(2010.3.29) | |||||||||||||
No.003 | |||||||||||||
日本は本当に「輸出立国」なのか? |
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前からどうしても、わからない、納得できないことがある。 2008年秋の「リーマン・ショック」は当初日本経済への影響は小さいとされていた。というのは、日本の金融機関は、アメリカやヨーロッパの金融機関ほど、「リーマン・ショック」の直接の引き金となった、住宅サブプライムローンなど不良債権入り金融派生商品(derivatives)を購入していなかったからだ。 実際にも日本の金融機関の、金融派生商品の購入額は、アメリカやヨーロッパの金融機関に較べて10分の1以下だった。 「リーマン・ショック」は「世界同時連鎖多発」ともいうべき「金融危機」に発展した。
ともあれ、世界的な金融危機は、世界的な「経済恐慌」(depression)へと発展した。そして09年世界経済は収縮した。国際通貨基金(IMF)の09年4月時点での推定によると、IMF加盟182カ国GDP合計は08年の69兆2684億ドルから、09年の68兆9325億ドルへと縮小した。縮小の幅が0.5%程度で済んだのは、中国などBRICsや新興国が世界的な「経済恐慌」の影響をうけつつも、経済成長をしたからである。
もちろん、これは09年4月時点でのIMFの推定だから、実際の数字は違うかもしれない。しかし大筋は外れていないだろう。 IMFの推定に従って、09年経済成長をした諸国を主要国から拾ってみると、中国(6.99%)、インド(5.1%)、インドネシア(3.33%)、イラン(4.01%)、パキスタン(3.34%)、エジプト(4.33%)など。
要するに、国内に旺盛な「経済成長要因」を抱え、急速に経済的中間階層を形成しつつある国が、世界的な「経済恐慌」にも関わらず、伸びを示した、特に中国やインドは、5%−7%という高い伸びを示した、ということが可能だろう。この「経済的中間階層」を形成しつつある諸国(市場)の存在が、同じ恐慌でも1930年代の恐慌と決定的に違う点だろう。 とにかく人口が桁外れに大きい。中国約13億5000万人、インド約12億人、インドネシア約2億3000万人、パキスタン約1億8000万人、エジプト約8300万人、イラン約7400万人。
これらのうちほんのわずかでも経済的中間階層への移行が進めば、それだけで大きな国内市場が形成されることになる。 一方「経済先進国」はどうかというと、この「経済恐慌」に耐性がなかった。OECD参加国の中で、もっとも落ち込んだのは日本(−5.62%)だった。ついでドイツ(−4.96%)、イタリア(−3.69%)、イギリス(−3.30%)、韓国(−3.22%)、スペイン(−2.19%)、フランス(−2.09%)、アメリカ(−1.87%)という具合である。OECD以外の主要経済国(地域)の中でもっとも落ち込みの激しかったのは台湾(−7.07%)である。OECD参加国の中にはアイルランド(−7.69%)やアイスランド(−10.86%)があるが、これらは経済規模が小さいので枠外とする。 つまり主要経済国(地域)の中で、日本は台湾に次いで大きな落ち込みをしたことになる。 震源地のアメリカが、OECD諸国の中でも、落ち込みが小さかったのは何故だろうか?一つには、オバマ政権の厖大な財政出動のせいだろう。が、アメリカ市場が懐が大きくて深いという事情も大きいだろう。 ここから私が納得がいかない、わからないという問題に入る。 一般に先進主要経済国の中で、もっとも打撃が小さいと一時云われていた(当時主要新聞もそう書いた。)日本が、台湾と並んでもっとも打撃が大きかったのは何故か、という問題である。一般に行われている説明は、「世界同時不況で外需頼みの日本が一番打撃が大きかった。」というものだ。 たとえば、内閣府・経済社会研究所・総括政策研究官、井上弘行は、みずほ総合研究所の杉浦哲カと対談し、「外需が今まで日本経済を牽引してきたのであり、世界同時不況でこれがあてにできなくなった。」という意味合いの事を云っている。
