(2010.5.24)
No.011
米軍再編反対 5・23岩国大集会
(photo by Sarah Amino)

【1】
 2010年5月23日、朝から雨だった。同僚の網野沙羅は、「出足に響くかも知れないね。」とボソリと云った。私もそう思った。

 岩国駅の近くで駐車し、傘をさして会場に歩いていった。会場の元町第3街区公園は、想像より小さい公園である。傘をさした人や頭からすっぽりカッパをかぶった人で会場はすでに埋め尽くされていた。


【会場全体(クリックすると大きな写真でご覧いただけます)】


【集まった人々。雨が強かったが誰も会場から出ようとしない。時間が経つにつれ沿道にも参加者が増えていた】


【壇上に耳を傾ける参加者たち】


【事情で家を離れられない人なのだろう、会場近くのマンションのベランダに参加意思を表す「黄色」を掲げて見ている方がいた】

 5・23岩国大集会実行委員会・代表世話人、井原勝介(前岩国市長)

  私たちは、米軍再編に反対して、見直しを約束した民主党政権に変えました。しかし、その民主党政権は自民党政権と何ら変わることはありません。ならば、もう一度政治を変えましょう。』

 と述べた。(記憶なのでこの言葉通りではないかもしれない。)
【5・23岩国大集会実行委員会・代表世話人、井原勝介あいさつ】

 普天間からも、徳之島からも、厚木からも代表がやってきて、岩国と連帯しよう、と述べた。
【普天間代表のスピーチ】
【徳之島代表のスピーチ】

 民主党の国会議員も何か壇上で云っていた。私のすぐ隣の中年の男が「裏切り者!帰れ!」と云った。また網野の斜め後ろの男性は「何いっとるんや」とぼそりと呟いた。

 社民党の国会議員は、鳩山政権の非を鳴らし、連立相手の社民党に相談せず普天間基地の辺野古移転を決めた(と報道されている)鳩山由紀夫の決断を非難した。私のずっと後方から男の声で、「野党になれ!」の声が聞こえた。

 この男は全く正しいのである。社民党の国会議員が壇上で何を言おうが、鳩山連立政権の一翼を担っている社民党が、連立を割って出ずに、政権内に止まっていることは厳然とした事実である。政権内に止まることは、すなわち社民党の鳩山由紀夫に対する政治的意思表示だ。

 共産党の国会議員も壇上で、民主党の裏切り行為を非難した。「米軍再編見直しを公約として政権をとった以上、いまからでも遅くないから公約を守れ。その姿勢でアメリカと交渉に当たれ。」という意味合いのことを云った。私も全く同感だった。すると私だけではなかったと見えて、ひときわ大きな拍手が起こった。

【2】
 アメリカの国務長官ヒラリー・クリントンは、200人以上の政府高官や国防省や太平洋軍司令部の将軍連を引き連れて、北京に旅立った。北京では財務長官のガイトナーや連邦準備制度理事会議長のバーナンキと合流した。

 「戦略及び経済対話」(Strategic and Economic Dialogue−SED)のためだ。
以上5月19日付国務省記者会見による。
http://www.state.gov/p/eap/rls/rm/2010/05/142015.htm>)

 クリントンは中国への途上東京に立ち寄って外相岡田や首相鳩山と会見し様々な問題を話し合う、と先の国務省記者会見では説明した。が、ニューヨーク・タイムスやワシントン・ポストなどの説明によれば、クリントンの東京立ち寄りの目的は、「米軍再編問題」だそうである。表面は日本の自主性に任せるという態度を取りながら、その実「鳩山を一喝する。」のが目的だという。

