。現在の約7倍。 |
10 | イギリス | 1,004 | 627 | 17.8% | 16 | 0 | 0 | 2 | 11 | 核兵器保有国 |
11 | スエーデン | 940 | 581 | 39.6% | 10 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
12 | スペイン | 745 | 551 | 19.5% | 8 | 0 | 0 | 0 | 0 | 段階的廃止の予定はないが、スペイン政府は将来の増設については未確定と発表。現状維持と見られる。 |
13 | ベルギー | 594 | 459 | 54.0% | 7 | 0 | 0 | 0 | 0 | 今のところ原発は段階的に廃止の予定。 |
14 | 台湾 | 493 | 404 | 19.0% | 6 | 2 | 270 | 0 | 1 | 建設中の2基はGEがゼネコン。原子炉は日立と東芝が受注。2基の発電機は三菱重工が受注。激しい住民の反対闘争でここ20年「建設中」。 |
15 | インド | 439 | 289 | 3.7% | 20 | 7 | 530 | 18 | 39 | 核兵器保有国。 |
16 | チェコ共和国 | 376 | 267 | 33.0% | 6 | 0 | 0 | 2 | 1 | |
17 | スイス | 325 | 257 | 40.9% | 5 | 0 | 0 | 0 | 3 | フクシマ事故の影響で、反原発集会の後2011年5月政府は原発の禁止を決定。2034年までに現在5基の原子炉を順次閉鎖。 |
18 | フィンランド | 274 | 223 | 31.6% | 4 | 1 | 170 | 0 | 2 | 2012年時点で2020年までに操業の計画。 |
19 | ブルガリア | 191 | 153 | 32.6% | 2 | 0 | 0 | 1 | 0 | 2004年と2007年の4原子炉閉鎖。2012年3月計画中案件は正式に中止となったがWNAは掲載している。 |
20 | ブラジル | 190 | 148 | 3.2% | 2 | 1 | 141 | 0 | 4 | |
21 | ハンガリー | 188 | 147 | 42.2% | 4 | 0 | 0 | 0 | 2 | |
22 | スロバキア | 182 | 143 | 54.0% | 4 | 2 | 88 | 0 | 1 | |
23 | 南アフリカ共和国 | 180 | 129 | 5.2% | 2 | 0 | 0 | 0 | 6 | |
24 | メキシコ | 160 | 93 | 3.6% | 2 | 0 | 0 | 0 | 2 | |
25 | ルーマニア | 131 | 108 | 19.0% | 2 | 0 | 0 | 2 | 1 | |
26 | アルゼンチン | 94 | 59 | 5.0% | 2 | 1 | 75 | 1 | 2 | |
27 | イラン | 92 | 0 | 0.0% | 1 | 0 | 0 | 2 | 1 | 最初のブシェール発電所が完成シタガ2011年は実用発電していない。ロシアとターンキー方式。 |
28 | パキスタン | 73 | 38 | 3.8% | 3 | 2 | 68 | 0 | 2 | 核兵器保有国 |
29 | スロベニア | 70 | 59 | 41.7% | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 隣国クロアチアが原子力発電所の50%を所有している。クロアチアにも電力供給を行っている。 |
30 | オランダ | 49 | 39 | 3.6% | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | |
31 | アルメニア | 38 | 24 | 33.2% | 1 | 0 | 0 | 1 | 2 | アメリカの支援で計画は既存の施設を入れ替え。進展がない。 |
合 計 | 37,415 | 25,180 | 13.4% | 436 | 61 | 6,141 |
▲戻る | ||||||||||||||||||||||||||||||||
別表2:地域別原子炉 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
2012年11月現在:単位は万kW
|
▲戻る | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
別表3:原子力発電所を計画または検討している国 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
▲戻る | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
別表4:国内電力生産にしめる国別原発シェアの推移 2001年-2011年 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
「その① 西ヨーロッパを一変させた『フクシマ大惨事』」へ |