この対談は、「これからは内需を拡大していかなければならない。」と結論するわけだが、これも「外需経済牽引説」だ。 この説に従えば、「外需依存」型の国家経済は、「世界経済恐慌」に耐性がない、脆弱だということになるし、経済恐慌の始まった当初は「ブロック経済形成」にもっとも注意すべきという論説もあらわれた。 「世界:国別 輸出・輸入高ランキング」(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/world _data/ex_inport_CIA.htm>)という資料は、09年についてだけ、アメリカのCIA世界実情報告-World Fact Book-の推定を参照して作成したものだが、09年に限って云えば、GDPに対する輸出額比率はさほど大きくないのだ。むしろ先進各国の中で、日本は小さい方に属する。 中国(25.1%)、ドイツ(36.7%)、オランダ(50.3%)、韓国(44.4%)、ベルギー(64.2%)、カナダ(22.6%)、フランス(17.3%)、イギリス(16.0%)、ロシア(23.6%)、台湾(55.5%)、スペイン(15.0%)、オーストラリア(17.6%)に対して日本は10.4%に過ぎない。日本より小さいのはアメリカの7%ぐらいなもので、あとは軒並み日本より大きい。 「外需経済牽引説」に従えば、09年の経済縮小は日本より大きくても良かった筈だ。ところがそうなっていない。 これにはいろんな見方があるだろう。たとえば「EC圏はブロック経済化していったのだろう。だから、EC圏は日本より落ち込まなかったのだ。」とか説明することも可能だ。しかし、これはオーストラリアやロシアやカナダを説明していない。第一EC圏はEC圏だけで貿易が完結しているわけではないし、今時そんなことができようはずがない。EC圏の諸国は、旺盛にEC圏以外の市場、特に中国、アメリカ、インドに対して市場開拓を行っている。 ある国が、輸出が輸入に対して上回っている時、「純輸出国」という。逆に輸入が輸出を上回っている場合は「純輸入国」という。先ほどの「世界:国別 輸出・輸入高ランキング」リストに登場する国の中で、輸出から見て上位50カ国のうち、純輸出国をひらって見ると、中国、ドイツ、日本、オランダ、イタリア、韓国、ロシア、シンガポール、台湾、スイス、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、オーストラリア、ブラジル、タイ、スエーデン、ノルウエィ、インドネシア、アイルランド、チェコ、デンマーク、ハンガリー、イラン、アルゼンチン、フィンランド、アルジェリア、ベネズエラ、クエート、チリ、ナイジェリア、カザフスタン、計31カ国と輸出上位国はまた純輸出国でもある。 そこで各国GDPに占める、純輸出額の比率を求めてみると、日本はなんと0.7%で1%を切っている。先ほどの31カ国のうちで純輸出額がGDPの1%を下回る国は、イタリア(0.5%)、オーストラリア(0.1%)と2カ国しかない。サウジアラビア(24.2%)、アラブ首長国連邦(14.4%)、クエート(25.2%)などのような石油輸出に大きく依存している国は別としても、ノルウエィ(15.6%)、アイルランド(18.7%)をはじめとして、3%から10%までを推移している。 もし日本を「外需依存体質」と規定するなら、世界には日本以上の外需依存体質の国がごろごろ転がっていることになる。別な言い方で云えば、日本は世界の主要な輸出国と較べてみて、特に外需依存体質とは云えない、ということでもある。 ここまでやってきて、最初の疑問に戻っていく。先進主要経済国(地域)の中で、世界的な「経済恐慌」になぜ日本が特に耐性がなかったのか、脆弱だったのか、という疑問である。日本が特に「外需依存体質」だったからではない、ことは一応はっきりした。 だから、日本が世界的な「経済恐慌」に特に脆弱である理由は、外的要因ではなく日本経済のもつ構造的要因の中に求められなければならないことも一応はっきりしたのだと思う。 先ほど引用した、IMFの推定では、日本は、ドイツやイタリアと並んで、2010年以降2012年まで経済回復の歩みものろいと見ている。 たとえば、2010年世界経済は力強いとは云えないまでも、経済の回復過程をたどるとIMFは見ており、参加182カ国のGDP合計は、70.5兆ドルと早くも08年水準を上回ると見ている。この数字がどれほど蓋然性の高いものかはわからない。が、世界全体で云えば、09年が底であろうことはまず間違いない。
日本経済の中に潜む「構造的要因」とは一体なんなのだろうか?私は、それが日本における「経済的民主主義」確立の問題と密接に絡んでいるような気がしている。 |
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