 この見方は当たっていると見えて、鳩山は慌てて、普天間基地の「辺野古移転」を正式表明する段取りを整え、沖縄へ飛んで「政府決定」を説明したりした。

【3】
 このところトルコ首相、レジェップ・タイイップ・エルドアンは大活躍である。主要な経済閣僚を引き連れて、経済危機に苦しむ「宿敵」ギリシャのアテネに乗り込み、ギリシャ政府に救いの手を延べたかと思うと、その足で「G15」サミットが開かれているイランのテヘランに乗り込み、折から「G15」サミットに参加しているブラジル大統領ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ、イラン大統領マフムード・アフマディネジャドと会談し、懸案の「イラン核燃料スワップ」問題に道筋をつけた。(以上<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/iran/04.htm>)。その足でマドリッドに飛んで「EUラテン・アメリカ・サミット」に参加し、その途中で、間髪入れずアメリカから提出されたイランに対する「追加制裁決議」に正当性がないことを主張、「もし自分自身は核兵器を持っていて、他国には持つなというのであれば、その国の信頼性は一体どこにあろうか?」と述べ、アメリカ・オバマ政権に対する対決姿勢を鮮明にした。
(以上<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/NPT/2010_02.htm>)

 また国際問題評論家の田中宇(さかい)によれば、「エルドアンは5月16日にアゼルバイジャンのバクーに行った。5月17日にはグルジアの黒海岸のリゾート地バツーミ(バトゥミ)に赴き、サーカシビリ・グルジア大統領と会談した。」
(「トルコ・ロシア同盟の出現」<http://tanakanews.com/100522turkiye.php>)


 グルジアはブッシュ政権の時に、アメリカの軍事介入を信じて南オセチアを軍事侵攻した。ところがブッシュ政権は全く動かなかった。二階に上げられて梯子を外されたようなものである。その後それまでの親アメリカ政策を急旋回して中央アジアにおける独自の安全保障政策を模索して苦しんでいる。そのグルジアに救いの手を延べたのがエルドアンである。

 トルコは長い間親アメリカ政策・欧米化政策をとってきた。しかしエルドアンは、「イスラム回帰」政策をとり、EU加盟政策を放棄したかのようである。(トルコは今でもNATOメンバーである。)

 その路線に忠実に、イラン、ブラジル、インドネシア、ベネズエラなど非同盟運動諸国(NAM)との連携を強めながら、アメリカ・オバマ政権包囲網を形成しつつあるように、私には見える。

【4】
 トルコのエルドアン、イランのアフマディネジャドはしたたかな現実主義政治家である。度胸もある。

 もし鳩山に、エルドアンやアフマディネジャドの「したたかさ」と「度胸」があって、アメリカの弱点を見透かす「聡明さ」があれば、「普天間」問題も、「岩国基地強化」問題も起こらなかったであろう。

 鳩山はもともと、「駐留なき日米同盟論者」だ。昨年の衆議院選挙の大勝を背景に、「前政権の約束はいったん見直す。普天間からは全面的に撤退してくれ。岩国基地機能強化などはとんでもない。なんなら日米安全保障条約は解消してもいい。」と一言言えば、オバマ政権は真っ青になっただろう。

 もちろんアメリカ国務省と日本の外務省に操作されている日本の主要メディアは朝日新聞をはじめ、一斉に鳩山非難に回っただろう。「日米同盟は日本の外交政策の基軸」だ。その基盤は日米安全保障条約だ。それを解消するなどとはとんでもない。鳩山はクレージーだ、と。

 しかし鳩山にはそれができたのだ。あの衆議院選挙大勝の後のしばらくの間は。圧倒的な国民の支持があったのだから。主要メディアは風見鶏だ。国民の圧倒的な支持があるとみれば、すぐ手のひらを返す。新聞が売れなくなったり、視聴率が落ちるのは何よりも怖い。鳩山におべんちゃらを使っただろう。

 しかしその鳩山にしたところで、日米安保の解消までは考えていない。彼も戦後日本を支配してきた「対米従属下の日本経済支配層」の歴とした一員なのだから。ただ、「駐留なき安保」を実現するための、一つのカードとして「日米安保解消」をちらつかせるだけだ。それだけで十分な効果がある。(日本の外務省や防衛省は夢にも日米安保解消などとは思わないだろう。)

 もしかして、200人以上オバマ政権高官を引き連れた国務長官クリントンの一行は、中国ではなく日本に向かったかもしれない。日本から基地がなくなることは、それほどオバマ政権にとって痛手なのだ。

