(2010.8.9) | |
No.014 |
オーウェルの「冷戦」は 最後の1発の核爆弾が解体された日に終了する |
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現在私は、「トルーマン政権、日本への原爆使用に関する一考察」という一文を書いている。(長すぎて誰にも読んでもらえそうにない。)以下はそのシリーズの最新記事の冒頭部分である。いわば抜き書きである。 「 前回は主として、1945年5月31日の暫定委員会の議事録を検討しながら、トルーマン政権の日本への原爆使用の政策意図を、『1.ソ連を恐怖させて核兵器開発の道に追いやり、世界に「核軍拡競争」を出現させること。』とまず結論した。しかしこの結論は実は結論になっていない。この結論はいわば、「原爆使用の政策意図」を重層的な球に例えるなら(例えば地球の構造模型を想像してもらえばいい。)、その重層球の表層に相当する。 なぜこれが結論になっていないか?「なぜ核軍拡競争を世界に出現させたかったか?」という疑問がただちに出てくるからだ。 この疑問に対する解答が、「核軍拡競争は、必然的に核兵器を中心に挟んだアメリカ・イギリスとソ連の対立を産み出し、この対立は準戦時体制を産生する。」というものであり、従って『2.この核軍拡競争で、戦後世界に準戦時体制をつくり出すこと。』という目的が、「原爆使用の政策意図の重層球」の次層にあることがわかった。 この準戦時体制は後に「冷戦」(“the Cold War”)と呼ばれることになる。「冷戦」という言葉を「核兵器を中心に置いた東西冷戦」という意味で最初に使った人間は、バーナード・バルーキ(Bernard Baruch)である。バルーキはもともと金融家、というより金融投機業者だった。遺伝学的にいえば、現在のゴールドマン・サックスやJPモルガン・チェースの祖先筋にあたる。 ビジネスで成功した後は、アメリカの多くの実業家(彼は虚業家だったが)同様、アメリカ政治に関与し、大統領の経済顧問になったりしている。そのバルーキが1947年4月ある晩餐会のスピーチの中で、世界状勢を説明するのに使った言葉が「冷戦」だ。 同じ47年秋、ジャーナリストのウォルター・リップマンが「冷戦」という表題の、一種のプロパガンダ本を出してベスト・セラーになり、「冷戦」という言葉が一般に定着する。
しかし、「冷戦」(the Cold War)という言葉そのものを最初に使った人間は、「1984年」の作者で、ジャーナリストのジョージ・オーウェルである。バーナード・バルーキに先立つこと約1年半前の1945年10月19日付のトリビューン紙に「あなたと原爆」というエッセイを寄稿し、そのエッセイの中で「冷戦」(the Cold War)と言葉を始めて使った。しかしその意味は、バーナード・バルーキやウォルター・リップマンとは全く違っていた。 このエッセイの中でオーウェルは「原爆」について考察する。原爆は非常に製造するのに難しく、それが製造できる国はほんの一握りしかない、と結論する。そして兵器一般についても考察し次のような観察を述べている。
そして「原爆」(核兵器)は専制政治のための兵器であるのに対して、弓やマスケット銃、火炎瓶などは民主主義的な兵器だと、いかにもオーウェルらしい、しかし妙に説得力のある結論を導き出している。
『原爆は』とオーウェルは、いう。繰り返すが1945年10月のことである。
それではオーウェルにおいては、“冷戦”(the Cold War)とは結局どんな状態をさすのだろうか?
つまり、原爆(核兵器)による専制的支配のもとでの“平和のない平和”の状態を、オーウェルは冷戦(the Cold War)と呼んだのである。
今日、バルーキやリップマンの云う東西対立という意味での「冷戦」は終わったのかも知れない。しかしオーウェルのいう「冷戦」、すなわち核兵器を背景とした一部超大国の専制的支配のもとでの“平和のない平和”という意味では「冷戦」は終わっていない。 アメリカの大統領バラク・オバマが、
という時、彼は歴史認識を誤っているか、あるいは故意に歴史を歪めようとしている。 というのは、これまで検討してきたように、1945年のトルーマン政権は、原爆に関するソ連との情報共有を拒否することによって、冷戦を創り出した。しかもそうすることが冷戦を産生することになることを十分承知の上でだ。いわば「確信犯」である。
だから「核兵器のために冷戦が創り出された」のであって、決してその逆ではない。だから、冷戦が終わっても、核兵器が残っていることには、何の不思議もない。 しかも、もし「冷戦」という言葉を、オーウェルが使った意味で、すなわち核兵器を背景とした一部超大国の専制的支配のもとでの“平和のない平和”と意味で使うならば、まだ冷戦は終わっていない。 現実に、アメリカをはじめとする核兵器大国は、まだ核兵器を実戦配備し、核戦争に備えている。ばかりかアメリカのオバマ政権は、2010年4月、第3回「核態勢見直し」を発表し、21世紀になっても「イラン」と「北朝鮮」を名指しで核攻撃の対象国としてあげている。(「核の威嚇政策に沈黙を守るヒロシマ・ナガサキ」を参照の事。<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/zatsukan/008/008.htm>) まことに1945年10月のオーウェルが、
という通りである。 2010年NPT再検討会議で「報復の手段をもたない人々」は、非同盟運動諸国(NAM)の非核兵器保有国を中心に、地球市民の良識を背景に、アメリカを始めとする核兵器保有国を包囲し追い詰めた。 しかし後一歩のところでするりと抜けられた。しかし彼らはすでに2015年再検討会議に向けて行動を開始している。
オーウェルのいう意味の「冷戦」は、地球最後の1発の核爆弾が解体され永遠に葬り去られたその日に、終了するのである。 |
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