 しかし、今となってはもう遅い。

【5】
 私は戦後65年間、絶対多数の地球市民にとって「核兵器廃絶問題」を含め、アメリカの帝国主義をめぐる問題以上の問題はなかったと考えている。アメリカの帝国主義とは一皮剥けば、「国際金融資本」だ。「軍産複合体制」といえどもその僕に過ぎない。

 アメリカの帝国主義は、一貫してその政治・経済・軍事体制を維持し、実体経済にもとづかない見せかけの繁栄を謳歌してきた。その見せかけの繁栄の外観が破れ、帝国主義が実は詐欺的な借金経済に基盤をおいていたことが暴露されたのが、08年秋に始まった世界金融恐慌」という名の「世界経済恐慌」だ。

 しかしアメリカの帝国主義は、今までの態勢を転換することができない。他に方法の取りようがなくなっている。オバマ政権の登場はあるいは彼らの最後の切り札であり、あるいは断末魔のあがきかも知れない。あるいはまだ延命の手段は残されているのかも知れない。それは私如きにはわからない。

 はっきりしていることは、「力による支配」を継続する以外には方法がないだろうということ、「力による支配」継続のためには強大な軍事力を維持する必要があるだろうということ、強大な軍事力維持のためには、莫大な軍事予算と相俟って、全世界に大小合わせて800といわれる軍事基地の展開が不可欠だろうことだ。
(<http://www.kit.hi-ho.ne.jp/msatou/06-05/060512chalmersjohnson.htm>参照の事)


 その海外軍事基地の中で最重要なのが日本の基地であり、その象徴が「沖縄の基地」だ。日本のアメリカ軍基地はアメリカの帝国主義の「力の支配」の要石といえる。
(「もう一つの沖縄戦」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/US_JP_ST/06.htm>参照の事。)


 この岩国大集会の5月23日の2日前、21日付のアメリカの「海軍タイムス」は、「オバマ政権要求の2011年軍事予算、来週下院通過の見通し」と題する記事を掲載した。
(<http://www.navytimes.com/news/2010/05/ap_2011budget_052110/>)


 この記事に拠れば、下院が承認する11年軍事予算は7080億ドル(約63兆7200億円。1ドル=90円)とほぼ2月にオバマ政権が議会に要求した額そのままだ。この中にはグアム島の軍事基地拡張建設予算5億7700万ドル(519億円)も含まれているという。
(以上「アメリカ国家核安全保障局について」
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/obama_21.htm>及び
「アメリカの軍事予算−2010年」
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/Economy_of_the_US/10.htm>など参照の事。)


 本来厖大な財政赤字と連邦政府負債を抱えるオバマ政権にこんな余裕はない。
(「アメリカ連邦予算の仕組みと連邦負債」
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/Economy_of_the_US/11.htm>など参照の事。)

【6】
 しかし、鳩山に、エルドアンやアフマディネジャドのような「したたかさ」と「度胸」と「明晰さ」がなくて、かえって良かったのかも知れない。もし彼にそれが備わっていたのなら、アメリカの支配階級とそれを代弁するオバマ政権とうまく取り引きをして、21世紀の日本の国民が納得する形の「新たな対米従属関係」を構築していたかも知れない。

 もし鳩山に「したたかさ」と「度胸」と「明晰さ」があれば、クリントンに一喝されて、沖縄や徳之島を右往左往しながら、その醜態をさらけ出すこともなかったろう。

「あの鳩山の醜態のおかげでわれわれの真の問題がはっきりしてきたのだ。」

 米軍再編反対岩国5・23大集会の熱気に当てられながら、私はふっとそんな風に思った。鳩山の愚かさがあったからこそ、「新たな対米従属関係構築の芽」は摘まれた。国民の目に鳩山の醜態はさらけ出された。沖縄で、徳之島で、岩国で、厚木で、問題の根本は日米安全保障条約にあることに国民が気がついていく。それが21世紀日本の進む道だ・・・日本の真の民主主義は、沖縄や岩国から始まるな・・・とそんなことを思っていると、「米軍再編を辞めさせて、日本は独立しよう!」と云っている壇上の誰かの発言が耳に飛び込んできた。

 誰の発言なのかは未だにわからない。何しろ傘を叩く雨音の方が、スピーカーから流れてくる演説より、時に大きいのだ。しかしその発言だけは耳に飛び込んできて、私は我に返った。私と同じことを考えている奴は相当多いな、とわけもなく思った。

 壇上の演説に耳を澄まそうと、私は会場を出て脇道へ回り、演壇に近い場所に移動した。もうそこには、手に手に傘をもった人だかりができている。会場内よりはるかによく聞こえる。
【7】
 高校2年生の女の子の演説が始まった。(後で聞いてその子が岡田瑞歩−みずほ、という16才の子だと知った)

 聞いているうちに目頭が熱くなった。一言半句も聞き漏らすまいと決めた。(メモも取っていないので、言葉そのものは忘れた。だが、彼女の言葉はすべて私の体に入った。)

 彼女はこう云った。

 うそつきは「政治家」のはじまり、という言葉を皆さん知っていますか。嘘つきは泥棒の始まりということばをもじったものだそうです。』
 愛宕山の土を岩国基地の沖合に運んで、愛宕山に新たな岩国市民の住宅ができると聞かされたのは私が中学2年の時でした。でもそこは米軍住宅になるのだそうです。岩国市民の騒音をなくすために、滑走路が沖合に移動するのだと聞いていました。ところが、それは厚木から艦載機が移駐して来るためでした。これが政治家は嘘つきだということを、私に確定付けた出来事でした。』
授業中に凄い爆音がして、先生の声が聞こえなくなります。授業は中断します。私は高校のこの大切な時期に、授業が中断して欲しくない、授業が中断しない環境の中で勉強したいと思っています。』
 友達の中には、爆音が気にならない、という子がいます。この子は基地のすぐ傍で暮らしていて慣れたのだそうです。私はそれを聞いてびっくりしました。慣れというのは怖いものです。でも、どんなに慣れることができても、当たり前でないことに慣れてはいけないと思います。授業中に爆音で授業が中断するのは、決して当たり前のことであってはなりません。』
 岩国や広島で、女の子たちがアメリカの兵隊にひどい目に遭っていると聞いています。それを聞くととても不安に思います。』
 私たちがこんな環境で暮らしていることを、世界に、アメリカの人たちに訴えたいと思います。私は自分に投票権のないことを残念に思います。もし投票権があれば政治を変えることができるのに、と思います。投票権のある人たちが棄権すると知って私はびっくりします。』

 そう。今日、演壇上に立った人たちの中には「国会に訴える」「鳩山首相に訴える」「国会に私たちの声を伝えてください」という言葉を使った人たちがいた。しかし「訴える」という言葉を使う資格のあるのは、投票権のない君たちだけだ。投票権のある我々には「訴える」という言葉を使う資格はない。投票権を行使して闘うことができるのだから。「訴える」前に闘わなくてはいけない。

 私たちは爆音が響かない、そして安全に暮らせる町で暮らし、勉強したいのです。』

 主催者の発表によると、この集会に集まった人たちは約4000人だそうである。どしゃぶりの雨のため、参加できなかった人も含め全国から約650人の署名が寄せられたそうである。

 私にはこの4000人という数字が大きいのか小さいのか評価する基準がない。ただはっきりしていることは、4000人(私も網野も含めて)一人一人が、岩国の基地機能強化(厚木の第5空母航空団が岩国に移駐すれば、岩国はアメリカ国外最大の戦闘爆撃機基地になる。)を許さない、という決意を深く固めていることだ。そしてそのために、政治を本当に変えていこうと思い定めていることだ・・・。

【家族連れ来ている人も多く、小学生や幼稚園児も参加していた。乳飲み子を抱えた女性も参加していた。子供を抱えた母親が、子供の未来を思い、より強い危機感を持っている】

【最後に、「怒」の文字を会場全員で掲げた(クリックすると大きな写真でご覧いただけます)】